The Green Catalyst
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ネットゼロについて

Yoko Marta
24.05.22 03:27 PM Comment(s)

日本とヨーロッパの違い

ネットゼロの取り組みは、さまざまな議論はありますが、現段階では、ヨーロッパでは再生エネルギーの利用・活用が日本よりはずっと進んでいるといえるでしょう。ヨーロッパではRule Based Society(ルールに基づいた社会)であり、EU(ヨーロピアンユニオン)の存在、地理的にヨーロッパ大陸は陸続きであり、アフリカやロシアとも近い、ということもあいまって、様々な国々を包括した一貫した戦略を立てやすい枠組が存在しているのは、エネルギー戦略では有利な部分でもあるでしょう。
 再生エネルギーに関しては、ヨーロッパでは再生エネルギーでほぼすべてをまかなうことは現実的に可能である、という意見も多いですが、日本ではエネルギーの安定供給を考えると、再生エネルギーを増やすことは安全ではない、という意見も大きいようです。エネルギー政策についての日本とヨーロッパのウェビナーに参加しても、日本側聴衆からは、ヨーロッパでの再生エネルギーの大きな利用と電力安定供給・適切な電力価格を可能にしているのは何で、どう日本に応用できるかについての質問ではなく、日本は原子力と化石燃料の大きな使用なしに電力安定供給と適性な価格での供給は不可能である、という彼らの前提を確認したいかのような質問が多く出てきます。また、消費者側の負担を考えたときに、日本の再生エネルギーの価格は、現段階でもヨーロッパの2倍以上であり、日本政府の電力価格の試算は、未来に向けての再生エネルギーを多く使用すれば現在の電気料金の数倍近くになる、というヨーロッパでの試算と全く逆の結果となっており、試算がどう行われたのかも明確ではありません。ヨーロッパでの試算では、再生エネルギーの使用が高まれば高まるほど電気料金は安くなります。また、現在でも再生エネルギーの価格(太陽光)は、電力の中でも一番安いものです。なぜ、日本とヨーロッパで、このような違いが生まれるのでしょうか? 
 電力を例にとると、日本の状況は確かに特殊です。これは、日本の歴史、政治、社会、誰に向けた政策なのかを深く反映しています。今年、英語でLinkedInとFacebookに記載したポストはここから。
 ヨーロッパの電力は、ヨーロッパ大陸で国をまたがり多地域に渡っての広域電力網が整備されています。その為、ドイツ(福島での原子力発電所の事故の後、原子力発電所を全て閉鎖することを決定。再生エネルギーに注力)とフランスの間での電力の売り買いや、イギリス(島国ですが、ヨーロッパ大陸とは海底にケーブルを引いてつないでいる)とフランス間の電力のやり取りも可能です。また、この電力網を拡大する計画は中期・長期で存在し、アフリカ大陸とヨーロッパ大陸を結ぶ計画も着々と進んでいます。ドイツと対照的なエネルギー政策としては、フランスが多くの国有原子力発電所を自国と他の国々でも有していて他国へ余剰電力を売っているという現状はありますが、電気の安定供給と適性な電力価格(必要な電力にいつでも平等に誰もがアクセスできる)は、すべての市民の基本的人権であり、各国の政府はそれに向けて最大限の努力をする必要があるという前提は一致しています。そのため、価格についても、カルテル等が起こり消費者に対して不適正に高い値段がつけられないよう、エネルギー市場は規制・監視・監査され、オープンで透明性が高く、公正なものとなっています。これは市場の予測が容易になることでもあり、これによりさらに市民にとっての安定した適正価格での電力供給を長期にわたって可能とします。また、この状況は、企業や投資家からの再生エネルギーへの投資をリスクを少ないものとし、さらなる開発を促し、再生エネルギーの価格はますます下がります。
 翻って日本の状況はどうでしょうか?
 簡単に言ってしまうと、ヨーロッパとはほぼ逆の状態となっています。
 日本では、自国内でも電気の供給はスムーズにはいきません。東日本と西日本では周波数が違うため、東日本で不足している電力を西日本の余剰電力で補おうとしても変換する必要があります。電力は周波数変換や長距離での移動で多くのエネルギーが失われる性質があるので、これは効率的とは言えないでしょう。また、ヨーロッパでは電力網は中央管理されていて、例えばイギリスであれば、作られた電気や他の国から買った電気については、中央電力へといったん集められ、そこで不足している場所へ送る等の中央制御を行っています。また、エネルギー市場の公正性を保つために、発電・送配電・小売すべてが独立した会社であり、小売業者と発電業者が結託して価格をコントロールして市民に不当に高い電気料金を課すという状況も起こりにくい仕組みとしています。日本では、旧電気一般事業者である10社(東電や関西電力等)が電力網を地域ごとに持っており、中央制御ではありません。北海道での余剰電力を西日本へ送りたい場合でも、いくつかの地域間の独立した電力網を経由することになり、ヨーロッパの中央制御型と比べて非効率的でしょう。また、法律は少しずつ公正化・自由化に向けて変更されてきていますが、日本ではヨーロッパと違い、先述した旧電気一般事業者が、発電・送配電・小売を自社の地域電力網内で長期に渡って行ってきた経緯があります。また、電力発電だけでなく、原子力発電所やガス事業所もこれらの旧電気一般事業者が大きく所有しており、この形態は、各企業が自社の利益のために電力価格をコントロールすることが容易であり、また別業者の参入を阻む(Level Playing Fieldではない、 同じ土俵ではなく新規参加者が圧倒的に不利な状況)ことになり、ヨーロッパではカルテルと見なされ、こういったビジネスを行うことは法律的に無理です。2020年より発電分離が行われるようですが、発電分離の中でも数種類あるやり方の中で、日本は法的分離を選択し、ヨーロッパは基本的に所有権分離となっています。所有分権では、発電部門や小売部門の資本関係もなくなり、独立した形となるため、不正な価格取引が起こりにくく、健全な競争も起こりやすいとされています。日本で採用した法的分離(※1)では、同じ資本の元に別会社として発電・送配電・小売が存在できます。これでは、今までのように資本をもっている企業(旧電力会社)が自社内での価格コントロールをすることは容易に起こりうることであり、厳しい規制だけでなく、それを中立的に常時監査し、違反があれば厳しく取り締まる法令等があることが必須となるでしょう。これは、2020年末から2021年1月の半ばまで起こった電力価格の異常高騰の際にこういった監査機関がうまく機能しなかったことや、パンデミックの対応のように規則を決めても、それを遵守しなかった場合の取り締まり、どういった結果があるのか(罰則の内容、基準)、どの機関がそれを実行するのか等がはっきりとしないままで、何かを決めてもなし崩しに破られていき、それが多くの市民への悪い影響があるとしても、責任の所在も明らかでないという状況を見ると、難しいのではないでしょうか。最初にヨーロッパはRule Based Societyであると記載しましたが、Rulesを元にしているので、Ruleを決めるのにも一つ一つの用語の意味を定義し、他の国とも協議を行い合意を行う、といったことでお役所的で時間がかかるという点もありますが、内容も責任の所在も明確であり、ルールが遵守されていないことをどのような基準でどの機関が監査し、遵守されていない場合にはどのような罰則が加えられるか、その罰則を実行・監視するのはどの機関が担当するのか、等すべて明らかです。ヨーロッパと違って、日本では責任の所在を明確化したくない傾向は政府だけでなく、いたるところに見受けられますが、結果的に、一番大きな被害を受けるのは普通に生きている大多数の市民たちです。市民にとっては、正しい情報を入手しやすい状況があり、それをクリティカルに考えて解釈・理解することが必要となります。例えば、原子力発電所を増やすことによって個人的に利益を得ることができる人の発言は、原子力発電のいいところを強調し、悪い部分は隠し、再生エネルギーの悪いところを強調する傾向があると予測するべきでしょう。また、再生エネルギーを主張する人々も、その人のバックグラウンドを見て、どういう背景や利害関係、意図を持っているのかを確認することも重要です。ただ、ヨーロッパと比べると、日本では情報の入手も困難であるといわざるを得ません。
 ちなみに、2021年7月末に参加したウェビナーでは再生エネルギーに関する神話(通説)が見事にデータによって打ち破られていました。例は以下となります。
質問1)日本での再生エネルギー価格が高いのは、設置費用が高くヨーロッパと比べて人件費が高いから。
回答1)ヨーロッパの人権費は日本より安くない。日本での設置費用が高いのは、工期がヨーロッパのほぼ2倍だから。日本はもっと効率化するべきであり、日本の技術とリソースがあれば十二分に可能
質問2) 日本のように島国だと、ヨーロッパのように広域に他の国々とつないで電力の融通ができないので、再生エネルギーを増やすことと電力安定供給は両立できない
回答2) オーストラリアはある意味大きな島国だが、ここでも再生エネルギーの大きな利用の試算をしており、そこでも現在の電力価格から上がらないとし、安定供給できるとしている。また、ドイツやヨーロッパの国々では、既に再生エネルギーを日本より大きく導入しているし、ドイツでも10年に1回2週間程度、再生エネルギーがとても需要量にたいしてとても低い供給となると分かっている。ただ、これは予測可能なものであり、既に対応策がある。原子力発電は安定していて、再生エネルギーは不安定だとよく言われるが、再生エネルギーの光量、風量はかなり良い確率で未来に渡って予測可能であり、調整可能。原子力の場合は、技術上の問題等によって突然止まることもあり、これは予測不可能であり、原子力によって電力供給が突然止まった場合の影響は、再生エネルギーが何らかの理由で突然止まった場合よりもはるかに大きく悪い影響をもたらす。
質問3 )日本での再生エネルギーの価格は下がるのか
回答3)リソース(例/北海道での風力発電は世界の中でもトップクラス、日本全域で太陽光も多い)は十分あり、価格を下げることは難しくない。問題は、数社の電力会社が電力を独占しており、価格の適正化が妨げられていてk新規業者が公平な条件で市民のために健全な競争を行うことが難しい。また、この不透明でオープンでなく不公正な電力市場では、資金投入をするのはリスクが高いと見なされ、資金投入も進まず開発も進まず(開発が進めばスケールアップし、スケールアップすることで価格はさがる。これはどこの市場でも証明済)スケールアップも進まず、新規事業も興されず(ヨーロッパや他地域では、大容量バッテリーの開発や工場の開発がどんどん進み、ローカルでの新しい雇用も作り出している)、市民にとって何もいいことはない。政策も、これらの既得権益事業を守るためでなく、市民全体の生活の安定を守り、向上させることを第一目的においたものとなるべき。そうすれば、現在の前進を阻んでいる多くのルールや慣習も自然に消滅するはず。

また、上記に加えて、多くの電力がグリッドに入ってくる場合、ドイツは再生エネルギーが優先されますが、日本では申し込み順となり、再生エネルギーが使用されない場合も起こります。これも、環境や市民のことを第一に考えると、ドイツのように再生エネルギーを優先させることが合理的なのではないでしょうか。

(※1)ヨーロッパでも法的分離を一部選択しているところもありますが、電力市場は厳しく管理されているため、良い比較対象ではないでしょう。

Yoko Marta