パンデミック後の雇用ーデジタル化とグリーン経済によって生み出された機会に雇用マーケットはどのように調整するのか (FT Liveより)
2021年5月6日(木)に、FT Live(Financial Times)のThe Global Board Roomというセミナーに参加しました。World Economic ForumのSaadia Zahidi氏が新しい技術の台頭やグリーン化に向けての取り組みにおいて、新たな雇用が生み出される一方、不要となる職種や技術もかなり出てくるとのことで、生涯にわたって再トレーニング等、「人」に投資することと、新たなことを学ぶ意欲と努力がいかに大事かを語っていました。これを聞いてどう思うでしょうか?
ヨーロッパでは、通常は残業代が出ない仕組みのため(就業時間内に仕事を高いクォリティーで完結できることが雇われている最低限の条件のため)、仕事の後に大学のオンラインコース等で勉強している人が多いです。イギリスだと働く人向けの大学のコースも数多くある為、実際に働いてみて、大学院や大学で学ぶことが必要だと判断し進学する人々も珍しくありません。ドイツでは、職場でのトレーニングコースが充実している場合が多く、専門的な高校等を出た後、数年アセンブリーラインで働きつつ研修を受け、もっと上の技術職を目指すことも可能です。日本だと、残業時間が長すぎてそれどころではない、という場合も多いかもしれないし、会社によってはドイツのように内部での研修が充実していて、どの企業にいっても通用する最新の技術や知識が自然と身についているという幸運な場合もあるかもしれません。ただ、仕事を始めてから新たに勉強することに対してのアレルギー的な反応は日本育ちの方々に多く見ました。多くは「受験」の弊害なのでしょうが、ヨーロッパだと長時間勉強したり努力している人々もたくさんいますが、「大学受験」に向けて幼稚園・小学生から塾に多く通い大学合格後はほぼ勉強しない、という形は一般的ではないと思います。セミナーの中では聴衆から「変化についていけなくて、新たなトレーニング等も受けたくない人々には何が起こるんですか?」という質問がありましたが、3人のパネリストの回答は大体「多くの人はトレーニングを意欲的に受けて、変化に柔軟に対応していく」で、恐らく変化に対応したくない人々は非常に少数派だと見越しているのだと思います。これは、システム部門がアジアにオフショアされてイギリスにあったシステム部門が完全廃止、或いはイギリスの商社の一部門がヨーロッパにある同じ商品を扱っている部門に統一されて、イギリスで働いていた人々は全員解雇等、さまざまな変化を当たり前のように経験しているからかもしれません。私の周りで日本円だと年収で数千万円稼いでいる人々(女性も多い)も、会社の合併や買収や再編成等による解雇を経験していない人はいません。日本との大きな違いは、仕事はすぐに見つかるし、給料と役職も前職と同じかそれ以上というところでしょう。
前述したZahidi氏は、The Future of jobs report 2020の執筆もされていますが、この中で、AT&T社は既にUdemyと協力してオンラインでの内部トレーニングシステムを構築しており、同社が今後必要になってくるスキルである、データサイエンティストやマシーンラーニング等のコースがあり、このトレーニングを通して実際に4200以上のキャリアピヴォット(社内でのキャリア変更)が起こっており、70パーセントの仕事のポジションはこれらの再トレーニングを受けた社内の人々によって埋められたそうです。データサイエンティストやサイバーセキュリティーの専門家は、今後多く必要になってくるのは目に見えているけれど、そういった人材は必要な人数に対して完全に少ない状態であり、また、今後必要になってくるスキルのうち30パーセント以上は現在、存在しないものだという説もあり、既に働いている人々の新たな才能を発掘し育て、キャリアピヴォットにつなげることが企業にとって非常に重要な時代となることは明らかだと思います。日本では、企業の中で職種を変更することが稀ではないことと、基本的な教育レベルが高いところから、内部(或いは外部)トレーニングを適切に組み込むことで、多くの価値のある労働者が生み出され、ビジネスを飛躍的に伸ばし、誰もがハッピーに働き生きていける環境を作り出すことは、他の国々に比べて比較的簡単なのではないでしょうか。