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人事プロフェッショナルのあるべき姿-1

Yoko Marta
17.05.21 06:05 PM Comment(s)

People Profession

 イギリスでは、人事のプロフェッショナルボディーとしてCIPDThe Chartered Institute of Personnel Development)が存在します。People Professionとしてのプロフェッションマップを紹介しており、会員でなくても詳細を見れるようになっています。今後の人事のプロフェッショナルに必要な要素を分かりやすく示していますが、日本のみで教育を受け働いていると理解しにくい部分も多くあるかと思います。土台となる文化が大きく違う為、日本語への直訳だと概念の部分で齟齬が生じる為、数回に分けて解説します。基本的には、働く人々、ビジネス(企業)、社会がすべてハッピーとなることを目指すものとなっています。

 最初にこのマップでは、Purpose(目的)から始まっています。基本的な目的として、より良い仕事とより良い職業人生を支持すること。働く人々の一番良いところを引き出すような役割、機会、組織や働く環境を作り出し、組織としての良い結果を出し、そして、経済を推進すること、フェアでインクルーシブで良い仕事を社会的な成果とすることとしています。この「フェア」と「インクルーシブ」という概念は日本には基本的に存在しないと思われるので、別記事で説明します。

 プロフェッショナルとしての集団的アイデンティティーを保持し、プロフェッショナルとして何が大事で自分たちが何を目指しているのかを理解するために、この共通の目的(Purpose)は重要であると明記されています。

 この「目的(Purpose)」には3つのエレメントがあります。

  • Principled-led (原則主導)
  • Evidence-led (証拠に導かれた)
  • Outcomes-driven (成果主導)
 ここでは、 Principled-led(原則主義)を詳細に見ていきたいと思います。
 社会でも会社でも大まかな法律やルールはあります。例えば、窃盗や身体的暴力であれば、誰にとっても明確にやってはいけないことと簡単に納得がいくでしょう。ただ、生活したり働いているとルールには書ききれないような状況に出くわすのはごく普通のことでしょう。そのため、ルールを越えて、何が正しい行動なのかを、明確な道義・原則と信条をもって選択、実行することがとても重要です。
 日本ではよく「上司(会社)に言われたとおりにやっただけ(なので、不正行為を知りながら行ったが自分は被害者で無罪)」「みんながやっていた(だから、不正行為と知りつつ行ったが自分は有罪であるはずがない)」という言い訳を大企業の重役等からも聞きますが、ヨーロッパではまず聞いたことのない言い訳です。もちろん不正行為はヨーロッパでも起こりますが、自らの利益を得るために道義・原則をかなぐり捨てたことを意識している人々もいれば、道義・原則と信条なんてなんの役にも立たないと思っている人々はどこにでも少数は存在するでしょう。また、不正行為を強要されたときに疑問を投げかけ、拒否すれば仕事を首にすることを示唆された場合、すぐに生活が全く立ち行かなくなるという場合は、証拠はきちんと記録して第三者機関、或いは社内のWhistle Blowerを扱う部署に相談する場合もあるでしょう。この時点ですぐ仕事を辞めて専門機関にWhistle Blowerとして訴える人々もいます。自分で不正行為に加担した場合(=何の疑問も投げかけず、どの機関にも相談せず上司に言われたままに不正行為と知りつつ行い続けた)は、自分は共犯であるということは明白なので、日本で聞くような言い訳は出てこないでしょう。ヨーロッパでは、基本的にキリスト教が文化のベースの一つとなっているので、「神様の前に人々は平等である」という概念は無意識に存在しているし、システムにも組み込まれているように見えます。(人種差別は、性質の違う問題のため、ここでは言及しません)そのため、日本のような上司や両親、先生といった権威のある人々への絶対服従は存在しません。また、日本では、「周りが自分をどう見ているか(ルールも守っているように見せかけることができれば、実際の行動は問われない)」に重きが置かれているように見えますが、ヨーロッパでは「自分が正しい行動を選んで実行する(周りがどう見るかは問題ではない)」ことが重要で、日本で育った人々から見るとルールがほぼ無いように見える中でも社会は機能しています。
 以前、ボランティアでアートセラピスト(イギリスを含めたヨーロッパでは、セラピストとして働くためには大学院でフルタイムで2年勉強する必要があり、かつその期間は自分自身が専門のセラピストからのセラピーを長期間受け、セラピーの実習もスーパーバイザーがついて長時間、長期間行う必要あり。資格が取れた後も2週間に1回、スーパーバイザーと話し合いの必要あり← セラピーに来るのは弱っている状態にある人々であり、そういう人々を支配したい人々を引き寄せる職種でもあるので、患者さんを守るためと、プロフェッショナルとしてのスタンダードやインテグリティーを保持するため監督は厳格にされている)の助手としてイギリスで9か月ほど働きましたが、日本のようにルールがやたらと多く罰が厳しく(反省してやり直す機会を与えられない)、かつ人々が社会的に鎖で繋がれている(家を借りる際や仕事を始める際に保証人が必要、結婚式には親族を多く招待する必要がある等)社会では、自分の内側の価値観 (道義・原則、信条)を育てることは、難しいだろうと言われて納得する部分もありました。英語ではモラルコンパスという言葉がありますが、自分の中にモラルの方位磁針がない人々(=ルールは盲目的に守るか、ルールを守っているふりをするのはうまいが、道義・原則、信条はほぼ持っていない)が多い場所では、マネージャー、リーダーがロールモデルとして、何が正しい行動なのかを実際に行動で示し、グループを正しい方向へ引っ張っていくことが必要となるでしょう。 Ethical decision makingということで、アリストテレス等の哲学者についての考察についても興味深い資料をCIPDで作成していたので、ご参考まで。 

Yoko Marta