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リモートワークでのプライベートと仕事との時間の区別 ー イギリス

Yoko Marta
05.07.21 05:19 PM Comment(s)

The right to disconnect - 仕事の連絡から接続を切る権利

 Work from Home(日本でのリモートワーク)は、イギリスでは、全体的に生産性も会社の利益もあがり、多くの企業がポジティブな評価をしています。ただ、問題になっているのは、Digital presenteeism (一生懸命働いていると雇用主や上司にアピールするために長時間働いたり、体調が悪くてもとにかく働くこと。それがデジタル上となり、就業時間でない時間帯の電話やメールにも対応し続けること)で、これは結局働く人々の精神面・健康面、家族、社会にとってもよくないし、企業にとっても働く人々が疲れて生産性が下がればいいことはないので、所定の時間以外は、メールや電話をしない、メールや電話があれば無視する権利を年末に制定予定のEmployment Billに含むことが検討されています。イギリスの最大人事プロフェッショナルボディーのCIPDからの記事を基に考察します。ここからCIPDの原文が読めます。

 イギリスでは、今月の19日(月)からコロナに関する制限が大きく緩和される予定です。そのため、今までほぼ100パーセント、リモートワークだった人々が、ハイブリッドでリモートワークと実際に職場で勤務する形を組み合わせる働き方も増えると見込まれています。上記の記事によると、フランスでは既に、リモートワークの場合は企業が一人一人の雇用者に対して家での働く時間を規定する法律があるそうです。イギリスでは、西ヨーロッパ諸国に比べると残業が少し多く、もともとPresenteesmが強い国だと言われてきました。これは、労働者の権利が他の西ヨーロッパ諸国に比べて弱く、労働者ユニオンも強くない(ドイツやイタリアでは産業ごとの労働者ユニオンが存在し、給料や待遇が毎年きちんと交渉されています)といったことから、仕事に関しての不安感が生じやすいことが影響しているともいえるでしょう。ここで一つ指摘しておきたいのは、ルールを定めるということは、通常そのルールを破った場合には罰則があり、企業が正しくルールを順守しているか監視する機関が存在します。また、企業がルールを破った際に、雇用されている人々がどういう手順を踏んで訴え、どのように訴訟や解決が続くかという手順も明示されます。これらの文面は、誰もが分かるように平易な英語で明確に記載されており、外国人にも簡単に理解できます。日本のように、政府が、週4日勤務にしたらどうか(でもそれは企業努力でなんの効力もない)と言って終わり、ということはありえません。また、西ヨーロッパにいる限り、基本的人権は守られており(基本的人権は誰にとっても守られるべきだという強い観念が普及)、企業や上司が自分より上で滅私奉公やサービス残業が当たり前ということはありません。働く人々は仕事をして(=会社の利益を直接的・間接的に上げることに貢献)、それに対して対価(=サラリー)をもらっているわけであり、会社に雇ってもらっている、拾ってくれた感謝、会社は家族等の感覚はありません。だからといって、会社に対する忠誠心がないわけではありません。きちんと合意したルールを守り、成果を上げ、会社の評判も上げるような一貫性のあるモラルの高い行動をします。この感覚の違いは、ヨーロッパ全体の文化(神の前に人々は平等)と、日本或いはアジアの文化(常に上下の序列を人々の間に作り出し、自分が上の立場だと判断した場合は、下の立場と見なした者には基本的に何をしてもいいと潜在的に思ってしまうし、そう行動しても咎められない)の違いが影響しているのかもしれません。

 いくつか懸念になっているのは、所定の時間を決めてしまうと、子供がいて、学校からの送り迎えが必須なため(12歳くらいまでは確実に送り迎えが必要。一人での留守番も不可)働く時間がまちまちなほうが効率よく働ける、という人が逆に不利益を被るのでは、という点です。これについては、法律が決まった場合はそれに遵守した上で、企業が一人一人のニーズに向き合い、お互いに最良の方法を見つけることが大切としています。これは、年末の法律制定の可能性の段階まで待たなくても、それぞれの企業が対応できることだとしています。子供の送り迎えに関しては、日本では、子供が一人で、或いは子供だけで登下校するのは普通かもしれませんが、イギリスや西ヨーロッパ諸国ではまずあり得ません。イギリスも共働き家庭が普通なので、Child minderと呼ばれる人に給料を払って学校へ迎えに行ってもらい、両親が仕事から帰ってくるまで家で面倒を見てもらう、というのもごく普通です。Brexit(EU離脱)の前は、Au Pairと呼ばれる住み込みのナニーさん(大体はEU市民の20代前後の若者で、家の掃除や料理、子供の面倒を見てくれて、子供が学校に行っている時間帯には英会話学校等の学校等へ通う、代わりに住む場所を無料で提供し、お給料も払う。土日は通常はナニーさんはお休みで学校のお友達と遊びに出かけたりする)を雇うことは、平均収入の家庭でもごく普通にありました。ナニーさんも通常は契約内の業務として子供の送り迎えをしてくれます。公立の学校では日本のような課外活動は通常ないので、学校の後に友達の家に遊びに行くにも大人が送り迎えをして、子供が一人になる状況を作らないために、大人が関わる時間も手間も日本と比べるととても大きいものとなっています。これは、子供の基本的人権も尊重されていて、子供がきちんと精神的・身体的にも成熟して自分のことを守れるようになるまでは、親も社会も子供を守るという決意の表れです。16歳までは、基本的に夜一人で過ごさせることも不可です。子供が危険にさらされる可能性がある状況で子供を一人にしていた場合は、親が法律で罰せられます。悪質だと見なされたケースは、子供は福祉機関に保護され、親は警察からの事情聴取や裁判所からの呼び出しに応じる必要があります。イギリスの子供についての法律はここより。

 また、フランスでは既にDigital presenteeismに対する法律が設定されていることについてですが、フランスは、EUの中での比較的労働者の権利が強い国であり、労働時間は通常35時間/週で、有給休暇は年に5週間で(繰り返しますが、病欠しても有給休暇からは引かれません)、イギリスよりもずっと労働者に対して優しい仕組みとなっています。労働者の権利が強いと企業の利益率が下がるという事実ではないことを信じている人も多いようですが、フランス、ドイツ、北欧の国々は労働者の権利は強く、かつGDPに対して一人一人の生産率も高く、企業の利益も良い国々です。また、働くことにおいて、比較的女性の平等性が高い国々でもあります。イギリスの場合は、足りない労働力を外国人雇用者で安く済ませ(これは低賃金労働だけを指しているわけでなく、看護婦のようにスキルの必要な職業について、イギリス国内で教育やトレーニングに投資して自国民を育て上げることを避け、EU諸国や旧植民地国で既に自国で教育とトレーニングを受けてイギリスですぐ働ける人々(=他の国々での投資を受けた人々でイギリスは全くお金を払っていない)を雇うという構図)でやってきた経緯があります。中小企業も多い国なので、短期的な視点で、未来への投資(設備投資や人々への投資)を避け、低賃金、或いは投資が必要でない人々を雇うことで対応してきたことが、西ヨーロッパ内ではかなり低い生産率にもつながっているのかもしれません。EU離脱で、すでにさまざまな場所での人材不足が出てきており(長距離トラック運転手、看護婦、医師、飲食店のシェフやウェイターやウェイトレス、ITエンジニア、デジタルマーケティング、データアナリスト等)、痛い経験ですが、イギリス国内で人々や産業への投資も進む大きなきっかけになるのかもしれません。身近なところでは、近くの大きなスーパーマーケットで、ある日はパスタの棚が空っぽ、次の週に行くとヨーロッパ大陸チーズの棚が空っぽ(← 長距離トラック運転手の不足の影響)、イギリス国内で収穫できる苺等の果物の価格が上がる(← フルーツの収穫をする人不足)、いろいろな影響を目の当たりにすることができます。ただ、これは、EU以外の国々(第3諸国)で、イギリスで働きたいという人々にとっては悪いことではないかもしれません。

Yoko Marta