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イギリスの雇用状況 2021年6月(RECレポート)

Yoko Marta
09.07.21 03:42 PM Comment(s)

正社員募集も増加し、スタート時のサラリーも上昇

 詳細に入る前に、イギリスの雇用マーケットの特性について、最初にお話します。イギリスは長年、Temp(臨時)スタッフの活用が多い傾向があります。これは、他のEU諸国とはかなり違う点となります。ただし、同一職務同一賃金は法律上の決まりであり、保険や年金、ホリデーの権利、育児・出産休暇も社員(フルタイムもいればパートタイムもあり)と同じようにありますし、会社内で差別することは法律で禁じられています。これは、イギリス政府のウェブサイトより確認できます。なお、給料だけでなく、社員食堂やコーヒー等の飲み物へのアクセス(無料ドリンクやウォーターサーバー)や、社内のコモンルームやナーサリールーム等へも正社員と同じアクセスを与えることが義務付けられています。企業側としては、Tempの場合(Agency Workerと区分)は、リクルートメント会社に所属している人が派遣されてきているという扱いになり、給料や税金等の計算の手間が省け、かつ必要な期間に特定のスキルがある方を雇用できるということで選択される場合が多いです。Tempで雇われた方が後に正社員になったというのは、稀です。別の形態としては、Fixed-Term Workerがあり、日本でいう契約社員で、働いている企業と直接契約を結んでいる場合です。年単位での契約が多く、契約社員から正規社員になったという例は何件か見ました。また、イギリスの法律上、契約社員で4年以上連続して更新した場合は自動的に正規雇用となります。また、2年以上働いた後に企業が契約を更新しないと決めた場合は、明確な理由を企業側から提示する必要があります。ここから詳細を確認できます。

 日本のリクルートメントのイギリス最大プロフェッショナルボディーのRECより、先月分(2021年6月)の雇用データが公表されました。ここより、アクセス可。特徴として挙げられているのは以下となります。

  • 正社員雇用が増大 ※ただし先述したように、Tempの募集ポジションのほうが正社員ポジションよりも大きい。今までの比較として増大
  • 仕事へ応募する人(仕事を始めることが可能な人)が仕事のポジション数に比べて圧倒的に少ない
  • 上記に呼応して、仕事開始時の賃金が上昇
  この、働けることが可能な人の人数については、Furlough Schemeパンデミック下での突然の大量解雇を防ぐ為に、社員を自宅待機とした場合は、上限はあるものの80パーセント程度の給料を政府から企業に支払う)の影響で一時的に少なくなっているのではないか、という声もBBC(イギリス国営放送)等を見ているとよく聞きます。このFurlough Schemeは、今月7月より、徐々に政府からの支援金の割合が減り、9月末で終了予定です。企業は2021年10月より通常通り給料や税金を払う必要が出てきます。今月19日(月)に全てのビジネスが再開(ナイトクラブ等も含む)、ソーシャルディスタンシングも人数制限もなく、マスクも不要となる予定ですが、Covid 19の感染率は大きく上がり続けており、またしてもレストランやバーが閉鎖されることがあれば、新規に働き始めた人はFurloughの対象とはならない為(企業がFurloughを社員のために申請するには、それまでに一定期間働いていて給料計算システムに入っていることが必要)、転職することをためらっている人々もかなりの数存在するようです。また、現在仕事をしていなかったとしても、募集している職種はレストランやホテル等の不特定の多くの一般大衆を至近距離で扱う職種が多く、Covid 19にり患することを恐れて、応募しない層もいます。他の要素としては、レストランやホテルはシフト制で休日も働き、時給が安い割に身体的・精神的な負担も多く、いったん他の業種に転職すると戻ってこないという場合もあるようです。あとは、今までEU圏から来た教育レベルもスキルも高い人々をHosipitality業界で雇っていたので、きちんとしたトレーニングプログラムを用意しておらず、経験のないイギリス人たちを雇ったところ、1週間くらいで多くが辞めてしまった例もあるようです。また、観光地のホテルやレストラン(ロンドンから600KM程度離れたコーンウォール等)は、もともと、EU出身で、大学を終えたものの自国では仕事が見つからず(イタリアやスペインの若者の失業率はとても高い)、英語を身に着け仕事経験も作って、数年後には自分のスキルや教育レベルに見合った仕事に変わることを目的に、一時的な仕事として働く人々が多くいましたが、多くのEU市民は自国に戻りました。イギリス人だと自分の家族や友人といったネットワークから大きく離れることや、家族がいて子供の学校やパートナーの仕事の場所等も考慮に入れると、場所がミスマッチとなる例もあります。
 人手不足といっても、上記のような様々な要因があるため何ともいえない部分はあるのですが、Furlough Schemeが9月末で実際に終了した場合(注/昨年はFurlough Schemeが2020年11月末で終了としていたものの、パンデミックの悪化で延長)、多くの人々が仕事を失い労働市場に新規に入ってくるのではないか、という見方もあります。ただし、リクルートメントの専門家もビジネス界も、Covid19の感染者も大きく上がっている状態であり(Furlough Schemeも最悪の場合は延長されるかもしれない)、先は読みにくいとしています。
 EU圏の労働者のビザ条件を緩くしてEU圏の労働者を雇えるようにしてほしい、という意見もビジネス界からは出ていますが、「イギリスでの仕事はイギリス人のため(イギリス人優先)、移民の大きな抑制」を大きく打ち出していたEU離脱キャンペーンを行い、EU離脱が効力を発してたかが半年ぐらいで政策のUターンというのは、個人的に考えて実現しにくい気がします。イギリスでは、外国人を雇用する際には企業がビザスポンサーシップの資格を持っている必要があります。今までEU圏の人々を雇っていると必要なかったため、この資格を持っている企業は限られており(企業からのビザスポンサーシップの手続きは比較的シンプルなようです。ただしコストは生じます)、とりあえず当分はイギリスで働く権利を持っている人々を中心に雇用が行われるとみられます。これを機会に、人々への投資(再トレーニング、新技術への新規トレーニング)が政府レベル、企業レベル、教育機関レベルで始まることを期待しますが、恐らく簡単ではないでしょう。

Yoko Marta