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「週休3日」の完全に異なる意図と内容ーヨーロッパと日本

Yoko Marta
12.07.21 11:31 AM Comment(s)

ヨーロッパの週休3日はライフバランスの為ー給料は週休2日時と変わらず

   BBC(イギリスの国営放送)でも、アイスランドの週休3日の試みに触れ、スペイン等、他のヨーロッパの国でもパイロットスキームが始まっていると報道しています。原文はここより。

 上記の記事によると、アイスランドでは2015年から2019年の間に総労働人口の1パーセントにあたる2500人の働く人々を対象にして実験が行われ、全体として生産率が良くなったか同じだったとのことです。職業としては、一般的なオフィス職、お役所、病院、幼稚園・保育園等の幅広いもので、多くの人は週40時間労働から35時間ぐらいの労働時間に移行したそうです。アイスランドでは、この実験制度の成功により、ユニオンは労働者のためにワーキングパターンを雇用主たちと再交渉し、総労働人口の86パーセントの人々が同じ給料を保ったまま時短に成功、或いはその権利がもらえるそうです。この実験の参加者からは、健康と仕事の関係が向上し、家族と過ごす時間や趣味、家事を完了する時間が増えたとしています。

 ヨーロッパのアイディアを日本に持ち込む、或いはヨーロッパのアイディアを日本と比べるときに気を付けないといけないのは、そのアイディアの意図です。ヨーロッパでの試みはライフ・ワークバランスであり、企業が労働者に払う賃金を減らすためではありません。ヨーロッパで「週休3日」というスキームや試みにおいて、給料が減らされることはありませんし、給料を減らすことは全く想定していません。ドイツやイタリア等のヨーロッパでは、経済に大きな問題が起こり(例/リーマンショック等)、多くのビジネスに悪い影響が出る場合は、労働者を守る(大量解雇を防ぐ)ために、政府から企業に支援があり、労働者の働く時間を減らして企業の負担を一時的に減らし、経済が回復するまで持ち越すという仕組みが長い間存在しています。労働者の働く時間は減っても、なるべく給料は減らないよう政府が支援しているということになります。西ヨーロッパでは一番アメリカにいろいろな意味で近いイギリス(労働者の権利が弱い)では、そういった仕組みをもっていませんでしたが、今回のパンデミックではFurlough Schemeという先述したような仕組みを一時的とはいえ、導入しました。

 振り返って、日本でいう「週休3日」はほとんどが給料カットを伴い週4日分の給料か、週5日分の労働時間を一日の労働時間を長くすることで週4日で5日分の労働時間をこなすことのようです。。これは、ヨーロッパでいう「週休3日」というものとは、全く異なるものです。そのため、日本とヨーロッパの「週休3日」を同列に語ることはできません。前者の週4日分に減給する仕組みは、ヨーロッパでの経済危機時の対処に似ている部分もありますが、ヨーロッパでは経済危機の際に労働者を守る意図で設置されている仕組みであり、日本のように労働者を犠牲にして企業が利益を得るという意図とは全く逆です。また、週5日分の労働時間を4日間でこなして給料は変わらず(一日の労働時間が長くなる)というのは、イギリスではCompresed hoursと呼ばれており、私自身も大学の授業と働くことを両立するのに使い、私のイギリス人の友人の場合は、週4日を大学の授業と勉強に使い、残りの週3日をCompressed Hoursとして人事のプロフェッショナルとして働くことを2年続けました。これも、「週休3日」とは全く関連性のないシステムです。もちろん、給料が減っても休みを増やしたいという人々もいるとは思いますが、本来の意味であるライフ・バランスをよくするために、給料は同じままで週休3日を実現するのが、企業の責任であり、政府もそれを監督して実行させるべきなのではないでしょうか?もし政治家やジャーナリストが、ヨーロッパの「週休3日」と日本の「週休3日」を同列に語っていれば、それは疑ってかかり、彼らの意図はどこにあるのかを考える必要があります。

 西ヨーロッパの労働者の権利が強い国々では、「もし企業が働く人々に生きていけるだけの給料を払えるような利益が出せないというなら、その企業は生き残る価値がない。退場してもらいましょう。」と言われています。これらの国々では、「人々に投資を」を実行していて、仕事を失っても生活する保障がしっかりとしており、別の仕事へのトレーニング等の効果的な仕組もあります。日本は、ヨーロッパの先進諸国と比べても、平均した教育レベルは非常に高く、労働者としても価値のある人々が多く存在するので、良い企業経営者がどんどん増えれば、本来の意味である「週休3日」を実現することは難しくないはずです。

 ここで、アイスランドについて一言。

 アイスランドは北ヨーロッパの小さな国ですが、労働者の権利が強く、男女平等も進んでいる国です。ただ、先述したことは偶然の産物ではありません。1975年10月24日に、75000人の女性が、仕事や家事、子供の世話をやめて「Women's Day Off(女性のお休み)」と名付けて、一日ストライキを実行しました。ストライキで使用されていたビラには、「主婦について「彼女は働いてない」、「彼女はただ単に家の面倒を見てるだけ」とよく言われる。/家事についての経験は労働市場においてなんの価値もないとされている」と記載され、女性が子供の面倒や料理、掃除を主に担っていることに対してのストライキでした。同日は、男性たちには「Long Friday(長い金曜日)」と呼ばれ、多くの男性は子供を連れて出社せざるを得ず(クレヨン等の子供の遊び道具も持っていき、職場で仕事しながら子供の面倒を見ざるを得ない)、料理も一番簡単で子供に好かれるソーセージが異様に売れる日だったそうです。また、仕事では従来女性が多く採用されていた(賃金も安めで職位も低い)キャッシャーや受付等の女性が全員いなくなり、男性たちがこれらの仕事を全てカバーできるわけはなく、多くの工場やオフィスはその日は閉鎖するしかなかったようです。この出来事一つだけの結果ではありませんが、家事や子供の面倒を見るということが、いかに価値があり大変なことであるかを男性たちに身をもって知らせたことは、この国の現在の男女平等指数が高く幸福度が高いことにも寄与しているでしょう。男女平等という概念はヨーロッパと日本で大きく違うので、注意が必要な用語ですが、大きな話題となるので、別の機会に考察したいと思います。

Yoko Marta