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セクシャルハラスメント グレイゾーンについて 1/3

Yoko Marta
24.05.22 03:39 PM Comment(s)

セクシャルハラスメントについては、#meetooムーヴメントにより、少し話しやすくなった感もありますが、日本だけでなくアジア圏では、このムーヴメントにはためらいがあったようです。
 イギリスでも、スタンダップコメディアンのNishi Kumar(男性)と同じくコメディアンのRachel Parris(女性)が、彼らが主演を務めるイギリス国営放送のシュールリアルなニュースショー「The Mash Report」で、コントを交えて何がセクシャルハラスメントなのかをユーモアを交えながらも真面目に扱っていました。イギリスはアジアに比較すると女性も含めての基本的人権はずっと尊重されていますが、それでも対話を行うことが非常に難しい話題であることには変わりありません。
 この話題をリサーチする内に、とても良い文献に出会いました。これが、タイトルにあるSara HassanさんとJuliette Sanchez-Lambertさんの共著による、「It's Not That Grey」です。ここより無料でダウンロード可能です。英語版とドイツ語版のみになります。70ページ程度ですが、エクササイズも含まれているので、長くは感じません。セクシャルハラスメントのパターンの分析を読んでいると、これがいかにユニバーサルな問題であるかを思い知らされます。
 私自身、この話題には強い思いがあります。20年以上前の日本では女性差別、女性への日常的な暴力・セクシャルハラスメントはあまりにも普通化しており、息苦しく感じていた私はイギリスで働くことを選択しました。たまたま運よく当時の私には選択肢がありましたが、選択肢がなかった人々も多くいたはずです。日本のニュースや日系企業内でのひどいセクシャルハラスメントを聞いたり、実際に被害にあって数か月で別人のようになった女性たちを見て、自分には何かできたのではないだろうか、と思ってきました。女性が被害者であることが多いものの、男性上司から男性部下へのセクシャルハラスメントの話も身近で聞きました。既に知っている人も多いとは思うのですが、セクシャルハラスメントの加害者・被害者は、男女関わらず、誰もが当事者になる可能性があります。
  「It's Not That Grey」というタイトルは、セクシャルハラスメントの隠れ蓑として使われる、グレーゾーン(ただの冗談、誤解だった等) という言葉を検証し、実際には、グレーゾーンは、Harasser(ハラスメントを行う人=加害者)がTarget(標的=被害者)と定めた人の個人のバウンダリーをViolate(本来尊重されるべき個人の尊厳や主義を破る)することによって生じるもので、実際にはグレーでもなんでもなく、紛れもないセクシャルハラスメントだとしています。英語の文章では、意図的に、「被害者」という言葉は使っていません。なぜなら、「被害者」という言葉には、自分では何もできない弱い人、というようなイメージがあり、今までのセクシュアルハラスメントの間違った神話を強めることになるからです。これ以降は「標的」と表現します。
 セクシャルハラスメントは「権力・権利を濫用し、他者の尊厳や人間性をはぎ取ってコントロールすること」です。セクシャルハラスメントは、直接的で身体的な攻撃だけを指すのではなく、心理的なものが多く含まれ、通常は少しずつ標的のバウンダリーに踏込み、標的を周りから孤立させ、逃げられないよう追い込みます。また、標的となった人に原因があったと信じ込ませ、標的を黙らせ、加害を続けられるようにするのも常套手段です。多くの場合、会社の上司、大学の教授、家族の友人等の信用のある立場にある、身近な人々が加害者です。標的となる人々には、何の落ち度もありません。加害者は標的となる人の人間としての尊厳や意志を完全に無視し、自分勝手な思い込みで執拗に標的を追い詰めていきます。標的が笑顔だったと認識すれば(実際は笑顔でなかったとしても)、これは「誘い」だと解釈し、笑顔でなかったと認識すれば、「どのようにもっと笑顔を見せるべきかを教えてやる機会だ」という動機づけになります。
 また、このセクシャルハラスメントのプロセスは、一見害のないようなことから始まり、徐々にエスカレートしていき、気づいたときには加害者の手中・策から逃げ出すことが非常に困難になるという難しさがあります。別記事で手口については詳細に記載しますが、仕事の上司が自分の個人(仕事とは関係ない)のソーシャルネットワークの写真に「可愛いね」とコメントし、その後用事があるからと会社のメールではなく個人のメッセージアプリケーションに切り替えてメッセージを送るようになり、メッセージの内容は仕事の指示から徐々にプライベートなことに変わり、というように、周りからも標的からも何が起こっているのか分かりづらい方法で少しずつ小さなステップを踏みエスカレートさせ、標的を追い込むパターンもあります。恐らく、多くの人々は、仕事の上司が自分のプライベートの写真をわざわざ探して「可愛いね」とコメントしたことに不快感をいだくでしょうが、これがセクシャルハラスメントの始まりであると認識し、この段階で何らかの抗議をすることは難しいと感じるのではないでしょうか。特に日本のように家父長制の強い社会で育った場合、「誰もが良い意図で行動している。悪い意図があると疑うなんて心が汚れている」「いつもニコニコしていなさい」「周りに常に順応しなさい」「立場が上の人々(親や上司、先生)には全て従い、決して逆らってもいけないし疑問をもってもいけない」「男性をいつも立てなさい」等が自分の内側にもしみ込んでいて、自分の正しい直観を自分で信じられない傾向もあると思います。また、女性や弱い立場に追い込まれた人々の言うことが信じてもらえず、権力・権威のある人々(ほとんどの場合、年上の男性)が信じられやすいという傾向も大きいでしょう。これらは、すべてセクシャルハラスメントの加害者にとって、とても有利に作用するし、彼らはこの社会の仕組みを熟知し利用・悪用します。セクシャルハラスメントの標的が若い女性や移民であることは偶然ではありません。これらの人々は、社会にある差別、富と権力の不平等な分配等によって、弱い立場に追いやられています。これは、彼ら個人で解決できる問題ではありません。権力者は、社会や経済の仕組をコントロールする立場にあり、自分と家族・友人等の限られたグループに富と権力が集中・集積し続けるシステムを作り保持し、自分たちが抑圧している多くの弱い立場にいる人々を抑圧された位置にとどまり続けるように操作します。これは、日本に限らず多くの国々で起こっていることです。だからといって、セクシャルハラスメントについて私たちは完全に無力だというわけではありません。
 前提として、セクシャルハラスメントは、前述したように、標的となる人々には何の落ち度もありません。セクシャルハラスメントを止めることができるのは、加害者だけです。加害者には、加害の責任をきちんと取らせることが必要です。セクシャルハラスメントがはびこるのは、加害者がなんの責任を取ることもなく、自分の権力や権威を自由に使って他者を非人間化し、尊厳を奪うことを許す社会が存在するからです。ただ、社会が変わるのをじっと待っているわけにはいきません。なぜなら現在の社会のシステムから利益を得ている人々はシステムを変えることにはひどく抵抗するでしょうし、通常はこれらの人々がシステムを作り操作する立場に多くいるからです。私たちにできるのは、このセクシャルハラスメントの仕組を理解し、自分の中で「Red Flag System(赤い旗の仕組ーセクシャルハラスメントのステップごとに赤い旗を自分の中で認識し、前もってどう対応できるかを熟慮・練習)」を作り、セクシャルハラスメントが始まった早い段階で気づき、加害者の行為がエスカレートする前に加害をストップできる可能性がある有効な手段を取ることです。(繰り返しになりますが、加害を止められるのは加害者だけです。)また、セクシャルハラスメントは、多くの場合、「加害者」「標的」のほかに「Bystandards(セクシャルハラスメントを目撃する人々)」がいます。以降は「目撃者」と表記します。「目撃者」の言動は、この加害者と標的の関係のダイナミックスを大きく変えることを可能とします。「目撃者」が取れる言動については、別記事に記載します。
 私たちが団結、行動していくことで、社会の良くないシステムをいろいろな角度から揺さぶり続けることになるでしょう。そうすることで、平等で誰もの尊厳が尊重される社会(当然、セクシャルハラスメントやモラルハラスメント、いじめ、人種差別等も存在できない)は実現可能となるでしょう。

Yoko Marta