The Green Catalyst
The Green Catalyst
Creating futures we can believe in

なぜ地球温暖化・気候変動が重要な問題なのか?どう自分たちに影響があるのか?何ができるのか?

Yoko Marta
25.07.22 03:14 PM Comment(s)

なぜ地球温暖化・気候変動が重要な問題なのか?どう自分たちに影響があるのか?何ができるのか?

※2021年11月9日時点での記事となります。

現在、イギリス(通称イギリスは、北アイルランド、スコットランド、ウェールズ、イギリスの4か国の連合国)内のスコットランドの街、グラスゴーでCOP26(Conference Of Parties - 締約国会議)が開かれています。温暖化を産業革命以前のレベルから1.5度以内の上昇に抑えることが目標とされていましたが、現時点では、すべての国々が約束を守ったとしても、1.8度或いは2度近くまで上がるだろうとされています。

日本に住んでいると、もともと自然災害が多く、また国際的な紛争の影響を直接受けることも少なく、難民を受け入れることも少ないので、今一つ、この気候問題が自分たちにどう関係しているのか見えにくいかもしれません。ヨーロッパでも、気候変動はいろいろなフレームワーク(国家安全、平等、基本的人権等)で語られますが、国自体が沈みかけているモルディブの国民議会議長 モハメド・ナシードさんのインタビューには、考えさせられました。

独立系新聞ガーディアンのポッドキャストでここから

ナシードさんは、2009年のコペンハーゲンで開催されたCOP15では、「モルディブを救って」と呼びかけたそうですが、12年たった今、メッセージは「あなたたち自身を救って」だそうです。
モルディブは、2000近い島々から成る国で、その80パーセントは海抜が低く、気温がPre-indutrial時代から1.5度以上あがるのは、モルディブにとっては、死の宣告だとしています。でも、ナシードさんは悲観的ではありません

ナシードさんは、明るく、少し冗談を交えながら語りますが、今年の5月にイスラム教過激派からの暗殺事件で車が爆破され、死の境をさまよいました。その前にも、民主主義を求めて長い間活動し、何度も政治犯として拷問、監禁され、若いうちに一度亡命せざるを得ませんでした。民主主義にのっとって最初に選任された大統領として任期を果たし、その後、国民から大統領として再選されたにも関わらず、クーデーターで罪をでっち上げられ逮捕され、二度目の亡命も経験しました。
ナシードさんは、今回の暗殺事件で「僕は生死の境をさまよったが、戻ってきた。ここには何らかの意味があるはずだ。僕は、地球が生死の境から救われないのは見たくない」として、「地球を救うことは可能」だとしています。

ナシードさんは、現在54歳で、島民で最初にサンゴ礁を見た世代(ゴーグルが一般市民に手に入るようになったのは60年代ぐらいから)で、サンゴ礁が死んでいくのを見た最初の世代でもあると言っていました。
サンゴ礁が死んでいくと、島々はどんどん波に浸食され、いずれは水中に沈みます。
また、主要産業である漁業も絶えます。

ナシードさんは、このまま、気候変動について何もしなければ、地球上の住民の4分の1が生きられる場所を求めて移動を行うということを挙げ、「誰だって自分の島や国に残りたい。でも、水が自分の首まで上がってきたら、ボートに飛び乗るしかない。これが、整然とした移動となるだろうか?そうはならないだろう。
洪水や干ばつで人々が移動しはじめると、資源(水や食料)を争って紛争が起こる確率も高まります。地球上の4分の1の人々が生きられる場所を探して動き始めれば、日本も影響を受けずにはいられません。また、食料・燃料・農業に使われる肥料や機器等、さまざまなのものを他の国々と交易して生活が成り立っている以上、自国で自然災害が増える以外にも、人間が生きるために必然となる、食料や水、エネルギー(電気やガス)、健康、安全な家や経済も大きく影響を受けることは避けられません。

これらの海抜が低い国々は、二酸化炭素を一番排出していない国々にも限らず、一番被害を受けている国々です。これらは、先進諸国が豊を築くために、産業革命時代も含め、数百年にわたって、自然資源と人的資源を搾取してきた国々です。モルディブも、イギリスを含めたヨーロッパ諸国に数百年の間、植民地とされていました。ヨーロッパ諸国の現在の豊かな生活は、これらの国々からの搾取なしには成り立ちません。そのため、気候変動問題を語る際には必ず「植民地問題」も関わってきます。日本も、アジアの国々を植民地化して搾取してきた時代があることを心に留めておくことは重要でしょう。

モルディブでは、既に海上に浮上する島の計画も進んでおり、波が島々を浸食するのを防ぐための設備等の設置、海岸近くの島民の移動等も行っています。でも、波に浸食されるのを防ぐ設備は、1メートル設置するために、5000米ドルかかり、これをすべての島に行うのは、どうやっても無理です。また、島民を移動させたとしても、その島の内陸部がいつまで無事なのかは、他の国々がいかに気候変動を最小に抑えるかにかかっており、確かではありません。ナシードさんは、海抜の低い国々48か国と既に話し合い、協力しあい、共同声明も作成・発表しています。

ナシードさんが提案していた中でも興味深いのは、以下の2点です。
  • COP26では、カーボンニュートラルを推し進め、産業革命前の気温を基準にして、1.5度以内の気温上昇に抑えることを、具体的な方法とともに合意・実行
    ナシードさんは、モルディブにとっては、1.5度以上の上昇は「死の宣告」としています。
    ー NDC (Nationally determined contributions)は現在の5年毎ではなく、1年毎にする
    ー 目標・志は高く
    ー 100Billionドルが開発途上国へ出資されるように計画されているが、半分はMitigation(ミティゲーション:二酸化炭素排出の減少)、残りの半分は自然に基づいた適応に使われるべき。例)二酸化炭素排出の減少ー再生エネルギー、自然に基づいた適応ー 環境変化に耐えられるサンゴ礁、 水を多く保持することができる砂粒、雨水貯留・有効利用等)。また、この資金の使い道は、出資の対象となる国々とIMF(国際通貨基金)が中心となり決め、監査もきちんと行われるべき。
  • 気候変動に大きく影響を受けている貧しい国々の借入問題は、別の方法(Debt Restructuring, Debt Swap)で解決されるべき
    そもそも、国の道路や病院を作る費用を国として借金していても、気候変動で道路や病院や家が水に沈んだり嵐や津波等で破壊されたりしている。借入を締結した際に、気候変動があっても50年、100年のレベルといわれたが、10年レベルで起こっており、これらは座礁資産(Stranded assets)であり、これに対して借入金を払えというのは、法的・モラル・経済的な面から見ても間違っている。大体、もともとこれらのプロジェクトは、不当につりあげられた価格で適正価格ではなかった。現在、自国を含めた気候変動に著しく影響を受けている貧しい国々は、借入金の支払に、国家予算の約20パーセントを充て、30パーセントを気候変動対応に充てている。これが永遠に可能なわけはない。そもそも、これらの国々は、気候変動には寄与していない。これらの借入金をレジリエント気候変動プロジェクトとしてスワップするべきだ。(例/10 Millionの借入金を、気候変動に関するプロジェクトー再生エネルギーの導入等の7 Millionと置き換える等)


COP26については、それぞれの国々が合意したことについて守る法的拘束力があるわけではなく、有効性については疑問が投げかけられるのは事実です。
ナシードさんは、以下のように述べていました。
2つの国が高い目標で合意して、3つめの国がそれに合意しない。それが基準を下げ、目標値を下げる。基準を下げ、目標が下げることは地球を救わない。リーダー国は、一番高い基準と目標に向けて走り続けるべき、たとえすべての国々から合意が得られなくても。リーダーとなる国々は、新しい技術等を使い、どんどんカーボンニュートラルを推し進め、それがうまく機能することを見れば、他の国々も追従する。また、気候変動への適応も大切だが、Mitigation (二酸化炭素を減少し、地球が温暖化することを防ぐ)より適応を重要視することは、破滅に向かっているようなものだ。

イギリスでも、「中国が二酸化炭素の排出を多くしているのだから、中国やロシアでなんとかすべきでイギリスで何をしても効果はない」という言い訳を使う人もいますが、地球温暖化は、二酸化炭素排出の蓄積で起こっています。中国が二酸化炭素排出をし始めたのは最近のことです。イギリスは1750年から産業革命で大量の二酸化炭素排出を行い、地球の半分近くを数百年にわたって植民地として自然資源・人的資源を搾取し、自分の国を豊かにした後は、工業大国からサービス業大国(ファイナンス等)へと移行しました。現在は、自分の国で二酸化炭素を多く排出することを必要とするような工業製品等は作らず、中国や他の開発途上国から安く輸入しています。インドや他の開発途上国は植民地としての搾取に長く苦しめられ、現在も、二酸化炭素排出を大きく伴う工業品や製品を作り、イギリスのような先進国の経済を助けています。それなのに、アメリカやイギリスが、約束したサポートを行わず中国やインドを責めるのは不正直なことは明らかでしょう。私たちは協力して、この人類共通の問題に立ち向かう必要があります。
なお、一人頭の二酸化炭素排出量は、2016年時点のデータでも、アメリカは中国の約2倍です。日本も中国より高い数値です。データは、ここより。1750年から2020年にかけての二酸化炭素排出量も、世界でアメリカが一番高くなっています。データはここより。

忙しく毎日生きていると、こういった問題はどこか遠くの問題で自分とは全く関係ない、或いは考えてみる時間すらないと感じるかもしれません。違った目線から、この気候問題を見ることができるものをご紹介。演劇、文学、映画、お好きなもので。

演劇を通して気候変動を語るもの。
イギリスのPhysical Theatre (身体の動きを効果的に使う劇団)のComplicite(コンプリシテ)より。
脚本・主演は、ナイジェリア移民の親をもつブリティッシュのFehinti Balogun (フェンティ)
家から演劇を見ることを前提に、非常にSkillfull(熟練・巧みに)にシナリオが書かれ、Hip-Hopや言葉もリズミカルに効果的に使われています。脚本・主役を務めたフェンティは、アクター・脚本家であるとともに、Hip-Hop歌手でもあり、すべてのスキルが高いベースの上に、ジョークやユーモアもあちこちにちりばめられ、分かりやすく楽しく、黒人ブリティッシュの目から見た気候変動を、科学的なデータも交えながら語っていきます。気候変動のプロテストやマーチは、イギリスでは圧倒的に白人たちが多く参加し、黒人やアジア人は少数しか見ません。(これは、実際に私自身体験して、驚きました)フェンティも、友達やお母さんに、地球温暖化を防ぐことの大切さを語りますが、誰も関心があるように見えず、フェンティはフラストレーションと孤独を感じます。でも、彼らの立場に立ってみると、有色人種であれば警察に疑われたり逮捕されやすいのは事実であり、マーチに参加しただけで逮捕されるかもしれないし、仕事を複数かけもちしないと生計がたちゆかず、働くことで精一杯の人々もたくさんいます。その人たちの立場にたって理解して初めて、一緒に気候変動についての話が同じ立ち位置でできます。先進国に普通に忙しく生きていて、地球温暖化なんてどこか遠くで起こっているようにしか見えないとき、何ができるでしょう?

2021年11月28日まで。英語字幕あり。日本からもストリーミング可。チケットは1ポンド、5ポンドとさまざま。
http://www.complicite.org/productions/CanILive

詩を通して難民であることを語るもの。
難民といっても、さまざまです。
市民戦争から逃れる人々、国同士の紛争ですべてを失い安全がどこにもない人々、独裁主義や軍隊が力を握る国で政治犯として見なされそのまま残ると殺されることが確定している人々、地域が犯罪組織に支配され国もたよりにならないために殺されたくなければ去るしかない人々、飢えから逃れるため他国へ行くことを与儀なくされた人々、他にもさまざまです。フランスの経済学者Thomas Picketty氏の本では、80パーセント以上の難民は近隣国の難民キャンプ等に逃れ、ヨーロッパや北アメリカに来る難民は一握りです。
でも、地球温暖化が進めば、難民の数は一気に増え、近隣国も旱魃や水害に苦しめば、今までのように難民を近隣国で支えることも不可能になるでしょう。
地球温暖化で、数百年にわたっておこなってきた農業が不可能になる地域は、これからも増え続けます。
畑もひからび、何も育てられず、水もなく家族が飢えに苦しんでいるとき、あなたはそこでじっと家族や子供たちが死ぬのをただ黙って待つのでしょうか?
恐らく多くの人々が、作物を育てられる場所を求めて移動するのではないでしょうか?
彼らは、贅沢な暮らしを求めているわけでもなく、他の国の人々の食物を奪い取ろうとしているわけでもなく、なんとか生きようとしているだけです。
詩人のWarsan Shire (ワルサン・シャイア)は、ソマリア人の両親の元に生まれ、ケニヤの難民キャンプで過ごし、1歳のときに家族でイギリスに移民します。現在は、アメリカ在住です。
以下より、ワルサンの詩「Home (いえ)」が読めます。
この詩は、「No one leaves home(誰も家を去らない)」から始まります。
「誰も家を去らない。もし家があなたを海岸へと追いやらなければ」
「理解して。誰だって子供たちをボートに乗せたりはしない。水の上が地上よりも安全でない限り」
「誰も家を去らない。家があなたの耳元で汗ばんだ声で「去れ。私から今すぐ逃げて。私が何になるかは分からない。でも、私はここ以外のどこかは、ここより安全であることを知っている」と言わない限り」」
Warsan Shire (ワルサン・シャイア)
https://www.facinghistory.org/standing-up-hatred-intolerance/warsan-shire-home

映画を通して難民の流れ、世界の気候変化の影響を追うもの。
中国人芸術家、Ai WeiWei(アイ・ウェイウェイ)の「Human Flow」(ヒューマンフロー 大地漂流)。
2017年に上映された映画です。
アイ・ウェイウェイ自身も文化革命時には、知識人として罰せられた父と共に、ウィグル自治区の労働改造所(強制収容所)で子供時代を過ごしています。自分の国の中で難民のような立場を経験します。その後も、中国政府からの度重なる迫害により、ドイツへ亡命、現在はポルトガル在住となります。
彼は、難民たちを共感の目で、寄り添って撮影していきます。
アフリカの一部は干ばつがひどくなり、砂漠化し、作物が取れなくなることは地球温暖化が止まらなければ確実に起こることが予測されています。そういったことを、美しい映像とともに淡々と静かに語ります。ここでは、難民たちは、わけのわからない恐ろしい人々ではなく、普通に生きている私たちと同じ、家族がいたり、感情をもって一生懸命生きている一人のひとだということが、自然と伝わってきます。
ちなみに、アイ・ウェイウェイはつい最近、自伝を出版しました。
日本語にはまだ翻訳されていないようですが、「1000 years of joys and sorrows (喜びと悲しみの千年)」で、彼の父の時代から中国の激動の歴史をからめて彼の人生が語られます。
イギリス在住であれば、BBC Radio4で一部を聞くことができます。
ここより。

Yoko Marta