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英国(THE UK)のインフレーションとガス危機 ーどう一般市民の生活に影響するのか、情報を適切に選択することの大切さ

Yoko Marta
25.07.22 03:03 PM Comment(s)

The face of the moon was in shadow

※2021年12月時点での記事となります。
The United Kingdom(グレートブリテン(=イギリス、ウェールズ、スコットランドの3か国)及び北アイルランド連合王国)でも、さまざまな価格があがっており、昨日(2021年12月16日)のBBC News at 10(夜10時の国営放送ニュース)では、イギリスの中央銀行にあたるBank of Englandは、利率を現在の0.15パーセントから0.25パーセントへと上げることをアナウンスしました。
これは、インフレーションの急激な上昇を避けるための措置であり、何も対応を行わない場合は、来年の4月にはインフレーション率が6パーセントになる可能性があり、経済成長や雇用を健全な状態に保つための目標値である2パーセントを大きく上回ることになるからだそうです。Bank of Englandのノートはここより。

この利率の上昇で大きくネガティブな影響が出るのは、借入金についてであり、一般市民にとっての大きな借入金としては家のローンが考えられます。
家のローンが固定制ではなく変動制である場合には影響が出ますが、変動制でローンを組んでいる人は家のローンを組んでいる人々の約3分の1程度であり、数としては多くはないのではないかと報道されていました。

インフレーションが高くなると、同じ給料でも実質の価値は下がり、特に貧しい人々の生活を直撃します。
前述のBBC News at 10では、現状について、以下を挙げていました。

ガス料金                            28パーセント増
電気料金                            19パーセント増
ガソリン代                         過去最高記録の1.45パウンド/リットル(約219円/リットル)
一般的な商品の価格    過去30年の中で最高価格

UKでは、ガスの卸売価格が大きく上がったことにより、電気の卸売価格の高騰が起こり、多くの電力小売会社が倒産しました。
UKでは、顧客に課金できる最高価格が決まっており、電気の卸売価格があがるとそのロスを受け入れるだけの資金力がない場合は、倒産となります。
ガスと電気の関連性に疑問を持ったら、ここから日本語で分かりやすい解説が読めます。
電気は、再生エネルギー(風力・太陽光・水力)や原子力、火力発電(石油・石炭・天然ガス)から作られますが、NewsScientistによると、UKでは、電気の1/3は、天然ガスを使った火力発電から作られています。また、家の暖房の86パーセントは、ガス・セントラルヒーティングが使用されています。そのため、UKでは、ガスの使用量は冬にとても大きく増えます。夏は日本でおいうと北海道に近い気候で、冷房を使う場所はオフィスやレストラン等の商用施設に限られており、冷房を設置している一般家庭は珍しいです。
UKでの天然ガス使用率はヨーロッパの中でも大きく、そのためにガス価格とガス供給量には大きく影響を受けます。
今回のエネルギー危機では、再生エネルギーの不安定さを挙げる意見も散見されますが、多くの科学者や専門家も「これはガス危機である。」と明言しており、低炭素エネルギー(風力・太陽光・水力・原子力)に大きくシフトした国では、影響が和らげられたとしています。
ガス卸売価格や市場に出回る量は、非常に変動性が高く、Geo Politics(地政学)にも大きく影響され、ガス卸価格の高騰は周期的に起こります。前回は、今回ほど大きくないものの、2018年に起こり、このときも電力小売会社の倒産が起こり、結局そのプライスを払ったのは、今回と同じく消費者である一般市民です。

今回のガス危機の原因には、以下が挙がっていました。
[ガス問題]
  • パンデミックが少し落ち着いたことで、アジアでのガス需要が大幅に上昇、ヨーロッパでも上昇 →ガスの需要が一気に同時期に増加し、一時的な不足を起こす。
  • UKの天然ガスの最大の輸入元であるノルウェーで、ガス製造施設の大きな点検作業があり、今年の夏、製造を一定期間止める必要があった。そのため、天然ガスの生産量が減り、価格にも影響。情報はここより。
  • ロシアからのガスの供給が少ない (特にヨーロッパ大陸の国々に大きく影響) → ロシアが、ウクライナを通過しないガス・パイプライン(Nord Stream 2)を建設し、それをヨーロッパのガス・パイプラインにつなげたいとしていますが、EUはずっと拒否しています。政治的な取引として、ロシアのプーチン大統領がヨーロッパへのガスの供給量を意図的に低くコントロールし、この新たなガス・パイプラインを許可することを狙っているのでは、という見方が強いです。また、これはガス卸価格の異様な高騰を引き起こし、ロシアの国営ガス会社Gazpromは、記録的な利益を出しています。
    現在、ロシアとウクライナの国境にロシアは大きな戦力を配置し緊張状態を作り出しており、天然ガスについての供給問題・価格高騰については、長期間にわたるのでは、とみられています。
  • UKのガスの貯蔵量がとても低かった。例/2021年9月のガス貯蔵量:イタリア 166.2Twh、UK 8.9 Twh(UKはイタリアのガス貯蔵量の約5パーセント) BBCの資料はここより。
    [電力関連]
  • UKの場合、フランスとイギリスを結ぶ主要パワーケーブル(電気をフランスから輸入)で火災が起こり、復旧されるのは冬が終わる2022年3月予定。ケーブルのうち一つは機能しているが、輸入できる電力は限られる。BBCの記事はここより。
  • 風力発電について、風が弱い日が多かった(ただし、この影響は非常に小さい。再生エネルギーの導入が日本と比べて進んでいるUKでも、再生エネルギーの割合は、化石燃料に比べると少ない)
UKのクワシ・クワルテング氏(ビジネス・エネルギー・産業戦略相)は、「この危機は、「化石燃料への依存をさらに減らすために、自国産の強力な再生可能エネルギーセクターを構築する」という英国の計画の重要性を示している。」と明言しています。ヨーロッパの電力業界のリーダーたちも、不安定な要素が多く、温暖化にも有害な化石燃料に依存するのではなく、再生エネルギーの導入をもっと大きく素早く進めるべきだ、という声が主流です。また、UKでは、ガスを使うセントラル・ヒーティングの代わりに、ガスを使わないヒートパンプという暖房方式に変更するよう推し進めています。

ガスだけでなく、他の化石燃料(石油・石炭)も、ガスと同様に国際・地政学リスクを伴い、価格の大きな変動や産出国の政治的な駆け引きや該当国での市民戦争等の、消費者となる他の国々からは全くコントロールのできないことが多く存在します。
化石燃料に大きく依存している限り、エネルギーの量や価格の不安定さにさらされることは避けられません。
かつ、化石燃料が地球温暖化を促進し、空気汚染にも悪影響を及ぼすことは覚えておかなくてはなりません。
地球温暖化に全くと言っていいほど寄与していないパシフィックの島々は既に海面上昇で沈みはじめており、工業革命時代から気温が1.5度以上となることは、死の宣告となる場所はたくさんあります。同じ地球上に生きている以上、私たちにも彼らの運命に責任があります。

また、どんな議論にもいえることですが、問題をすりかえるような議論には気を付けなければいけません

今回の「ガス危機」を「再生エネルギー危機」とすり替えるのはなぜでしょう?

化石燃料の生産・精製等に関わる施設を多く所有している、或いは化石燃料の取引で大きく利益を上げ続けていれば、化石燃料の取引量も使用年数もできるだけ多くしたいでしょう。
化石燃料会社からの献金が政治やアカデミック・シンクタンク・メディアに大きく流れているのはよく知られています。ビジネスに直接かかわる人々だけでなく、政治家やアカデミック、メディアやジャーナリストも献金を失わないために、これらの企業をサポートし、問題のすり替えを助長しているケースはあります。
原子力施設の建設や運営で大きく利益を得る企業や政治家、人々は、再生エネルギーの代わりに原子力を推進をする機会として、再生エネルギー危機とすり替えたいかもしれません。

先述したNewsScientistでは、いくつかの間違った方向へ導かれた解決策について、なぜかを説明しています。
  • 国内ガス生産として、フラッキングを提案 → 企業はUKの規制の下で何年もシェールガスの採掘に挑戦している。※局地的な地震等、問題も多く起こり、反対運動もさかん。
  • 再生エネルギーを支えるための課税をエネルギー料金から外す → 結局は他の課税方法で徴収することになる
  • 英国の原子力貿易機関は、原子力が答えだと言っている→ 新しい原子力発電所の建設には少なくとも10年はかかるだろうし、検討されている資金調達モデルは、建設が予算とスケジュールを超えた場合、エネルギー法案の支払者がコストを背負い、結局はエネルギーの消費者に負担がかかります。

上記に加えて、原子力発電所の建設は、予定よりスケジュールと予算を大幅に超過する場合が完全に多く、場合によっては数十年かかっても稼働できないケースも存在しています。これは、稼働中の安全性以前の問題です。また、価格という面でみても、太陽光は既に原子力よりも安く、風力も近いうちにさらに安くなるだろうという試算もあり、素早く大きなスケールで再生エネルギーを導入することで、価格を一気にさげることができ、助成金もすぐに必要なくなるだろう、との見方もあります。
また、原子力で生み出されるエネルギー料金については、核燃料の廃棄等に実際にどの程度の金額がかかるか不明で、また事故時に備えての金額もどう計上するか等も考えると、実際にはかなり高い値段となるでしょう。安全性の問題も非常に重要です。
個人的には、原子力発電については、廃棄も含めて冷静に話し合う機会が必要であり、話し合う価値があるとは思います。そのためには、透明性と情報の開示、中立的な立場で公平に話し合いが行われる必要があるでしょう。

エネルギーやAI等の内容は専門的な部分があり、良い意図を持ったジャーナリストでさえ、全容が理解できず、誤った方向に導こうとする人々の意見にチャレンジすべきであるのに、チャレンジせず、誤った見方が正しい見方として世間一般に広まることはあります。
いろいろな意見は自由に表明されるべきですが、その意見にチャレンジする自由もあり、情報を意図的に間違って使っているような場合はチャレンジされなければなりません。
また、特定の団体・企業から献金を受けていて、その団体・企業からの要望に沿うような意見を述べるのであれば、それは、最初に明確に示される必要があります。聴衆はそのバックグラウンドも含めて、その情報を判断しなければなりません。そうでないと、公平で開かれた場とはなりません。
ただ、それにはきちんとした知識が必要です。
面倒に思うかもしれませんが、民主主義では、ひとりひとりの市民が自分自身を教育し、正しい知識を手に入れ、自分で考え周りとダイアローグを通して自分の意見を形成していく義務があります。エネルギーもAIも市民の生活に深く関わることであり、私たちは良く考える必要があり、注意を払う価値があります。ひとりひとりの知識も意識も高ければ、特定の企業や政治家の一部のみに利益を与え続け、多くの人々が貧しい状態になるような政策には「No」を突きつけることができ、多くの一般市民のためになるような政策が多く採用されることとなるでしょう。
ひとりひとりの力は小さくても、或いは小さいからこそ、一般市民は団結してお互いのために協力することが大切です。
自分も周りの人々も、みんな幸せで安全な生活を送れる社会は実現可能です。