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UKの現時点での雇用状況

Yoko Marta
18.01.22 04:26 PM Comment(s)

UKの現時点での雇用状況 - 国営放送BBCより

今日(2022年1月18日)、いつものように、国営放送のBBC Radio4を朝食時に聞いていたら、イギリスのパンデミック後の雇用状況についての興味深いレポートがありました。

イギリスは、Furloughスキーム(ファーロー:パンデミックでの大きな解雇を避けるため、イギリス政府が申請のあった企業の従業員の給料の6割から8割程度(※1)を負担していた)が終わった後、大きな解雇の波が起きるのでは、という悲観的な予測もありましたが、現在のところは、予測よりは良かったものの、複雑な状況となっています。

このFurlough(ファーロー)は、イギリス政府から数十億ポンドを必要としましたが、数百万の仕事を救ったと考えられています。

雇用状況変化の良い面としては、例えばPwC(プライスウォーターハウスクーパース)UKオフィスでは、例年、新卒ポジションで1500人程度採用なのが、現在は2000人程度採用予定としています。UKを含めたヨーロッパでは、日本のような新卒一括採用はなく、通年採用なので、新卒ポジション(=Entry Position)といっても、日本のように誰もが同時期に仕事を始めるわけでもないし、在学中には学業に専念し、卒業後にはインターンシップを外国で数か月行った後に就職する形も全く珍しくありません。

また、大手リクルートメントエージェンシのRobert Walters (ロバート・ウォルターズ) UKでは、適切な人材を探すのが非常に難しく、新たに雇用される人々の給料は大きく上がっており、極端な例では、新卒の弁護士の給料に150,000ポンド(約1千万円/年棒)を払うもあったそうです。
この番組でのRobert Waltersの出演者は、Salary Inflation(サラリー・インフレーション)と表現していましたが、ヨーロッパの労働人口の約3分の1が黒死病で亡くなった後、同じように労働者の不足と給与の上昇があり、ある程度は予測内だったようです。

ただ、イギリスの状況で不思議な点は、失業率の低下と雇用の低下が同時に起こっていることです。
この不思議な現象は、どう解釈すればいいのでしょうか?

Institute for employment studiesのTony Willson(トニー・ウィルソン)さんが、分かりやすく説明してくれました。

2021年2月時点で働いていた人々の数は、現時点(2022年1月)と比べて、50万人多いです。
この50万人はどこに消えたのでしょう?
37万人は、Economic inactivity (経済的にアクティブではない)ということで、仕事を探していない/仕事を始められない人々を指しています。
このうち多くは、若い人々で、パンデミックのただなかに仕事を探すのではなく、大学に残ったり、大学院に進んだ人たちだと考えられています。
残りは、長い間の病気で働けない人々、早期リタイアメントを選択した人々ではないか、と分析していました。

現在の人手不足は、パンデミック前よりも雇用の需要が高まったことを考え合わせると、実質的に大体100万人程度とみられているそうです。
EU離脱により去ったEU圏の人々が3分の1、上記のEcoomic Inactivityにある人々と年を取った人々が約3分の2程度ではないか、と考えているそうです。

イギリスの場合、話を複雑にするのは、政府やONS(Office of National Statistics)は、PAYE(Pay As You Earn ー 正規に雇用されている人々が収入に応じて給料から天引きで税金を払う)に載っている人の数を指標とすることです。
ここには、イギリスでは多いSelf-Employment(自営業)は含まれません。
PAYEに載っている人々の数は増えましたが、それは部分的に、今までコントラクターとして働いていた人々(自営業等の扱いでPAYEには載っていなかった)が正規社員となりPAYEに載ったケースが考えられるのでは、とのことでした。(※2)
また、PAYEに載っている人が増えた半面、自営業者の数は70~80万人程度減少したそうです。

ファーローが終わった後に予測されていたような壊滅的な状況は免れているものの、適切なスキルを持っている人々に適正な仕事についてもらい、かつ現在仕事で活躍していない年をとった人々や若い人々にも経済活動に参加してもらわないと、経済の成長は望めません
また、パンデミックの最中に、ビジネスに向けてイギリス政府からローンがあり、借りた企業もたくさんあります。
パンデミック後もビジネスが上向きにならずローンを返せない企業が出てきて倒産し、失業率が上がるのでは、という見解も少数派のようですが、存在します。
この結果が見えるようになるには、数年かかるでしょう。(返済期間は延長も可能なため)

また、仕事については、本日LinkedInで、成長中の仕事についてのランキングが出ました。
イギリスと日本では、かなり大きな違いがあり、興味深いです。
この点については後日。

(※1)パンデミック中の2020年3月~2021年9月末まで適用されました。申請した企業は、初期には従業員の給与の8割を政府が支払い(上限2500ポンド/月)、適用期間の終わりに向けては従業員が給料の8割を保障されることに変わりはないものの、政府の負担を減らし企業の負担を増やすものとなっていました。

(※2)イギリスでは通常、専門性のあるコントラクターであれば、賃金は非常に高く、また自営業の場合、PAYEに載っているより税金は低くなることが多く、自営業やLimited Companyとして契約を結ぶことを選択する人々は、かなりいます。また、基本的に、日本のいわゆる「非正規」という形はなく、働く時間数や日数に関わらず、会社で働いていれば正規社員でPAYEに載っていることとなり、会社は社員に対して税金を負担する必要があります。

Yoko Marta