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ここ数年で急成長している職種 ー イギリスと日本

Yoko Marta
21.01.22 03:03 PM Comment(s)

転職状況の違いも含めて

今週(2022年1月20日)のイギリス国営放送のBBC Radio 4に、LinkedIn UKの担当者が登場し、LinkedInに登録しているUK在住の人々の動きから見えることを話していました。

LinkedIn UKの担当者によると、3100万人程度の人がLinkedIn UKのプラットフォームに登録しているそうです。
イギリスの人口は、日本の人口の約半分の6000万人なので、かなり多くの人々が登録していると思っていいと思います。
仕事についている人のうち、10人のうち9人は自分の仕事のポジションに自信を持っており、3分の2は、今年転職しようと思っていて、5人のうち1人は既に積極的に転職活動をしているそうです。

イギリスを含めたヨーロッパでは、転職はごく普通のことで、転職をしたことがない人のほうが圧倒的に少ないです。
さまざまな理由がありますが、基本的に職務毎に細かく仕事内容や給料が決まっており、企業の規模が小さければ、キャリアを自分の思うほうに伸ばしたい、或いは給料アップを目指すと、企業の規模が大きいところに転職せざるを得ないという場合もあります。
イギリスで20年以上働いていますが、ヨーロピアンは全体的に自分のキャリアをとても若いうちから戦略的に考えている人がとても多いという印象があります。
これは、職務に応じて雇用するヨーロピアン型のシステムの影響もあるでしょう。
こちらで、仕事について話すと、まず会社名は出てこなくて、職種(プロフェッション)が返ってきます。例えば、どちらもが同じファイナンス系のITエンジニアだったりすると、同じ業界なのでどの会社で働いているの、という話になったりもしますが、大きなポイントは「何のプロフェッショナルなのか」ということです。会社は自分のキャリアを含めた人生の方向性に合わせて変えていくものなので、自分が主体で、どの会社に(現時点で)勤めているかは、重要と見なされません

ちなみに、ヨーロッパでは、転職先を決めてから離職することを告げるのが普通で、仕事をしながら転職活動を行います。
これは、基本的に残業が生じないワークスタイルのおかげでもあるでしょう。
また、場合によっては、カウンターオファー(現在の会社で給料や福利厚生等の交渉が不満足だった場合、転職活動で別企業からジョブオファーをもらった後に、それを元に現在の会社での条件を再交渉。再交渉で満足のいく条件が出れば、現企業に残り、でなければ転職)を考慮に入れている場合もあります。
日本では、カウンターオファーには良い印象はないかもしれませんが、ヨーロッパではごく普通の交渉手段です。

また、リダンダンシー(組織編成等による解雇)も珍しくなく、私の周りのヨーロピアンで日本円で数千万円得ている人たちも、少なくとも1回はリダンダンシーを経験しています。複数回経験している人も周りに数人います。
基本的に国際企業に勤めていると、企業の合併や買収はよく起こり、そのたびに、会計部門をまるごと中央アジアの国にオフショア、IT部門の機能を、ヨーロッパ支店各国から、ベルギーオフィスに全て統合、といった変化は珍しくありません。
国際企業ではない地元中小企業でも、パンデミックで一度企業の状態を見直した際に、アカウント部門は自分たちの企業には必要ない、アプリケーションを入れることで対応できると判断し、アカウント部門の二人は仕事もできてとてもいい人たちだったけれど、残念ながら解雇した、というケースもニュースで見ました。
リダンダンシーは、特定の職務がビジネスに必要なのかどうかによって判断され、職務に対するリダンダンシーなので(もちろん、その職務についている人々は仕事を失うわけですが)、日本より感情の入る余地は少ないと思います。
通常は、数か月前、或いはもっと前に、会社から話があり、最後の2か月くらいはガーデン・リーブ(給料は出るが、会社にはいかず働かない)のことも多く、保障金や再トレーニング等のかなり大きな金額が提示されることも多く、私の知り合いは1年間世界旅行に出かけ、帰ってくるとすぐに、以前よりもさらに高給で条件のいい仕事を見つけてました。

転職はごく普通のことなので、企業は良い人々にとどまってもらおうと知恵を絞っています。
よく挙がるのは、フレキシブルである(Work from Homeのオプションがある等)こと、ダイバーシティー(多様性)や環境に配慮していること、働いている人のウェルビーイング( 心身の健康)を本当に気にかけていること、誰もがそれぞれの個性を生かして活躍できる等です。

LinkedInは同時に急成長している職業のランキングを発表しました。
データとしては、2017年1月から2021年7月までのデータから分析したようです。
イギリスの結果は、ここより。
日本の結果は、ここより。

イギリスは、欧州連合離脱も影響を及ぼしており、Customs Officer(税関職員)やImport Specialist(輸入スペシャリスト)が上位に挙がっています。日本との大きな違いは、Sustainability(環境持続性)、Diversity and Inclusion(ダイバーシティー・インクルージョン)やテック系の仕事が上位にかなり挙がってきていることです。
Sustainability Manager (サステイナビリティー マネージャー)は恐らく日本でも増えると思います。
Diversity and Inclusion Manager (ダイバーシティー・インクルージョン マネージャー)は、移民の多い国ならではかもしれませんが、簡単に下記に説明しています。

Sustainability Manager (サステイナビリティー マネージャー)

サステイナビリティー マネージャーは、効果的なサステイナビリティー戦略の監督と実施を目指し、企業と企業の活動が環境に与える影響を検証し、予測を行います。
例えば、ロンドンでよく知られているKew Garden(キュー・ガーデン)でも、現在募集が出ています。
ここより、ガーディアン紙に掲載された募集が見られます。
※ガーディアン紙のJobセクションは、リクルートメントエージェンシーを通さない、ダイレクトな募集のみを選べるオプションもあり、便利です。

Diversity and Inclusion Manager(ダイバーシティー・インクルージョン マネージャー)

ダイバーシティ・インクルージョン マネージャーは、多様性、公平性、組織内の帰属を増やすことに関連する企業のイニシアチブをサポートする人々のチームをリードします。
人事のバックグラウンドを持つ人も多いようです。ある意味、自然な流れでしょう。

上位20位のうち、マシーン・ラーニング・エンジニア研究室の科学者データ・エンジニアバックエンド・エンジニアコンピューター・ヴィジョン・エンジニアサイト信頼性エンジニア等が並んでいます。

私自身、日本とロンドンでITエンジニアとして10年ほど働きましたが、日本の大学では美学・美術史を専攻しました。
イギリスやヨーロッパの友人でITエンジニアとして働いている人は、ほぼ100パーセント、コンピューターサイエンス学科か院を卒業した人々で、コンピューターサイエンスでなければ、サイエンス系の大学院を卒業していて、人文系科目のバックグラウンドには一度も会ったことがありません。
イギリスとヨーロッパには非常に質の高いコンピューターサイエンス学科・院が存在します。
本当に優秀な人々です。

日本と似ている点としては、Talent Acquisition Specialist(人材獲得スペシャリスト)といったところでしょう。

イギリスは、欧州連合離脱により、欧州連合の人々も私たち日本人のように働くためのビザが必要となりました。
欧州連合離脱の国民投票のあたりで、さまざまなデマ等も飛びかい、外国人に対する風当たりも強くなり、うんざりして自国に帰ったヨーロピアンもたくさんいます。
また、新規にヨーロッパからイギリスに働きにこようとしても、就労ビザの基準は年々厳しくなってきており、人手不足は、今後も続くと思われ、適性な能力やスキルをもった人々を探し出すTalent Acquisition Specialist(人材獲得スペシャリスト)は、当分の間、必要でしょう。

日本のように、自国民の労働人口が大きく減ってきているわけではありませんが、スキルも能力もある移民に頼っていた長年の状況から一足飛びに自国民だけで間に合わせようとするのは、今まで自国民の教育やスキルアップに投資をしてこなかった歴史から、難しいことは明白です。
既に、いくつかの職業(ケア、医療、大型トラック運転手等)では、就労ビザの基準をさげ、なんとか移民にきてもらおうとしています。
これは、過渡期として仕方のないことかもしれませんが、今後、教育やスキルアップに投資が大きくなることを願っています。
必要なスキルも教育も大きく変わることはどの国でも必然なので、そういう意味ではシステムを大きく変える絶好の機会ともいえるでしょう。

Yoko Marta