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原子力発電所やSMR(小型モジュール炉)は私たちの社会に必要/有用なのか?

Yoko Marta
24.05.22 03:33 PM Comment(s)

考えるきっかけと民主主義

​先週(2022年1月19日)に、自然エネルギー財団の開催したウェビナー「世界への原子力産業動向と日本への示唆」に参加しました。
The world nuclear industry report 2021の原文は、ここより、仮訳の日本語版は、自然エネルギー財団のウエブサイト上のここより参照可能です。

原子力発電については、日本に住んでいれば福島事故の記憶はまだ薄れていないと思います。
感情をまじえず、事実に基づいて冷静に話しあうことが早急に必要な話題だと思いますが、「事実」を集めて、かつ理解するのは大変なことだと思います。
新聞やウェブサイトを見ても、原子力発電所を保有している企業の影響(資金提供や広告料の支払)があれば、その情報は偏っている可能性は高く、「原子力絶対反対」という立場の団体の声は今一つ心に響かないかもしれません。
そうなると、無力に思えて、考えることさえストップしてしまうかもしれません。
これは、仕方がない面もありますが、とても危険です。

ドイツでは、ガス価格の高騰による電力価格の高騰が続いていますが、原子力発電所を今年中に全てストップする計画を着々と進めています。これは、国民の声からきています。
きっかけは、福島事故でした。
「民主主義」とは、ひとりひとりが自分を教育し、社会に大きな影響を及ぼすことについては、よく知り、他の人々と話し合い、自分の意見を形成する必要があります
民主主義の世界では、適切な情報を知り、自分たちを教育するのは市民一人一人の責任です。
私たちは、しっかりと知識をつけて、自分たち、社会のより良い未来のために力をつけて手を携えて歩いていく義務があります。
「マーケット(市場)にまかせておけばすべてがうまくいく(=一般人は何も考える必要はない)」という意見もありますが、その結果は、現在私たちが経験しているように、環境破壊への影響や責任は何も考えない利益至上主義の企業や個人が、自分たち企業には大きな利益をもたらしたものの、環境を壊した結果は一般市民が払っている状況です。

私自身、大学では美学・美術史を専攻し、コンピューターソフトウェア企業に新卒として入社し、すぐにプログラミングの研修が始まり、「分からない」ということがどういうことかと身をもって知りました。
それと同時に、興味をもって知る努力を続ければ、分かるようになる、という発見でもありました。
今回のウェビナーは分かりやすく、先述した自然エネルギー財団のウェブサイト上にある日本語仮訳も分かりやすいものでした。
一度、目を通してみることをお勧めします。

私自身が考えたことを簡単に下記に記載しています。
もっと深く知ることへのきっかけになれば、と思います。

よく聞く説は以下でしょう。
原子力発電は、安全で安定した電力供給が行えて、価格も安い。天候に左右される再生エネルギーは、不安定であてにできないし価格も高くつくので、ベースロードとして原子力発電をもつことは必然。原子力発電所は管理が厳しく事故もまず起こらない

この説は、価格の部分だけを除くと、イギリスでも聞かれます。

現在、ヨーロッパ内で原子力発電所を大きく所有しているのはフランスです。
ヨーロッパ内では、別の国々とも送電線がつながっており、たとえばフランス⇔イギリス間(フランスからイギリスへ海底ケーブルをつないでいる)での電力の輸出入をしています。
フランスでは、国有企業のEDFと呼ばれる会社が多くの原子力発電所の設計・運用をしており、他国に対しても技術の輸出を行っています。
ヨーロッパでは、電力については成功者のように見られることの多いフランス    (※1)ですが、実際にはどうでしょう?

今回のウェビナーでは、いくつかの要因により、フランスでの原子力発電所からの電力生産は2005年から2020年にかけて年々下がってきており、2020年時点では、フランス内での発電量の67パーセントのみが原子力発電所由来であることを挙げていました。
「原子力発電は通年に渡って安定した電力を供給できる」とよくいわれますが、実際には、大きな事故を経験していないフランスでさえ、計画的な運転停止も含めた運転停止は、平均して各原子炉の約3分の1年分となります。
ヨーロッパでは、冬に電力使用が大きく上がりますが、2021年12月のある一日には、フランスでは、隣国のドイツとベルギーから電力を輸入する必要がありました。
ちなみに、ドイツとベルギーは、原子力発電所廃止を決定した国々です。
また、イタリアも随分前にすべての原子力発電所を廃止しており(もともと原子力発電所の数も少なかった)、原子力発電所ゼロの国ですが、他のヨーロッパの国々と比較して電力の供給に問題があるわけではありません。
運転停止についてのいくつかの要因は以下が挙がっていました。
  • 原子炉の老朽化による、故障や不調によるもの
    原子炉は、建築から実際に電力を供給できるようになるまで、予測期間の数倍になり、それに伴って費用もはねあがることで知られています。中には建設から10年以上たっても操業開始できないものもあり、中国を除いては、現在では老朽化した原子炉が大部分です。原子炉に限らず機械の老朽化が進み一定の寿命を越えると、Bathtub(西洋型の浴槽)のような曲線を描き故障が一気に増えるのは定説です。イギリスもガス価格の高騰による電力価格の高騰に悩まされているものの、最近、原子炉の一つを予定より早く廃止としました。老朽化により故障が多くなり、安全性と運用コストを考え合わせたときに、意味を為さなかったからです。
  • 気候変化に伴うもの ― 既に毎年起こっている
    原子炉は、常に冷却する必要がありますが、気候変化に伴い、川の水量が下がり冷却が予定した通りにいかず運用一時停止した原子炉もあったようです。また、気温の上昇により冷却が予定通りにいかない等の問題は既に起きています。冬に起こりやすい洪水の影響にさらされる可能性もあります。北ヨーロッパでの気候変動の影響は、アジアやアフリカと比べて小さいとされていますが、今後、気候変化はますます進み、原子炉の安定性も影響を受けることは避けられません。特に、洪水や山火事等がすでによく起こる地域では、さらに安定度・安全度は下がるでしょう。原子力発電の気候変化に対するレジリエンス(変化に適応する能力)は低いと見られています


「安定」という面から考えると、上記をみると、必ずしも安定した電力の供給ができているわけではない、という結論になると思います。

「安全」という面からみると、いくつかの不安要素があります。
現在、技術的に廃炉措置(※廃棄物措置は含まないことに注意)が終わっているのは、世界で 30基のみです。
運転を1年以上にわたって停止、或いは廃炉を決めたけれど廃炉措置を行っていない、廃炉措置の途中であるものはたくさんあります。
廃炉措置には、時間も手間もコストも大きくかかります。
運転停止をしてから、燃料の搬出・周辺設備や原子炉の解体等には約15~20年かかり、この間、原子炉の安全を確保する必要があります。
運転停止後に、洪水等の自然災害等の予測しなかった事故が起こらないとも言い切れません。
また、運転停止した原子炉は、コストがかかるだけで、利益が生み出されるわけではないので、利益至上主義の企業経営からいくと、関心が薄れて管理がおろそかになる、廃炉処理が後回しになる可能性もあるでしょう。
今後ますます増えていく廃炉について、正しく処理されていくことを監視する必要もあります。

核の廃棄物については、いまだに最終廃棄の方法が決まっていません。
また、使用済核燃料はどんどん増加しており、多くの核兵器をつくることが技術的には可能となっています。
特に政情不安定な国々では、監視が行き届かない可能性もあり、不安は残ります。

また、日本では想像がつかないかもしれませんが、イギリスを含めた多くのヨーロッパの国々はテロの脅威にさらされています。
原子力発電所はターゲットとなる可能性のある施設の一つです。
人工知能を搭載した自律型兵器は既に開発されており、人間が操作することなく、小さなおもちゃの飛行機のようなものに爆発物を搭載して致命的な個所の部品を破壊することも不可能ではありません。これらの新しい脅威について、どの国も用意はできているのでしょうか?
日本に住んでいると戦争や紛争は遠い国の話でしかないかもしれませんが、ロシアとウクライナの緊張状態は続いており、中近東、アフリカでの紛争も数多く起きており、現在も続いています。

日本の状況に限ってみると、先述した仮訳の文書に、「10年ほど前から犯罪者集団が原子力サイトに労働者を提供してきている」、「2021年2月現在、敷地での廃炉の仕事に携わっている労働者が7000人近くいた。 その86%が下請けの労働者だった。残りの14%だけが東京電力の従業員」という記述がありました。
これは、大きな安全性へのリスクです。
働いている人々の安全や健康がいかに守られているのか、という疑問もありますが、いくら原子力発電所が機能的に安全につくられていても、上記のような状況では、以下のような人為的な問題が起こる可能性は高くなるでしょう。
  • 働いている人々は、必要な訓練を受けていない (人為的なミスが多発する可能性)
  • 働いている人々は、必要な装具や器具を支給されていない (放射線汚染の可能性、人為的なミスが発生する可能性)
  • レポートラインが明確でない(どんな時に誰に連絡するかが徹底されておらず、小さな事故が大きな事故へと発展する可能性)
これは、どんなに物理的に安全な原子力発電所を作ったとしても、避けられない問題です。
また、日本の原子炉も老朽化が進んでいることには、留意しておく必要があります。
ウェビナーであがっていたのは、日本特有の問題として、原子力発電所の安全や監査を独立した団体が行う仕組みがない、ということが挙がっていました。
ヨーロッパでも原子力発電所の部品の監査に不正があったという事件は起こりましたが、電力や原子力、他のエリアについても、通常はかなり力のある独立した組織・団体が監査・調査・規則の徹底を行っています。この点では、ヨーロッパのほうが一般市民を守る仕組みが強いといえるでしょう。

上記に関連して、事故は起こりにくい、という説がよく聞かれるものの、実際に事故が起こったとき、人命やひとびとの生活や命に与える影響・環境に与える影響は、計り知れないほど大きくなります。「絶対に事故は起こらない」とは言えず、事故が起こった場合の影響と原子力発電所を使うことによるメリットをどう図って比較するのかは、実際に数値を使って明らかにする必要があるでしょう。市民が大事に思っていることと、原子力発電を推進する団体や機関が重点を置いていることには、大きな違いがあるかもしれません。「原子力発電があるべき/ないべき」という固定した見方からいったん一歩さがって、原子力発電の有用性、危険性等をさまざまな角度から見て、私たちの社会に必要なのかどうか話し合うことが大事でしょう。この際には、原子力発電所の建設や運用で利益を得る立場の人々はそれを明らかにする必要があり、示される資料や数値も公平で透明性のあるものでなくてはなりません。

「価格」の面については、どうでしょう?
日本ではいまだに「原子力発電由来の電力は安い」という説が出回っているようですが、ヨーロッパでは再生エネルギーの価格は下がっており、原子力発電由来の電力は安いという神話はありません。
日本の再生エネルギー価格は、欧米の2倍近いことで知られています。
これは日本特有の大手電力会社のカルテル状態が続いていることが大きく影響しており、政治的・社会的的・経済的な日本特有のシステム問題であり、技術の問題ではありません

このウェビナーでは、登壇者のAntony Frogatt (イギリスのシンクタンクChatham House(チャッタムハウス)所属ーイギリスでも非常に信頼性の高いことで知られている団体)さんが、国際エネルギー機関(IEA)の資料も使いながら、2020年時点で、陸上風力・太陽光から作られた電気コストは原子力由来の電気の約半分の価格で、海上風力は原子力よりも少し高いものの、2030年時点では、現在の価格の半分近くになる予測で、原子力はほぼ横ばいのため、2030年時点では、確実に原子力由来の電力が飛びぬけて一番高いということになります。
予測しなかった事態、例えば事故については、福島事故から10年たってもいまだにどれだけのコストが必要なのかは明確にできず、人命や人々の安全や健康には値札はつけられないものの、それ以外の物理的なコストでさえ正確にはかることは難しい(=電力コスト計算にはいれられない)という部分からも、「原子力由来の電力はとても高い」というのが事実でしょう。

また、従来の原子力ではなく、SMR(小型モジュール炉)の開発を急進させればいいのではないか、という意見もよく聞きます。
イギリスでも、ガス価格の高騰による電気料金の高騰で、SMR(小型モジュール炉)について期待が高まっており、政府からの助成金を受けてロールスロイス社がデザインをすることとなりました。
これは、従来の原子力発電よりも、「建設費が安く、建築日数も少なく、安全である」と謡われていますが、いまだに技術的・商業的なブレークスルーはありません。既に技術が確立されている従来の原子力発電所でさえ、建設から実際に電力を生み出せるまでに平均で10年かかり、中には40年近くかかったり、建設途中で放棄されているものもかなりあることを考えると、たとえ研究が急伸し、ブレークスルーがあったとしても、それは15年ほど先の可能性が高いでしょう。その時点では、他の再生エネルギーのコストはさらに下がり、かつ電池技術も大きく向上し、小型モジュール炉は意味を為さない可能性があります。

個人的には、新しい技術の可能性を探ることには賛成ですが、国民の税金をどのぐらい投資するかとなると、既に確実に機能することが証明されている風力等の再生エネルギーにより多く割くべきでは、と思います。
建設費用と建設日数については、従来の大きな原子炉に比べてスケールが小さいので、「建設費が安く、建築日数も少ない」という主張になっているようですが、「小さい」ということは産出できる電気量も小さくなります。そのため、多くの炉を建設する必要があり、どこまで効率的なのかには疑問が残ると、別のウェビナーで登壇していた、イタリアの電力会社のEnel(エネル)のFrancesco Straceさんも指摘していました。

ざっと見てきましたが、個人的には、従来の原子力発電については、安全性や廃炉・核の廃棄物の処理という大きな問題を横に置いておいたとしても、長年の投資があったにも関わらず、技術面での画期的なブレークスルーは見られないことから、新規に従来の原子力発電所を増設するよりも、再生エネルギーとそれを効率的に貯蔵できる容量の大きい電池(水素も含む)に大きく投資をするほうが現実的に見えます。
また、廃炉にかかる時間や安全性・核の廃棄物の処理については、これらを解決せずに新たに問題を増やす(=新規原子力発電所の建設=核の廃棄物が増える/座礁資産が増える)ことには、大きな疑問が残ります。

「新たな技術ができて、いつか解決されるだろう」という楽観的な見方は、「核」という危険な物質を扱っている以上、無責任であると思います。
化学薬品工場ですら、工場閉鎖となると、土壌や近くの水質の検査もきちんとなされ、法的に安全な更地へと戻す責任と義務があります。
化学薬品工場よりも、はるかに危険性の高い原子力発電所については、さらに厳格なルールが適用されて当然でしょう。

上記は、私が信頼性が高いと思われるソースからの情報から判断したことで、あなたは、まだ情報が足りないと思うかもしれないし、情報の信ぴょう性について疑いがある、または、これらの情報を見ても全く違う結論に行きついたかもしれません。
私自身、新たな情報が出てくれば、意見を大きく変えることにもオープンでウェルカムです。
疑問を持つことは健康で良いことで、周りの人々と話したり、考え続けることが大切です。

(※1)世界の原子力発電量においては、TOP5は、米国、中国、フランス、ロシア、韓国だそうです。2020年時点で、世界の総原子力生産量は、この5か国で、72パーセント。米国・中国・フランスだけでも全世界の58パーセント。近年は、中国だけが、かなりの勢いで新規に自国内に原子力発電所を建設しています。ただし、中国においては、再生エネルギーにも力を入れており、2020年時点でも、風力由来の電力は、原子力発電由来の電力を越えています。

Yoko Marta