The Green Catalyst
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海運業界の脱炭素化と未来

Yoko Marta
31.01.22 05:00 PM Comment(s)

長期的な視野を持ちつつ素早く変化に対応することの大切さ

イギリスの国営放送BBC Radio 4の「Spark」では、現代の私たちが対面する問題を革新的な方法で解決しようとする人々を招いて話しています。
今回は、Shipping Strategist(海運ストラテジスト)のMark Williams(マーク・ウィリアムズ)さんより。
ここから、視聴可能です。

海運業といっても、貨物船や石油タンカー等、今一つ自分の今の生活とどう結びついているのか、見えにくいかもしれません。

今、自分がいる場所を見渡してみましょう。
どんなものが見えるでしょうか?

あなたの部屋にあるほとんどのものは、船で運ばれてきたものです。
飛行機での運搬はコストが高いため、大部分のものは海上を船で運ばれます。
コップや歯ブラシといった日用品だけでなく、私たちの生活に欠かせない電気を産出する石油や石炭、建物に必要なスチール、スチールの原料となるCaulking coal(コークス)、Iron ore (鉄鋼)も船で大量に運ばれています。
ウィリアムズさんによると、海運に関しては、船はどんどん大きくなり、Cargo(積み荷)も大きくなり、大きな保険が必要となりましたが、船での輸送はどんどん安く安全になったそうです。
また、今回のパンデミックでは、海運や製造業等のグローバル化の脆弱性も明らかにしました。

イギリスでもモノの不足が起こっています。
どこで、問題が起きているのでしょうか?

スエズ運河での巨大コンテナ船のエバーギブンが座礁して、運河をふさいでいた事件はまだ記憶に新しいかもしれません。
この座礁事件で、海上輸送の遅れは出たものの、全体的に見るとそう大きい影響ではなく、船自体は積み荷を載せて問題なく海上を走行しているそうです。

問題は、積み荷を降ろす港で起こっています。
莫大な量の積み荷をさばいて、トラック等に載せる人々、港から目的地へ運ぶトラックドライバー等の不足で、港での渋滞が起きており、アメリカの一部の港では、積み荷を降ろすのに80日待ったケースもあるそうです。
ウィリアムズさんによると、海運は非常に効率よく動くようになっており、通常は港について積み荷を降ろすのには数十分で終わるそうです。
これには、パンデミックでウィルスに感染したため休まざるを得ない人々、中国のように国を挙げてゼロ感染を目指すために働く人々の数が大幅に減る等の政治的な面も関与しています。また、港で働く人々のアウトソーシングも進んでおり、それもこの人手不足を加速させているのでは、とのことでした。
数年前に、ドイツ人の友人に勧められてフランクフルトの港で貨物がどう運ばれるかをバスで回って見学するツアーがあり参加しましたが、膨大な量の貨物が、精確に素早く処理されていくのには驚きました。

また、製造業では、価格を低く抑えるために、Just in time (在庫は置かず、必要なものを必要なときに運ぶ)という仕組を採用していましたが、現在は、Just in case (念のために、在庫をストック、製造を近くで行う)という仕組に変え始めています。
西ヨーロッパの場合は、工場をアジアから東ヨーロッパ(人件費や設備費が西ヨーロッパと比べて安い)へ移したり、アメリカだと自国内、カナダやラテンアメリカに製造を移すことも行われているそうです。
製造業に関していえば、イギリスと日本と共通しているものとしては、セミコンダクター不足により車の生産を止めたり、生産スピードを遅くしたりしています。

多くの貨物船は、重油を使います。
重油は、石油精製の際に底に残る5パーセント程度のヘドロを元にしているそうです。
燃やすと、有害な物質である硫黄等を排出します。
海運では、140か国程度が加盟しているIMO(International Maritime Organization 国際海事機関)がありますが、強い拘束力はなく、脱炭素化に向けては、今一つ力を発揮できていないようです。
ウィリアムズさんによると、理想的なのは、すべてを電気化することだけれど、大きな船だと現状の技術ではまだ無理だそうです。
小さな船での短距離移動だと、既に北ヨーロッパでは電気化した船や、中国では燃料電池型の船が使われ始めているそうです。
大きな船については、水素やアンモニア、メタノールを使うことも考えられますが、現状では十分な量ではないとのことです。
また、船の寿命は20年から30年で、大きな金額の投資なので、将来がどうなるかを(脱炭素ということで重油を使う船は、使えなくなる/コストが高すぎて(炭素税がかかる)需要がなくなる)長期間で考える必要があります。

ウィリアムズさんは、どうして海運ストラテジストの道を選んだのでしょう?
実は、偶然だそうです。
ウィリアムズさんは、イギリス北部のリバプールで造船所を持つ家族に生まれましたが、造船所はどんどん下火になっており、大学へ行くことにしました。
ケンブリッジ大学院で英文学の博士課程まで進みましたが、象牙の塔でアカデミックとしてやっていく気にはなれないと感じていたところ、「海運のオペレーショナル・リサーチャー」という仕事の広告を目にします。
授業料をサポートするために働いていたパブの常連の客の一人がアカウンタントで、この職に詳しく、本も持っており、そこでどういう仕事かを知り、応募して仕事を得たところから、会社を変えつつも、20年以上ずっと同じ業界にいるそうです。

興味深かったのは、大学院で研究していたことが、どう今の仕事に役立っていると思うかという質問への答え。
「Subject(科目)という面ではなんの役にも立っていない」
批判的に考えられる能力、的確に簡潔にコミュニケーションを行い、書くことができる能力ーとても役に立っている
実際、ウィリアムズさんの話は、難しい専門用語は使わず、非常に明瞭で分かりやすいです。
話を聞いていると、思考が美しい建築のように、あるべき場所にあるものがあり、無駄なものが何もないことを感じます。

ウィリアムズさんが、20年以上海運業界にいて、今でもポジティブに驚かされるのは、海運業界が常に変化していることだそうです。
たった25年の間に、積み荷は4千個から2万2千個に。重さは、16万トン程度から40万トンへ。海上を運搬していく船も大きくなっただけでなく、数も2倍になりました。
多くの海運業は、個人の会社、特に家族経営の会社が多く運営しており、数代にわたって社会や顧客のニーズにこたえるために、突然の知らせや変化にも、長期的な視野をもって素早く適応していきます。
そのため、常に学び続けることが重要です。

海運に関しては、中国がとても大きな影響をもっているそうです。
グローバル商業船の15パーセント程度は、中国の国営会社や中国拠点の会社が直接的・間接的にオペレーション、コントロールを行っているそうです。
イギリスは、海運サービスはロンドンにも存在しますが、海運業(船)は、地域の海運業者に過ぎない規模です。
海運の脱炭素については、中国の協力が欠かせません
海運の脱炭素については、日本や韓国は先進国だそうです。
既に、水素を使った計画等が動き出しています。

ウィリアムズさんによると、世界の経済が脱炭素に向かって動いている以上、海運も脱炭素に向かい、少なくとも2050年までには脱炭素化すると予測しています。
2050年までに、海運への需要は伸びるという予測もあるそうですが、世界は、石油や石炭をより少なく使うはずなので、海上輸送への需要は減るはずです。
現在は、年単位で、十億程度の莫大な量の石炭を世界中に海上輸送しています。
これは、大きく減っていくことでしょう。

スチールの原料となるIron ore(鉄鋼)は、一年で約15億トン程度のほとんどが中国へ向けて海上輸送され、中国でスチールを製造しています。
中国では、200万トンのスチールが毎日製造されていますが、これは、イギリスで製造される1年のスチールの製造量を超えています。
これらのスチールの大部分は、中国の建設業界へと向かいます。
ただ、現時点で3千万軒の余剰住居があり、中国での急激な人口構造の変化(老人が増え、若い人々が急激に減る可能性)を考え合わせると、2030年代には需要のピークに達するのでは、とみられています。
一人っ子政策は廃止されたものの、チャイルドケアや学校、塾等がとても高いこと、住む場所の賃貸料も高くて、子供は一人だけにする家庭が多いそうです。
また、現在、中国ではリサイクル・スチールを進めています。
2030年までには中国で製造するスチールの30パーセントをリサイクルにする目標を定めており、スチールの原料となる鉄鋼やCaulking coal(コークス)の輸送量も、とても近い将来に減り始める可能性があります。

もし、海運が脱炭素化したくなくても、既に欧州連合は2023年から(二酸化炭素)排出取引に海運も含めることも定めたため、欧州連合内で輸出を行う場合は、コストを負担する必要があります。
この費用は誰によって支払われるのでしょうか?
船のオーナーは負担したくないし、船をチャーターしている会社(石油や炭鉱会社)も払いたくないでしょう。そうなると、一般の消費者である私たち市民が広く薄く支払うことになるでしょう。
船をチャーターしている会社も、自分たちの環境に与えるソーシャルコストには気づいており、基金を出し合って環境を守る努力を既に行っているそうです。
ただ、現時点では、海上輸送のコストは安く、環境への影響を考え合わせると、どこかでつじつまを合わせる必要があるでしょう。

人口は、アフリカ等の一部を除いて、特に経済先進国では減り始めています。
人口と経済は深く結びついており、人口成長が止まると、経済成長はしぼみます。
特に私たち高度経済国に住んでいる場合は、生産性を上げなければ経済成長は望めません。
海運業はすでに生産性が非常に高い業界で、港での待ち時間を防ぐために、走行スピードも調整され、積み荷を降ろすのも数十分です。

海運業の未来としては、人口増加がなければ消費も呼び起こさないので、製造業の伸びも遅くなり、原料の輸送も減り、結果的に 海上輸送は減るとウィリアムズさんは予測しています。
でも、ウィリアムズさんは海運業の未来に悲観的ではありません。
船は、化石燃料や鉄鋼等の原料輸送ではなく、太陽光発電の蓄電として機能する砂を多く運ぶようになるかもしれません。
また、60年代ぐらいに考えられた原子力を使った船も脱炭素化の一つとして採用されるかもしれません。
海上輸送が減っても無くなることは考えられず、常に経済や社会の変化に素早く適応して生き残っていくでしょう。