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教育とは ー 子供たちの心を開くこと

Yoko Marta
01.02.22 05:44 PM Comment(s)

イギリス国営放送BBCの「Retthink(再考する)」より

イギリスの国営放送BBC Radio 4では、パンデミック後に世界がどう変わるべきかを「Rethink(再考する)」する番組があります。
Education (教育)に関して、興味深いシリーズが5話ありました。

最初は、そもそも「教育とは何のためか、誰のためなのか」という根源的な問いから始まります。
イギリスを含めてヨーロッパにいると、まず最初に根源的な問いから始まり、言葉を正確に定義し、何を議論しているのかを明確にします。
また、「議論は勝つために行うのではなく、(みんなで)前進するためにある」というのは自然な前提なので、違う意見は歓迎され、Civilized Manner(文明的な態度・やり方)で意見の対立も扱われます
アメリカのニュース番組だと誰もが叫んでいて議論にならない状態をみることが多いですが(実はイタリアのニュース番組もその傾向が強い)、イギリスでは通常、相手が意見を言い終わるのを待ってから自分の意見を述べ、もっと文明的です。ただ、欧州連合離脱の国民投票のあたりから、この伝統は崩れ始め、少しずつ、政治家が相手が自分の政党について事実だけれど都合の悪いことを指摘すると、話の途中で直接関係のないことをまくしたてて、相手を話せないようにする、という非常に非文明的な態度や行動も目にするようにもなりました。
私にとっても私のヨーロピアンの友人たちにとっても、欧州連合離脱の国民投票前と後では、イギリスは違う国だと感じています。
幸いなことに、この番組内では、Civilized Manner (文明的な態度・やり方)で、良い議論が進んでいきます。

ヨーロッパ側の歴史としては、随分長い間、教育はエリートのためにあるもので、永遠の真実を探し出すもの、という見方が強かったようです。19世紀に入ってからは、民主主義のはじまりとともに、選挙権を民衆に与えるのであれば、民衆をまず教育しなければならない、という見方もあり、教育の民主化が始まったそうです。現代の「皆教育」は新しいアイディアで、以前は、教育は限られた人々への特権でした。
ただ、ヨーロッパでは、日本と違って大学の歴史は長く、イタリアのボローニャ大学は11世紀には存在し、ヨーロッパの各地から知が集まるような環境が、ヨーロッパのさまざまな場所にありました。

この議論には、4人の専門家が参加していましたが、それぞれ異なった意見を持っています。
この意見の背後には、どういった子供たちや学生を教えてきたかも関係しているでしょう。
  • どう学ぶかを学ぶ。以前は、事実を与えられる(正解を与えられる)場だったが、今はそうではなく、他の人々と良く関わり合い、お互いに学ぶ場
  • 社会への貢献。仕事・職へと結びつくもの
  • 学ぶことへの楽しさや情熱を培う場。若い人々を世界で起こっていること(地球温暖化等)に積極的に関わる場
  • 「知」を培う場

あなたの意見はどれに近いでしょうか?

私自身の意見はどの意見にも賛成ではあるものの、上から2番目の「仕事」と結び付ける部分では疑問を呈したい部分もあるのですが、この意見は、イギリス内でも貧困のひどい地域で小学校を運営しているパネリストから挙げられました。イギリスの貧富の差は非常に大きく、3食まともに食べられない子供たちも残念ながらたくさんいます。親が働いていても低賃金で必要なものが賄えない家庭も増え続けており、そのような地域では、確かに給料の良い職と教育がしっかりと結びついていることは重要でしょう。

イギリスは大学も含めて教育の大部分が国立・公立です。
学校の授業についていくために塾に行ったり、家庭教師をつけるというのは一般的ではありません。
日本では(恐らく多くのアジアの国では)大部分の子供が塾へ行く、というのは、ヨーロピアンには驚きにとられます。
イギリスは、他のヨーロッパと比べると大学の商業主義が非常に強いですが、それでも日本の質が大きくばらけた私立大学が乱立している状況とは違い、ほぼすべてが国立大学で一定の教育の質は保たれており、大学を卒業した、ということは、実質的な価値を持ちます。
たとえば、欧州連合離脱でRemain(残る)を選んだのは、多くが大学卒業者で、Leave(離脱)を選んだのは、多くが大学に行かなかった人、という分析もありますが、現在の35歳以下ぐらいだと、大学へ行った人と行かなかった人は半々で、65歳以上となると大学へ行った人は本当に少数なので、教育の影響なのか年齢の影響が強いのかは判断がつかないけれど、欧州連合離脱には教育の影響もあったのではないか、という説もあります。

ただ、教育、教育に携わっている人々が直面している問題はユニバーサルです。

イギリスでも、試験の役割について、「試験は、知識の獲得をみることが多く、知識をどう実際の問題解決に使うか、という大事な部分を見失っている」という意見があります。実際に、試験で良い点数を取ったとしても、実際に、色々な違った場面やシナリオでその知識を生かして問題解決できないと、その知識にはなんの意味もないことになります。また、GoogleやWikipediaを使って、莫大な情報を探すことは非常に簡単で早くなり、代わりに、フェイク・ニュースをどう見分けるか等、モラルや哲学的な複雑さを伴った問題も出てきています
試験については、パンデミックで全国一斉での試験が行えなかったため、担当の教師たちからの評価と外部からの専門家のチェック等が入り、評価が定められました。「試験」というものの根本的なあり方が大きく問われたきっかけの一つでもあります。
全国一斉試験が行えなかった初年度では、担当の教師たちからの評価に加えて、政府がコンピューターのアルゴリズムを使って評価を調整したことで、大きな議論を呼び、結局はこのアルゴリズムを使った結果は放棄され、人間である教師が評価した結果が希望する大学へと送られ、選考が行われました。
アルゴリズムの詳細は明確にはされませんでしたが、階級社会であるイギリスでは上流階級の子供たちが行くような学校だとアルゴリズムがさらに高い評価をつけることが多く、貧しい地域で成績の良い子供たちの評価は大きく下げるような、不明確で不公平な結果を起こしていました。アルゴリズムは人間がつくるものなので、つくった人々の偏見や意見が入っていて、それが強調された結果でもあるでしょう。
教育が正しく機能していると信じていれば、試験は必要ない、という意見もありましたが、そのパネリストも、教育が思ったように正しく機能していないのは事実であり、試験が必要なのは仕方がない、としていました。
パネリストの一人は、3分の1ぐらいの子供たちは、試験の結果のせいで、自分たちが十分でないように感じていると述べていました。
現在の試験は歪みもあるし、測れるものは非常に限られていて、試験の結果は、その子供の存在価値には関係ないことは誰もが認識しておくことは大切でしょう。
その点では、ヨーロッパはアジアよりはバランスが取れているように見えます。
このような状況ですが、教育を良い方向に進めようとする動きや議論はまだまだ続いています。
試験は必要だけれど、「何を試験ではかろうとしているのかを明確に、現代に合うようにアップデートしなければならない」という意見もあり、今後も論議は続くでしょう。

また、イギリスは、工業社会からサービス社会へと急激に移行したことからも、他のヨーロッパ諸国と比べて、職業高校のような実際に手に職をつけられるようなコースが非常に弱いことでも知られており、これについても、さまざまな意見があります。
私が驚いたのは、イギリスでは、GNBQ(General National Vocational Qualification - イギリスの職業資格)のコースに進むと、勉強ができなかったらそのコースに進んだと思われるのでは、という恥ずかしさを感じている生徒もいるということでした。イギリスでは、ブレア元首相の時代に「Education, Education, Education(教育、教育、教育)」というスローガンのもとに、大学へ行く人数を一気に増やしましたが、ここでもパネリストたちが指摘していたように、誰もがアカデミックな方向に進みたいわけではないし、社会に貢献できるひととして、大学の学位が必要なわけでもありません。また、大学を出た後に自分の希望の職に必ずしもつけるわけではなく、それもユニバーサルな問題の一つでしょう。
ここでは、職業コースとアカデミック・コース(大学へ進む学校)への一つの提案として、見習・実習生として企業で働いてきちんと給料をもらいつつ大学にも通い、学位の取得を行うようなBlended Course(ブレンドしたコース)も提案されていました。実は、BT(British Telecomー日本のNTTに該当するようなテレコム企業)では、既にこのBlended Courseが存在します。ここから募集要項をみることができます。私自身、日本の国立大学で美学・美術史を学んだ後にITエンジニアとなった為、大学で学んだ科目は仕事には全く関係なく、給料をもらいながら、すべてのトレーニングを受け、結局そのおかげで10年以上、日本でもイギリスでもITエンジニアとして働きました。ただ、人生全体として見たときに、美学・美術史を学んだことは、私の人生をとても豊かにしてくれているので、勉強したことに後悔はないし、ずっと美術には関わり続けています。

また、職と教育をもっと直接強く結びつけるために、早い段階(例えば14歳)で、職業コースに行くような仕組みがあったほうが良いのでは、という意見もパネリストからは出ていましたが、それについては、興味深い反論がありました。
反論したパネリストの意見では、「社会として、私たちに必要なのは、今現在私たちがいるところを越えて考えることができる人。企業はすぐにビジネスに役立つ人がほしいので、ビジネスに直接結びつかない科目、ラテン語や物理学の勉強をしたかどうかには興味がないだろう。でも、子供たちにはみんな才能があり、社会が16歳までは義務教育と決めたのであれば、16歳までは、できる限りのすべての知識と機会を与えるべき。そうじゃないと、社会に必要な変化やイノベーションは起こせない。その後は、個人が自分の行きたい方向に進めばいい」
私自身、ヨーロッパでリクルートメントに7年以上携わってきましたが、必要なスキルや職も大きく変わりつつある今、特定のスキルは、10年後には全く必要なくなる可能性もあります。
例えば、スコットランドでは石油やガスを産出してきましたが、これも下火になり、ここで働いている人々はとてもスキルのある人々ですが、そのまま自分のもっているスキルを使う場はなく、スキルを少し足して再生エネルギー分野で働くことが比較的簡単にできる場合もあれば、非常に難しい場合もあります。コミュニケーションや周りとうまく議論して物事を解決できる等のソフトスキルはどこに行っても大切ですが、何かのハードスキルに特化するとそれが10年後、実際に仕事として存在するのかは、明確にいうことは難しいと思います。そこで、大学も今のように、18歳ぐらいで一気に大学に行くというのではなく、キャリアも人生のうちで何度か大きく変えざるを得ない世の中になるのだから、大学や教育も、人生の必要な時点で勉強できるよう、システムももっとフレキシブルになるべきだ、とうい意見もありました。日本と比べると、すでにMature Students(既に基礎教育を終えて数年・数十年たった人々)への大学への教育の門戸は大きく開かれてはいますが、さらに広げる必要があるのは事実でしょう。

最後のQ&Aで興味深かったものをいくつか。
  • グラマースクール(※1)は良いか悪いか →質問のフレーミングは適切でなく、すべての学校は良い学校であるべき
  • 試験は機能しているか? → 一定の機能はしているけれど、昔ほど良く機能しているわけではない (現代の状況には合わなくなってきている)
  • 私たちは正しい科目を教えているだろうか→ いいえ(とても短い答え)
  • テクノロジーの教育への役割は?→ 教育者を助けるのならいい。もし生徒が興味をもってテクノロジーを学ぶのならさらに良い。ただ、テクノロジーは、実際の人間の教師の代わりにはなりえない。※ただ、今後もオンラインとオフラインが混合した状態になるはずで、それは良い変化でもある。リモートでのほうが良く学べる生徒も存在するのは事実。

いろいろな意見があるものの、子供たちには皆才能があるその才能を最大限に生かす機会を平等に与えられるようにし、子供たちの好奇心を呼び起こし子供たちが社会と良く関わり、一生学び続けることを励ますという点では、一致していると思います。
日本と大きく違うのは、教育の意義が広く考えられていて、日本のように狭義に「教育=受験に受かる」ことには何の焦点もないことでしょう。
それには、社会が大きく違い、日本のように「一斉に同じ年齢でいわゆる良い学校→大学→いわゆる良い会社で同じ会社で定年まで働く」というモデルがないせいもあるでしょう。ただ、このモデルも戦後30年ぐらいに通用した比較的新しい仕組みであり、経済、人口構成も大きく変わっていく中、社会も教育も適応して変わっていく必要があるでしょう。
これには、当事者である子供たちも交えて、じっくりと議論を行う価値があるでしょう。

(※1)The UKの4か国の中でも、グラマースクールはウェールズとスコットランドにはなく、イギリスと北アイルランドに存在します。BBCのWebsiteのここに説明がありますが、国公立の学校ですが11歳で試験を受けて合格するとグラマースクールに行きます。ある意味、早い段階でのエリート教育で、通常は、Comprehensive(コンプリヘンシヴ)と呼ばれる地域の試験なしの学校へ進みます。労働党は、グラマースクールは平等主義ではないとし、全体の教育レベルを上げるべきだとしていますが、保守党はグラマースクールを推進する傾向があります。You can edit text on your website by double clicking on a text box on your website. Alternatively, when you select a text box a settings menu will appear. your website by double clicking on a text box on your website. Alternatively, when you select a text box.