The Green Catalyst
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パンデミックと精神的な病との関連

Yoko Marta
25.07.22 02:49 PM Comment(s)

The face of the moon was in shadow

イギリスの国営放送BBCでは、興味深いプログラムがたくさんありますが、その中の、「The Life Scientific (生命科学)」より。

科学分野、例えば気候変動、神経科学者の偏頭痛の研究、洪水の予測等、様々な科学分野の研究者や医者が、私たちの日常にどう関わっているかも含めて、とても分かりやすく語っています。

いつも、彼らの子供時代と、なぜそのプロフェッションや専門分野を選んだのかという質問があり、様々な答えがあってとても興味深いです。

また、イギリス、或いはヨーロッパならではなのかもしれませんが、誰も偉ぶっていなくて、「100パーセント正しいことなんてないし、自分たちは自分たちのできる範囲で人々の健康、生活を良くしたいだけ」という姿勢にいつも感心します。

今回は、精神病を専門とする臨床心理士、大学教授のRichard Bentall(リチャード・ベントール)さん。

ここから聴くことができます。

今回のパンデミックの初期段階では、精神的に不安定になる、精神病となる人々が爆発的に増えるのではないかと予測されていました。

The UK(イギリスを含む4か国の連合国)の場合は、ヨーロッパの中でも死者が飛びぬけて多く、何度か厳格なロックダウンを経験しました。
リチャードさんは、同僚やさまざまな分野の専門家と協力し、パンデミックを通して、The UKの2000人の人々の18か月にわたる追跡調査を行いました。
意外なことに60パーセントの人々は、大きな影響を受けずに済んだそうです。これらの人々はResilient(レジリエント)であると見なされています。
大きなネガティブな影響を受けたのは約25パーセントで、主要な原因は経済基盤を失ったことだそうです。
また、小さな子供がいる家庭、特に若い人々がこのグループに入るそうです。
今回のパンデミックで仕事を失った人々の多くは、ホスピタリティーで働いていた人々であり、もともと最低賃金が多く、経済的に不安定で、多くは若者でした。また、小さな子供たちにはより注意が必要であり、保護者をとても疲れさせるのは世界共通でしょう。

では、パンデミックで、パンデミック前より幸せに感じている人々はいるのでしょうか?
リチャードさんたちの行った調査によると、10パーセントぐらいの人々がこのグループに入るそうです。
特徴としては以下となるそうです。
  • 経済基盤がしっかりとしている
  • 家族や夫婦間の関係がもともと良かった人たち
  • 子供が10代かそれ以上の家庭

リチャードさんによると、人間はBelong(所属する、居場所がある)ということが必要であり、このBelongingがしっかりある人々は、パンデミックのような難しい局面を乗り切ることが比較的容易となるそうです。

リチャードさんは、精神的な問題と社会的な問題を結び付けて考える人でもあります。
今回の調査結果から見えるのは、経済状況が深く精神面に影響することであり、パンデミックの影響は長期間にわたって経済に影響を及ぼすことは明らかなので、経済的な面での人々へのサポートが必須であり、それがうつ病や精神病を防ぐ有効な手立てとなることです。深刻な経済状況で悩んでいる人々に必要なのは、経済的なサポートであり、いくら心理療法士を増やしても解決にはなりません。

リチャードさんは、当時では珍しかった心理療法士の道をなぜ選んだのでしょうか?

リチャードさんの両親は、子供の将来の可能性を広げるために、リチャードさんと弟を寄宿舎学校へと入学させました。
イギリスでは、いわゆるエリートコースで、元イギリス保守党のボリス・ジョンソン現首相や多くの首相経験者、政治家は、14歳からこういった寄宿舎学校で過ごし、コネクションもつくります。
貴族階級のようなお金持ちの子も多く、リチャードさんのお父さんの古い車はとても馬鹿にされたそうです。
イギリスの教育専門家のスローガンに「Work Hard, Be Kind(一生懸命に勉強し、誰にも優しくーどちらも同じだけ大事)」がありますが、この階級社会の縮図には、残念ながらあてはまらなかったのでしょう。
彼は、周りの子供たちになじめずに、とても孤独に感じたそうですが、図書館で心理学の本にであい、非常に興味をもったそうです。そこから、大学は心理学を専攻し、博士課程まで終えることとなります。
大学時代には、研修で精神病の理学療法病院で過ごしたことをきっかけに、博士課程では精神分裂病の研究を行うこととなります。
当時は、精神分裂病は遺伝によるところが多く、トーキングセラピー(認知行動療法や話を聴くセラピー)は役に立たない(患者はクレージーすぎてまともに話ができないので、トーキングセラピーの効果はない)という間違った思い込みがあったそうです。
一時期、遺伝ではなく何らかの患者の経験も影響しているのでは、という小さな声もあったそうですが、患者の親を責めることになるということで、いったんこの説はかき消されたそうです。

当時は心理療法士は新しい職業であり、伝統的な医者の資格をもつ精神科医からは、疑いの目で見られることが多かったそうです。リチャードさんの場合は、まあ害にはならないだろう、ということで、かなり自由に患者さんに話をする機会があったそうです。
その中で、彼が発見したのは、精神分裂病の人々はクレージーではなく、とても親しみやすい人々であったこと。
その中には、頭の中で声がして、自分の父親を殺しかけ、自分自身も自殺しようと高い建物から飛び降りた若者もいたそうです。
彼と話していると、子供の頃に性虐待にあっており、母とは良い関係だったものの癌で亡くなり、父親は母親をずっと虐げており、それに対して自分が母親を助けられなかったことに対する罪悪感、父親に対する怒りをもっていたことを発見します。
そこで、リチャードさんは、もしかして、頭の中の声、というのは実は自分自身の声ではないのだろか、という仮説にもいきつきます。
リチャードさんは、精神分裂病の人々に対してトーキングセラピーを行った先駆者で、誰にでも効果があるわけではないものの、効果がある患者さんも多くいることが証明され、現在では精神分裂病の人々へのトーキングセラピーはスタンダードとなっています。

ここには、リチャードさんの苦しみもあります。

リチャードさんの弟は、リチャードさんと同じように寄宿舎学校に入学しますが、リチャードさん同様なじめず、恐らく極度のストレスからクラスメイトの持ち物を盗み、退学させられ、そこから人生が大きく変わりました。お父さんも突然交通事故で亡くなり、弟も住んでいた建物の屋上から飛び降りて自殺して亡くなったそうです。あまりにも辛いことで、弟が亡くなってから彼のことに触れることはなかったそうですが、20年ほどたってから、母から、弟が死ぬ前に「頭の中で声がする」と言っていたことを聞きます。恐らく、精神病の初期だったと思われますが、話を聴いていたとしても弟を救えなかった可能性は高いものの、何もできなかったことに今でも罪悪感を感じるそうです。

リチャードさんは、精神分裂病の初期にトーキングセラピーを行うことで良い結果(病状が良くなる、回復する)があるのでは、という仮説を立てて実地でのセラピーを通して、仮説が正しいことを証明します。
彼のアプローチの特徴は、病名をつけることではなく、患者と話して彼らの病状を正しく理解し、どのように病状を改善することができるか、を探り、セラピーをすることです。

多くのセラピーを通して、彼は、以下を学んだそうです。
  • 多くの精神分裂病患者は子供の頃トラウマを経験している(虐待、性虐待、家庭内暴力、性的暴力、親の死、いじめ)
  • トラウマの度合いがひどければひどいほど、のちの人生で精神病を発症する可能性が大きくなる
  • 子供の頃(16歳ぐらいまで)のトラウマは、のちの人生で精神病を発症する可能性を3倍にする
  • 個人的なトラウマは、集合的なトラウマ(自然災害で多くの人々が亡くなる・負傷する等)に比べると、とても大きなネガティブな影響をもつ
  • 精神分裂病患者の3分の1は、子供の頃のトラウマがなければ、精神分裂病を発症していなかっただろう
  • トーキングセラピーの効果は、セラピストと患者の関係性によるところが大きい。信頼関係がきちんと結べれば、セラピーの種類は大きく影響せず、良い効果が得られる。信頼関係が築けない場合は、逆にネガティブな影響を及ぼす場合もある

私自身、ロンドンのゴールドスミス大学のアートセラピーファンデーションコースを修了し、ボランティアでアートセラピストの助手をアートセラピーのグループワークで半年強務めましたが、早い段階でサポートがあることがいかに大事か、ということを強く思いました。トラウマとなる出来事はないのが一番ですが、たまたま生まれ落ちた家族や場所によっては避けられません子供たちには全くコントロールがなく、彼らには全く責任はありません。そのため、いかに子供たちをそういった環境から守るかが大切になります。イギリスでは少なくとも、「子供の安全は何よりも一番大事」ということは徹底されており、子供への暴力(親が自分の子供の頭を軽くたたいたり、身体の一部をつねったり蹴ったりする、学校で先生が子供を叩いたりするのも完全に違法)は厳しく取り締まられています。普通に公園や外を歩いていて、子供たちが身体的な暴力を受けているのを見ることはないので、日本に一時帰国すると、子供が保護者に日常的にたたかれたり蹴られたりしているのをみて、本当に驚きます。しかも、周りの大人が何も言わないことにさらに驚きます。イギリスだと、もしそういうことがあったら、周りの大人は決して黙っていません。通報するなり、その場で明確に暴力はいけないと指摘するでしょう。周りの大人が何もしないのは、加害者に積極的に加担していると見なされます。

どのような場所や人々の元に生まれ落ち、育てられるのかは誰にも選択できませんが、被害にあっている子供をみたときには、周りの大人には声を上げる責任があります。直接指摘することが身体的な危険を及ぼすような場合は、通報するのが精一杯だと思いますが、あなたのその行動が子供たち、社会の未来を良いものとします。

また、いじめも大きなトラウマの一つだと証明されています。

子供同士のいじめ、と軽視せずに、真剣にいじめをなくすよう立ち向かうこと、いじめに加担しないよう子供たちを教えること、いじめを行った子供たち・いじめに加担した子供たち・いじめを見て見ぬふりをした子供たちにも、きちんと相応の責任を取らせ、いじめの影響をしっかりと理解させる必要があるでしょう。
いじめっ子に責任を取らせないような社会であれば、彼らはそれを素早く学び、さらに洗練させ、ひどいいじめをさらに狡猾な形で行うような大人となることを励まし助長するでしょう。

私たちは、そういった社会を望んでいないはずです。

一人一人が明るい社会のヴィジョンをもって行動していけば、一人一人の力は小さくても良い方向へ進んでいくでしょう。
その行動は今、ここで始めることができます