「不確かさ」と、健康な「疑い」を持ち続けることの大切さ
「不確かさ」と、健康な「疑い」を持ち続けることの大切さ
イギリスの国営放送BBC Radio4で最近始まったシリーズ「The Archbishop Interview (カンタベリー大主教 インタビュー)」で、カンタベリー大主教のジャスティン・ウェルビーさんと、私の大好きな作家/人権アクティビスト/アカデミックのトルコ・ブリティッシュのElif Shafik(エリフ・シャフィク)さんの対話がありました。
ここから聴けます。
興味深かった点をいくつか。
エリフさんの「作家としての好奇心をどう保っていますか?」という質問に対する答え
現在は、知らないことがあればグーグルで調べれば出てきますが、これは自分がその件について知っているかのような幻想を与えますが、それはただのInformation(インフォメーション)であり、knowledge(知識)ではないことに気づいていなければなりません。
「私は知らない」と言えることはとても大事です。
「知らない」ことを知っているので、「これは知ったほうがいい。学ばなくては」と思えます。
エリフさんは、私たちは、今まで自分が真実を思っていたことを手放して、人生の生徒(初心に戻る)になることが大事だといっています。
Uncertainty(不確かさ)について ー 信仰と宗教に対する疑いについて
エリフさんは、現代の伝統的な宗教にはコネクトできないと言っています。
彼女は、古代の哲学には興味をもっているけれど、特定の個人には興味がないとしています。
彼女にとって、古代の哲学は、すべてがつながっていて、円の真ん中に神がいて、円上の人々はみな平等(対等)で神から同じ距離であり、超越していると感じるそうです。
それに対して、宗教は、とがった三角(ピラミッド)で、頂点に神がいて、その下に人々というハイラルキーを感じて抵抗があるそうです。
彼女が宗教に抵抗を感じる理由は、宗教は「Certain(確か)」であり、「疑い」を禁じられているように感じる、と言っていました。
実は、ジャスティンも宗教に疑いを投げかけるのは大事だとしていて、自分自身もキリスト教に疑いをもったことはあり、それを正直に言うと、メディアから「カンタベリー大主教は神を信じていない」という間違ったセンセーショナルな報道と批判も経験したそうです。ジャスティンさんだけでなく、他の宗教研究者や宗教リーダーも、宗教に関わらず、聖典は大昔に書かれたもので、現代の科学知識や慣習とそぐわないこともあるし、疑いをもつのは自然なことで、疑問を投げかけ続けるのは大事だとよく聞きます。
エリフさんが気にかかるのは、宗教を盲目的に信じる人々が、「自分たちの真実は、自分たちの信じる宗教を信じない他の人々の真実より優れている」という「確かさ」の強い感覚だそうです。こう思っている人々は、自分たちは他の人々より神に近い優れた人々だと確信し、傲慢になることがあります。
どの宗教でも、原理主義者は、健康な意味合いでの「疑い」を消し去り、宗教の「不確かさ」を完全に除去しようと強く望みます。
これは、無神論者にも該当しますが、危険です。
健康な意味合いでの「疑い」や、「不確かさ」の感覚はとても重要なものです。
エリフさんもジャスティンさんも両親が離婚しており、難しい関係の親に対する「Forgiveness(赦し)」にどう感じているかについて
エリフさんにとっては、離婚後の父は全く彼女に関わることはなかったものの、フランスで再婚し、再婚生活は愛情に満ちたものであり、学者として学生からも人望があったそうです。「もともと愛情が足りない人だとすればそう悩まなかったかもしれないけれど、再婚した奥さんには愛され、再婚後にできた子供たちにも愛情を注いでいるようなのに、自分には誕生日に連絡や訪れることも全くなく、憎しみをいだいた日々もあった。でも、私の子供(父にとっては孫)には、祖父に会う権利があり、誕生日等に誘うと来てくれる。それで私は今は満足している」と述べていました。
エリフさんの深刻な産後鬱の経験と、ジャスティンさんの鬱と娘さんの深刻な鬱について
エリフさんは、産後に深刻な産後鬱を経験したそうです。
もともと、アメリカやイギリスに住んだりさまざまな場所を移動する生活が合っていて、産後は家庭的なことや定住生活に苦しんだそうです。
この産後鬱について、エリフさんは、普段は生活に忙しくて自分の内面を深く見つめる機会は少ないけれど、この産後鬱で、自分のすべてがばらばらに地面に落ちて、一から一つ一つのパーツを拾って、さまざまな面から深く考えて自分を作り上げる必要性があり、その過程で、以前よりも少し良い自分になったと思うと語っていました。
エリフさんは、「鬱は、Destiny(未来に必ず起こると決められていること)ではない。季節のようにめぐるものであり、私たちは一人ぼっちではありません。(=多くの人々が経験していること)」だと言っていて、ジャスティンさんも同意していました。
ネガティブな批判や憎しみについて
ジャスティンさんは、多くの批評がよくても、覚えていがちなのはたった一つの悪い意見であるという自分の傾向をよく理解していて、全体を見るよう心掛けているそうです。
私たちも、無力に感じるだけでなく、小さくても行動に移せることはあります。それは、自分の身近な人々を思いやり、優しく愛情をまっすぐに示すことかもしれません。