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国際女性の日ー家父長制へのチャレンジ

Yoko Marta
08.03.23 12:01 PM Comment(s)

平等な社会をつくることはできるーAngela Sainiさん

イギリスの国営放送BBC Radio4には、長寿番組「 Women's Hour 」があります。番組名から想像できるかもしれませんが、女性の声と女性の人生を取り上げ、時事問題を扱い、知識をさずけ、世間の思い込みや偏見にチャレンジしたり、女性たちをインスパイアすることを目的としています。インタビュワーもインタビュイーもすべて女性で構成されています。

今回は、イギリス出身の科学ジャーナリスト、 Angela Saini (アンジェラ・セイニ)/ さんのお話から。

アンジェラさんは、何冊か本を出版し、日本語に翻訳されているものもあるようですが、今回、新たに「The Patriarchs - How Men Came To Rule (家父長制ーどのように男性が支配するようになったのか)」という本を出版しました。それにちなんで、いくつかのインタビューにも出演していました。

Women's Hourの放送は ここ より。
また、もっと長いインタビューは、Global Institute for Women's Leadershipのポッドキャスト「 Angela Saini on the origins of patriarchy 」より聴けます。

アンジェラさんのバックグラウンドは、オックスフォード大学で工学修士号を取得した後、London Underground(ロンドン地下鉄)でエンジニアとしてインターンシップをしているとき、人事に「あなたはジャーナリズムにとってもパッションをもってるみたいだし、力を試してみたら?ここには(エンジニアとして)いつでも戻ってこれるわよ。」と励まされ、ジャーナリズムへと進みました。
アンジェラさんは、エンジニアのバックグラウンドを持つことで、数字や技術に強く、既存のジャーナリストとの違いを活かせたと言っていました。

アンジェラさんは、子供の頃、人種がさまざまに混在する東ロンドンから、当時は白人ばかりの南西ロンドンに引っ越した際に、人種差別を経験したそうです。
彼女が学校に行っていたころは、まだ白人至上主義の団体、National Front(ナショナル・フロント)のデモンストレーションや、暴力を伴う移民や有色人種への嫌がらせが平然と起こっていた時代でした。そのため、彼女は大学時代も、人種差別に反対する行動を大学内で起こしていて、その中にはジャーナリズムも含まれていました。

彼女自身の家族も、母と父が同等に家事やチャイルド・ケアをする家庭だったそうです。
父は「外での仕事だろうと、家の中の仕事だろうと、仕事は仕事。夫婦で同等に分け合うのは当たり前。」という考えで、アンジェラさんも、それが普通だと思って育ったそうです。父も、職業はエンジニアだったそうです。
両親は、子供たちに対して、女性・男性といった役割を全くおしつけず、「当たり前と思っていることに疑問をなげかけろ」ということで、それぞれの子供たちの興味と好奇心を尊重したそうです。

アンジェラさんが大学に行った際は、エンジニアリングには数人の女性で残りはすべて男性だったそうですが、女性にエンジニアリングやサイエンスが向かない、できないとは思いつきもしなかったそうです。
ただ、実際に大学に行くと、そういった考え方をしている人々も多くいることには気づきます。

ちなみに、Malala Yousafzai(マララ・ユスフザイ)さんのお父さんも、女性への教育に対して反対する人が多いコミュニティーや文化で育ったにも関わらず、女性の教育・主体性を尊重する人でした。
また、女性画家のPaula Rego(パウラ・レゴ)の父も同様に、封建的で女性は育児と料理だけという文化や慣習だったにも関わらず、女性の教育・主体性・興味を尊重し、彼女の絵の才能が伸ばせるよう励まし、サポートし続けました。
自分の育ったコミュニティーの考えや文化・慣習に囚われず、自由な考えをもった男性の子供に対する影響はとても大きいと、しばしば思います。

また、男性・女性に関わらず、自分の育った文化やコミュニティーで当たり前とされていることに疑問の目を持ち、興味をもって観察することは大切です。
多くの人々や自分を苦しめている慣習や文化から、自分を解き放つことは、可能です。ただ、最初に、それに気づくことが必要です。
ちなみに、私の夫はイタリア出身で、母親が子供には料理を手伝わせない時代に育ちましたが、料理(献立を考えて旬の野菜を買う、値段も頭に入れたショッピング、冷蔵庫内の管理、残り物の活用、洗い物等のすべての工程を含む)、掃除、洗濯とすべてやります。女性だから/男性だから、何かをしないといけない、という考えは受け入れません。「育った環境に関係なく、生活の基本を日々行うのは当然でしょ」という考えです。「料理をしたことがないから/習ったことがないから/男だから/仕事が忙しいから、料理できない」というのは言い訳にすぎません。赤ちゃんのときに料理ができる人なんていないし、料理スキルが遺伝子に組み込まれているわけではありません。自分の身の回りのことができるのは、仕事をしていようがしていまいが、大人として当然だとヨーロッパでは見なされています。
私の周りのヨーロピアン男性は、一人暮らしや妻と暮らし始めるまで料理をしたことのない年代ですが、みんな料理や掃除・片付け等を日常的にこなしています。当然、自分の外での仕事(エンジニアや建築家等)もこなしています。もちろん、夫婦、パートナー同士、家族と相談して、一部の家事をプロフェッショナルに行ってもらうのも、よくあることです。

アンジェラさんは、家父長制は常に存在したものでもなければ、いつまでも存在するべきものでもない、けっこう脆弱な仕組だとしています。

この百年ぐらいを見ても、旧ソビエト連邦の配下にあった東ヨーロッパの国々では、女性と男性が平等に外で働くという仕組みとなり、女性と男性にほぼ同じ権利が与えられていた時代もありました。
厳格な統制下にある時代が良かったとは言えないものの、女性医師が男性医師を上回っていた時代でもあり、現在でも、東ヨーロッパの女性科学者の割合は、西ヨーロッパに比べて大きいそうです。

また、新石器時代までさかのぼってみると、女性が大きな役割を果たしていたコミュニティーの存在は珍しくなく、今のように男性が社会や政治を支配する仕組は、帝国主義や植民地主義によって、アフリカやアジアの母系社会は原始的なものとして下にみられ、男性が力をもつように作り替えられてきた過程も影響しているのでは、としていました。

「Patriarchs(パトリア―クス:家父長制)」という言葉もさまざまな場で多用されるものの、一体何を定義するのかは曖昧なまま、或いは非常に広い意味で使われているとしています。
なぜなら、家父長制は一つの決まりきった形態ではなく、文化や民族等によっても、違う形態を見せることもあるからです。

家父長制は、男性が女性に対して何かを行うということだけに限定されているわけではありません。

例えば、アジアやアフリカでは、女性が自分の生まれ育った家族を離れ、夫側の家族と住む形態が多く存在します。そこでは、往々にして、女性は男性や男性の家族に奴隷のように完全隷属をする存在であり、夫側の母が息子の妻を奴隷のようにひどく扱うことが多いことで知られています。
これは、家父長制の産物であり、男性に女性が隷属し続け、男性が権力を永続的に持ち続けることを女性がサポートしている仕組でもあります。
母親が娘にFGM(女性器切除)を強制するのも、仕組みは同じです。

この家父長制の仕組の中で生きていくには、母親は娘を文化や世間、慣習に従わせなくてはなりません。なぜなら、娘が慣習や世間に逆らうと、母である自分も家族内、コミュニティーで居場所を失い、どこにも行ける場所はなく、それは、ほぼ死を意味するからです。

また、女子(10代前半や半ば)を強制結婚させるのも仕組みは同じですが、国際的には、これはModern Day Slavery(現代の奴隷)と認識されています。

この問題が難しいのは、息子の妻を奴隷扱いする女性や、娘に女性器切除を強要する女性も、夫から離れればどこにも行くところはなく、その仕組み(家父長制)から逃れることは簡単ではないことです。

それでも、このサイクルは、断ち切らなくてはならないし、それは可能です。

女性たちが、他の女性に対して許されない言動をしている女性を弁護しないといけないような状況があっていいはずがありません。

では、どのようにこの家父長制の仕組から、新たな平等な仕組みを作りだし、移行できるのでしょうか?

アンジェラさんは、シンプルな一つの答えはない、としながらも、いくつかの問題点と、考え得る解決案を話しています。

家父長制のない平等な社会となると、現在の家父長制に基づいた、結婚、チャイルドケア、社会・政治の仕組、仕事、賃金等すべての仕組を再考慮する必要があります。これは、階級や資本主義、皇室等にチャレンジすることにもなります。
様々な変化の中でも、自分が育ってきた、或いは住んでいるコミュニティーの「文化・慣習」にチャレンジすることは、誰にとっても、心理的に難しいことです。
また、どんな社会が理想的かということも、人によって違います。
他には、少数ですが、多くの人々にとって良い社会よりも、自分だけが「権力」をもち他の人々を支配したいという人々もいます。

大事なのは、平等な社会の理想に向けての闘いにフォーカスすることです。
また、どんな規範や仕組、慣習も変わり続けてきたもので、今あるものが必ずしも続かないといけないわけではありません。

家父長制を破壊するためには、他者を愛すること・ケアする能力を再発見する必要があります。
私たちには、それを行うことが可能です。

Yoko Marta