The Green Catalyst
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労働組合の使命は、悪い雇用主(企業)と闘うこと

Yoko Marta
22.06.22 02:57 PM Comment(s)

イギリスの労働組合Unite(ユナイトː団結)の女性リーダー 

シャロン・グラハム

The UK(イギリス・スコットランド・ウェールズ・北アイルランドの4か国から成る連合国)では、昨日(2022年6月21日)からRail Strike(鉄道のストライキ)が始まりました。ここ30年くらいで最大のストライキと見られており、教師組合や他の分野でのストライキも続いて起こると予測されています。
日本でも国鉄の私有化が行われたように、The UKでも国鉄の私有化が行われたのですが、線路や鉄道の信号は一つの企業が管理し、その上を通る電車等は地域で区切って別々の企業で管理等、かなり混沌とした状況となっています。また、私営では経営が成り立たず、国営に戻した区間もあり、さらに複雑な仕組みとなっています。ロンドンの地下鉄は、ロンドン市長の管理下にあり、他の鉄道(地下鉄がUndergroundと呼ばれるのに対して、Overgroundと呼ばれることも多い)とは管轄が全く違うのですが、今回は鉄道ストライキに合わせて、昨日、ストライキを行いました。ただし、エリザベス女王のジュビリーに合わせて開通したエリザベス線は通常通り運航しており、私が住むGreenwich(グリニッジ)のDLR(Docklands Light Railwayーモノレール)も管轄が違う会社なので、普通に運行しています。スコットランドの鉄道はほぼ全面ストップしましたが、イギリスでは運行数と運行時間を減らして運行し、大きな混乱は見られなかったようです。
国民全体のムードとしては、今回のストライキは支持されているようです。

今回のストライキの理由については、ガーディアン紙に分かりやすく記載されています。
The UKのインフレーションは、欧州連合離脱の影響もあり、他のヨーロッパ諸国と比べても高く、現在は約9パーセントで、近いうちに11パーセントにあがると予測されています。給料の上昇要求と、働く条件の改善と、リダンダンシーを止める(近代化を理由とした解雇予定ーただし何人解雇するか等の詳細は明らかにされていない)についての話し合いを要求していますが、交渉は一昨日の段階で決裂したため、今回のストライキ決行となりました。話し合いは今日も続き、お互いが条件に合意した段階で、ストライキは中止されます。現時点では、鉄道ストライキは、今週の火・木・土が予定されています。話し合いがつかない場合は、7月や8月に数回のストライキが行われる可能性もあります。
ストライキは、予告があり、乗客への影響もなるべく少なくするような努力も義務付けられています。

日本のように労働組合がほぼ存在しない、或いは労働者の権利が非常に軽んじられている国では想像するのが難しいとは思いますが、労働組合は労働者の権利を守り、企業や雇用主が労働者を搾取することを防ぐ努力・活動を行います。
保守党のサッチャー元首相は、特定のイデオロギーの元に、労働組合をどんどんつぶし、国有企業の私営化、カウンシルフラット(市や町が管理・所有していた安価の貸しフラット)の私有化等をはかりました。
The UKは、他の西ヨーロッパの国々と比較して、フラットの賃貸料が異様に高く、電車の運賃もとても高いこと、労働者の権利がとても弱い(=企業や雇用主の力が強い)ことで知られています。
The UK全体の労働者数は、1970年代から約20パーセント増えたものの、労働組合全体のメンバー数は半減しました。
日本と比べると労働組合は強いものの、他の西ヨーロッパの国々と比べると、労働組合の力はとても弱く、労働者の権利も非常に弱いという現実があります。現在のように、大きな国際企業が国よりも大きな力をもち、政治にも大きな影響を及ぼすような環境では、これは非常に危険な状態です。
最近、イギリスの最大の労働組合の一つ、Unite(ユナイトː団結)では、女性リーダーが選出されました。
シャロンさんは、長年このユナイトで働いていますが、女性ということもあり、リーダー選へ立候補した段階でも、立候補を取り下げるように、組合上層部からの圧力や、外部からの嫌がらせも数多くあったそうですが、立候補は取り下げず、投票によりリーダーとして選出されました。

シャロンさんは、16歳で義務教育を修了した後、レストラン業界で働き始めました。
労働条件は悪く、同僚たちと何度も雇用主と話し合ったものの何も変わりませんでした。シャロンさんは、同僚たちとWalk Out(ストライキの手法の一つで労働者全員が一斉に作業を止める)を行い、労働条件の改善に成功します。
このとき、彼女は17歳でした。
彼女が学んだのは、「単に(筋の通った)話し合いを行うだけでは、雇用主を説得することはできない。レストランの雇用主は数か月にわたって私たちの要求を無視したけど、ウォークアウトというアクションを取ったことで、すぐに話し合いに応じた

シャロンさんは、非常に交渉能力が高く、データやサイエンスを積極的に活用し、労働者の権利を勝ち取ることに数多く成功しています。
ガーディアン紙にもありますが、一万件以上の労使交渉のデータベースを作り、そこからセクター毎に、そのセクターに特化した労働者にとって最良の労使条件の合意を作ることにも成功しました。
シャロンさんは、データを戦略的に使い、ウーバー等のテクノロジー企業が、不安定な仕事と低賃金という新しい労働マーケットを確立する前から、団体交渉協定を構築することを鋭意主張していたことでも知られています。
何事も、いったん悪い条件が確立されると、それを変えるには多大な時間と労力を必要とします。
先見性をもって、労働主が労働者を簡単に搾取する市場が確立されることを防ぐことは大切です。

労働組合ユナイトは40年近く、弱い立場から、強い立場にある雇用主や企業に対しての交渉を行わざるを得ない状況でしたが、シャロンさんはこれを受け入れません。
彼女は、職場から労働者へ変化が強要されるのではなく、職場への変化を導く(労働者が主役)が大事だと明言しています。
また、彼女のマニフェストには、(労働者を)いじめるような悪い雇用主に搾取・いじめをおこなうことを最初から思いとどまらせるために、労働組合はストライキという筋力を使うべきだ、としています。
これに対して、軍隊的なストライキが始まるのでは、と恐れている人々もいましたが、シャロンさんは賢く、ストライキを行う覚悟がいつでもある、ということが、実際にストライキを行うことではないことを良く理解しています。
ストライキ決行への投票を行う前に勝てることもあります。
シャロンさんは、ブリティッシュ航空の「Fire and Rehire (解雇し再雇用ː いったん解雇し、解雇前よりも悪い条件で雇用契約を再度結ぶことを強要)という難しい状況にも介入を成功させました。
大手企業アマゾンにも労働組合が必要であることは認識していて、既にホットラインも設立しました。

ユナイトの歴代リーダーたちは、政界との結びつきをとても大事にしていましたが、シャロンさんは、大事なのはメンバー(労働者)であるとし、資本主義に対して正しい疑問を呈し、労働者の権利に対して重きをおかない現政界を離れたところに正しくフォーカスをおき、「私の経験では、政治家は、流れに従うだけで、導くことをしない。私たちは(労働者のために)リードする。私たちのメンバーは、私たちのアクションを必要としている」と明言しています。
ユナイトでは、以前は、正式に任命された組織内の経済学者は一人だけでしたが、シャロンさんは既にインハウスでのシンクタンクをつくり、メンバー(労働者)の要求や経験が反映されるような政策や分析を行える態勢を整えました。ユナイトが学費を出す大学院進学者へのサポートも行っています。これは、労働者の権利を守ることを、政策・法律に反映するために非常に有効で大事なことです。

日本で、シャロンさんのような人がいたらどうなっていたでしょう?
恐らく、一部の権威をもった男性たちに押しつぶされて、能力を発揮することは不可能だったのではないでしょうか?
ただ、今までそうだったからといって、同じことを未来について受け入れる必然性はありません。
シャロンさんの不屈の精神は、彼女の道を切り開き、多くの労働者にとってより良い仕組みを作ることを助けています。
彼女は一人だけで立ち向かったわけではなく、男女に関わらず、志を同じくする仲間と支えあって進んでいます

ロンドンでも、雇用主側からの不正義があった場合、日本人はただ受け入れて搾取されることに甘んじ、また周囲の日本人も雇用主側につくこともよく見てきました。「日本人には給料は支払わなくていい(数か月遅れて払ったり、合意していた金額より下げる)。彼らは文句は言わないし、逆らわないから。でもヨーロピアンは文句を言って裁判に訴えたりするからすぐ支払え。」という、とんでもないことを言う日本人雇用主もいました。
これは、一人だけでなく、似たような言動(日本人は逆らわないし文句を言わないし素直でなんでも信じるから、権威がある側が何をしてもいいし、何の結果も責任も追わなくていい=日本人間での労働の搾取やセクシャルハラスメント等は全く問題ない。力の強い側は何でもできるし何をやっても問題にはならない)は日本人からよく聞きました。
もちろん、日本人の誰もがそうだというわけではないですが、世間では権威をもっていて地位があると見られている人々の中には、こういう人々が一定数存在することは、認識しておく必要があります。
私は労働者搾取の共犯者となることも、自分が搾取されることも受け入れられないので、働いた分の給料はきちんと受け取り、すぐ辞めました。搾取する側が100パーセント悪いのは当然ですが、残念ながらこの世界は100パーセント正しいことでできているわけではありません。
基本的権利は自然に与えられるわけでなく、闘って勝ち取ることが必要な場合も多々あります。

誰かが搾取されていたら、他人事としてではなく、自分も含めた労働者全体の闘いとして、共にサポートしていけるような社会になれば、誰にとっても安全で、楽しく働き、生きていける社会になるのでは、と思います。
大きな権威・力をもった悪い雇用主と闘うためには、団結することが不可欠です。

私たちは、私たちのアクションを、今この瞬間から変えることを選択できます。
それが、これから生まれてくる人々の未来にもつながっていきます。
あなたはどんな未来をつくりたいですか? 

Yoko Marta