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立憲民主主義 ー 対立する意見や考え・利益を越えて、オープンに話し合い、尊重しあい共生する

Yoko Marta
08.09.22 03:32 PM Comment(s)

立憲民主主義 ー 対立する意見や考え・利益を越えて、オープンに話し合い、尊重しあい共生する

イギリスは民主主義の発祥地として知られていますが、アメリカや日本のような法典化(言葉で記載)された憲法は存在しません。
Unwritten constitution(不文憲法)  ということで、国家の基本的な準則は、慣行、先例や様々な法律および法的文書の形をとっています。国家の基本的な準則は、慣行、先例や様々な法律および法的文書の形をとっています。
イギリス(The UK4か国のうちの一か国、イギリス国)では17世紀以降、アメリカの市民戦争やフランスの革命等の規模の大きい社会・政治制度の変更が起こらず、議会での立法と裁判所での決定の繰り返しがこの国の法律・政治制度を徐々に形作ってきたと考えられています。

イギリス最高裁判所の元裁判官Jonathan Sumption(ジョナサン・サンプション)さんと、南アフリカで裁判官をつとめたKate O'Regan(ケイト・オ リーガン)さんが、憲法、法律、欧州連合離脱について興味深い対話を繰り広げていました。 
対話は、The Prospectという毎月発行の政策や経済、時事問題に特化したマガジンで、ここより対話を読むことができます。
イギリスだけでなく、ヨーロッパ、世界全般の時事問題を掘り下げて知ることにもとても役立ちます。
この対談のきっかけは、つい先日退陣した元首相Boris Johnson(ボリス・ジョンソン)が、国際法(欧州離脱で合意した北アイルランドに関する取り決め)を一方的に書き換えようとしたり、国会を違法に数週間閉会させようとしたこと等で、この国の民主主義を限界を超えて試そうとしたことにあります。
ジョナサンさんと、ケイトさんは、対照的な国で裁判官を勤めました。
ジョナサンさんは地球上の約半分の国を植民地にした歴史の長い国イギリス国で、ケイトさんはイギリスの旧植民地で、独立国としてはとても短い歴史の南アフリカ共和国で裁判を勤めました。
対談内でも、ケイトさんは、文字にされた憲法があったほうがいいのかどうかは、その国の歴史や文化、その時代にもよるので、どちらがベストかは言えないけれど、現在のように社会が多様化し、大きく変化し続けている現在では、国民みんなで今の時代と人々の希望や思いにあった憲法を新たに一緒に作るのは、有用ではないかと提案しています。
ジョナサンさんは、これから全く新しい国を作るのであれば、文字にされた憲法はあったほうがいいとは思うが、憲法を文字にしてしまうと、その時代には合っていても、社会に大きく変化があったときに、ある程度フレキシブルに時代や人々に合わせて変えていくことが難しい面もあるのではないかとしていました。また、アメリカのように憲法を過去に作った人々は、戦争や侵略、革命等を起こした人々で、そういった特殊な状況で特殊な考えをやイデオロギーを持った人々が決めた憲法が数百年にわたって有効であるかどうかについても疑問を呈していました。
二人の対話で印象的だったのは、二人とも、民主主義とは、多数派の意見のみが絶対というわけではなく、少数派も多数派もみんなが尊重されてお互いある程度譲り合いながら、平和にやっていくことと指摘していた点です。立憲民主主義において、最終的(決定的)な瞬間はなく、常に危険にさらされています立憲民主主義は、戦争に進むことを止めるような方法で、私たちの深い政治的不一致にうまく対応していくプロジェクトであり、これが立憲民主主義の真相です。(前首相ボリスが民主主義の限界を超えようと試みたように)立憲民主主義が、常に危険なほど失敗に近い場所に座っているように見えるのは、不思議なことではありません。
ケイトさんは、こういった危険時にWritten constitution(文字にされた憲法)が(立憲民主主義が壊されるという)失敗を防ぎ、次の危険な瞬間に到達するまでに、深い政治的不一致をうまく対応するプロジェクトを続ける十分な時間を与えるのではないか、としています。
欧州連合離脱では、イギリスではほぼ前例のないReferendum(リファレンダムː 国民直接投票)という手法が取られました。
フランスやスイスでは、なじみのある手法ですが、今回の2016年の欧州連合離脱の国民直接投票では、「Yesː 欧州連合離脱」を選んだ際に、実際に何が起こるのか、内容が明確にされないままでした。
フランスやスイスでは、通常、国民直接投票を行う前に、すべての質問への回答があり、細かい法律や規則等も既に書かれていて、もし「Yes」が選択された場合は、これらの法則や規則をそのまま法律に置き換えるだけです。
実際に、The UK(イギリス・北アイルランド・スコットランド・ウェールズの4つの国の連合国)では、北アイルランドでGood Friday Agreement(カソリックとプロテスタントの間での市民戦争の終結合意)の際には、国民直接投票が行われました。この際には、Good Friday Agreementが可決された場合には何が起こるかということが、分厚い冊子にまとめられており、さまざまな場所で市民の勉強会もあり、可決後は、この冊子にかかれていたことが法律となり、囚人のリリース等が実行されました。

欧州連合離脱の際には、離脱派からの煽情的なスローガンが道端でも、Facebookといったソーシャルネットワーク上でも大々的に行われました。
多額の資金が欧州連合離脱賛成派へ、ロシアのオリガーク(新興成金)、アメリカの超右派のシンクタンク等から流入したのが明らかにされており、欧州連合離脱が決定された後にも問題となりました。
実際に、何に対して投票したのかを、欧州連合離脱決定の後に議論するという状況になり、現在もそれは続いています
欧州連合離脱に賛成した人々も、当然ながら、欧州連合離脱が何を意味するのか/期待していたのかは、人によって本当にさまざまです。
これは、国民直接投票の正しいあり方ではありません。
ジョナサンさんも、ケイトさんも、これは政治的な目論見が背後にあり、意図的に欧州連合離脱の内容を明確にしなかったのではないか、と推測しています。

問題は、これからです。
この欧州連合離脱の国民直接投票では、国民の52パーセントが離脱に賛成、48パーセントが反対という僅差でした。
また、年代でも、若い年代の多くが欧州連合離脱に反対で、老人は欧州連合離脱に賛成が多いことで、年代間の亀裂も大きくしました。
2016年に投票権がなかった若者の中には、自分たちの未来を老人たちのイデオロギーによって奪われたという静かな怒りもあります。
また、連合国4か国の中でも、スコットランドと北アイルランドは離脱に反対が多数であったにも関わらず、投票数をイギリスとウェールズと合計することで、結果的に自分たちの国の中での決定は無視された結果となっています。
これは、ますますスコットランドのThe UKからの離脱を求める動きを強くしました。
また、北アイルランドでは、カソリック派の一部のアイルランド共和国への統合を求める動きが強くなり、プロテスタント派はイギリス国から切り離されるのではないかという恐怖をもち、多くの死者を出した30年間続いた市民戦争が終わった後の平和が揺さぶられています。
ジョナサンさんは、この国民直接投票は嘆かわしい結果をもたらしたとしています。
議会政治のベーシックな機能は、対立する意見や関心・利益を調整することにあります
これは、(オープンによく話し合い)譲歩することによって獲得されます。
今回の国民直接投票はこの過程を避けたことにより、「譲歩や歩み寄りは敵」となり、投票の結果について、広範囲の合意を得ることを難しくしています。
これは、多数派(52パーセントの欧州連合離脱賛成派)に特権意識を生み出し、その結果、自分たちとは違う見方をする人々を完全に見当違いだとして扱わせます。多数派は、基本的に自分たち以外の48パーセントの市民は価値がない(無視していい)、なぜなら彼らは間違っているから、と断言しています。
でも、この態度は成功しているうまく機能する政治コミュニティーとは矛盾しています。

昨日、ボリス元首相から同じ保守党のLiz Truss(リズ・トラス)首相へとバトンタッチが行われました。
リズさんは、保守派独特のイデオロギー「小さい政府」「ビジネス優先」等を強く打ち出しており、極右派路線を突き進め、さらに国民間での分断を強くするのではないか、と現時点では見られています。ただ、保守党内でも支持は低く、首相としては長く続かず、首相不信任投票が早いうちに起こり着任期間はとても短い可能性があることも示唆されています。

本来、立憲民主主義とは、多くの国民の意見や希望を国民から選挙によって選出された議員たちが、国民の代表者として法律や規則、仕組みをつくっているべき場所です。そうでなければ、国民は一致団結して、その状況を正していく動きに参加することが必要です。
立憲民主主義にとっては、大変で危険な状況ではありますが、イギリスでは、国民にとってフェアで安全に暮らせる/働ける社会を求めて、多くの人々が団結して立ち上がり、動き出しています。これらに対して、現保守党政府はデモを禁止・抑制する法律を作ろうと試みたり、市民の言動を制限する方向に動いていますが、国民たちが共通の理想(フェアで安全に暮らせる/働ける社会)に向かい組織化して動いている(自分はたまたま社会的に安全な位置にいる人々も含めて)他の人々の苦しみに人間らしい関心を示し協力しているという点で、私は、この国の未来への希望を持ち続けています。

Yoko Marta