The Green Catalyst
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イギリスのエネルギー危機と政治

Yoko Marta
12.09.22 05:07 PM Comment(s)

イギリスのエネルギー危機 → 正確にはガス危機。何が本当に起きているのか、どう解決できるのか

The UK(イギリス、スコットランド、ウェールズ、北アイルランド4か国の連合国)では、大きな2つの危機に直面しています。
1つは、The cost of living crisis (生活費の危機ーインフレーションともリンクしている)、もう1つは、The energy crisis(エネルギー危機)です。
日本に暮らしている人にとっては、The UKでの問題が自分とどんな関係があるの?と思うかもしれませんが、程度の差や時間差はあるにしろ、どちらも世界中の国々が直面している問題であり、「何が問題なのかを正確に見抜くこと」→ 「適切な解決方法を見つけること」 → 「人々がより安全に暮らせる環境をつくっていくこと」に役立ちます。

ここでは、エネルギー危機について。
「エネルギー危機」という言葉は、誤解を招く名称で、実際は「ガス危機」です。
恐らく日本の日経新聞に近いイギリスのメディアFinancial Timesに分かりやすい記事が記載されています。
記事の著者は、IEA(International Energy Agencyː 国際エネルギー機関)のFatih Birolさんです。
とても明瞭で分かりやすい英語なので、ぜひ英語で読むことをお勧めします。
※日本語では、The UKは「イギリス」と呼ばれることが多いので、これ以降は「イギリス」と表記しますが、イギリス国を含む4か国の連合国です。

今回のロシアのウクライナ侵攻に伴い、ロシアからの天然ガスの供給が不安定となり、天然ガス価格の高騰を招いています。

ヨーロッパ内でも、天然ガスをどの程度ロシアに依存しているかは、国によって大きく違います。
イギリスでは、天然ガスはノルウェーからの輸入に大きく頼っており、もともとロシアからの輸入はとても小さい割合でした。
ドイツやイタリアはロシアからの安い天然ガスに大きく頼っており、今回のガス危機には非常に大きな影響を受けています。ドイツのロシアからの天然ガス依存については特に顕著で、数十年にわたってアメリカや旧ソビエト連邦から独立した東ヨーロッパの国々から、国家安全・ヨーロッパ地域の保安という点からも非常に危険だと指摘を受け続けていました。ドイツ政府も、ロシアからのエネルギー輸入に過多にたよってきた過去の政策は間違っていたと認めています。
欧州連合全体では、多国間でのガスの融通や、冬がくるまでになるべく多くのガスの貯蔵を行うよう努力を徹底しています。公共機関では、プールの温度を下げたり、一定時間は消灯を徹底する等の対策も始まっています。
イギリスは、ロシアへの天然ガス依存度は低かったものの、天然ガスは国際マーケットで取引されているため、ガス価格の高騰の影響は他国と同様です。また、ノルウェーでも、気候変動の影響で水量が減ったためハイドロパワーが減少していて、天然ガスの輸出を制限する可能性があります。イギリスが他のヨーロッパ大陸の国々より難しい状況にある点としては、もともと存在する問題からきています。
  • 冬場の暖房のほぼ85パーセントが天然ガス由来 ※欧州連合では4割程度。ヨーロッパでは、ヒートポンプ等の、化石燃料をほぼ使わない暖房法に国をあげて取り組み始めている。イギリス主要政党の保守党は、「小さな政府(=公共投資は最低基準か無くしたい)」「市場主義(=需要と供給のバランスにまかせ、政府は介入しない)」「税金(特にビジネスへの税金)を最低レベルにする(=政府はビジネスが儲かるのを最大限に助け、結果的に、それが仕事を生み出すので、個人に対する政府の助けは不要) 」というイデオロギーをかかげていて、ヒートポンプに国家補助をして家庭のエネルギー代の負担を減らすという政策には反対し続けています。
  • 家の断熱性がヨーロッパの国々の中でも最低レベル ※現在の保守党が12年前に主要政党となった際に、前主要政党であった労働党が掲げた、家の断熱を国の補助で進める政策が廃止された。保守党は、気候変動に懐疑的であること/石油・ガス会社からの政治的献金を大きく受けていること/石油・ガス会社との繋がりが深いことで知られています。

エネルギーというと、ガスだけでなく電気も含まれていますが、電気には何が起こっているのでしょう?

イギリスでは約3分の1の電気は、再生エネルギー(太陽/風力/原子力等)から生成され、約5分の2が天然ガスから生成されています。
再生エネルギーの価格は、天然ガスに比べると非常に低い価格です。
日本では再生エネルギーの割合が低く、多くの電気が化石燃料から作られているので、ガス料金が高騰すれば、電気料金が高騰するのは自明ですが、イギリスでは、電気代はガスの卸価格の高騰に大きく影響されないはずです。でも、電気卸売りの価格は、天然ガス卸価格に合わせて設定するエネルギー市場の仕組になっており、再生エネルギーのみの電気小売会社と契約していても、ガスと同じ高い金額を払うことになります。天然ガス卸価格は過去15年ほど安定していたため、この仕組で問題はそうなかったものの、現在、この市場の仕組について見直しが始まりました。

イギリスでは上記の市場の仕組の問題があるとはいえ、再生エネルギーの割合が大きくなってきているおかげで天然ガス使用量を大きく節約する結果となり、これは天然ガス卸価格高騰の影響を小さくすることに役立っています。また、ヨーロッパの国々でも同様に、大規模な再生エネルギーの開発が天然ガス使用量を大きく下げており、市民の生活だけでなく、国家の保安/新たな職やビジネスを創り出す、という点でも貢献しています。
どの国でも、保守党は、「再生エネルギーは、エネルギー供給の不安定さを招くので化石燃料をもっと発掘して使うべきだ」という神話を繰り広げますが、これが間違っていることはすでに証明されています。

また、ここでは、市民たちがエネルギー料金の高騰で困っているにも関わらず、この「ガス危機」でとてつもない利益を生み出している「ガス生成・卸企業」に、行き過ぎた利益に対して臨時の税金を課す(Windfall Tax)という案も出てきており、一部の国では実行されています。
ここで、「ガス生成・卸企業」としているのは、イギリスではエネルギーの小売企業が消費者に課金できる利益率は法律で決まっており、それ以上で消費者に課金することは違法となります。そのため、多くの小売業者は、高騰する価格を吸収しきれず倒産しました。(競争のため、年単位で安い価格で契約を行っていると、エネルギーの卸価格の高騰により収益がなくなり倒産せざるを得ない)
政治家でも、意図的、或いは無知が原因で、「エネルギー危機」という名目で、生成業者・卸企業、小売企業等を混同させる人々がいますが、前述したように小売業者・小売部門は、消費者を守るため、過剰な利益を上げられない仕組になっています。ただ、Shell(シェル)やBP(British petroleum)などの大企業は、石油や天然ガスの採掘・精製、卸、小売をすべて自企業内にもっていることには留意しておく必要があります。

多くのガス生成・卸企業は巨大なマルチナショナル企業で、会計情報は不透明であり、ガスの小売や再生エネルギー事業も同じ企業内で手掛けていることも多く、彼らは、「ガス危機」での利益は大きくなく、利益は再生エネルギーへの投資へと使っている、税金が高くなれば、未来への投資ができなくなりエネルギー供給への不安定さを招く、といった論旨を展開します。
BBCのドキュメンタリーでは、化石燃料大手のExxon(エクソン)が既に40年前の時点で、二酸化炭素の排出をつづければ気候変動が起こることを正確に予測していたにも関わらず、自社の短期的な利益を追求し、事実を隠した上に、二酸化炭素排出による気候変動を否定する広告やキャンペーンに多額の資金をつぎこんでいたことが明らかになっています。エクソンだけでなく、BPやシェルも同様です。これらの企業は、いかに再生エネルギー事業に力を注いでいるか等の広告を大々的に打っていますが、再生エネルギーへの投資は、ガスや石油といった化石燃料部門への投資に比べると本当に小さい割合です。タバコが人体に安全である、と嘘をつき続けたタバコ企業のように、「自企業・自企業の株主の利益>>>>人々の健康や安全、社会や地球環境の安全」という図式は変わっていないという見方が大半です。

どうやって企業が「ガス危機」で行き過ぎた利益を出している、と証明できるのでしょう?

これには、国営放送BBC Radio4のMore or Lessで、S&P GlobalのEuropean Power Analysis HeadであるGlenn Rickson(グレン・リックソン)さんが、Centrica(セントリカː イギリスの大手ガス企業のBritish Gasの親会社)を例にとって分析を行っていました。
なぜCentrica(セントリカ)を例にとったかというと、セントリカはイギリスを拠点としてきる企業(イギリスで主に税金を払うため、会計情報がある程度明確)であり、ガス事業を大きな柱としているところにあります。
グレンさんの分析によると、2022年の半期と2021年の半期を比べると、オペレーション収益は2022年には、約1000パーセント増えているそうです。
2021年の半期は、コロナの影響で多くの企業が生産を控えていたこともあり単純に比べられないものの、ガス生成企業が信じられないくらいの膨大な利益をあげていることは明白だそうです。

イギリス政府は、つい先日、保守党内で、ボリス元首相からトラス首相へと首相交代がありました。
トラス首相は、現在のところ、この「ガス危機」で莫大な余剰利益を出した企業に税金を課することには反対です。
トラス首相の首相選挙では、BP(British petroleum)の元経営者の妻からの多額の政治献金があったこと、またトラス首相自身が過去にシェルで働いていたこと、また、保守党は化石燃料企業からの多額の政治献金を受けているため、化石燃料企業に利益を与え続ける政策は変わらないだろうと見られています。「ガス危機」と「生活費の危機」について、市民を守る目的で提案された政策は、基本的に大きな利益を出す企業がさらに恩恵を受ける政策となっており、貧しい人々にはほぼ助けにならないと分析されています。保守党が好むのは、「税金削減」ですが、これは通常、先述したような結果を生み出します。保守党は、「企業が儲かれば、雇う人々の数も増え、雇われる人々の給料も上がり、国全体の冨に良い影響を与える(Trickle effect)」と主張し続けていますが、これは、事実でないことが既に証明されています。
これらの大企業は、仕事を賃金の安い海外にアウトソースし、イギリスでの雇用者の福祉や給料を大きく下げ、利益はビジネスやインフラへの投資ではなく、株主と経営者に多額の金額が払われるようになりました。雇用者の賃金と、経営者の賃金の差は、1:300になることすらあります。
株主と経営者といった一部の人々が暴利を得る中で、In-work poverty (インワーク・ポヴァティー/働いているのに家賃や食費を払いきれない)が大きく増えており、保守党のいう「Trickle effect(上から下に富がまわってくる)」は起きておらず、逆に労働者から、株主や経営者が不当に富を吸い上げていく仕組みとなっています。この仕組が続いているのは、保守党とこれらの大企業のかかわりが強く、大企業の言いなりに法律や規則を変えたり、補助金や税金免除等の便宜をはかることで、保守党の政治家が政治献金や副業等の利益を受け取っていることも大きく影響していると見られています。これは、イギリスだけでなく、日本でも他の国でも多かれ少なかれ起こっていることでしょう。

でも、民主主義ということは、首相も政治家も、本来は一般市民のために働き、法律や規則を設定しているはずです。
彼らが、現在のように一部の企業の利益と自分たちへの利益のみを反映した政策を実行するのであれば、国民は「投票」という民主主義の正しい手段を使って彼らに「No」を叩きつける必要があります。
また、デモンストレーションやマーチ等で、市民が一致団結して、市民の意見を政治家に知らせる必要もあることを、この国の人々はよく理解しています。民主主義は脆弱なもので、適切に民主主義が行われているかを常に観察し、権力側が民主主義を壊そうとした場合は、市民は一致団結して抵抗することは不可欠です。これらの市民の動きは、労働組合も含めてどんどん大きくなってきていますが、保守党側は、デモンストレーションの禁止の法制化を試みたりしています。法律の専門家の団体がこれらの動きにも現在は効果的に抵抗を行っていますが、この抵抗は続けなくてはなりません。
欧州連合離脱等による問題等も含めて、この国はかつてないチャレンジを抱えていますが、市民が一致団結し、組織化し、民主主義を守ること・すべての市民の生活の安全を求めて立ち上がるところに、私自身は大きな希望を見出しています。

外から日本を見ていて怖いのは、他人の痛みにも時事問題にもとても「無関心」に見えることです。
世界で起きていることは、遅かれ早かれ、当然日本で暮らす人々にも程度の差はあれ、影響します。また、私たちがかかえている気候変動といった大きなチャレンジは、世界中で共有しているものです。他人、他国のことだから自分には関係ないと思って無視して、何もしなければ、大きな問題となって私たちの目の前にそのうち現れます。
世界中の人々が安全に、それぞれのポテンシャルを最大限に発揮して生き生きと過ごす未来は、すべての人々を「自分の仲間たち」と認識する、彼らの抱えているチャレンジや痛みにも目と心を向けるというところから始まるでしょう。

情報の分析方法 (私の過去のBlog):
https://www.thegreencatalyst.com/blogs/post/20220328

気候変動・再生エネルギーでの信頼のおける情報元:
Carbon Brief (英語)

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