エリザベス女王の死と王室の存続

Yoko Marta
04.10.22 03:40 PM - Comment(s)

王室はファンタジー、多くの人々が信じればファンタジーも事実となる

ヨーロッパの多くの国々では、王室は廃止されています。

イタリアでは、第二次世界大戦後に国民投票があり、王室は廃止され、彼らのもっていた財産や土地は政府が管理することになり、国民に返還されました。
民主主義と王政が相容れないのは、理論的には明らかであり、イギリスでも王室を廃止するべきだとするRepublican(共和主義者)も一定数います。また、現在の英国王室は広大な土地やプロパティーを所有し、そこから大きな利益を出していますが、実際は、それらの財産は、どこかの時点で普通の人々から奪われたものです。特に、イギリスのように地球の半分くらいの地域を数百年にわたって植民地化した国では、多くの宝物や財産は、違法に他の国々から奪ったものから由来しています。
また、北アイルランド問題の根元にあるのは、隣国のアイルランドを植民地にし、イギリスからイギリス人を植民地国に入植させ、イギリス人を職業や住む場所で優遇し、アイルランド人を差別し悪い扱いを続けたことです。植民地が独立したと同時に、植民地化されていた時代の問題が突然消えるわけではありません。

エリザベス女王がかぶっていた王冠についているダイヤモンドは、世界最大のダイヤモンドで、南アフリカから奪われたものです。南アフリカ共和国は、イギリスの旧植民地で、ダイヤモンドを含む多くの自然資源をイギリスを中心とした西側諸国に搾取され続けた国で、現在もそれは続いています。そのため、今回のエリザベス女王の死にも、イギリスや西側諸国とはかなり違う反応を示しているのは当然だと思います。 
一例は、南アフリカ出身のスタンダップ・コメディアンTrevor Noah(トレバー・ノア)が司会を務めるアメリカの人気番組「The Daily Show with Trevor Noah」より。
イギリスでは番組の一部しか無料でみられないのですが、ずっと楽しみに見てきました。他にもやりたいことがたくさんあるということで、約7年の登板の後、近いうちに降板することを発表しました。

ここでは、南アフリカの野党のEconomic Freedom Party(エコノミック・フリーダム政党)が国会で話した映像がありました。

背景として、アフリカ大陸全体にわたり、British Empire(大英帝国)は100万人以上の人々を強制収容所に送り、そこで多くは拷問にあい強制的に働かされ、人々が非人間化されてきた歴史があります。
これは、南アフリカが独立した時点で、マジックのように消えたわけではなく、いまだに根強く残っています。

エコノミック・フリーダム政党は「私たちは、エリザベス女王の死を悼みません。なぜなら、彼女の死は私たちにとってこの国とアフリカ大陸全体の歴史にとってとても悲劇的な時代を思い起こさせるからです。エリザベス女王の70年の統制の間、彼女は一度も彼女の一族が世界中に侵攻しその地域にもともと住んでいた人々に及ぼした残虐行為を認めたことはありません。もし、本当に死のあとに死後の命と正義があるのであれば、エリザベス女王と彼女の祖先には、彼らに(生きていた間の行動に値する)ふさわしい死後と正義が与えられるでしょう。

トレバーさんは、アメリカの聴衆に対して「この反応は極端に見えるかもしれないけれど、大英帝国が長年にわたって行ってきたこと(残虐行為/資源や芸術品を盗む/人々の非人間化(奴隷や強制収容所で働かせる等))を鑑みると、とても理性的な反応です。エリザベス女王は国の象徴でしかなかったので彼女に罪はないという人もいるかもしれないけど、彼女の70年にわたる統治下で、大英帝国の残虐行為に対して、彼女は一度も悔い改める発言や行動はしなかった。大体、あの王冠の世界最大のダイアモンドで、南アフリカから盗んだもので、ダイアモンドは今でも抗争の原因で、少なくとも南アフリカ共和国の人々に返還すべき。もちろん、誰に返すのかは難しいところだけど、少なくともどう返還するのかを考慮するべき。

この大英帝国が地球上の半分くらいの地域から奪った芸術品は数知れず、イギリス人もジョークで、「大英帝国博物館は、イギリス人が世界から盗んだものを展示する場所」ともよく言っています。ヨーロッパ大陸の他の国々ではすでに植民地時代に盗んだ美術品を返還するプロセスは進んでおり、イギリスはそれに遅れをとっている状況ですが、議論は既に始まっています。

私のまわりのヨーロピアンの友人の多くは、王政を廃止した国々からきているので、イギリスの王室についても、結局は仰々しい儀式やきらびやかな衣装等によって彼らは特別な存在であるという神話を保ち続けて権力や金力を保ちたいだけであることに疑問を持ちません。イスラエルの歴史家、ユバル・ハラリも指摘しているように、宗教も王室も、ファンタジーで実際は存在しないけれど、十分な数の人々が信じればそれは事実になる、ということの表れだと思います。

イギリスでは、現在のチャールズ王の弟のアンドリュー皇太子が未成年の少女たちと継続的に不適切な性的関係、性的暴行を行っていたことでアメリカで起訴されましたが、多額の和解金を支払い、裁判所で証言することを避けたとされています。彼に少女たちを融通していた大富豪のエプスタイン氏は牢獄で自殺し、彼の元ガールフレンドでアンドリュー皇太子とも近しい関係だったマックスウェルさんは、少女たちを仲介していた罪で有罪となっています。イギリスの国営放送でアンドリュー皇太子がインタビューを行いましたが、証拠がいくつもあるにも関わらず、彼は少女たちに会ったことはなく、被害にあった少女たちへの人間らしい共感や同情心は全くなく、(長年性的人身売買を行っていたことでよく知られている)エプスタイン氏との友情を忠誠心から貫いたことが、今回の疑惑につながって自分は被害者だ、という姿勢がとても印象的でした。この和解金も数億円に及ぶと見られていますが、王室は和解金の出所をはっきりとさせず、国民の税金からも出費されているのではないか、との疑念も消えていません。また、この事件の関係者が有罪となったにも関わらず、アンドリュー王子が裁判に行くことすら避けられたのは、多くの政治的なプレッシャーがイギリス王室からかけられたのは間違いないとして、たまたま階級が高ければ、どんな犯罪を犯しても罪にならない、という印象を国民に残したことは事実です。この事件の後、王室をサポートする比率はとても下がりましたが、エリザベス女王の死により、少し回復したようです。 Yougov の統計を見ると、王室へのサポートが回復する前は、「100年後に王室は存在していると思うか?」という問いには、「No(多分、存在しない/絶対存在しない)」は41パーセントで、「多分存在する/絶対存在する」の39パーセントをわずかに超えていました。現在は、エリザベス女王の死の直後で、王室は100年後も存在するだろう、という人も少し増えているようですが、チャールズ王は、癇癪もちでわがままであることでも知られており、国民からの支持率はもともと低いため、王室へのサポートは下がると見られています。特に若い人々の間での支持が低いようです。
保守党は、王室はイギリスの観光業にも役立っているとしていますが、実際に観光業で大きく利益を出しているのはフランスで、革命で王室を廃止した国です。
王室の存続について国民投票が考慮される日も、そう遠くないのかもしれません。

ある一定の時期に存在したものが、いつまでも必要なわけではありません。
現在も必要なのかどうかは、現在生きている人々が決めることです。

個人的には、「王室は特別な人々」という幻想や神話を維持することより、「誰もが平等で、誰もが必要な人。特別な人はいない」という時代になっているのだと思います。

日本で育つと、他のヨーロッパの国々のように「王室を廃止」、というのは考えもつかないかもしれませんが、大日本帝国として、アジアの国々へと資源を求めて侵略した歴史をもつ日本が、天皇の名のもとに侵略が行われたのにも関わらず皇室がなんの責任も取らなかったことは、ヨーロッパの国々で育つと理解しにくいことです。天皇は象徴であって、実際になんの政治能力もなかったという人もいるかもしれませんが、「実際に天皇は戦争を始められる/止められる立場にあり、たとえ戦争開始に反対することや、戦争の継続に反対することが天皇自身の死につながったとしても止めるべきだった(組織の一番上に立っていたのだから、その責任がある)」というのが恐らくヨーロッパでの一般的な見方です。これは、強い立場にいることの特権(たとえそれが自分で選択したことではないにしても)には、必ずそれ相応の責任が伴うというヨーロッパでは一般的な考え方であると思います。

日本の皇室は、イギリスの王室と違い、スキャンダルもなく、人柄も信頼できそうな人々であるようですが、実際に機関として皇室が必要なのかどうか、というのは、イギリスのように考慮されるときがそのうちくるのかもしれません。

Yoko Marta