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イギリス新首相 スナック氏

Yoko Marta
27.10.22 05:19 PM Comment(s)

イギリスの新首相スナック氏と人種差別をどう扱うか

The UK(イギリス、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドの4か国の連合国)では、Rishi Sunak(リシ・スナックー日本ではスナクと表記しているようですが、英語ではスナックのほうがずっと近い音です)氏が新首相となりました。

スナック氏は、ブリティッシュ(イギリス生まれ、イギリス育ち)で、両親はインド系の移民で、父は医師、母は薬剤師です。両親は、大英帝国の植民地だったケニヤとタンザニアの出身です。

大英帝国は、地球のほぼ半分の地域に及んでいたため、イギリス人だけ(スコットランドもウェールズもアイルランドもイギリスの支配下にあった時代が長く、大英帝国はThe UKの4か国のうち、イギリスだけを指します)では管理しきれず、同じく植民地だったインドから、多くのインド人をミドルマネージャーとして送り込みました。彼らは、アフリカの植民地国で、比較的良い教育を受け、良い職業や社会地位を保証されていました。

アフリカの国々で独立運動が起こった際に、多くの国々で、インド人は大英帝国の手先だったということで追放され、イギリスへ多数の人々が難民としてやってきた経緯があります。

彼の見かけはアジア人で、インド系ブリティッシュと呼ばれることもあります。

スナック氏の妻は、インドの大富豪の家系で、スナック氏夫妻は、The UKの中でも最もお金持ちな人々のTopクラスに入っています。

今回のスナック氏の就任は、いくつかの点でイギリス初なのですが、その中でも、「白人でない」ということで、拒否反応を起こしている人々もいます。イギリス初なのは、「若さ(42歳という若さで首相になった)」もあります。
ちなみに、この2か月間のうち、首相は3回変わりました。
Boris Johnson(ボリス・ジョンソン)→ Liz Truss(リズ・トラス)→ Rishi Sunak (リシ・スナック)
リズ元首相が首相選定された選出課程では、保守党国会議員の多くはスナック氏をサポートしたものの、保守党メンバー(一般市民で保守党に加入している会員で、多くは都市部から離れた田舎の白人の老人)からの投票でトラス氏に決まりました。今回は、保守党が保守党の国会議員のサポートが百票以上が、今回の選考の条件となり、スナック氏のみが100票を得て、自動的に新首相となった経緯があります。

ここで、南アフリカ出身のスタンダップコメディアンで、Late Night ShowのThe daily show with Trevor Noahのプレゼンターでもある、Trevor Noah(トレバー・ノア)さんが興味深く、かつユーモアと諧謔に満ちた観察を行っていました。

番組は、ここ から、観れます。

このクリップは、ロンドンのラジオ番組LBCの女性プレゼンター、Sangitaさん(サンギータ/ケニア出身でイギリス育ちのブリティッシュ)と、番組に電話をかけてきた保守党会員の白人老人との会話から始まります。私は、このクリップより、もう少し長いやり取りをきいたのですが、この老人は、「スナックはブリティッシュじゃない」とかいろいろと回りくどいのですが、サンギータさんが的確な質問を投げかけ、最終的には、「スナック氏は首相にはなれない。なぜなら彼は茶色の肌をしていて、白人が人口の85パーセントを占めるイギリスを代表することなんてできないし、イギリスに生まれた人がみんなイギリス人なわけがない(=白人のみがイギリス人)。白人がサウジやパキスタンで首相になるなんてあり得ないだろう」という、人種差別でかつ不正確な発言を行っていました。

この老人は、自分は保守党会員の典型的な人物で、保守党会員のほとんどは自分と同じ意見を持っていると主張していました。そうでないことを願いますが、恐らく、多くの保守党会員は人種差別的な見方を持っているのだとは思います。ただ、保守党会員は減少傾向にあり、現在は、人口の0.1パーセントぐらいだそうです。都市部に住む人々、45歳以下の若めの人々は、もっとオープンで人種についても差別する人はとても少数だそうです。
先述した老人の発言には、間違いがいくつもあり、トレバーさんは、からかっていました。

ちなみに、トレバーさんは南アフリカ出身で、母はホサ族の出身(マンデラさんと同じ部族)で、父は南アフリカに住んでいたスイス人で、ヨーロッパ・アメリカでは黒人と認定されるでしょうが、ブラジルや別の地域では違うでしょう。この「白人」というのは、政治上、白人支配を続けるために作られたまやかしの仕組なので、科学的な根拠はなく、その国や地域の政治・社会的な都合等で定義は変わります。チリの作家は、チリでは「白人」として生きてきたのに、アメリカに移民したときに「有色」と分類され、信じられなかったと書いていました。

まず、スナック氏は、イギリス生まれ、イギリス育ちで、明らかにブリティッシュです。ブリティッシュという国籍に、肌の色は全く関係ありません。
白人以外のイギリス人は、イギリス人ではない、というのは人種差別です。
また、先述の老人は、白人が非白人の国で首相や重要な位置につくことはない、と言っていましたが、これは大きな間違いです。
イギリスは地球の半分の地域を、数百年にわたって支配してきました。アイルランドのように白人主要国もありますが、多くはアフリカやアジア、南アメリカ等の非白人が主要な国々でした。そのため、主要な国民と同じ肌の色をしていない人が首相や政治上重要な位置につけないというのは、この老人が自国だとするイギリスの歴史を完全に誤解しています。


また、これは、ある意味皮肉です。

Brexit(ブレクジット/欧州離脱)は、欧州離脱派が欧州離脱が何を意味するかを意図的に不明確にしたまま、投票が行われたため、欧州離脱に賛成票を投じた理由は本当にさまざまなのですが、欧州離脱の大きなイデオロギーは「イギリスをよりイギリスにする(=白人のみの国)」という見方もできました。ですが、ふたを開けてみれば、2016年の欧州離脱への決定投票の後、約7年後には、非白人の首相が選定されることとなりました。

また、スナック氏の両親はインド系で、インドは長期間にわたってイギリスに植民地化され搾取されてきた国なので、先述した老人のようなイギリスの人種差別者は、常に「植民地支配はただのビジネスで、何一つ間違ったことはしていない」というにも関わらず、自分たちのトップが、非白人になった途端、「何かが為されなくてはならない、何かが為されなくてはならない」とパニック状態に陥っています。

でも、スナック氏はブリティッシュで、大英帝国がインドで行ったことを、イギリスに対して行う恐れはゼロです。何をそんなに恐れる必要があるのでしょう?

植民地にされたアフリカの国々では、植民地支配者が行った資源の略奪や、人々の非人間化、歪んだ政治・社会の仕組みを長年にわたり続けたこと、歴史を植民支配者の目で虚偽の物語を作っている等が大きな原因で、独立した後も、国々は社会・政治・経済的にも混乱に苦しんでいます。
でも、イギリスの人種差別者は、旧植民地の人々(非白人)が、「植民地時代にイギリスが行ったことが現在の問題につながっている」というのをとても嫌い、逆人種差別だと言ったりします。
ここでも、トレバーさんは、「イギリスの人種差別者は、、自分の国で何かがうまくいっていないときに、初めて非白人の人を責めるチャンスなんだから、喜ぶべき」とからかっていました。
なぜなら、先述したように、イギリスの人種差別者は往々にして、自分たち(白人)が加害者であることは明らかであるにも関わらず、「非白人は、正当な理由なく、いつも白人を責める」という被害者のふりをすることが多いので、そこをジョークにしています。

イギリスの保守党は、アメリカの保守党とも似ていて、中道派の議員を追い出し、極右派が非常に力をもっている政党になりました。そのため、スナック氏が、どの程度、これらの極右派と、そこまで極右派でない議員たちをまとめ、国民が納得できる政策を推進していけるかどうかは、大きな疑問となっています。

保守党以外の議員や、一般国民は、General Election(国民選挙)を求めていますが、保守党は、今国民選挙にいくと大敗するのが明らかなので、国民選挙はおこなわず(主要政党である保守党のみが国民選挙に行くかどうかを決められる)、2024年に計画されている国民選挙までは、このまま保守党が主要政党として存続すると見られています。

世界の大きな経済となっていくインドのモディ首相も、インド系ブリティッシュのスナック氏の首相就任を祝っており、悪化していたイギリスとインドの政治的な関係は少なくとも好転するでしょう。

ヨーロッパにいると、白人でない場合は、人種差別を受ける機会は避けにくいですが、人種差別は植民地支配や黒人奴隷制度を正当化し保持するために作られたまやかしの仕組であることを理解し、React(反応)するのではなく、距離をおいて、どうRespond(対応)するのかにも、トレバーさんの対応は参考になります。
日本人のような非白人は、ヨーロッパでは多数派ではなく、かつ植民地時代につくりあげたまやかしのナラティブー白人は非白人よりも優れているとして、他の人種を非人間化して、奴隷にしたり迫害することを正当化し、その搾取が長続きするような政治・社会的仕組みを数百年にわたってつくり、施行したー は、一日では消えません。
そのため、雨が降っていることに文句を言っても仕方ないのと同じように、天気予報や外を見て確認し、傘をもっていく/レインコートを着る等の対策をするしかありません。トレバーさんのように、適度な距離をおいて、高度なジョークでからかうレベルまでいけるといいですが、それには、トレバーさんのように、人種差別について深い知識と理解、被害者たちへの深い共感が必要です。

ロンドンで働いていると、日本人が人種差別的な発言を行っているのを聞いた経験が何度もあります。人種差別は、白人が非白人に対して行うということが多いものの、非白人から他の非白人のグループへの人種差別も存在します。人種差別は、イギリスでは非常に深刻なことだと捉えられ、職場であれば確実に解雇されるし、裁判までいく可能性も高いでしょう。日本語で話していて非日本語スピーカーには分からないことで逃げ切っている例も見ましたが、モラルとしても、人種差別は行ってはいけないし、恥ずべきことでしょう。

自分のもっている偏見に気づくことは容易ではない面もありますが、世界の誰もが対等であり、同じ権利をもっていて、同じだけの存在する価値があるのだという認識を常に持っておくことは大事です。

世の中に「特別なひと」は存在しません。みんな大切で必要な人です。

Yoko Marta