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ハラスメントへのイギリス政府の試み

Yoko Marta
15.11.22 05:14 PM Comment(s)

ハラスメントの加害をゼロに

The UK政府(イギリス、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドの連合4か国)は、「 Enough (もう十分だ/たくさんだ)」という、Abuse(アビューズ:さまざまなハラスメントや家庭内暴力等)についてのキャンペーンを行っています。

日本との大きな違いは、加害をやめさせる、目撃者はどう介入して被害者を助けられるかという点です。ヨーロッパ一般では、当然ですが、「どうやって被害にあわないか」のような、被害者を責め、加害者を守るような発想はでてきません。被害者の服装や見かけや態度や言動が加害を招いたという間違った神話は、どの地域でもストップしなくてはなりません。加害者は加害することを選択しますが、被害者には被害を受けない選択はできません。

このWebsiteでは、以下の項目があります。

  • What is abuse? Abuse(アビューズ/虐待)とは何か?

  • Help stop it アビューズを止めることを助ける

  • Get support サポートを得る

  • Reporting abuse アビューズを報告する

  • Worries about your behaviour 自分の言動を恐れている(自分が加害者であると思われるー加害者向けのサポート)

ヨーロッパでは、まず、「ことば」や「用語」はきちんと定義されます。
日本で暴力がなくならない一因は、この「ことば」や「用語」の定義が明確になされないことも含まれるでしょう。
「暴力」や「虐待」が具体的に何を指すかが明確でなかったり、「躾」は許される(でも、躾が何を指すのかは明確ではない)等の抜け道を作る/存在するのは、加害者にとっては都合の良いことでしょう。
最近の日本政府の発言で「冤罪を防ぐことが目的で大事」と堂々と言っていて「加害者を守ることが一番大事で被害者は重要でない」ことが透けてみえて驚きましたが、それについて大きな抗議運動が起きないのもある意味日本なのかもしれません。

アビューズは、身体的なものだけでなく、心理的、性的、経済的なものや、複数の組み合わせの場合もあります。
アビューズは、被害を受けた個人だけでなく、社会全体にも有害な影響を与えると明記されています。どんなに小さく思えることでも、そこで加害者をストップしないと、それが当たり前という空気ができ、加害はエスカレートしていきます。そんな安全でない社会は誰も望みません。
また、加害者には、相応の責任を取らせ、加害を二度と行わないようにする必要もあります。

また、ヨーロッパでは、子供(18歳以下)や若い人々、女性といった弱い立場においやられがちな人々は、守られるべき存在であるという認識がいきわたっています
弱い立場の人々を守るのは、国の責任でもあります。
弱い立場に追いやられた人々を搾取すること(子供や若い人々が安全に住む場所や仕事を失ったときに、そこにつけこんで、経済力のある大人が自分の性的/支配したいという欲求を満たすことに彼らを使う等)は絶対にいけないことだという合意は社会にあります。
強い立場の人には絶対服従でおべっかをつかい、弱い立場の人々には何をしてもいいといった考え方は、卑怯であると見なされ、軽蔑されます。
強い立場の人々が不正義を働けば、弱い立場にいる人々が団結して立ち向かいます。いつも勝てるわけではありませんが、不正義に抵抗しなければ、さらに弱い立場に追いやられ、社会は悪い方向へと速いスピードで向かうでしょう。

この ページ には、何がアビューズなのかが明記されています。
日本では、アビューズと認識されていないものもあるでしょう。でも、これらは全てアビューズです。
例としては以下となります。

  • 泊まる場所/休む場所を提供する引き換えに、性的なことを要求する

  • 仕事での出世を約束するのと引き換えに、性的なことを要求する

  • 凝視や、不自然なほど近くに座ること

  • 盗撮

  • つけまわす/追い回すこと(ストーキング)

  • 学校や職場で、食事やデートに執拗に誘う

  • 学校や職場、公共の場所での不適切なコメント・ジェスチャーをする、身体の一部に触ること

  • オンライン上で、望まない性的なメッセージを送る/送らせる

  • リベンジ・ポルノ(昔のガールフレンドの裸の画像をアップロードする等)ー 完全に違法

  • オンライン上で性的なコメントをする

  • オンライン上で、性的な写真を撮って送るようプレッシャーをかける/気持ちを操作する

身体に触る、レイプするという分かりやすいアビューズはもちろん、アビューズとして挙がっています。これは、被害者・加害者が男女どちらでも適用されます。

アビューズを安全に止めるためには、目撃者が「それは、おかしくもなんともないよ」と真剣な顔で抗議したり、被害者と加害者の間に物理的に立って、無言で加害者の顔を見る、被害者が逃げる隙をつくるために加害者の注意をそらす言動を取る、被害者と思われる人に「大丈夫?」と声をかける、公共の乗り物であれば運転手に呼びかける、警察に連絡等、さまざまですが、大事なのは、「行動を起こす」ということです。
特に、男性が女性に加害を行っている場合、男性の目撃者が間に入るのは効果的です。
誰にとっても安全な社会は、一人一人の行動にかかっています。

Get supportでは、被害の種類(ストーキング、ドメスティックバイオレンス等)によって、サポート機関が提示されています。政府が認めている団体であり、無料相談できます。

Reporting abuseでは、どの機関に報告するかが明記されています。
匿名で報告することができる場合もあるし、被害者だけではなく、目撃者が報告できる場合も多いです。
また、ここでは、Silent Call(沈黙の電話)ということで、話すのが危険であれば、999(警察への緊急番号)をダイヤルした後、55をダイヤルすると訓練された専門の人が会話無しで場所を特定し、必要なサポートを素早く手配します。
報告する際には、機密は守られ、また、被害者が動転していて記憶があいまいだったり、矛盾する部分があったり、答えられないことがあっても当然なので、そういったことを不安に思わず、話してほしいと明記しています。
報告する際に一般的に必要なのは、以下です。

  • 誰がこれ(加害)をしたのか?

  • 何が起こったのか?

  • どこで起こったのか?

  • いつ起こったのか?

もし、職場で起こっているハラスメントで記録が取れる場合は、上記に加えて、「自分がどう感じたか」「目撃者はいたか/誰か」についてもメモしておきましょう。

最後に重要なのは、Worries about your behaviourです
加害者がゼロになれば、被害者はゼロになります。
加害者は加害をすることを選択できますが、被害者にはなんの選択もありません。
加害をしていると気づいた人には、言動を変えるようサポートが必要です。
ここでは、加害者を対象としたサポート機関の紹介がされています。
加害がまだ軽いうちに気づいて、加害者の言動が変われば(=加害をやめる)、被害は小さくおさめられます。

ヨーロッパに住んでいて思うのは、ヨーロッパでは、残念ながら問題は起こるものとして、その対応策を用意し、必要に応じて検証し、よりよい対応策へと変えていきます。
また、加害者をかばうような風潮も存在しません。
例えば、「痴漢や、会社で誰かの身体をちょっと触ったぐらいのハラスメントで仕事を失うのは、その人の家族も可哀そう」といった発言を思いつくことすらないでしょう。
加害者には、加害しないことを選択することができたのだから、加害した責任を取るのは当然です。
人間には理性があり、理性が(いつも、或いは特定の状況下で)働かないという人には、相応の治療を受けるなり、行動を制限される等の対策が必要となります。社会に危険を及ぼす人々を野放しにするわけにはいきません。

男性の性欲を言い訳に使う人々もいますが、加害者は、自分の会社の社長の妻や娘にハラスメントは行わなかっただろうし、欲しい時計を着けていた人を突然襲って時計を奪い取ることもないでしょう。加害者は、注意深くターゲットとする被害者や、被害する場所・時間・手口を選んでいます。自分に反撃しない/できない立場にいる人や、自分より下だと見なしている人を狡猾に狙います。日本のように社会全体に男尊女卑がいきわたり、かつ個人にも内在化している状態で言語化も行わない文化では、女性はヨーロッパよりずっと危険な立場に置かれるのは自明でしょう。
ただ、それは変わらなくてはなりません。
人口の約半分に危険な社会は、安全な社会とはいえないし、これは弱い立場に追いやられた男性の一部にも危険をもたらすでしょう。

The UKの対応も完璧なわけではありません。
でも、少なくとも、問題があることを認識しどんなアビューズも許さないという合意があり、みんなで安全な社会にしようとする努力は、政府、さまざまな機関、市民団体、市民たちが行い続けています。
アビューズの被害者となりやすい女性だけでなく、多くの男性が女性たちと共に歩き、良い方向に向かうよう活動しています。
私たちは、同じ社会に生きている対等な立場である仲間であり、性別や年齢、民族、国籍、宗教や性的な指向等に関わらず、みんなで協力して良い社会へと導いていくことが大切です。

誰もの尊厳が尊重され、それぞれが自分の個性を生かして一緒に生きていく社会は実現可能です。

Yoko Marta