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Accountability - イギリスの英国産業連盟でのハラスメント横行への対応

Yoko Marta
26.04.23 05:08 PM Comment(s)

イギリスの英国産業連盟でのハラスメント横行への対応

イギリスでは、つい最近、日本の経団連に近い、CBI(Confederation of British Industry/英国産業連盟)という団体で職員へのセクシャルハラスメントや性的暴行疑惑があり、団体の存続すら危ぶまれる状態となっています。現在は、今年の6月まで業務を停止するとしています。


独立系新聞Guardian Newspaper(ガーディアン紙)の記事は ここ より。

数十人の女性が、ガーディアン紙のジャーナリストに彼女らが経験した上司や同僚からの性被害に関しての話をしたそうですが、加害者も複数に渡っています。
BBCのニュースなどでも取り上げられましたが、セクシャルハラスメントを上司に報告したときに、素早く適切な調査と措置が行われ、加害者が解雇されたケースもあるそうですが、調査が行われず放置されていたケースもかなりあったそうです。とても悪いケースでは、「それは気のせいじゃないの?そんなことで調査対象になって彼が辞めさせられるようなことがあれば、彼の家族がかわいそうじゃないの?」と言われたこともあったそうです。
これらの訴えの中には、レイプもあれば、会社パーティーで既に少し酔っているにも関わらずもっと飲むように勧められたり、個人の携帯電話へのメッセージ、会社のパーティーで後ろをついてまわる(ストーカー)、外見についてコメントする等、さまざまなハラスメントが挙がっていました。

日本では、セクシャルハラスメントの前の段階で、基本的人権やプロフェショナル・バウンダリーが理解されていない面もあるかとは思うのですが、会社とは誰もがプロフェッショナルに仕事をするための場所であり、仕事と関係のないこと(外見や服装、個人的なバウンダリーに属することーソーシャルメディアや個人の携帯や個人的なディナーやランチ)には関わるべきではありません。
日本人間だと、部下には何をしても言ってもいいと思っている人々や、会社は家族と言っている人々も見かけますが、会社は家族のような個人的なバウンダリーに属しているのではなくプロフェショナル・バウンダリーに属しています。また、たとえ家族であっても、何でも言ってもいい・何をしてもいいという関係性は、世の中には存在しません。
常に相手のバウンダリーを意識して、相手を尊重し、バウンダリーを踏み越えないようにすることは、社会の一員として当然必要なことです。

誰かが「上」で誰かが「下」ということはありません。性別や人種、社会での地位、心身的な障害があるかどうか等は、そのひとの人間としての価値に全く影響しません。誰もがひととして対等であるということが、健全な関係性の土台となります。

極端な上下関係や権力の集中は、毒性のある環境を作り出す大きな要因だとして既に知られています。
日本の企業や社会のように、極端な上下関係が普通になっている環境では、気づくことが難しいかもしれませんが、職位の上下はあったとしても、ひととしては対等であることを忘れてはいけません。
相手が若いから、職位が低いから、勤務年数が短いから、女性だから、移民だからといった理由で、自分の理性やモラルを緩めてもいい言い訳とはなりません。

英国産業連盟でのハラスメントが横行する環境があったことが、そもそも間違っているのですが、この後の対応は、日本では起こりえないのではないかという素早いものでした。

英国産業連盟では、独立した外部の法律会社と外部のHR専門家に入ってもらい、すべての疑惑調査をすぐに始めました。
トップの男性は、深刻なレイプや身体的な性加害の訴えはなかったようですが、部下の女性のインスタグラムのアカウントを探り出していたり、数人を自分の私的なランチ会に呼んでいたりと、不適切な行動があったとして、早い段階で解雇となりました。
これらの訴えについては、彼がトップに着任していない時期も含まれているのですが、トップとしての責任(毒性のある環境を見過ごしていた/放置していた)ということで解雇でした。
彼は、この解雇について抗議はしていますが、個人的に数人をランチに招いたり、個人の携帯にメッセージを送ったりしていたことは、とても不適切で深く反省しているとは言っていました。

英国産業連盟は、Not For Profitで、加盟している19万社からのメンバーシップ費用で約9割の収入を得ています。
この状況を深く受け止めた企業が、どんどんメンバーシップを廃止しました。
英国産業連盟は、ある意味、イギリス企業のトーン(男女平等、会社でのどんなタイプのハラスメントも許さない等)をセットしています。そのため、今回の、職員たちの訴えは、当然重く受け止められます。

ここで見えるのは、加害者に責任を取らせる(=解雇)という明確な行動です。
Accountability(責任)がきちんと行動で示されなければ、同じこと(ハラスメント)は起こり続けるでしょう。
また、ここでは、権力の不均衡も原因だったのではないか、とされています。
女性で重要な地位についている人もいるものの、この団体の多くのトップは圧倒的に白人男性です。権力が限られた人数の白人男性に集中し、弱い立場に置かれるのは若めの女性が多いことも、女性軽視・女性蔑視につながり、キャリアを失うことを恐れた女性たちが沈黙せざるを得なかったことにつながったのでは、とする見方もあります。
また、訴えをあげたときの、マネージメントの対応が、マネージャーによって大きく違うことも大きな問題となっていました。
本来なら、ハラスメントに関するガイダンスが明確にあり、マネージャーはそれに従わなくてはなりません。もしマネージャーがそれに従わない場合は、専門の部門や外部等に訴えるメカニズムが存在していて、被害者の訴えが正当に扱われるようになっていなくてはなりません。

被害者が沈黙を強いられるような環境は存在するべきではなく、沈黙を破ることが容易で、被害者が復讐にあったりすることから守られる環境が存在していなくてはなりません。
ハラスメント加害者は、往々にして被害者よりも職位が高く権力、ネットワーク力もあり、被害者が訴えにくい状況におかれていることは、既に明らかにされています。

また、ここでは、男性同士の中でのネットワークもあり、自分の仲間やグループの上の人が起こした問題を「問題」として取り上げることで、自分の団体での立ち位置が危うくなることを恐れて、立場が弱い女性を黙らせるほうが自分にとって都合がよい、ということもあったのかもしれません。

日本と大きく違うのは、いったん問題が明るみに出てからは、団体自体が積極的にアクションを取ったことに加えて、社会もそういったことを許さない意見が強く、多くの企業も、権威のある団体にも関わらず、どんどん関係を絶っていることでしょう。
また、他の女性たちが被害にあった女性たちを責めるような風潮もありません。逆に、勇気をもって訴え出た被害者を、女性も含めて多くの人々が称賛しています。
日本で、例えば経団連で同じことが起こっても、彼らが外部の専門家を入れ、詳細な調査を行い、ハラスメントの加害者(インスタグラムの個人的なアカウントを探った/個人的に数人をランチに招待した等の日本だと恐らくハラスメントとして認識すらされないこと)を迅速に処分(=解雇)することが起きるとは想像できません。

ガーディアン紙の他の記事では、なぜ、こういった有害な企業文化が続いたのかについても興味深い考察がありました。
記事は ここ より。

こういったハラスメントが起こったのは、Inequality(不平等/権力や給料の高いポジションが白人男性に集中)、Exploitation(搾取/地位や年齢が低く、ネットワーク力が弱い往々にして若い女性への搾取)が土台にあるものの、この文化が根付いて、コントロールできない状態にまで陥ったのは、初期の有害な行動がチャレンジされなかったことにあると見られています。

この有害な行動とは、法律には触れないような、外見に対するコメントや態度、小さな攻撃性、悪質なジョーク等が、「彼はいつもそういうジョークを言うから」等で見過ごされてきたことがあるとされています。こういった女性蔑視・軽視の風潮がいったん根付いてしまえば、女性に対してのハラスメントは加速します。ハラスメントは、女性だけでなく、立場の弱い若い男性が標的となる可能性があります。

また、加害者が加害を続ける為には、協力者が必要です。

加害者は、権力をもともと持っている場合も多いものの、社内や社外に人的ネットワークを深く広く持っていることも多く、情報操作することに長けているとされます。
そのため、協力者たちは、①加害者に忠誠を示すことにより得る自分の利益を考えて、加害者の悪質な行動を積極的に可能にする人々、②加害者から悪く扱われ悪い評判を流されることを恐れて消極的に加害者の悪質な行動を可能にする人々、③見て見ぬふりをする人々が、共犯状態で、加害者の悪質な行動をかばい、続くことを可能とします。

加害者の行動に対してチャレンジしたりコメントする人々に対しては、加害者は彼らを悪く扱うだけでなく、情報操作をして周りからも悪く思われるようにします
それを見破ることができる人々がいたとしても、自分の立場が悪くなることを恐れて、見て見ぬふりを決め込む人々もいて、仕事環境はますます悪くなり、癌がどんどん転移するように、特定の加害者を取り除いても、有害な環境が続くことになるそうです。

ある特定の人やグループが権力をもち、仕事上の良いポジションに全く能力の足りない仲間をつけたりできる環境だと、どんなに有害な言動をする人がいても、自分の能力では得られないポジションを与えてくれるのであれば、見て見ぬふりをするでしょう。
また、その状況を見ている人々も、この特定の加害者やグループの悪質な言動にチャレンジすると何が起こるのかは明確で、かつ仕事上のポジションは能力ではなく不正で得られるものと知り、さっさと離職するか、沈黙することでしょう。
こういった環境はすでに、癌が転移し続けている状況で、加害者を取り除いても、状況は変わりにくいでしょう。
最初にこういった不正を起こさせないような環境を作り、少しでも兆候を見せれば、問題が小さな段階でつぶす必要があります。
最初に、法律には触れない小さなことに見えることでも、悪質な言動を許してはいけません
また、極端な上下関係を作らないこと、権力の集中を引き起こさないことも重要です。それには、権力の集中を監視する役目のポジションや部署、それに関る予算や教育も必要です。

Financial TimesのPodcastでは、被害者も目撃者も、有害な言動があったときに、匿名でも名前ありでもすぐに会社のサーバーに何が起こったかを報告できるシステムが有効だとしていました。加害者の言動には、通常パターンがあり、たとえ一つ一つは法律に触れないことでも、様々な人々から一定のパターンが報告されれば、HRや担当部門も、言動がエスカレートする前に迅速に措置を行うことが可能となります。これは、被害者・加害者双方と、企業を助けることになるでしょう。

もちろん、ハラスメントがない環境が当たり前であるはずですが、実現されるまでは、こういった仕組も有効に活用していくしかないでしょう。

私たちが日常でできるのは、仕事でも家庭でも、普通に友人たちと話しているときでも、女性蔑視や若い人たちを怒鳴ったり馬鹿にしている言動をみれば、きちんとそれはいけないことだと指摘することでしょう。

社会全体が、誰もが対等で敬意をもって対応することが普通になれば、会社でのハラスメントも起こらないでしょう。

悪いのは100パーセント加害者ですが、加害者を作り出す/のさばらせる環境を止める努力は、私たち一人一人が行う必要があります。

Yoko Marta