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犯罪と死刑への考え方の違い ー ヨーロッパと日本

Yoko Marta
21.06.23 04:29 PM Comment(s)

犯罪と死刑への考え方の違い ー ヨーロッパと日本

先週(2023年6月13日)、悲しいことに、イギリスの北部Nottingham(ノッティンガム)で、大学生2人とCare takerだった65歳の男性の計3人がナイフで刺殺されました。犯人は逮捕されましたが、現在のところは、以前から精神的な病気を持っていることで知られていたようで、テロ事件ではなく、精神的な病気が悪化したのではと考えられています。BBCの記事は ここ より。


先週、亡くなった3人を悼む集会が、ノッティンガムの中心で開かれ、多くの人々が参加しました。
亡くなった3人の家族が、集まった人々に語りかけたことは、恐らく日本では想像しにくいと思います。

家族のメッセージは「お互いに思いやりをもった行動を心掛けてください。どうぞ、あなたの心に憎しみをもたないでください。私の子供のために、祈りをささげてください
この中でも、亡くなった女子生徒の母親は、特に、「どうぞ、人種や性別、宗教といったことに関ることに憎しみをもたないでください」と強調していました。
集まった人々の中には「Choose Love(愛を選んで)」というメッセージの書かれたバルーンを持っている人もいました。

この発言の背景には、犯人とみられる人は、有色人種で、イギリスのメイン宗教であるキリスト教徒ではない可能性があり、また移民である可能性が高いからです。
イギリスの欧州連合離脱をめぐって、人種や国籍、移民に対する恐れが大きく扇動され、第二次世界大戦前のドイツの状況(ユダヤ人を非人間化するような「言葉」から始まり、虐殺へと至った)を彷彿させるとして、多くのユダヤ系の人々も警告を発していました。
現イギリス政府の移民担当の大臣も、移民に対してのひどい言動をすることで、さらに移民への憎悪を煽っていると強い批判を受けています。亡くなった女生徒の母の「ひとを憎まないで」というメッセージには、彼女の子供の死を、こういった政治的な目的に使われたくない、という意図もあります。

日本だと、犯罪を私的なことに捉えて、「目には目を=死には死を」という発想が多いと思うのですが、イギリスを含むヨーロッパでは、主流となる考えは大きく違います。
犯罪は社会に対する攻撃であり、個人の感情に基づくのではなく、その国の法律に基づいて裁かれます。また、犯行に及んだ人の行動は当然非難し罰せられますが、その人自身のBeingが完全に否定されるわけではありません。なぜなら、ひとにはエージェンシーがあり、正しいことを選択するよう、変わることができると信じられているからです。
罪を犯したからと言って、その人のBeingに染みがついて一生消えないという考え方ではありません。
彼らは、法律で裁かれ、罪を償い、社会に帰ってきます。

亡くなった女生徒の母も、「私の娘は、シンプルな望みを持っていました。医者になること、人生を楽しむこと。(娘の命が突然奪われたのは)とてもアンフェアです。犯人は、正義に直面する必要があります。」と述べていました。
ここには、個人的に復讐をしたい、という意図は全くありません。

もちろん、裁判では、家族の感情も考慮はされますが、法律を個人が手に握るようなことがあれば、社会が大混乱に陥ります。
また、「目には目を=死には死を」という考え方は、ヨーロッパでは受け入れにくいものです。
これは、原始的な社会で法律もなく、お互いが際限なく復讐を繰り返すような野蛮なあり方だと思われがちです。
法律は、社会でさまざまな考えや背景をもった人々が、お互いの権利を尊重しながら、安全に生きられる最低限の決まりを定めたものです。
個人個人が決まりを勝手に決めたり変えたりする社会では、特にマイノリティーにあたる人々の権利は侵害され、結局誰にとっても危険な社会となります。

人間は神でなく、間違いを犯すものなので、もしかしたら犯人とされた人は無実かもしれないという疑いは消しづらいし、人間が人間を殺す(=個人的な復讐と捉えられる)のもモラルとして納得できないし、犯人を殺したからといって被害者が生き返るわけではない、また、誰にでもやり直しのチャンスは与えられるべきだ、というさまざまな考え方が存在します。

そのため、「死刑」が合法で実行されている国は、地球上でも少なく、先進国ではアメリカのいくつかの州ぐらいで、経済的に先進国とみられている日本で、いまだに死刑が実行されていることについては、非常に驚かれます。

考え方はさまざまですが、ヨーロッパや他の国々から見た考え方を知ることも、自分の考えの幅を広げることにつながります。
また、ヨーロッパで暮らすのであれば、犯罪や死刑に対するヨーロッパと日本の考え方の違いを知っておくことは重要です。

Yoko Marta