The Green Catalyst
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なぜ社会の仕組を知ることが大切なのか

Yoko Marta
24.07.23 02:57 PM Comment(s)

資本主義は終焉に向かっているのか

資本主義や民主主義を知ることが大切なのは、特に貧困に追いやられた人々、マイノリティー(女性、子供・移民等)、富を子供に移転することができる親や親族をもっていない人々です。

現時点で、全世界の50パーセントの冨は、全世界の1パーセントの人々によって所有されていると考えられ、この富の蓄積は、パンデミック下でも加速しました。これは、「自然」な流れでもなく、これらの富裕層が「優秀」でも「努力を積み」富を増やしているわけでもありません。
この富の蓄積は、民主主義や資本主義を自分たちが利益をえつづけるために、これらの富裕層が金力をつかって捻じ曲げてきた結果です。
金力は権力の獲得へもつながります。

この仕組は、多くの地球上の人々にも環境にも悪い影響を与えていますが、富裕層は自分たちに利益が出ている仕組みを変えたくはありません。
悪影響を受けている普通の市民たちが、何が起こっているかをよく理解し、金力にCapture(キャプチャー)された政治や社会の仕組にNoをつきつける必要があります。
かつ、世界中の多くの人々にとってJustな社会のヴィジョンをもち、協力しながら前進していく必要があります。
私たち一人一人のアクションが必要です。

民主主義と資本主義はセットで語られることが多いものの、必ずしもこの組み合わせだとは限りません。
ヨーロッパの多くの国々、特に北欧では、民主主義+資本主義+社会主義の組み合わせです。特に北欧では、資本や生産手段を国家が所有(=共産主義)ではなく、国家がかなり厳格に統制する仕組で、そこで出た利益は国民全体のために使われます。例えば、大きな投資は、教育(学校は大学も含めて無料)、福祉(子供が生まれる前からの保障やサポート、子供が小さいうちのサポート、無料の病院治療、職を失った際の十分な保障や次の仕事へつなげるサポート等)へと行われます。

共産主義は、資本主義を真っ向から否定する主義で資本主義とは全く相容れませんが、社会主義は民主主義と共存可能です。
また、現在、共産主義国とされているのは5か国ほどですが、そのうちの中国やベトナムでも、資本主義と重なる部分の多い市場経済を取り入れており、純粋なイデオロギーとしての共産主義国はないと考えられています。

資本主義と一口にいっても、さまざまな形態の資本主義があります。
ヨーロッパでは9世紀から15世紀にかけては、少数の王族や貴族が土地や家屋、農地等を独占的に所有するハイラルキーの強い社会で、農民たちは地主から季節労働で土地を借りて耕し、儲けの多くは地主やその上の階級にいくような仕組みで、農民や市民の自由はとても制限されていました。
人々は、個人の自由、政治や経済においての自由(不正義でアンフェアな政治や政策に自由に意見を述べることができる権利)を求める動きとなり、資本主義(個人が家や土地といった不動産を所有できる自由)と民主主義(政治的な自由)の組合せを選択する地域が増えてきました。

第二次世界大戦後には、戦後の復興ということもあり、多くの政府は公共事業(橋や道路といったインフラストラクチャー、教育や福祉の充実等)に多額の投資を行いました。
1980年代以降、アメリカもイギリスも、「Free market capitalism: 自由市場資本主義」へと動きます。
アメリカではリーガン元大統領、イギリスではサッチャー元首相が強くこの動きを推進しました。政府の介入や規制をできる限り少なくし、自由市場にまかせようとするものです。この「自由市場」ということばは矛盾したものなのですが、後述します。

イギリスを除くヨーロッパ諸国は、旧ソビエト連邦のもとにあった国々もあれば、スペインやポルトガル、ギリシャのように長らく独裁政治のもとにおかれた国々もあり、イギリスのように極端に規制を緩めて「市場」に完全に任せようという動きは大きくありませんでした。

リーガン元大統領もサッチャー元首相も、経済は「Suply side economy(サプライサイド・エコノミー)」「Trickle down economy(トリックルダウン・エコノミー)」、イデオロギーとしては「Neo liberalism(ネオ・リベラリズム)」を追求しましたが、どれも結果的に、大きな貧富の差を作り出し、公共サービスの質が大きく落ちたと見られています。
どの考え方も、企業等への規制を極端に弱め、企業への税金もとても低くし、金儲けしたい人はどのような手段を使っても(違法でない限り)金儲けにまい進してもらい、結果的にこれらの企業や富裕層が大きくなり、もっと多くの人々を雇い、給料もどんどんあげることで、国全体の経済もよくなり、生活も向上するというものです。
公共事業も、「私営化して市場での競争に任せたほうが、サービスの質も向上するはず」ということで、多くが私営化されました。
実際は、多くの普通の市民にとっては、とても悪い結果となっています。

イギリスの極端な例では、水事業が私営化されたものの、競争もなくモノポリー状態で、監査しているはずの監査機関は、この私営水事業の役員と監査機関で人が行き来している状態で、監査は全く機能していないことが、最近判明しました。イギリス政府はそれを知っていてもなんのアクションも取りませんでした。
この私営水事業は、水道管のアップグレード等の必要なことは行わず、その上、未処理の下水を基準をずっと上回る量で海や川に放出し続けていて、現在イギリスでは遊泳禁止になっている場所がかなりあります。
この私営水事業は、私営化されるときには、とても低い価格で買うことができ、借金もゼロだったにも関わらず、現在は多額の借金を抱えています。
その多くは、この企業の歴代社長たちと株主たちに支払われていたということが明らかになっています。この社長たちも、まともに経営が行われず、どんどん借金が増えている状態を知っていながら、自分たちに多額の給料やボーナスを設定していました。水事業は、全く競争がないモノポリー状態がずっと続いており、水は誰もが使用せざるをえないものなので、そんなにシンプルなビジネスで信じられない額の借金を作るのは、これらの社長たちが無能だったと言わざるを得ないでしょう。
現在、多くの人々がインフレーションに苦しんでいる中、水道管・汚水処理施設のアップグレードのために、水道料金が大きく上がることが検討されています。でも市民にできることは限られています。
なぜなら水道会社は一つだけで、選ぶことはできないからです。
政府が水事業を買い上げて国営化するべきだという声もありますが、借金の額が大きいことと、この企業の株をもっているのは、イギリス大学機関の年金機構や他の国の年金機構も含まれているため、恐らく不可能だと考えられています。
水事業が国営化されれば、株の価値はなくなり、イギリス大学(ほぼすべての大学は国立)で働いている/働いていた人々が払い込んできた年金はなくなり、かつ、他国からも、突然私営企業が国有になるような危険な経済・政治状況にある国には投資できない、というさらに大きな問題も起こります。
結局は、水を使用せざるを得ない市民がこの会社のミスマネージメントのつけを払うことになります。
場合によっては、国民の税金からも補填しないといけないかもしれません。
水事業を私営化している国は地球上でもほぼ存在せず、極端な例とはなりますが、私営企業をモノポリー状態で野放しにすれば何が起こるかという一つの例でしょう。

イギリスの前首相リズ・トラスは、サッチャー路線を引き継ぎ、「市場原理主義」の極端な方向へと舵をきり、世界から信用を失い、イギリスで最も在任期間の短い首相となりました。信用を失うと何が起こるかというと、国の借金の利率があがり、年々借金に対して払う利息があがり、国内で使えるお金が少なくなります。
彼女は、アメリカの「市場原理主義」を掲げるシンクタンクからも後押しされており、現在でも、自分の方向性は正しく、もう少し時間があれば、良い結果が出ていたと発言しています。

いったん、「市場」という概念に戻ると、「市場」はモノやサービスのやりとりをする場で、需要と供給によって価格が最適状態に変る仕組だと考えられますが、完全に「自由」な市場は存在しません。
人間を奴隷として取引することはほぼすべての国の政府で禁止されているし、石油系企業を保護するために多くの補助金が出ている場合もあります。完全に「自由」な市場では、補助金もないし、何も規制はありません。実際には、「市場」は政府が介入し、規則を定めています。

市場原理主義は、上記の現実を無視しているものの、規制緩和を大きく進めることに寄与しました。これは、とても大きな危険を普通の市民にもたらしました。アメリカほど極端ではないものの、イギリスは、サッチャー元首相以降、規制緩和へと大きく舵を切りました。「規制」は、どんな手をつかっても金儲けをしたい企業やひとびとには邪魔なものですが、普通の人々の暮らしを守るためには必須です。ファイナンスの規制を緩めたのが原因で、2008年には経済危機が起きたし、今度もまた起きると見られています。多くの銀行は「Too big to fail(つぶすには大きすぎる)」ということで、無責任で危険なビジネスを行っていた(一部は違法)にも関わらず、国民の税金を使ってでもそのまま残り、何も悪いことをしていない普通の人々が家や職を失いました。

また別の記事にしますが、この市場原理主義とLibertalian(自由主義/リバタリアン)が結びついたものとして、南アフリカのCiskei(シスカイ共和国ー現在は南アフリカ共和国へ併合され存在しない)の悲劇的な例もあります。

現在の資本主義は、一部の富裕層に富が蓄積され続ける仕組みが作られ、多くの人々が不公平だと感じています。
これらの富裕層は自分たちがビジネスをする、また資産をもつ国で税金を支払わなくていいようにする仕組みを作り出し、普通に働いている人よりもずっと低い税金を払っています。
Rentier capitalism(レンティエ資本主義)も、最近よくきかれる用語ですが、何かを生み出して社会に還元するのではなく、モノポリー(パテントやコピーライト、所有する不動産や株等)から富を抽出していることを指しています。例えば、製薬企業が、開発した薬のパテントを長期間独占できるよう、政治家たちにロビー活動を行い法律を変えさせ、長期に渡って薬のモノポリー状態を作り出し、価格をつりあげ大きな利益を出し続けることなども、よく起こっています。
これは、本来の市場主義の原理である、社会が必要としているモノやサービスを企業がうみだし、人々はそれを最適な価格で手に入れられることができる、ということから外れています
また、上記にあるように、多くの冨は、既に富裕層がもっている不動産や株等から利益を得て、働いたり何かを生み出して社会に貢献することなしに生じている富(=結局は富裕層でない人々が家を借りたり地代を払ったり、会社の株や広大な土地や屋敷を親や親族から譲られ、その利益で富を得ている等)となり、その上、これらの冨は、海外の秘密口座に送り、税金を払わない例も多く、また富裕層への税金をとても低くするようなロビー活動も行われ、多くのトップ富裕層の払う税金の割合は彼らの得る富に比べて極端に低いとされています。
税金を払う割合で言えば、中間層・低所得層が大きな割合で払っています。これは、システムが機能していない証拠です。

また、会社が税金を少なく払うのは間違っています。
なぜなら、企業が雇っている優秀な人々の教育や、必要なインフラストラクチャー(道路、橋、インターネット、電話、学校教育、病院等)は、税金によって賄われています。人を育てるには多くの税金がつかわれているので、その人々を雇っている企業は、税金をきちんと払うべきです。そうすれば、ビジネスを行っている地域での教育を含むインフラストラクチャーにきちんと設備投資ができ、人々の暮らしもよくなり、人々が自分の力を発揮できる土台ができ、結果的に良い結果をえることもできます。

Crony Capitalism(クローニー・キャピタリズム/縁故資本主義)もよく使われる用語ですが、仲間内での排他的な資本流通です。これは、経済途上国だけでなく、日本でも小さな規模で起こっているように思います。

また、この資本主義に関連して、GDP(国民総生産)で経済をはかることにも疑問が投げかけられています。
GDPだと、モノやサービスのやりとりの総額なので、石油会社が環境汚染をすれば、それを除去するビジネスが必要となり、GDPでみると、環境汚染されたほうがGDPがあがる、という皮肉な結果にもなります。経済をGDPだけにたよるのは、もう適切ではないという声も大きくあがっています。

現在の資本主義は終焉を迎えている、という意見もあるものの、Common good(公共の利益)のために経済が動くよう、現在の資本主義に対して、きちんと政府が介入し、ひとびとを守る規制をきちんと設け、正常に機能する監査機関を作る・強くするという意見もあります。
また、Social Contract(社会契約)として、何をPublic(公共)とするかも真剣に話し合う必要があります。
同時に、民主主義を正常に機能させるためと同様に、政治からお金を追い払う必要があります。特に1980年代以降、大企業や富裕層は、政治に献金することを通して、法律の制定に大きく影響を及ぼし続けています。

社会の隅っこに追いやられると、生きることだけで精一杯で、富裕層がつくった仕組の中に閉じ込められ、搾取され続けていることにすら気づかないのは仕方のないことですが、一人一人が気づいて、小さなアクションを起こしつながっていくことで、この捻じ曲げられた仕組を変えることは可能です。
貧困はつくられたもので、自然なものでもなければ、個人の責任でもありません。

物理学の世界では、分子に少しでもテンション(緊張が)かかると、全体が「必ず」変わるそうです。
あなたが、社会の仕組みを知ろうとするその行動がすでに、分子がテンションをもつ状態にします。あなたの変化は、ほかの人々へも影響します。
まず最初に、興味をもって社会の仕組を知ろうとすることから始めましょう。

Yoko Marta