押し付けられたネガティヴな自分像を捨てて、新たな自分の物語を作ること

Yoko Marta
18.09.23 03:51 PM - Comment(s)

押し付けられたネガティヴな自分像を捨てて、新たな自分の物語を作ること

最近、国営放送BBCで90年代に放映された、「 Our Friends in the North 」が再放送されました。
James Bondを演じたこともあるDaniel Craig(ダニエル・クレイグ)さんも出演しています。1960年代から90年半ばにかけてのイギリス北部のNewcastle(ニューキャッスル)に住む4人の友達を軸に、イギリスがどう変わっていったかを描きます。

イギリスは、階級社会で、Northerners(北部のひとびと)という際には、「労働者階級」「貧しい」といったラベルが貼られがちです。実際は、18世紀半ばから19世紀半ばまでは、ニューキャッスルは、Industrial revolution(産業革命)でとても栄えた地域で、経済的に豊かな場所でした。第二次世界大戦後は、造船業や蒸気タービン等の産業もグローバライゼーションでもっと賃金の安い国に移ったりして、とても寂れた場所になっていきました。サッチャー元首相が就任してからは、大幅に福祉を削り、国営企業の私営化、公共事業や公共インフラストラクチャーを個人に売り払うことも大きく行いました。現在のイギリスのSocial Housing(公営住宅)の大幅な不足とホームレス問題(フルタイムで働いていてもホームレスになりうる)、家を数多くもっている家主がメインテナンスのとても悪い家を法外に高い家賃を課すことも可能にしている現状も、このサッチャー時代の政策が大きく影響していると考えられています。
また、このドラマにも出てきますが、炭鉱労働者のストライキをサッチャー元首相はたたきつぶし、代わりになる産業や仕事は何も提供しなかったため、地域によっては70パーセントに近い失業率を作り出した場合もありました。
この影響は現在も続いています。

このドラマの中の4人の友達の一人はニッキーで、父は炭鉱労働者で、政治を変えるために、地域のために北部からロンドンの中央議会までマーチを行い、炭鉱労働者を救うことを訴えますが、結局は変化を起こすことはできず、失意を抱えて政治には関わらないことを選択しました。

息子のニッキーに対してもとてもビターで、「お前は役立たずだ。なんのいいこともしない」等のネガティヴなことを始終いいます。

母親は、強くて優しい女性ですが、昔のイギリスらしく、子供に直接言葉で愛情を示すことについては、とても控えめです。

ニッキーは紆余曲折あるものの、ジャーナリスト・カメラマンとなり、南アメリカや世界中のさまざまな場所から報道し、著作を出すまでとなりますが、いつまでたっても「自分は役立たずで、なんのいいところもない」という父親のことばからぬけだせません。

恐らく、この父親のことばは、息子のニッキーではなく、自分の人生が失敗だったという思い込みからきている、自分自身に対することばだと思われるのですが、ニッキーは気づきません。愛している人がいて、その人も自分を愛してくれているのに、それをサボタージュして、別の若い女性に逃げたりと、自分を傷つけるだけでなく、自分を愛している人々も無意識に傷つけていきます。

母親が亡くなったときは、長らくイタリアに住んでいて母に会ったのは4年前で、手紙でずっと親しいやりとりをしていたという設定でした。
母のお葬式の前に、母がよく話をしていた神父から、母がどんなにニッキーのことを誇りに思っているかをよく語っていたことを知らされます。それを聞いたニッキーはようやく自分のネガティヴ・セルフトーキング(自分自身に対して習慣的に悪くネガティヴなことを頭・心の中で言うこと)を打ち破ることができます。

赤ん坊のころから、ネガティヴなことを言われ続けていれば、信じてしまうのは脳の仕組上からも仕方のないことではありますが、ニッキーの場合にしても、事実でないことは明らかであり、父親が自分自身に対する失望を自分でうまく扱うことができず、自分より弱い存在の息子にプロジェクト(投影)したにすぎません。

でも、多くの人々は、このネガティヴ・セルフトーキングを信じ、幸せになる機会を自らつぶすことになります。

私たちには、それに気づいて、誰かから(多くは親や権威のある人々から)押し付けられた事実でないネガティブな自分像を手放し、新たな自分像をつくることができます。

もう一つ、全く違う背景ですが、チャットボットの産みの親としても知られるJoseph Weizenbaum(ジョゼフ・ワイゼンバウム)さんも、社会・国際的に成功したけれど、ジョゼフさんの父親からの「役立たず」と繰り返されたネガティヴな刷り込みから抜け出せず、自殺未遂をしたり、愛がある関係を築くことができず、子供たちや妻がどんなに彼を愛していても、孤独な思いを抱えたままだったようです。
彼のお話は、独立系新聞紙のガーディアンの ここ より読めます。

ジョゼフさんは、ドイツで中・上流階級のユダヤ人として生まれましたが、ナチスの力が強まり、多くのユダヤ人が迫害にあうなか、家族はアメリカの親戚のもとへと引っ越すことを余儀なくされます。
ジョゼフさんは、徐々にユダヤ人への締め付けが厳しくなるドイツで、普通の学校へユダヤ人生徒が通うことが禁止されたため、ユダヤ人のみの学校へと行くこととなります。そこでは自分とは大きく階級の違う貧しいユダヤ人で、自分の父のように東ヨーロッパからの移民である子供たちにあいます。ここで、ジョゼフさんには、とても尊敬する友達ができますが、ほかの多くの子供たちにはなじめず、ここでも孤独を感じます。
一度、この親友を家に連れてきたことで、父はジョゼフさんに激しい怒りを見せたそうです。
それは、父自身が、自分が育った貧しい東ヨーロッパでの人生をすっかり捨て去り、裕福な上流階級の人としてふるまっていたのに、ジョゼフさんの親友の貧しい服装等をみて、自分が過去に惨めだと感じていた時代に引き戻されたかのように思ったのではないかとしていました。
これも、父自身の問題であって、ジョゼフさんとはなんの関係もないのですが、ますます父からの「お前は役立たずで愚鈍だ」という攻撃が激しくなることとなります。

英語が全くできないままアメリカに渡ったにも関わらず、ジョゼフさんはあっという間に数学での才能をみせます。でも、ユダヤ人ということで、多くの門戸は閉ざされていました。それでも、彼の素晴らしい理数系の才能で、理数系ではよく知られている大学、MITで教授になったりと、公的には輝かしい功績を残すことにはなります。60年代にチャットボットを作ることになったのは、心理療法に大きな興味があったことからきているそうです。

晩年は、ドイツに戻り、ある程度幸せに暮らしていたそうですが、娘さんたちによると、自分への劣等感から抜け出すことは一生できず、苦しんでいたそうです。娘さんの一人は、「父の精神的なダメージは大きすぎて、ほかの人々や家族の愛を受け入れる・気づくことが十分にできなかった」としていました。

ニッキーはフィクション上での人物で、ジョゼフさんは実際に生きていた人なのですが、このネガティヴ・セルフトーキングの問題は、全世界共通だと思います。

このネガティヴ・セルフトーキングで苦しんでいる人たちに、どんなに彼ら・彼女らが素晴らしいか(優しい/フェアである等ー社会的な功績や地位とは関係ない)を言っても、なかなか聞いてくれないでしょう。
ひとには、なぜかネガティヴなことをより信じる傾向があるそうです。

でも、よく自分の頭と心で考えてみましょう。

生まれてきた瞬間に、「自分は愚鈍で役立たずで、この世の中にいる意味なんてないんだ」と考えている赤ん坊はいません。

これらのネガティヴな刷り込みは、親といった保護者や、子供のときに、自分に対して権威をもつ存在や、社会から勝手に押し付けられたものです。

なぜ、それをやすやすと信じてしまうのでしょう?
また、それが、自分や自分の愛するひとたちに及ぼしている影響についても思いをはせる必要があります。
あなたは幸せになる権利も機会もあるのに、それをサボタージュするのはなぜでしょう。

あなたを愛している人たちのいうポジティヴなことは簡単に無視して捨て去るのに、自分を無意識にでも傷つけようとする人や、自分自身のネガティヴな感情を扱えずに、子供である脆弱な存在であるあなたに、ごみを投げつけるように投影して、自分がラクになることを選ぶ人々のことばを信じるのは、意味をなさないことに気づきましょう。

あなたが押し付けられたネガティヴな自分像は、「事実」でも「真実」でもありません。

あなたは、今、ここにいるだけで、十分なのです

Yoko Marta