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女性たちがメディア界で重要な決定権をもつ立場に就任することで変わるもの

Yoko Marta
20.09.23 12:07 PM Comment(s)

女性たちがメディア界で重要な決定権をもつ立場に就任することで変わるもの

日本では、あまり知られていないかもしれませんが、イギリスの元スタンダップ・コメディアンで、国営放送BBCも含む多くのメディアに出演していた時代もあるRussell Brand(ラッセル・ブランド)が、複数の女性に対しての性的暴行・レイプを行っていたことがイギリスの新聞、 The Sunday Times で報じられました。

ラッセル・ブランドは全ての嫌疑を否定していますが、業界内では、彼のひどい行いは広く知られていたそうです。

スタンダップ・コメディー界でも、ギグ(テレビやラジオで放映されず、パブや劇場で観客を前に行われるので、厳しい放映規制を受けず、テレビやラジオに比べると比較的自由な発言が可)で、ラッセル・ブランドの性加害について言うコメディアンもいたものの、ラッセル・ブランドの強い影響力を恐れた主催者側が、そのコメディアンのマイクを突然切ったりと、彼の影響力は非常に強かったそうです。

彼が嫌疑をかけられている内容は、とてもひどいものですが、メディアや社会は、これまでの、強い権力や影響力をもった人々の性加害への対応を変えたのでしょうか?

国営放送BBCで長らくジャーナリストをしていて、近年BBCを辞任し、「 The News Agent 」に移籍したEmily Maitilis(エミリー・メイトリス)さんが、今回の件について、とても興味深いPodcastをしていました。

エミリーさんによると、過去には、たとえ性加害をする有名人がいたとしても、彼らから訴えられることを恐れることもあり、また、「そのぐらいで」ニュースにする価値があるのか、というメディアのトップや経営陣からの態度もよく見たそうです。

でも、近年の違いは、多くの大手の新聞社やメディアに、重要な決定権のある地位に多くの女性が就任したということです。
今回のラッセル・ブランドの件を担当したThe Sunday Timesの女性Investigative Journalist(調査報道者)は、Rosamund Urwin (ロザマンド・アーウィン)さんで、彼女の4年にわたる精巧な調査を承諾しサポートしたのは、女性のボスです。

また、イギリスのテレビ番組Channel4で、同じくラッセル・ブランドの性加害を報道するドキュメンタリーを制作したのも、ニュース部門のトップを務める女性、Louisa Compton(ルイーザ・コンプトン)さんです。

エミリーさんは、ロザマンドさんを招いて対話を行っていますが、その中で出てくるのは、男性だったら「そのぐらいで。。」と躊躇してGoサインを出さない可能性もあるけれど、女性だと「同じパターンの話が数件あるということは、これは氷山の一角でもっとひどいことが隠れているに違いない。」という発想になり、緻密で長い時間がかかり、予算もかかり、有名人から逆に訴訟を起こされ、負ければ多額の賠償金だけでなく、自社の新聞自体の信用を失う可能性があるという大きなリスクがあっても、社会のために真実を調査し知らせることは重要だ、という判断になるそうです。

また、「被害を受けたという女性たちは、お金や有名になるために嘘をついているのでは」という見方も、男性の間では根強い間違った神話であるものの、女性ジャーナリストたちは、被害を受けた人々は深く傷ついていて誰にも話したくない、という人々が大半であることをよく理解しています。ジャーナリストと話すにしても、証人としての信用度を確かめるために、犯罪歴やとても詳細な個人的な情報、被害の詳細な内容を聞くことになり、これらを乗り越えて、「真実を明かしてこれ以上の被害者を出したくない」という勇気を持ち続け、かつ経済的、精神的に取材や裁判を乗り切れる女性は限られます。
新聞社としても、誰にも覆せないような確実な証拠がある場合しか新聞には掲載できないので、たとえ真実でも、10年以上前で、証拠の数が限られているような場合は、見送るしかありません。
4年の取材を通して、現在紙面に出ている被害者は4名ですが、取材で真実を語った人々はもちろんそれよりずっと多く、さまざまな事情でジャーナリストや警察にコンタクトできない女性たちも数多くいるとみられています。ジャーナリストのロザマンドさんは、今回の4人の女性被害者について、ラッセル・ブランドとのテキスト・メッセージでのやりとり、レイプ・クライシス・センターでの診断書等の証拠をきちんととっています。

また、被害者同士がお互いにつながっていると、信ぴょう性が著しくさがるとして、これらの被害者同士には全くつながりがありません。
多くの被害者は、こうやって事件が大きく報道されるまでは、自分一人が被害者だと思わされていて、有名人で権力をもっているひとに対して訴えることはできない、と諦めてしまいます。
また、ラッセル・ブランドの場合、被害者をかなり脅しているケースもあったようで、ますます警察にはいきづらくなるのは明らかでしょう。

ラッセル・ブランドは、2008年にBBCの番組内で編集上の違反をおかし、イギリスのメイン・メディアから追い出された後は、アメリカのハリウッドで少し活躍した後、Youtubeで「Wellness Guru(ウェルネスの教祖)」として新たな自分像を作り出し、陰謀説をまき散らし、約600万人以上のフォロワーがいて、かなりの収入を得ているそうです。
被害者が声をあげようものなら、これらのフォロワーからインターネット上でも攻撃され、現実の世界でも攻撃を受けることは目に見えています。
すでに、彼からの性加害で深く傷ついた女性たちが、これらを考え合わせて、声をあげることが難しい、と感じるのは当然でしょう。

現在、イギリス警察では、ラッセル・ブランドの被害者たちに向けて、「どんなに昔に起こったことであっても、ぜひ私たちに話してください」と呼びかけています。

このラッセル・ブランドの性加害については、非常に緻密な調査が行われ、きちんと新聞でも報道されているにも関わらず、真向からこれを否定して、ラッセル・ブランドは無実だとする有名人はたくさんいます。

テスラやX(旧ツイッター)で知られる億万長者のElon Musk(イーロン・マスク)、女性蔑視は正しいことだとし、人身売買の嫌疑で逮捕されたAndrew Tate(アンドリュー・テイト)、Sandy Hookでの大量射殺事件は起こっていないと完全な嘘をつき、遺族に対して多額の賠償金を払うことを裁判で命じられたにも関わらず、多くの資金を兄弟や親戚等に移して、会社は破産したとして賠償金を全く払っていない、陰謀説をまきちらすAlex Jones(アレックス・ジョーンズ)等です。

彼らは、お金と影響力を強くもっている男性たちで、事実なんてどうでもよく、陰謀説をプロモートする人々です。
厄介なのは、彼らは多くのフォロワーや大きなプラットフォームをもっており、彼らの言うことに影響される人々はとても多いということです。

イギリスには、アメリカの極右派にあたるGB Newsという比較的新しい番組がありますが、この番組のコメンテーターの女性、Beverly Turner(ビヴァリー・ターナー)は「ラッセル・ブランドは私のヒーロー。あなたは、私の番組(GB News)へ出演することは、いつでも歓迎」とツィートを行いました。これについて、番組の共演者であるAndrew Pierce (アンドリュー・ピアース)さんが、番組内でビヴァリーさんに対して「これ(GB News)は、僕の番組でもある。きみは、4年にわたるというジャーナリストの調査をきちんと新聞で読んだのか?この被害者の女性たちの側にも聞いたのか?」とチャレンジします。ビヴァリーさんは、この質問には直接答えず、「この件を知っている内部情報者の何人かに確認したけど、ラッセル・ブランドは無実で、被害者の女性たちは匿名で誰にも事実を確認しようがなく、彼女たちの信ぴょう性はない」という内容を返し、記事も読んでいなければ、女性側の信ぴょう性なんて、はなからどうでもいいことが明らかです。
なんどかこういったやりとりを続けたあと、彼女は、「ラッセル・ブランドは数百万人のフォロワーをもっていてワクチンに関して真実を語っている(←陰謀説)」等、話をすりかえます。
アンドリューさんに、「ビヴァリー、恥を知れ!これ(The Sunday Timesの報道)はきちんとしたジャーナリズムで、きみは被害者の女性たちを攻撃しているだけだ」と何度も繰り返しましたが、ビヴァリーさんは完全に話をすりかえ、陰謀説について語り続けます。
このGB Newsはまともなニュース番組ではなく、極右派のメッセージを伝えるとても煽情的なつくりになっているので、アンドリューさんの対応も、番組の視聴率をあげるための演技ではないかとうがった見方をしたくはなるものの、ラッセル・ブランドのような人を擁護するのが自然な流れだとみられる極右派の番組でさえ、ラッセル・ブランドの性加害の報道を認めている発言をしているのは、社会やメディアも変わってきているという証拠かもしれません。

イギリスの独立系新聞、ガーディアン紙では、メディアの対応について、陰謀説の調査取材も深く行っている、信頼のおける女性ジャーナリスト、Marina Hyde(マリーナ・ハイド)さんが、「ラッセル・ブランドの性加害について勇敢に声を上げた被害者の女性たちに、その勇敢さにふさわしい万全なサポートを。今回こそは、正しく、的確に」という 記事 を書き、過去のメディアが、勇気を出して声をあげた被害者の女性たちを疑いの目でみたりして、正しく対応していなかったことについて、過去の自分自身のバイアスも含めて、メディア全体が正しい方向に向かうべきだと呼びかけています。この中では、ラッセル・ブランドがメイン・メディアから追放される原因となった有名な俳優の孫娘の例が挙げられています。
番組内で、ラッセル・ブランドと司会者がこの有名な俳優の自宅に電話をかけるのですが、彼は電話に出なかった為、ラッセル・ブランドが彼の孫娘と性的な関係をもっていたことを悪趣味なジョークを交えて留守番電話に残します。これは、視聴者からの大きな批判・苦情をよびおこし、Ofcom(オフコム)と呼ばれるメディアの安全性を取り締まる公的機関から、この番組には罰金が課され、編集担当者も解雇となり、ラッセル・ブランドもこれを機に、イギリスのメイン・メディアへの出演はなくなりました。
孫娘は、何も悪いことも、恥ずかしいこともしていないのに、この有名な俳優である祖父からも10年近く縁を切られ、彼女から離れる人々もいたりと、彼女の責任では全くないにも関わらず、長年、「自分が悪かったのでは?」という罪悪感に悩まされ、うつ病におちいり、長期間のカウンセリングにも通ったそうです。ラッセル・ブランドから謝罪があり、そこでやっと「自分が悪いわけじゃなかった」と心の重荷がおりたそうです。

ここには、社会の在り方も大きく関与しています。
性加害者をかばい、性被害者を責めるような人が多い社会では、このメッセージはさまざまなところに浸透し、人々を洗脳し、この間違った考えで私たちをしばります。
私たちは、そんな間違った神話から抜け出すことができるし、抜け出さなくてはなりません。

また、16歳のときに、当時30歳だったラッセル・ブランドにグルーミングされた女性は、「自分自身が30歳になって、この年で16歳の子供に性的関心を抱くこと自体が考えられない」と言っていたのが印象的でした。
どんなにスマートな16歳でも、人生経験は浅く、有名でお金も権力も影響力、ネットワーク力もある男性にたやすく騙されてしまうのは、誰にでも理解できることだと思います。
ラッセル・ブランドはとても口がうまく狡猾であることで知られていて、ジャーナリストや多くのことばを使うことを専門にしているひとたちでさえ、彼の話術とチャーミングさで、彼が自分の都合のいい方向に話をリフレーミングすることを止めるのは難しいことを語っていました。

力の差が大きい大人が、自分の欲望のために、子供や自分よりも力が弱い人々をだまして利用することは、とても卑怯で悪いことです。
法律で禁止されていない、ということを盾にする人々もいますが、子供たちは守られるべき存在であり、大きな力の差があるところに、合意は成り立ちません。法律で禁止されているのは、どうしようもなく悪いことで、かつ新しいタイプの犯罪は、法律にすることが追い付かない場合も多々あります。
法律に禁止されていないことは何でもしていい、と思う人ばかりだと、どんな社会もまともに機能せず、誰にとっても危険な場所となります。

私たちは、ひとであり、人類として、自分とまわりの人々の権利や自由を尊重しながら、社会で力の弱い立場に追いやられた人々も安心して暮らせる社会を築くよう行動する必要があります。

ただ、ここまで見てきたように、メディアでも、女性が重要な地位に就くことにより、良い方向に向かいつつあります。

社会の一員として、私たちも、良い方向に向かい続けるよう、努力を続ける必要があります。そこには、これらの声を上げた勇気ある被害者を信じてサポートすることも含まれます。 

Yoko Marta