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ロンドンと芸術の民主主義

Yoko Marta
10.10.23 04:06 PM Comment(s)

ロンドンと芸術の民主主義

ロンドンは、芸術という観点からいうと、とても民主的です。


クラシックの音楽祭である、毎年夏に一か月以上にわたって行われる Proms/ (プロムス)は、当日の立見席が早く並んだ順で買えるようになっていて、8ポンド(約1500円)です。オーケストラにも近くて、周りのひととおしゃべりしたり、立見席は楽しいです。

また、同様に、 Shakespeare's Globe/ (シェイクスピア劇場ー野外劇症)では、立見席は舞台から一番近い半円上の場所となり、5ポンド(約900円)です。俳優が舞台の途中で観客に話しかけたりして、とてもインタラクティブですべてが生きていて、楽しめます。

最近は、Royal Opera House(ロイヤル・オペラ・ハウス/バレエやオペラの劇場)で、オペラ「 L'elisir d'amore (レリシ―ル・ダモーレ/愛の妙薬)」を観てきました。これも、上記と同様に、チケットは9ポンド(1600円)から始まり、一番高いチケットだと150ポンド程度です。

イタリアのミラノにあるスカラ座は、このロイヤルオペラハウスとは違って、チケットの価格も高いところから始まり、かつきちんとした服装が普通のようですが、ロイヤルオペラハウスは、ジーンズでスニーカーのひともいれば、美しくドレスで着飾ったひともいて、本当にさまざまです。気軽にふらっと立ち寄るのもいいし、特別な日にいい席を予約して、ロイヤルオペラハウスにたくさんある小さなレストランやバーで、観劇前やインターバルにワインやシャンペンを楽しむのもいいでしょう。

今回の、L'elisir d'amore(レリシ―ル・ダモーレ/愛の妙薬)は、喜劇で、思わず笑ってしまう場面がたくさんあるのですが、ソプラノの主役の声と演技は、とても素晴らしいものでした。
彼女は、アメリカ出身のソプラノ歌手で、当然ながらイタリア語で歌っています。いつものように、英語のSurtitle(サータイトル/翻訳・意訳)が舞台の上のほうに表示されるので、イタリア語が分からなくても、英語が分かれば大丈夫です。ただ、コメディーで、内容は単純なので、英語やイタリア語が分からなくても十分楽しめるし、話の内容は想像がつくと思います。

ただ、サータイトルは必ずしも、歌のタイミングとは同じではないので、私の夫のようにイタリア語が母語だと、サータイトルは見ないので、サータイトルが歌より早く出ることも多くて、周りの人々が不思議なタイミングで笑うな。。と思っていたら、サータイトルのタイミングだった、ということも起こります。
私が行った日は、Bass(一番低い声)歌手で、とてもよく知られているウェールズ人歌手が突然病気になり、イタリア人のBass歌手が24時間どころか、もっと短い期間で代役となることを頼まれ、舞台で歌いましたが、歌だけでなく、喜劇らしいやり取りの演技もスムーズで、やっぱりプロフェッショナルってすごいな、と改めて思いました。

イギリスは階級社会なので、オペラは上流階級の楽しみ、のようにとらえている人々もいるのですが、イタリアでは、普通の庶民が楽しんでいるものです。私の夫側の親戚の多くも、第二次世界大戦中に生まれたひとたちは小学校で学業を終えるしかなかったのですが、オペラは大好きだし、日常で口ずさんだり、誰かが歌いだすと、みんなが自然と一緒に歌いだしたりします。

日本だと、「能」のように貴族のために演じられたものもありますが、オペラは私たち、庶民のための芸術でもあります。
特に喜劇だと、演技も入って、素晴らしい歌声とともに楽しめるので、おすすめです。

私も私の友人たちも、何度観ても泣いてしまうのは、La Traviata(ラ・トラヴィアータ/日本語では椿姫と訳されているよう)というオペラ悲劇です。ヴェルディの音楽ももちろん素晴らしいのですが、ひとの歌声には、なにかマジックが秘められているとしか思えず、話も知っているし違うバージョンもいくつも見ているのに、主人公たちの気持ちに感じ入って入り込んでしまい、それがお芝居(オペラ)で架空の世界なのだということを忘れてしまいます。

冬に上演されることが多いのですが、ヨーロッパの寒くて暗い冬には多くのイルミネーションが夜に美しく、オペラ座での夢のような時間を去ってその街を歩くのと、主人公たちの美しい心と声の思い出がとてもしっくりくるように感じられます。

冬のロンドンの暗さにうんざりしたときにも、お勧めです。

Yoko Marta