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利き手でないほうで、Drawingする楽しみ

Yoko Marta
23.11.23 12:05 PM Comment(s)

利き手でないほうで、Drawingする楽しみ

私は、いまはDrawingが好きですが、子供のころは、家で絵を描くことは許されていなかったし、見つかって怒鳴られ、目の前で絵を破られたこともあります。親からは、「お前には、芸術センスは皆無、絶対に芸術には近づくな」といわれ、歌うことすら禁止されて育ちました。
学校では、先生の言う通りにかかないといけないのがとても苦痛で、かつ私は鮮やかな色で描くのが好きだったのですが、「日本人はそんな目立った色じゃなくて、もっと落ち着いて目だたない上品な色で描くべきだ」と言われたりしてうんざりした思い出が多いです。
3代さかのぼっても日本人なのですが、東南アジア出身と思われることが多く、今思うと、ロンドンよりも、日本で人種差別的な扱いを受けたことのほうが多い気がします。
芸術は、本来、工場のように型にはまったものをうみだすところではなく、自由に個性を表現できる場所だと信じているのですが、恐らく、私はたまたま運が悪かったのだと思います。

でも、描くことを諦める必要はありません。

ロンドンへきたのは20代後半ですが、残業がないのが普通なので、仕事が終わってから、夜間のジュエリーコースや絵画コースを楽しみました。

ここでは、「絵を描くのは好き?」と聞かれることはあっても、「絵を(上手に)描ける?」と聞かれることはありません。

アートは、自己表現の一つであって、有名な画家のように描く、ということはなんの意味も成しません。なぜなら、有名な画家と同じように描くのは、絵画犯罪グループのメンバーとしては役立つかもしれないけれど、その人らしさがない絵やアートに意味はないからです。

絵画コースでも、なぜこのコースを選んだのか、何を獲得したいと思っているか、ということを、先生も含めて、みんなで輪になって話します。ここでは、先生が一番偉い、ということはなく、いろいろとアイディアをくれる人ではありますが、方向性を決めるのは自分です。いろいろな人の意見を聞くのも楽しいし、ロンドンという多人種が混在して暮らす地域では、参加する人々が育った場所も世界中さまざまで、それは私たちが描く絵に反映されていることもあります。
絵の基本的なこと、例えばMark making(線や点)、色の基本等についての短い解説はありますが、あとは個人で自由に描きます。

ロンドンというアートの中心地でもあるせいか、先生はみんな現役の画家でした。

楽しいのは、授業のあとにみんなで集まって絵を見せ合って、感想を話すところです。
日本だけで育った場合、或いはアジア全般の人々が注意しないといけないのは、感想を言うのは、批判することを目的としているわけではないことです。
多くのヨーロピアンが戸惑うのは、日本人がとにかく悪く見えるところばかりを見つけて批判することです。
ヨーロッパ全般は、「良いところをみつけて褒めてのばす」なので、感想も、絵の一部が自分の子供時代を思い起こさせた、とか、興味深く優しい感想です。
ヨーロッパ全般では、Perspective(パースペクティヴ/遠近法)は身近でみる絵画もそうだし、学校のアート授業で方眼紙のようなものを使ってきっちりと測って描くことを学んでいる場合もあり、私のようにアジアで育ち、西洋とは全然違う遠近法が身近に感じるし、描く時も遠近法はあまり気にしないので、技術と言う面でみれば不思議な場合も多いと思うのですが、それを批判されたことはありません。
大事なのは、そのひとの個性が表現できていることです。

趣味といっても、趣味にするまでには時間も手間もかかります。
でも、それは楽しい時間であることが多いです。

絵を描くのに慣れてきたころ、近所の大学のアート・セラピーのファンデーションの一年コースに通っていました。
クラスメートの一人はイタリア大学の絵画科出身で、絵のことを話したりしているうちに、ある日、彼女が「ドガは、ポケットの中に小さなスケッチブックをいつも入れていて、バレリーナが踊っているときに、バレリーナから目を離さずポケットの中で絵を描いてたんだって」といったことを言っていて、対象物だけを見て、スケッチブックを見ずに描くことを試しに始めてみました。そうすると、そのほうが自分の描きたいように描けることに気づき、その習慣を続けました。

そうこうしているうちに、利き手の右手が少し痛くて、「左手で描いたら何が起こるだろう」という興味で描いてみると、右手のようにコントロールがうまくいかない分、意外な線や姿が浮かび上がって、おもしろいな、と思って、左手で描くことを取り入れています。

仕事もあるので、夜、ニュースを見ながらテレビの中の光景をさっと描いたり、たまたま窓の外を見て興味を惹かれるものがあれば、5分ほどで描いたりといった感じですが、何かを描いていると、心配事があったとしても忘れて、落ち着いた気持ちになります。
家族が大きな手術をしたときは、ほぼ一日、手術が終わるまで病院で待機だったのですが、不安な気持ちを落ち着かせるために、病院の中庭や、待合室を一日描いて過ごしました。
通りかかるひとが、描いてるものについて聞いてくれたりして、そういったちょっとした会話も、気持ちを落ち着かせる助けとなりました。

描くことに興味があるけれど、どこから始めていいか分からないという人には、スケッチブックじゃなくて、小さなノートや、白い紙じゃなくて既に色がついている紙に描く等、気軽に始めてみたらいいのでは、と思います。雑誌の切り抜きでコラージュというのも楽しいかなと思います。
自分が楽しいと思えるのが一番ですが、そう心から思えるようになるまでは、少し練習と時間が必要かもしれません。
ゴッホの初期の絵も、遠近法にとても苦労しているのがみえて、そういったことも徐々に乗り越えていったのが見えて興味深いです。
もともと見たままに描くことができる人もいると思いますが、そうじゃなくても、試行錯誤をしながら、描くことを楽しむことは誰にでもできます。
いったん描くことに慣れると、美術展にいっても、楽しみや理解がとても深まり、こんな素晴らしいものが見れて感動を味わえるなんて、それだけでも、生きててよかったと思います。

Drawingについてお勧めの本:

Drawing on the Right Side of the Brain by Betty Edwards

日本語訳タイトルは「脳の右側で描け」のようですが、英語では命令形や「~するべきだ(must, should)」を使うことはとても少ないです。感覚としては、「脳の右側で描いたら何が起こるのかな」っていうぐらいの軽い感じだと思います。


ロンドンの絵画・アート クラス:

City Lit (シティー・リット)

https://www.citylit.ac.uk/courses/art-and-design

Morley Coll(モーリー・カレッジ)

https://www.morleycollege.ac.uk/

Central Saint Martins (セントラル・セイント・マーティンズ) ショートコース

https://www.arts.ac.uk/colleges/central-saint-martins/courses/short-courses

イギリスでは、普通の大学が一般向けにショートコース(夜間、ウィークエンドのみ等)を開催していることが多いです。セントラル・セント・マーティンズ大学は、美術においてはヨーロッパでも指折りの大学ですが、こういった大学でショートコースを受けることができるのも、イギリスならではかもしれません。

Craft Central (クラフト・セントラル)
https://www.craftcentral.org.uk/whats-on

多くのアーティストのスタジオがたくさんある場所です。不定期ですが、ここで実際にスタジオを借りて活動しているアーティストのワークショップに参加することができます。クラフト(工芸)ということで、ジュエリーや、織物、楽器制作等、さまざまですが、現役のアーティストとお話するのも楽しいし、彼ら/彼女らのワークショップを見るのも興味深いです。

Yoko Marta