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自分たちの物語を語り続けることの大切さ: パレスチナ詩人 Refaat Alareer(レファート・アラレア)さん

Yoko Marta
18.12.23 11:40 AM Comment(s)

自分たちの物語を語り続けることの大切さ: パレスチナ詩人 Refaat Alareer(レファート・アラレア)さん

パレスチナ詩人で、英文学教授で、英語で詩を書いてきたRefaat Alareer(レファート・アラレア)さんが、イスラエルの爆撃により、12月7日に、ガザ北部で他の6人の家族とともに亡くなりました。

イスラエル軍は、ガザの多くの文化遺産や大学、裁判所、図書館等を爆撃しています。

既に戦争犯罪となる、学校や避難所、病院等を爆撃し続けているので、その一環かと気に留めないかもしれませんが、これは、パレスチナ市民の文化やその土地に生きていたという歴史を消し去ろうとするプロジェクトの一つとも考えざるをえません。

私の友人のユダヤ人や、先進諸国のユダヤ人団体からよく使われる作り話は「パレスチナは誰も住んでいない空っぽの土地で、そこに国をもっていないユダヤ人がきて国をつくった」です。

これは、イスラエル政府が国民に信じさせたい、恐らく大多数の国民や、他の国々に住むユダヤ人たちも信じたい話でしょう。

誰でも、70年ほど前に多くの原住民(歴史的なパレスチナ地域に数世紀にわたって住んでいたアラブ系の人々=パレスチナ人)を殺したり、原住民の村やコミュニティーを焼き払い、彼らを隣国やパレスチナ地域の小さな場所へ難民として追いやり、武力で奪い取り盗んだ土地に自分たちの国を設立し、現在も原住民に残されたわずかな土地ですら、暴力や殺人で盗み続けているという事実を受け入れるのは難しいでしょう。

ただ、これらの国際法違反が数十年にわたってまかり通っているのは、国際社会が事実から目を背けていて、イスラエル政府がなんの責任も取らずにきているからです。

イスラエルの建国には、ヨーロッパでの数世紀にわたる迫害を受け続けた白人系ヨーロピアンのユダヤ人たちが大きく関わっていて、彼らの受けてきた迫害を考えれば、自分たちだけ(ユダヤ人だけ)の国をつくらないとまたホロコーストのようなことがおこる、という恐怖も想像に難くありません。
また、21世紀の今ですら、イギリスで何か不穏な事件が起こると、ユダヤ人やユダヤ教、或いはイスラエルにも全く関連性がなくても、ユダヤ系のスーパーマーケットやレストランが最初に攻撃されることは、残念ながら珍しくありません。

ただ、問題は、そこ(歴史的なパレスチナ地域)には多くのアラブ系原住民が数世紀にわたり住んでいて、空っぽの土地ではなかったことです。

西欧、特にアメリカではこの作り話を信じている普通の人々もたくさんいますが、歴史をたぐれば、簡単に、パレスチナ地域には多くのアラブ系の人々が数世紀にわたって住んでいて、イスラエル建国前後で、ユダヤ系民兵により、多くのアラブ系の原住民が殺害され、中にはいくつかの虐殺事件もあり、それに加えて70万人の原住民が村や家を焼き払われたり、武力で追い出されたりして、隣国やもともとのパレスチナ地域で難民となった事実は明らかです。

ガザ地区という小さな地域の70パーセントは、このイスラエル建国時(1948年)に難民になった人々の子孫だと見られています。この地域は、イスラエルの事実上占領地であり、この地区への「水」もイスラエルが管理しており、食料等の必需品もすべてイスラエルの許可が必要となります。
空も海もイスラエルに占領され、たとえアメリカ大学の推薦入学の資格をとったとしても、空港はガザ地区にはなく、ガザ地区を出るための許可、海外に行く許可等、さまざまな障害が設けられています。
また、子供たちを罪状なしで逮捕し長期間拘束する等、ユダヤ系イスラエル人の子供には法律違反でも、パレスチナ人の子供には、この法律は適用されず、これは国際法違反ですが、数十年にわたって起こり続けています。

ここには、個人の基本的人権、自由、個人の尊厳も何もありません。

この事実は、イスラエル政府にとって、とても都合の悪いものです。

今回のように爆撃で多くの歴史・文化遺産やパレスチナのアイデンティティーを世界に向けて発信するアーティストや学者たちがいなくなり、またガザを誰もが住めない場所にしてパレスチナ原住民を直接的・間接的に追放してしまえば、「パレスチナは誰も住んでいない空っぽの土地で、そこに国をもっていないユダヤ人がきて国をつくった」は、「事実」として語ることが容易となります。
なぜなら、パレスチナの人々の歴史や文化、ひとびとが語る物語(過去や現在、未来)という痕跡を消してしまえば、どんな作り話も可能となるからです。
この状態を10年も続ければ、それは、誰もが信じる「本当の話」となるでしょう。
「パレスチナもパレスチナ人も存在しなかった」と。

多くのパレスチナ人は、イスラエル政府からの抑圧や実際の逮捕や殺害等にもまけず、自分たちの物語を語ってきました。

だからこそ、生きている私たちにできるのは、彼らを覚えていて、語り続けることです。

Refaat Alareer(レファート・アラレア)さんの、最後のインタビューはAljazeera (アルジャジーラ)の3分弱の ビデオ から観れます。

なお、ハマスーイスラエル戦争において、アメリカ外交官としてイスラエル政府とのやりとりをしているAntony Blinken(アントニー・ブリンケン)さんは、上記のアルジャジーラ(カタールが本拠地のアラブ系メディア)に対して、戦争の報道を控えるよう忠告したことは公となっています。
これは、西欧系の主要メディアが、イスラエル側のナラティヴのみを真実の情報として伝えることが多いのに対し、アルジャジーラは、アラブ側の目からみた事実を報道することにより、イスラエル政府の戦争犯罪とも判断される可能性の高い言動が公に出ることを好まなかったからだと見られています。

ここでも、強い側(イスラエルとイスラエルを無条件に外交的・軍事的・経済的に支えるアメリカ)がナラティヴをコントロールしていることに注意しておく必要があります。

(爆弾の音が絶え間なく聞こえるフラットで、机についているレファートさん)
(さらに大きな爆撃の音)

これが最後かもしれない。
私たち(パレスチナ市民)は、それ(爆撃にさらされて無差別に殺されるようなこと)に値しません。
私は、アカデミックです。
恐らく、私が家の中で持っている中で、一番強いものは、このマーカーです。
でも、もしイスラエル兵が家々をめぐって私たちを襲撃し虐殺することがあれば、私はイスラエル兵の顔をめがけて、このマーカーを投げるでしょう。
たとえそれが(人生の)最後に私ができることであっても。
これが(ガザで無差別爆撃にさらされている)多くの人々の感じていることです。
私たちに、失うものなんてありません。

レファートさんは、ガザ市内の大学の教授として英文学を教えると同時に、「 We are not numbers  (私たちはただの「Number(数)」じゃない)」という団体の創設者の一人でもあります。これはパレスチナの若者が導くプロジェクトで、ガザの若い著者たちと世界にちらばるメンターをつなげて、パレスチナの若者の経験についての物語を英語で描くことを助けるものです。

レファートさんは、ガザの若者たちが英語で描いた短い物語を集めた本「Gaza writes Back」の編集も手がけました。圧倒的に多くの著者は、若い女性だそうです。

レファートさんは、 TEDx で、物語を語り続けることの重要性を話しました。

レファートさんは、語り継がれる物語は、(リーダーや政治家、エリートではない)ごく日常を生きる私やあなたたちに属しているものだとしました。

レファートさんは、カナダの植民地支配者の話を引き合いにだしました。
カナダの植民地支配者たちが集まって話をしているときに、原住民がその場に行き、何を話しているのかを聞きました。植民地支配者たちは、「私たちの所有している土地を分割する話をしている」と言いました。原住民のひとは、「もし、あなたたたちが、ここはあなたたちの所有している土地だというなら、この土地の物語を語ってください」と言いますが、当然、植民地支配者側にこの土地の物語なんてないので、沈黙するしかありません。
原住民たちは、この土地に数えられないくらいの世代にわたって暮らしており、さまざまな物語(祖父母や祖先から受け継いだその土地における語り継がれる歴史やその土地での暮らし)をもっています。これは、この土地の正当な持ち主であることを示すものです。

レファートさんは、パレスチナの人々に、祖父母や父母から話を聞き、その話を自分の子孫や周りに伝えていくことの重要性を語ります。
なぜなら、語り継がれなければ、それはあっという間に消えていくからです。

また、植民地支配者の語る歴史は、植民地支配者を栄光と讃えるもので、本来の正当な土地の持ち主である原住民の人々への抑圧や抵抗の歴史は語られません。
特に、イスラエル政府がパレスチナの存在をなかったことにしようと、長年にわたって非常に洗練されたありとあらゆる手段をつかったプロパガンダや作り話の歴史を効果的にひろめていることからも、パレスチナの日常の人々の物語を語りつないでいくことは、とても大切です。

パレスチナが距離的に遠い場所だったとしても、私たちはヒューマニティーでつながっています。

Yoko Marta