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ヨーロッパでもっとも危険な原子力施設の、毒性の高い職場環境が及ぼす危険性

Yoko Marta
18.12.23 11:55 AM Comment(s)

ヨーロッパでもっとも危険な原子力施設の、毒性の高い職場環境が及ぼす危険性

イギリスには、核兵器にも使われるプルトニウムを世界最大量で貯蔵している核施設、Sellafield(セラフィールド)があります。

最近、このセラフィールドについて、イギリスの独立系新聞紙ガーディアンが、数年にわたる調査の結果を発表しました。

そこには、ロシア・中国からとみられるコンピューターシステムへのハッキング、施設の老朽化で毒性のある物質が流出している可能性、毒性の高い職場環境等が指摘されました。

セラフィールドの前身でもあったWindscale(ウィンドスケール)は、世界で最初の商業原子力発電所ですが、1957年に、当時ではヨーロッパ最大の原子力事故(原子力発電所での火災)を引き起こしました。

この核施設は、既に電気を生産したり、使用済み核燃料の再処理(日本やイタリアを含む)をすることはやめ、この施設にある使用済燃料やプルトニウム等の管理だけに存在していますが、これらの物質は高い毒性を数百年にわたってもつため、この施設(セラフィールド)は、少なくともあと100年程度は、今のまま、稼働せざるを得ないと見られています。

ちなみに、プルトニウムの放射性は二万四千年続くと見られているそうです。

セラフィールドの稼働費は非常に高額で、The UK(イギリス、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドの連合4か国)の国民の税金から拠出されています。あと100年程度は、何も生み出していないにも関わらず、この高額な稼働費を拠出し続けなければならないと見込まれています。

セラフィールドは、イギリス国内でも貧困率の高い地域である、イギリス北西のCumbria(カンブリア)地方にあります。約6平方キロメートルの敷地に、千ぐらいの建物があり、独自の鉄道や警察をもっています。警備犬も80匹以上いるそうです。

従業員は、約1万1千人と、産業も仕事も少ないこの地方では、とても大きな雇用主となります。数世代にわたってセラフィールドで働いている人々も少なくないそうです。

給料の面でも、イギリス北部は平均的にとても低いので、セラフィールドのレベルの給料をもらえるところはまずないそうです。

また、この地方のもう一つの大きな雇用主は、原子力潜水艦の設計や製造を行うBAE Systemsです。結局、原子力でつながっているし、小さなコミュニティーで多くの人々が同じ企業、或いは同じ系統企業に家族代々勤めているのは、ある意味、職場が町や家族という領域まで浸食しているように感じる人々がいるのも、想像に難くないとは思います。

セラフィールドで起きている物理的な問題は後日話したいと思いますが、今回は、職場環境から。

毒性の高い危険な物質を扱っている企業の、企業文化が毒性が高いものだとは冗談にもならないのですが、内部告発者や内部情報からも、あきらかなようです。

セクシャルハラスメント、いじめ、コカインの日常的な持ち込み、もともとイギリス国の平均よりも50パーセント自殺率の高い地域なのにその地域の平均よりも自殺率が高い、自殺未遂の多さ、人種差別等、どの企業でも絶対に起こらないとはいえないものの、原子力・核を扱っている企業では、国の安全性の問題、或いはヨーロッパ全体にも危険を及ぼす可能性があります。どんなに施設や設備を物理的に安全にしたとしても、「ひと」が操作する部分は必ず存在し、一つのミスが連鎖反応で大きな事故にいたることはよく知られています。従業員の不満が高い場所では、サボタージュや、テロの起きる可能性は高くなります。

ただ、ここでの問題の原因は、どんな場所にも共通している要素があります。

  • 問題があっても、声をあげられない環境

    ー 貧しい地域で、同じレベルの給料と待遇の職はない。働く機会自体が非常に限られている場所で、ほとんどの人は一生の仕事にするしかないと思っている。辞める人はとても少ない。
    ー 数世代にわたって働いている場合も多く、自分が職場の安全性等についての気がかりなことを言うと、同じ企業で働いている親や子供の出世や職場での扱いに大きな影響が出る可能性がある。
    ー 小さな田舎のコミュニティーのほとんどの人がセラフィールドか、BAE Systemsで働いていて、逃げ場がない。「金魚鉢」という表現を使う人もいて、仕事が終わった後やお休みの日でも、仕事の人間関係から逃れられない。
    ー 長く働いている人々の偏狭さと支配:「We bees(We be here when you be goneの省略/あなたがここを去っても私たちはここにいる)」と呼ばれる長老のような人々が、他の人々を支配、いじめ。どんな変化も頑強に拒む。

  • HR(Human Resource/人事)の戦略(被害者や正当な訴えをおこしたひとを黙らせる): 「bully(ブリ―/いじめる), break(ブレイク/心身を壊す), bribe(ブライブ/心理的・物理的な賄賂で操る)」

    セラフィールドの人事は否定しているそうですが、元セラフィールドの人事で、人事改革の目的で外部からリクルートされたものの、ひどいレベルのセクシャルハラスメントと、そのカバーアップについての調査を続けることを主張したことが原因で解雇され、今も企業と訴訟中のMcDermott(マックダーモット)さんや、内部で働いている人々から、証言がとれています。

先述したマックダーモットさんは、大手の数社で人事の専門家として、企業文化の問題解決を扱ってきましたが、セラフィールドほど、セクシャルハラスメントやいじめ等のスケールと程度がひどい場所を見たことがない、と言っていました。

マックダーモットさんは、この企業の「話すことは安全ではない。とにかく頭を低くしてやりすごし、(ハラスメント等をみても)目をそらし、なんとか生き延びる」という職場環境は、危険な核物質を扱っている環境では、特に危険だとしています。

職場は「Trust(信用)」が大切な土台で、安全性の基盤です。特に危険な物質を扱い、一つのミステイクが壊滅的な事故につながる可能性のある場所では。

では、この状況は、完全に光が見えない状況なのでしょうか?

マックダーモットさんは、内部の大きな力の圧力にも関わらず、正しいことをやり通そうと実行し、今も企業と訴訟で争っています。こういった勇気は、人々に徐々にしみわたります

私自身、統計はないのですが、イギリスでのニュースを聞いていると、不正に対して立ち上がるのは、往々にして女性であることが多いです。既存の権力システムに取り込まれず、ヒューマニティーや正義といった視点と場所からクリアーな目で物事を判断しているように感じます。

また、この地域が貧しいのは政治上の選択です。
再生エネルギー等の新しい産業を政府が積極的に誘導して設置し、仕事の種類も質も機会も高く・多くなれば、企業も変わらざるを得なくなります。
内部告発者を守る法律も存在はするものの、それをさらに強化するのもひとつの方法でしょう。
学校教育や市民教育で、モラルや価値観についての個人・社会の意識を変えることも一つの手段でもあるでしょう。

職場環境といっても、結局はひとびとがつくっているものなので、どんなに物理的に安全にしたとしても、規則でしばったとしても、「ひと」の要素、誰もが安全に話せる場所であり、人々が尊重され、「信用」がお互いにもてる環境は必須でしょう。

新しい原子力発電所の建設には、イギリスも現在は積極的ですが、最終的に使用済み核燃料を地中に埋める場所は決まっていません。原子力発電所は、どんなに延命したとしても40年から50年程度の稼働期間で、風力や太陽光発電由来の電力が非常に安価になっている現在では、価格の面でも競争にはなりません。この短い稼働期間の後には、その施設と使用済み核燃料を少なくとも百年程度は安全に保管・維持することが必要となること、「ひと」という不確定な要素が加わらざるを得ないこと、技術が変っていくのは当然なので古い原子力施設を安全に保つ技術があるひとを確保しつつ、その技術を継承できるひとを育てる(同時に新しい技術に対応できる人々も必要)等を考慮すると、原子力施設を大きく増やすためには、さまざまな考慮と長期的な計画が必要であると考えざるを得ません。政府の計画からは、長期的な視野は見えません。これは、日本でも似たような状況なのかもしれません。

セラフィールドの人事からは、ガーディアン紙に掲載された記事について、既に人事改革等は行われ、監視機関からもお墨付きをもらっているとという旨の反論が出されたそうです。

ガーディアン紙の記事:https://www.theguardian.com/business/2023/dec/06/sellafield-toxic-culture-bullying-harassment-safety

マックダーモットさんのインタビューも聞けます。

Yoko Marta