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明晰にみるー Daniel Levy(ダニエル・レヴィ)さん: イギリス育ちのユダヤ系イスラエル人政治学者

Yoko Marta
18.12.23 12:06 PM Comment(s)

明晰にみるー Daniel Levy(ダニエル・レヴィ―)さん: イギリス育ちのユダヤ系イスラエル人政治学者

ダニエルさんは、イギリス育ちのユダヤ系イスラエル人政治学者で、現在は、US/Middle East Project(USMEP/アメリカ・中東プロジェクト)の代表でもあります。イスラエル政府の首相室のアドヴァイザー、上級政策アドヴァイザー等の経験があり、和平協議やパレスチナ問題にも関わり続けています。 

イギリスに住んでいると、政府もニュースもほぼ完全にイスラエル政府のナラティヴに従っているもので疑問を感じることも多いのですが、ダニエルさんは、アメリカやイギリスといった西側諸国のダブル・スタンダード(二重基準)やモラルのなさをすっきりと明かします。 

イギリスの国営放送BBCニュースでのとても明快なやりとり(2023年10月11日ーハマス・イスラエル戦争が始まってから数日後)は ここ から観れます。

アメリカとイギリスが繰り返す「イスラエルには、自衛権がある」には、重大な省略があります。国際法では「自衛権(自国を守るために戦争をしかける権利)」は、占領している人々には使えません。イスラエルはガザ地区を実質数十年にわたって占領し支配しています。また、占領されている人々(パレスチナ人)には、占領者に対して武力も含めて抵抗する正当な権利が国際法で認められていますが、これについても省略されています。また、どちらの場合も、市民を標的にすることは禁止されていることも述べられません。 

番組のプレゼンターは、定型の「イスラエルは、『私たちは自分たちを守っているだけ、ガザの(テロリスト組織)ハマスを標的にしている、私たちがテロリスト組織と信じているものを決定的に終わらそうとしているだけです』と言うでしょう」を述べます。

これに対して、ダニエルさんは、明確に、矛盾を指摘します。

「あなたは、それを言う時、本当にまじめな顔をしていますか?こういった類の嘘がまかり通ることを許してはなりません。あなたは、最も基本的な人権さえ拒否された人々の間に深く根付いたテロリスト組織が、軍事攻撃で一気に終わらせられると思っていますか?そんなこと、歴史上で起こったことはありますか?ある国のリーダーが、『私たちは全ての市民に対して食料、電気、水といったすべての供給を絶ちます』と言ったとき、これは軍事組織を標的にしていると確かに言えますか?申し訳ないですが、こういった類の嘘がまかり通ることを許されていいわけはありません。そして、このような嘘を(国のリーダーが)自分自身に語るとき、それは、間違った政策へと導きます

私自身は実際に誰かがそのような発言をしているのを一度も聞いたことはないのですが、イギリスのユダヤ人ジャーナリストの数人やニュースで、「リベラル左派は、(イスラエルがパレスチナ人に数十年にわたって続けた抑圧や多くの殺害を考えれば)ハマスがやったことは間違いじゃない、と言っている」ということも報道されています。それについても、ダニエルさんは、明確に述べています。

「もし誰かが、テロリスト組織の兵士がやったこと(10月7日の大量ユダヤ人殺害)について、あれは長年にわたる(イスラエルによるパレスチナへの)占領に足しての正当な対応だと言ったら、私は、『あなたは間違っている。あなたはヒューマニティーと現実性を失っている』と言うでしょう。

「もし誰かが、現在イスラエルがガザで行っていることは、週末に起こった事への正当な対応だと言ったら、私は全く同じことを言うでしょう

「それでも、イスラエルはこれ(嘘=ガザでのパレスチナ市民の大量殺害は、ハマスにイスラエル人が殺害されたことへの正当な対応)を言い、国際社会も人々も、その嘘にチャレンジする必要があるのに、チャレンジしていません。もしイスラエルの嘘を許し続けるなら、私たちは戦争をさらに助長することに加担しています。

アメリカとイギリスが繰り返す「ハマスのようなテロ組織とは交渉できない」という嘘についても、明確に反論を展開しています。

プレゼンターの、「それでは、パレスチナとイスラエルの平和を実現するために何が必要なのか」と聞かれて、ダニエルさんは、「基本的に、この長年の暴力の連鎖について、Root cause(根本問題)を扱う必要がある」としています。

ダニエルさんは、以下のように述べていました。

事実は、ユダヤ系イスラエル人にとってのほとんどの日常は普通(西側民主主義の国のように暮らせる)ですが、イスラエルの長年の占領によるパレスチナ人の毎日は苦難に満ちています。私たちは、パレスチナ人が、彼らの正当な権利を得て、イスラエル政府が長年にわたって毎日国際法に違反した行動(パレスチナ地域への違法居住、パレスチナ地域の占領に使っているさまざまな国際法違反の手段)を取っていることについての責任を取らなければなりません。 

ここで、プレゼンターが、定型の質問「イスラエルは、イスラエル国家の存在を否定するハマスのような人々と話すこと(交渉すること)はできない、と言うでしょう。」

ダニエルさんは、以下のように反論します。

「今日の(北)アイルランド(※)は以前よりもよい状態にあるか、あなたに聞いてもいいですか?人々は、以前には、『どうやって(イギリスの主要政党だった)保守党の会議を爆破した人々と一緒に座ることができるでしょうか』、と言っていましたか?あなたは、これらの人々(テロリスト組織)と同じ会議室のテーブルにつき、話し合わなくてはなりません。ハマスは、残虐なことも行う政治的なムーブメントですが、彼らは政治も行い、ISIS(アイシス)等とは違って、コミュニティ―に深く根差していています。だからこそ、彼らと交渉しなくてはなりません。あなたは、これらの人々(テロリスト組織のハマス)を話し合いの場によぶ必要があり、あなたも、イスラエルのセキュリティー組織も、それは可能なことをよく知っています。でも、彼ら(イスラエル側)は、交渉したくありません。なぜなら、イスラエルは、パレスチナ人の人権を否定し、パレスチナ人とパレスチナ地域を占領し続けたいからです。この根本的な問題に取り組まない限り、誰一人、安全ではありません。

2023年10月11日の放映時点で、上記のやりとりの前に、ダニエルさんは、2か月後の現在に起こっていることを既に見ていたような発言をしています。

私たちが既に目にしたガザの破壊・絶望は、西側諸国の(過度にイスラエル政府に合わせる)従順さ(=イスラエルの周到に準備したように見える戦争犯罪に目をつぶる)を揺さぶるに十分だと望んでいます。
もちろん、(10月7日のハマスのイスラエル市民に対する殺害)は、戦争犯罪ですが、その戦争犯罪を理由に、別の戦争犯罪を行うのは、とんでもないことであり、避けるべきことです。戦争は、国際法に沿って行われるべきですが、この(国際法の内か外かという)ラインはとても明確にひかれている必要があります。イスラエルに対して、イスラエルの味方の西側諸国が「最悪のことをやりなさい」と完全に乗り気で言うのは、さらなるエスカレーションを招くでしょう。つらいのは、長年にわたるイスラエルのパレスチナ地域占領について別の解決法をオファーすることができなかった政治的な失敗です。これは今、私たちが刻々とテレビ画面に出てくる複雑で悪化した結果としてあらわれています。

ダニエルさんが、ここで言っていたのは、味方であるということは、きちんと戦争犯罪や悪いことは、明確に指摘し、チャレンジすることです。

また、西側諸国、特にアメリカが無条件にイスラエルをサポートすることを明確にしたことから、イスラエル政府は戦略や標的を注意深く考えることを放棄しました。何をやっても、今までのようにアメリカが外交的なカバーを提供してくれ、国際法違反も戦争犯罪についても、今までのように責任を取らなくていいことを確信しているからです。また、アメリカは大量の兵器を、市民が殺されることに使われていると知っていながら、イスラエルに提供し続けています。

他の番組でも、ダニエルさんは、イスラエル政府が、数十年にわたって多くの国際法違反をおかし続けているのに、国際社会、特にアメリカはそれを許容し続けてきたことが、イスラエル政府がさらに(国際法違反)行動をエスカレーションすることを引き起こし、今回の大きな戦争に結びついたと指摘していました。

 イスラエル政府は、「パレスチナ市民が殺されるのは、ハマスのせいだ」と主張し、それは西側諸国のメディアでも政府からもそのまま繰り返されますが、市民が多く殺されることが分かっていながら爆撃を続け、パレスチナ市民を殺しているのはイスラエルで、水や食料をとめ飢餓や伝染病を引き起こし、病院を破壊することで死者の数以上に大量に存在する負傷者を(適切な治療を受ければ回復できるのに)死においやっているのもイスラエルです。

 ダニエルさんが言い続けているように、イスラエルの人々の権利もパレスチナの人々の権利も平等に扱われ、今までの一方的なパレスチナ人に対する不正義が正されるまでは、同じことが繰り返されるでしょう。ここには、国際社会、特にアメリカやイギリスといった国々が、パレスチナ人の権利も平等に考え、イスラエルの国際法違反についてきちんと責任を取らせることが不可欠です。

※北アイルランド問題:アイルランド国は長年、大英帝国(現イギリス国)に植民地支配されていて、その間にアイルランド島の北側に、多くのイギリス国民(プロテスタント派)を植民者として送り込み、イギリス国民を優遇し、原住民のアイルランド市民(カソリック派)を差別する政策を行いました。アイルランドは長い期間の抵抗と戦闘を通してアイルランド独立を勝ち取りますが、この北アイルランドは、イギリスの一部のままとなります。この後も、原住民に対しての不平等な政策は変わらず、平等な権利を求めて立ち上がった原住民たちが、平和なマーチを行っているところに、イギリス軍が発砲し、無実の市民をたちを殺しました。この後、原住民側にも、イギリス国民側にもテロリスト組織が形成され、30年ほどにわたる爆撃や殺害を繰り返し、多くの市民が巻き添えになって殺害されました。90年代に和平協定が結ばれ、和平への道が敷かれました。もちろん、この和平協定には、テロリスト組織も同席しています。

Yoko Marta