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パンデミックを利用して、不正にお金儲けをしたとても裕福な人々への捜査(イギリス)

Yoko Marta
25.01.24 04:26 PM Comment(s)

パンデミックを利用して、不正にお金儲けをしたとても裕福な人々への捜査(イギリス)

イギリスでは、新型コロナウィルスのパンデミックに対するイギリス政府の対応を検証する独立調査委員間(the UK covid-19 inqiury)が行われ、その当時の首相だったBoris Johnson(ボリス・ジョンソン)さんを含む政治家や、決定に関った科学者や医療者たちも証言しています。
ボリスさんは、科学者の説明をほぼ理解しておらず、パンデミックの間も、自分の収入となる本の執筆をしていて大事な会議に数日出なかったりと、言い訳もカラフルで、相変わらず多くの嘘もつきますが、検証側から厳しい追及を受けてました。
現在の首相で、パンデミック時には財務相だった、Rishi Sunak(リシ・スナック)さんは、多くの、特に自分に都合に悪い質問については、「I have no recollection(私には思い出せません、そういった記憶はありません)」を繰り返し、責任を逃れようとしているのは明らかです。
近い未来にパンデミックが起こることは確実であり、将来にもっとより良い対応ができるよう、私たち国民も学ぶことがたくさんあり、少なくともこのパンデミックの対応についての検証が行われているのは希望がもてます。

同時に、パンデミック中に、PPE(Personal Protective Equipment/医療用防護具)の政府購入に関して、大きな問題があったことも指摘されています。

もちろん、パンデミックという緊急時に、大量に必要となった医療用防護具を買い求めるのは易しいことではありませんが、「VIPレーン」と呼ばれる特別な契約方法を導入し、そこで不正が行われたと見られています。
通常は、政府が購入を行う際には、多くの会社が入札を行い、それぞれの会社の背景・経営状況や、製品の良し悪しがきちんとチェックされ、そこに賄賂や不正が関っていないかどうかのチェックもありますが、VIPレーンではこれらの多くのチェックが、省略されました。

このVIPレーンには、当時の閣僚や政治家の夫や兄弟・姉妹、家族、友人が経営する企業がなんの実績もないのにVIPレーンで契約を獲得し、実際に納入されたマスクやガウンはNHS(National Health Service/イギリス健康保健サービス)の基準を満たすものではなく、それらを倉庫に置き続けるのも廃棄するのもかなりの金額がかかるということで問題になっています。
もちろん、これは不正なのですが、会社の経営者が自分の家族であることを隠していたり、会社を海外経由の会社にして誰が利益を得るかをたどることをとても複雑にしたりしていました。
また、この納入時の価格も高すぎる値段だったと見られています。

ほかにも、VIPレーンではない通常の方法で入札を行ったイギリスのローカルの会社は、今までPPE等で実績をもっているにも関わらず、契約が取れなかったということも知られています。

残念ながら、不正は現在分かっているだけで、一件だけでなく、複数件あるのですが、その中でも、大きな問題となって調査が進んでいるのは、現在の主政党の保守派Tory(トーリー)党の以前の首相、David Cameron(ディヴィッド・キャメロン)さんが推薦してHouse of Lords(貴族院)議員となったMichelle Mone (ミッシェル・モーン)さんのケースです。

民主主義と貴族院(国民から投票で選出されるわけではない)は相容れないものなので、長年、貴族院を廃止するべきだという声は上がり続けています。昔からの貴族で世襲制で代々受け継がれる場合もあれば、ミシェルさんのように、歴代首相が辞職するときに、貴族院に推薦して貴族院議員後なる場合もあります。この場合は、世襲制ではなく、一代限りとなります。 

ミッシェルさんのケースは、いくつかの点でとても悪質だと見られています。
以前国営放送BBCのジャーナリストだった、Emily Maitilis(エミリー・メイトレス)さんがもっているポッドキャスト、The News Agentsで興味深い対談を行っていました。 

  • 3年ぐらい前から、イギリス政府のPPE(医療用防護具)購買に関する不正を調査していたジャーナリストたちに、調査を続けるとDefamation(デファメーションː/ 名誉棄損)で訴えるという、語調の強い(深刻な脅し)弁護士からの手紙を送りつけて、ジャーナリストたちを黙らせようとした

  • ミシェルさんの夫は、この契約を獲得した「PPEメドプロ」の実質的オーナーであり、ミシェルさん自身がVIPレーンに入れられるよう、当時の閣僚たちにロビーした。でも、二人とも「PPEメドプロ」とは全く関係ないと嘘をつき続けた

  • 「PPEメドプロ」は、パンデミックが始まったあとにつくった会社で全く実績はなかった。納入した製品も、NHSの規準を満たさず、使えなかった。※これについては、ミシェルさんと夫は、NHSの基準通りに作っていたと反論。

  • ミシェルさんは、「PPEメドプロ」とは全く関係なく、利益も受け取っていないと3年以上、嘘をつき続けた。実際は、6000万ポンドの利益が入金された銀行口座は、ミシェルさんと彼女の子供たちの銀行口座。

  • ジャーナリストがミシェルさんからの弁護士を通しての執拗な脅しにもまけず調査を続け、ミシェルさんの嘘がごまかしようがなくなると、国営放送のBBCの番組でインタビューを行い、ナラティヴを自分たちの都合のよいように変えようとしました。でも、言っているのは「こういうやり方で金儲けをしたのは私たちだけじゃない。現在の保守党は、ほかにもいろいろまずいことをやっているから、私をスケープゴートにしてるだけ。(=みんながやっていたことで、私たちだけを責めるのはおかしい)」「報道に対して嘘をつくのは、法律を犯しているわけじゃない(=嘘をついたのは悪くない)」「すべては家族のプライヴァシーを守るためにやったこと(=だから私たちは何も悪いことはしていない)」

  • ミシェルさんの夫は、イギリスの税法が2016年に変更したことにより、このPPEメドプロの実質オーナーとして登録していなければ法律違反なのですが、登録していなかった。(恐らく、PPEメドプロとの関連を隠そうとしたのが目的。)
    彼は、さまざまな会社を経営しているビジネスマンで、法律を知らなかったというわけはない。この税法に違反すれば罰金と2年以下の禁固となるものの、これを施行する刑法にループホールがあり、ミシェルさんの夫は、それを見越して、法律違反をおかした。たとえ、法律のループホールで罰せられないとしても、法律違反なのは明白で、捕まらないなら何をしてもいい、というわけではない。モラルとして大問題。法律を破った際の責任が取らされないケースがあると、誰もが法律を守らなくなる可能性があり、社会として危険。 

このジャーナリストに対してのDefamation(名誉棄損)というのは、今イギリスでとても問題になっています。
日本は特殊で、事実をいったときでも名誉棄損となりうるのですが、イギリスでは、事実であれば、当然ですが名誉棄損にはなりません。
これは、SLAPP(Strategic Lawsuits Against Public Participation/スラープ)と呼ばれていて、公衆の大きな関心のあること(例/税金の不正支出や公共事業の入札での不正)を調査している人々(ジャーナリスト等)に対して、とても裕福なビジネスピープルや大企業が、(調査を続けたり公にすると)名誉棄損の裁判を起こすという脅しをかけ、都合の悪い真実が世の中に出ないように脅す方法です。
裁判費用は多額で時間もかかり、普通のジャーナリストに払えるような金額ではありません。また、複雑な政治腐敗等を扱っていて、どんなに内容が正しいと確認していても、小さい部分で証言が少し違っていること(でも話の概要には全く影響しない)が絶対にないとは言い切れない部分もあり、ジャーナリスト自身も新聞社も不安になり、調査中断、或いは調査内容を公表しない、といった方向にもいかざるをえない場合があります。
お金さえあれば、どんな不正や法律違反を行っても逃げ切れる、というのは、社会全体を危険にします。これについては、さまざまな機関が、こういったケースが起こらないよう、動いています。

このPodcastに登場していた税法を専門とするDan Neidle(ダン・ニードル)さんが、興味深い提案をしていました。
今回、ミシェルさんの弁護士から調査を行っていたジャーナリストたちへの手紙には、「ミシェルさんと夫が、PPEメドプロに関わっているというジャーナリストの調査は嘘なので、名誉棄損で訴える」という内容だったのですが、ミシェルさんと夫は、弁護士に嘘をついています。
(この手紙を書いた弁護士会社の一つは、謝罪文を新聞に公表しました。ミシェルさんと夫に嘘をつかれていることを知らずに、事実をいっているジャーナリストに、事実と違うので名誉棄損で訴えると手紙を送ったことについての謝罪です)
ダンさんは、この名誉棄損の脅しの手紙を送っている時点で、すでに主要新聞にミシェルさんと夫の「PPEメドプロ」との関連が報道されていたので、弁護士事務所は、ミシェルさんと夫に、新聞記事の内容について明確な質問をし、納得できる答えがなければ、そもそもこの仕事を引き受けるべきではなかったとしています。
弁護士事務所は嘘をつかれていることは知らなかったと主張するでしょうが、嘘をついていることをミシェルさんと夫が認めた今、弁護士事務所は契約を切る義務があります。
もし、弁護士が、ミシェルさんと夫が嘘をついていることを知りつつ仕事を引き受けたのであれば、弁護士としてのCode of Conduct(行動規範)に違反しているので、弁護士、弁護士事務所の資格を剥奪されることとなります。
それぞれの弁護士や弁護士事務所の適切なチェックにも限りがあるので、ダンさんは、訴える側が嘘をつけば、刑事法で裁かれ責任を取るような仕組みを提案していました。
例えば、こういったケースでは、名誉棄損の手紙を送る際に、訴える側が、Statement of Truth(真実についての供述書)をつけることを義務付け、もしこのStatement of the Truthで嘘をついたなら、刑法で罰することができるようにするというものです。
現在は、ミシェルさんのように、はなから嘘をついていても、なんのリスクもなく、ジャーナリストたちに、「事実ではないことを報道しているので、名誉棄損で訴えます」と気軽に弁護士を通して手紙を送り脅せます。
でも、もし上記のような仕組みができれば、自分が刑法で罰せられたり、ジャーナリストから訴え返されたりする恐れがあるため、こういったケースは減るし、事実が報道され、社会にとっても正義が行われることとなるでしょう。

ミシェルさんのケースでは、確かに現行法では、報道に嘘をついても刑法的に責任を取る必要なないものの、「PPEメドプロ」に支払われたお金は、国民の税金であり、税金が適切に使われたかを知るのは、国民の権利です。
ミシェルさんと夫が、ミシェルさんの政治的な地位を利用して、お金儲けだけのために、国民から結果的にお金をだまし取ったのは事実であり、これについては、現在刑事捜査が続いています。
ただ、嘘をつき続けたことも、本来なら責任を取らされるべきことです。
こういった、お金や権力をもっていれば、犯罪をおかしたり、社会のモラルに完全に違反しても何も責任をとらなくていい、という流れには、多くの市民たちが反対の声をあげています。
こういった事実を知るには、勇気あるジャーナリストたちの存在が欠かせません。

政治に関する不正はどこにでもあるもの、と諦めて無気力・無関心になるのは危険です。
その点、イギリスでは、まだジャーナリズムがある程度機能しているし、さまざまな機関や団体、ひとびとが、民主主義を守るために、活動し続けています。

法律の専門家でなくても、社会や政治で起こっていることをよく知ることは、市民としての義務です。

Yoko Marta