原子力なしで、再生可能エネルギー90パーセント以上を実現させたウルグアイ

Yoko Marta
25.01.24 04:42 PM - Comment(s)

原子力なしで、再生可能エネルギー90パーセント以上を実現させたウルグアイ

現在、ウルグアイは約90~95パーセントのエネルギーを再生可能エネルギーから得ています。年によっては、98パーセントとなったときもあったそうです。
このグリーン革命の旗手は、なんと原子力物理学者のRamon Mendez Glain(ラモン・メンデス)さんです。

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ウルグアイは、南アメリカの中でも政治・経済が比較的安定して、中流階級の占める割合が大きい国です。
ここでは、再生可能エネルギー転換が大きく進んでいて、天候等に左右されることもあるものの、約90~95パーセントは再生可能エネルギーでまかない、98パーセントに達した年もあるそうです。
この再生可能エネルギーは、風力と太陽光、水力の組合せで、原子力発電はありません。
興味深いのは、このグリーン・エネルギー革命を率いたRamon Mendez Glain(ラモン・メンデス)さんは、物理学者で原子力を専門にしていることです。
ラモンさんが、自分の専門を活かして詳細なリサーチを行った結果、ウルグアイの場合、原子力は全く良い選択ではなく、風力と水力が一番良い選択だという結論に至ったそうです。
これは2008年のことで、ここから約10年半かけて、現在の再生エネルギー利用率が90~95パーセントへと至ります。

この道筋は簡単で易しいものではないものの、他の国々にとっても参考になることはあります。

ラモンさんは、14年間海外で働いた後、ウルグアイに戻ります。
ちょうど、エネルギー危機が起こっていました。
ウルグアイの人々の生活が大幅に向上し続けた結果、より多くのエネルギーが必要となりましたが、当時は石油系燃料にたよっており、石油価格の大きな変動に悩まされていました。1980年代には最低価格の20アメリカドルだったものの、2008年には、1バレルが145アメリカドルを記録し、市民たちも燃料価格の高騰に悩まされていました。
その当時は、石油系燃料にたよらないのであれば、原子力にたよるしかないのでは、という意見が主流だったそうですが、原子力が専門のラモンさんは、ウルグアイ全体、現在・未来にとって何がいいことなのかを調査します。
調査を重ねれば重ねるほど、確固とした結論、「原子力はゼロで、風力・水力・太陽光」が強くなるのですが、一番大変なのは、いかに国民に浸透している間違った推測を含むナラティヴを変えるかということだったそうです。

ラモンさん(エネルギー担当省)と当時の政府閣僚たちが国民たちに示したのは、「たとえ気候変動を信じなかったとしても、これ(風力を中心とした再生エネルギー政策)が、一番安価なエネルギー価格を生み出し、ウルグアイにとっては最高のオプションだ。クレージーな石油価格に悩まされることはない。」ということだそうです。
とはいえ、当時の閣僚たちは、その当時「この政策が失敗したとき、どうやって国民に説明したらいいんだろう」と本気で考えていたそうです。
科学を信用していたとしても、この大胆な案を実際に施策にうつしたのは、当時のウルグアイ政府の大統領の方針、社会のありかた、国民の政治へのかかわり方も深く影響しています。

ラモンさんが政府でこの施策に果敢に取り組んでいる間のウルグアイ政府の首相は、過去には極左派のゲリラに所属し銀行強盗(政府の汚職で国民の金を不正に盗んでいるとの内部密告があった→ 銀行に押し入り、銀行台帳と金を奪う。金はよく貧しい人々に分け与えられた)も含めた都市ゲリラ戦を繰り広げ13年間牢獄で過ごしたこともあるJose Mujica(ホセ・ムヒカ)さんです。
ホセさんは、2010年から2015年まで大統領を務めましたが、給料の9割を貧しい人々(特にシングルマザー)に寄付し続けたことでも知られています。
気取ったことは大嫌いで、大統領邸宅にも住まず、田舎の一軒家で質素な生活をしていました。すべての人々に、平等な機会・権利・自由を信じていたひとです。
また、ウルグアイでは民主主義と社会主義と資本主義が共存しており、多くのことが国民投票で決められたり、と市民たちも民主主義に根付いた行動を行い、政治にきちんと関わり続けています。
多くの公共事業は、いまだに公共事業のままで、イギリスのような極端な公共事業の私営化は行いませんでした。国民もそれを望まなかったからです。
こういった環境では、ラモンさんの大胆すぎるように見えるアイディアも花開くことが可能だったのでしょう。

当時、よくあった誤解は、「価格が高い」「エネルギーは断続的で安定供給ができない」「失業率があがる」だったそうです。
これらの誤解は、今でも先進国であるイギリスでも、石油会社が大きな力をふるっている主要新聞やシンクタンクでは、再生エネルギー転換を遅らせ石油燃料を長く使うことへの言い訳に使われています。
ウルグアイでは、これらが全くの誤解であることを証明しました。

市民が払うエネルギー価格は、かなり下がり、安定しています。
再生可能エネルギーは無料(風や太陽光、水には値段はない)なのに、なぜエネルギー料金がもっと極端に低くならないのかという市民もいるそうですが、メンテナンスや初期設置費用については利用者から回収する必要があることは、自明でしょう。
この「安定した低い価格」というのは、市民としては重要です。
また、政治が安定していることで、海外からの風力発電所建設の投資も安定して誘致できました。

失業率については、心配されたいたこととは全く逆で、新たに5万もの職が作り出されました。ウルグアイの小さな人口(約340万人)を考えると、これは、非常に大きな数です。
このエネルギー転換でもっていたスキルが新しく作られた職に合致しない人々については、再トレーニングの機会をつくりだし、「誰も後ろに残さない」という宣言を守ったそうです。
ウルグアイは、他の先進国と比べても、とても福祉が発達した国で、このエネルギー転換を行った期間に、貧困率は40パーセントから10パーセントに下がり、極端な貧困に関しては、ほぼ消滅したそうです。

エネルギーの安定供給に関しては、ウルグアイは水力発電に適した地形をもっており、風力と太陽光を補い、安定したエネルギー供給を実現させています。
また、政策として、無制限にエネルギーを消費することを見越して蓄電に大きく力を入れる、という方向ではなく、限られたエネルギーをいかに有効に使うか、という姿勢をとっているそうです。
暑い国で、多くの家庭がエアコンディショニングをもっているのは必然だとはいえ、消費される時間を分散する等、できることはたくさんあります。

風力発電を増やすことには、物流的なチャレンジもありました。
ウルグアイは草原がひろがる国で畜産業も盛んですが、狭い道が多く、風力発電に必要な部品(これらはとても大きい)を運ぶことが難しかったそうです。でも、こういったチャレンジを一つずつ乗り越えて、10年近くで50程度の風力発電所を作ったそうです。

普通の市民たちは、どう感じているのでしょう。

畜産業を行っているSantiago Revello(サンティアーゴ・レベッリョ)さんは、2009年の時点では、畜産業の収益は、なんとか損益が出ない状態だったものの、農地を売ろうか家族で真剣に検討していたそうです。でも、当時の政策により、畜産業に影響することなく、陸上風力が行えることを知ります。
現在は、畜産業を続けながら、敷地内に設置された陸上風力から、とても良い収入を得ているそうです。

現在、ウルグアイでは第二段階のエネルギー転換期に入っており、バスや公共の乗り物を電気化し、タクシー運転手たちにも、電気自動車に変えるようインセンティヴを行っているそうです。

ラモンさんも、ウルグアイの解決方法が全ての国に該当するとはいえないと認めていますが、スコットランドのように風力・水力に適した国々もあり、再生可能エネルギーにむけて参考になることはあるのではないか、としていました。

既存の凝り固まった考えで動くのではなく、まず全体を見通したヴィジョンをしっかりともち、科学的な調査を行い、市民たちも決定に関わるのは大切なことでしょう。

Yoko Marta