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イスラエルの不正な行動(戦争犯罪や国際法違反)への盲点は、平和への盲点となる:ものごとを全体的に明晰なモラルをもって見ることの大切さ

Yoko Marta
25.01.24 04:54 PM Comment(s)

イスラエルの不正な行動(戦争犯罪や国際法違反)への盲点は、平和への盲点となる:ものごとを全体的に明晰なモラルをもって見ることの大切さ

日本だけで暮らしていると、中東やヨーロッパで起きていることは、どこか遠い国の話のように聞こえるかもしれませんが、実際には、世界はつながっています。
世界では、特に若い人々は、パレスチナで起こっていること、女性への暴力、環境破壊、黒人への差別等が実際には根っこではつながっている問題であることに鋭く気づき、これらの点をつないで、民族や男女、国籍、人種や心身の障害や性的指向等による区別・差別なしに、誰もが基本的人権と自由を行使でき、平等な機会がある世界をつくることを目指して、行動にうつしています。
だからこそ、自分や自分のコミュニティーで直接起こっていることではない事に対しても、実際に影響を受けている人々と手をつないで大きな行動へとつなげ、自国政府の方針を変えるよう働きかけたりもしています。
自由や基本的人権、安全はindividible(インディヴィディブル/分割できない)であり、誰かの基本的人権や自由・安全がおびやかされている限り、誰も安全でも自由でもありません。

今回は、The UK(イギリス、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドの4か国の連合国)へ任命されているサウジアラビアの現在のambassador(アンバサダー/大使)のPrince Khalid bin Bandar Al Saud (カリッド・ビン・バンダー・アル・サウド王子)さんのインタビューをもとにしています。

現在、UKへのパレスチナ大使として任命されているHusam Zomlot(フサム・ゾムロット)さんも、明晰なモラルと、広い視野で中東のことを語れる人々の一人です。
フサム・ゾムロットさんは、UKの独立系新聞紙ガーディアン紙にも寄稿しています。ここから読めます。
UKの現在のForegin secretary(外相)のDavid Cameron(ディヴィッド・キャメロン)さんは、上記の2人と比べると、本当にがっかりするような能力の低さとモラルのなさなのですが、少なくとも、中東地域からとても優れた大使がUKに任命されていて、国営放送で話す機会があることは、UK市民の考えを広げることにも役立ちます。

カリッドさんのインタビューは、国営放送BBC Radio4で、2024年1月9日に放映されました。ここから聴けます。

ちなみに、このインタビューを行っているのは、BBCの女性・イスラム教徒で、両親はパキスタンからの移民である、ベテラン・ジャーナリストのMishal Husain (ミシェル・フセイン)さんです。
冷静で常に礼儀正しくありながら、深い知識をもち鋭く切り込むことで知られています。
Aung San Suu Kyi(アウンサンスーチー)さんは、ミャンマーのロヒンギャ(イスラム教徒)の人々を含めたイスラム教徒に対して差別的な態度をもっていることはある程度知られていたものの、ミシェルさんとのインタビューで、ミャンマーでのロヒンギャへの大量殺害を聞かれたときに冷静さを失い、番組の間で、「誰も私にイスラム教徒がインタビューを行うなんて言わなかった(=イスラム教徒がインタビュワーだと知っていたらそもそもインタビューを承諾しなかった)」とつぶやいたことでも知られています。

ミシェルさんから、ヨーロッパではよく聞かれる意見である、「ハマスがイスラエル地域を攻撃したのは、サウジアラビアを含めた中東の国々とイスラエルの国交正常化が起こりつつあったこと(=パレスチナ独立について忘れ去られるとの恐れ)が大きな原因だと思うか」と聞かれ、カリッドさんは、「そうだとは思わない」と明確に答えています。
カリッドさんによると、この攻撃の大きな原因は、数十年にわたるイスラエルのパレスチナ地域、パレスチナ人たちに対する侵略・占領で、この原因は少なくとも100年前から続いているとしています。
(大英帝国(現イギリス)が、歴史的パレスチナ地域を委譲統治している間に、パレスチナ地域にユダヤ人の国をつくることを。1917年のバルフォア宣言で曖昧な文言ではあるものの確約。ヨーロッパから迫害にあった多くのユダヤ人が移住してくるきっかけとなり、植民地支配をしていた大英帝国は、ヨーロピアン系白人のユダヤ人を優遇し、原住民のパレスチナ人にはひどいレベルの扱いを行い続けていた。)

また、カリッドさんによると、イスラエルとの国交正常化の大きな柱は、パレスチナという国の独立だということは交渉に関わる誰もが理解している、とのことです。
実は、すでに1982年にIsramic Peace Plan(イスラム平和計画)がアラブ国間で合意されており、中東地域でイスラエルと共存していくのは認めざるを得ないが、それはパレスチナの独立(パレスチナ人の人権・自由の保障、統治権、安定した国情)なしではありえない、という内容だそうです。
これは、現在のイスラエル極右派・宗教過激派政府には、全く受け入れられないことです。そのため、始終、イスラエル政府の高官、首相たちから、虐殺を示唆しているととらえられても仕方のない発言の多くが、当たり前のようにニュースで放映されています。
他の国々の首相や政府高官が同じ発言をすれば、国際社会からの大批判を受けますが、イスラエルに対しては盲目となる西欧諸国は、黙ったままです。
アパルトヘイトを闘った南アフリカ共和国が、イスラエルに対して、パレスチナ人への虐殺の可能性があるとして、ICJ(Internaional Criminal Justice/国際司法機関)に対して訴えを出したのは興味深いことです。アフリカ大陸のイスラム教徒が多い国や、インドネシア等の多くの第三諸国が賛同を示しているそうです。
この国際司法機関での決定には数年かかると見られていますが、虐殺を防ぐこともこの国際法の目的の一つであり、数週間で暫定的に虐殺をストップする判定をイスラエルに引き渡すことも可能だそうです。ただ、この判定には強制力はないため、イスラエルが決定を無視することも可能です。でも、国際社会は、今よりももっとイスラエルに対してプレッシャーをかけることが容易になるでしょう。
すべての国々は、虐殺等のヒューマニティーを侵犯するような他の国の行動について抗議・ストップしようと行動を取る義務があります。
特に西側諸国は、これについて義務を果たしていないのは明白です。

カリッドさんは、この戦争が終わった後のパレスチナ地域、特にガザについて、「ハマスは解決の一つであるか」と聞かれ、思慮深い答えを返しています。
(ちなみに、ハマスには、政治部門と軍隊組織があり、イスラエル軍やイスラエル政府がパレスチナ人の平和なマーチに対して、武装もしていない一般パレスチナ市民を大量に殺害したり、始終、最低限の生きるために必要なインフラストラクチャーを破壊したり、ハマスの思想リーダーたちの暗殺といった国際法違反や戦争犯罪を繰り返すたびに、「暴力をつかった抵抗」という方針を強くしていったそうです。なぜなら、イスラエル政府は毎日国際法違反、戦争犯罪をパレスチナ人に対して行っていますが、西側諸国は完全に目をつぶり、イスラエルも暴力ということばしか理解しないからです)

カリッドさんは、The UKの北アイルランドでは、以前はテロ組織として指名手配されていた多くの人々が現在の北アイルランド政府の政治家として働いていることについて触れ、多くの労力を要するものの、希望と楽観性をもつのであれば、変化へのスペースがあることを信じ、ハマスも解決に関る一つだとしています。
(北アイルランドは、長い間、現イギリスの植民地で、ひどい扱いを受けていました。アイルランドは1920年ごろに戦闘を通してイギリスからの独立を勝ち取ったものの、イギリスからの植民者が多かった地域(現北アイルランド)は、イギリス領として残りました。この後も、イギリスからの入植者であるイギリス人プロテスタント派は、職業や住む場所等で優遇され続け、原住民のアイルランド人カソリック派は差別を受け続けます。北アイルランドのすべての人に同じ権利と機会の平等を求める平和なマーチがアイルランド人市民によって行われたときに、イギリス軍が普通の市民に発砲し殺人を行ったことがきっかけとなり、内戦が30年ほど続き、多くの市民が命を失いました。今回、多くの西側諸国はアメリカに追従しイスラエルを無条件で支持し即時停戦には反対でしたが、アイルランドはほかのヨーロピアン諸国とは違い、最初から即時停戦を求め、イスラエルのパレスチナ市民への無差別攻撃を批判しています。西側諸国では数少ない、植民地として搾取された歴史をもつ国であることも、パレスチナとイスラエルの入植者による植民地化という関係を明確に見ることを可能にしているのでしょう。)

アラブ系ユダヤ人で、イスラエルとブリティッシュの二重国籍をもつ歴史家のAvi Shlaim(アヴィ・シュライム)さんは、政治組織のハマスは、イスラエルの存在を認めないと謡ってはいるものの、実際にパワーをもつ立場になるとかなりフレキシブルであることを指摘しています。
アヴィさんは、イラク生まれのユダヤ人で、イラクでは裕福な家族としてイラクのほかの人々ともなんの問題もなく数百年にわたって共存し続けてきた時代も生きています。イスラエルの1948年建国時に、ユダヤ人が、多くのパレスチナ人を虐殺し、武力で彼らを先祖代々の土地や家から追い出して難民にしたことに対して怒った多くのアラブ国では、ユダヤ教徒の追放が起き、イスラエルに逃げざるを得なかったそうです。
イスラエルで育っていた時には、アラブ系ということで軽蔑されるような態度を取られたりすることも多く、自分自身も、低級な人間であるかのように感じていたそうです。イギリスのオックスフォード大学へ留学してからは、イギリスに住み、アラブ人、ユダヤ人であることの両方を誇りに思っていて、イスラエル建国前のユダヤ人とアラブ人が数百年にわたって仲良く共存し続けてきた時代を知っているだけに、人種や宗教等に関わらず誰もの基本的人権、自由が守られ、平等な機会が与えられる国をつくることは可能だと信じているそうです。(二か国解決ではなく、一か国で誰もが共存し、繁栄することができる社会)


カリッドさんは、現在の滞った状況については、「どちらもが負けた/失った 」と認識し、お互いにCompromise(妥協点)を見出そうとお互いが努力する)事が大事だとしています。お互いの妥協なしに、解決策はどこにもありません

カリッドさんが、「どちらもが負けた/失った」と言っているのは、恐らく、ヨーロピアン諸国とアメリカでは、「ハマスが全面降伏、或いは完全に消去されなければ、イスラエルに安全はない=それまでは、イスラエルはパレスチナ人に何をしようとも許される」という、イスラエルの欺瞞に満ちた宣伝文句を繰り返すところからきていると思われます。
戦争で、どちらかが完全に降伏するのはとても稀なことであり、大多数は話し合い(両方が妥協)で解決します。
また、西側諸国も、ハマスはイデオロギーや思想でもあり、思想を完全に殺すことができないのは自明なことは知っています。
また、戦争下でも市民を殺したり、病院・ジャーナリスト・インフラストラクチャー(水の浄化施設、下水処理場等)・市民の家やベーカリー等を爆撃するのは戦争犯罪ですが、それについては、「ハマスが市民を盾に使っているから、市民が殺されているのはハマスのせい」というイスラエル側の矛盾と欺瞞に満ちた宣伝文句を繰り返します。
市民と戦士を区別しないカーペット爆撃を行い続けているのはイスラエルの選択であり、イスラエルに責任があります。
また、パレスチナ市民を殺すのに使われていると知りながら、これらの多くの兵器をイスラエルに輸出し続けているアメリカ、イギリスや他のヨーロッパの国々は、国際法では、戦争犯罪の共犯だとみられる可能性が高いとされています。
西側諸国は、今回だけでなく、イスラエルの長年の戦争犯罪・国際法違反については黙認を続けていますが、ハマスの戦争犯罪だけ大声で指摘するDouble Talk(ダブル・トーク/でたらめな言葉を並べて人々を欺く)、Hypocrisy(ハイポクライシー/偽善)には、一般市民たちがNoを突きつけています。


カリッドさんは、解決への大きな障害は、現在のイスラエル政府にあるとしています。
現政府は、過激な考えをもち、絶対的なことしか受けつけず、少しの妥協も受け入れない姿勢を取り続けています。カリッドさんは、UKパレスチナ大使のHusam Zomlot(フサム・ゾムロット)さんのことばを引用していました。
問題は、Settlersが、現イスラエル政府を占拠していることだ」

(セトラーズ/国際法で定められたパレスチナ地域に国際法違法で、正当な土地と家の持ち主であるパレスチナ人を殺害したり武力で脅したり、家や畑を壊したりして、ユダヤ人違法居住地占拠を長年広げ続けているユダヤ系イスラエル人。ユダヤ人は選ばれた民族で、パレスチナ地域は神からユダヤ人のみに約束された土地という狂信的な信仰心をもち、どのような手段を使ってもパレスチナ人を追い出し、ユダヤ人のみの土地にするのは正しいことだと信じている。彼らの犯罪はイスラエル防衛軍と政府によって支持され、ユダヤ人セトラーズたちが犯罪の責任を問われることはない)

このような狂信的な政府が、妥協点を見出そうと努力することは、現在のアメリカからの軍事サポート、経済的サポート、外交的なカバーが続いている限り、考えられないでしょう。

カリッドさんは、即時の停戦を強く求めています。

とても興味深かったのは、カリッドさんが、イスラエルのパレスチナ人大量殺害がサウジアラビアでのRadicalisation(ラディカライゼイション/急進化)を起こすかどうか恐れているかについての質問に対する答えです。

カリッドさんは、「これは、(地球上に住む)すべての人々にとっての関心ごとです。」と答えています。
なぜなら、今回のように、ハマスもイスラエルも戦争犯罪を行っていますが、信頼のある国であると見なされているイスラエルからの、パレスチナ一般市民への大量殺害は、近年の歴史では見られなかったレベルです。
80パーセント以上のガザ市民は、数回の避難を余儀なくされ、食料や水も3か月近く入ってこず、病院や学校や避難所といった、どんな戦争下でも攻撃されるべきではない場所が爆撃され、多くの女性と子供が殺され、それ以上の多くの数の人々が、負傷して手足を失ったり、視力を失ったりしています。
(このような残虐行為が続いているにも関わらず、アメリカは停戦に反対し続け、外見上では「イスラエルは、市民への被害を減らすべきだ」と言いながらも、イスラエルへ大量に武器を送り続けています。この武器の多くは、パレスチナ人市民に対して使われていることは既に知られています。他の西側諸国も、アメリカに追従しています。)
このような状況は、地球上に住んでいるどんな民族や国、どんなグループに属している人々の間でも、不満を抱いている人々に、未来についての絶望をもたらします。
これは、(全世界にとって)とても危険なことです。

停戦への努力はされてはいないわけではありませんが、全然十分ではありません。
イスラエル政府は、これだけの死者と負傷者をだしながら、これはfirst phase(ファースト・フェイズ/第一段階)だとしています。
カリッドさんは、「何人の無実のパレスチナ市民が死ねば、気が済むのでしょう」と述べていて、これには地球上の多くの市民たちが同じことを思っているでしょう。

ミシェルさんからの、「UK政府の姿勢の変化を望みますか」という質問に対しては、以下のように答えていました。

UK政府には、もっとmoderateな(モデレィト/抑制のきいた)姿勢を望んでいます。
ここでは、perception(パーセプション/知覚・認識)とnuance(ニュアンス/微妙な差異)が大切です。
私は、なぜ、どのように、今の状況に達したのかを理解していますが、多くの人々は理解していません。
現在の世界は、soundbite(サウンドバイト/短く覚えやすく、攻撃的・衝撃的・キャッチ―な言葉をちりばめた文言で、往々にして複雑な事実を歪曲しているもの)にあふれていて、これらからは、ものごとの全体性を見ることはできません
私がUK政府だけでなく国際的な国々の政府に望んでいるのは、イスラエルを、他の国々と同様に扱うことです。
もし、他の国々がイスラエルが現在していることをすれば、あっという間に国際社会は、経済制裁措置等を実行するでしょう。
でも、イスラエルに対しては、イスラエルがどんな不正な行動(長年にわたる国際法違反、戦争犯罪)を行っても、国際社会は公平な行動(経済制裁等)を行いません。このイスラエルに対する盲目的なスポットは、平和への盲目的なスポットでもあります。
イスラエルに対して正義(=戦争犯罪・国際法違反について責任を取らせる)が行われなければ、パレスチナに対しても正義はもたらされません。
現在の状況をみて、正義がなされている・公平だと思うことは、誰にとっても難しいでしょう。

カリッドさんのインタビューは10分程度ですが、彼のいうことを理解するためには、英語を理解するだけでは不十分で、イギリスやヨーロッパでの政治的な情勢や歴史を知っておくこと、中東での歴史や政治情勢についても知っておくことは必要です。
イギリスには、国営放送BBCをはじめ、多くのインタビューや素晴らしいジャーナリストが取材した記事も無料で読めることが多いです。
イギリスの経済学者が言ってましたが、BBCを聞いて興味のあることは少し自分で調べれば、博士課程レベルのことが学べる、と言っているのを聞いたことがありますが、わざわざ教育機関に行かなくても、学べる機会はたくさんあります。
もちろん、これには英語も有用だし、英語が話せることで、さまざまな国からきた人々の実際の生活や人生の様子、現地の人々からみた政治状況等を聞くことも可能にします。
こういった経験は、自分が育った地域とは全く違う地域や慣習、宗教等をもつひとびとを、同じ人間として見て感じ、交流することを可能にし、自分の考えや人生も深め、広げてくれます。

Yoko Marta