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ドイツでの民主主義への希望

Yoko Marta
06.02.24 02:26 PM Comment(s)

ドイツでの民主主義への希望

定期的に聞いているPodcastの中に、Financial Times(ファイナンシャル・タイムズ)の「The Rachman Review」があります。ブリティッシュ・ジャーナリストのGideon Rachman(ギデオン・ラフマン)さんが担当しているポッドキャストです。
ヨーロッパに住んでいると、名前からユダヤ系なんだろうと気づくと思うのですが、父はユダヤ系南アフリカ人で、イギリス生まれ・育ちではあるものの、子供時代の一部は南アフリカで過ごしたようです。ジャーナリスト時代を東アジアで過ごした期間もかなりあり、アジアにも深い洞察眼をもっているジャーナリストです。
ヨーロッパにいると、人々のアイデンティティはいくつもあるのがごく普通で、日本のように何代遡っても日本人だけ、日本だけに住んでいるというのは、世界レベルでみれば珍しいのではと思います。
市民戦争や、大国の代理戦争に巻き込まれることもなく、国全体が貧しくて先進諸国に出稼ぎに出ざるをえない地域でないことは、運がいいともいえると思います。

ちなみに、このFinancial Timesは日本の日経新聞に2015年ごろ買われました。
最近、イギリスでは、「Daily Telegraph/デイリー・テレグラフ」がアブダビを支配する一族の所有する企業に買われる話がありましたが、国民やさまざまな界隈からの反発や反応もあり、イギリス政府が介入しストップしました。
大きな声は、専制政治を行っている中近東の国の支配者でかつ外国人が、メディアをコントロールするのは民主主義にとっても危険だということだったのですが、実際は、イギリスの大手のメディアは、日本の日経だけでなく、多くは、オーストラリア出身のRupert Murdoch(ルパート・マードック)さんとその家族が牛耳っているので、Daily Telegraphを特別扱いするのは意味を成さないという意見もありました。
ルパートさんは、アメリカのメディアも大きくコントロールしていることで知られています。

今回は、ドイツのAfD(英語では、Alternative for Germany/オルタナティヴ・フォー・ジャーマニー/日本語ではドイツのための選択肢)の台頭と、それに対してドイツのいたるところで起こっている大きな反AfDへのプロテストについて、ドイツ人女性政治アナリストのConstanza Stelzenmuller(コンスタンツァ・ステルツェンミュラー)さんと、興味深い対談を行っていました。
ここから無料できけます。
ドイツ語と英語はとても近い言語なので、ドイツ人は一般的に英語が上手だし、聞き取りやすいです。

ドイツでの極右派の台頭と聞くと、ナチスが勢力をもった歴史も遠くはなく、恐ろしい気もするかもしれませんが、現在は、まだ民主主義はきちんと機能している状態だし、常に連立政権であることが憲法でも定められているので、極右派のAfDの一党独裁の道に進むことは、(彼らが憲法を変えるぐらいの権力をもつか、民主主義を守る裁判所や法律を定める機関をキャプチャーし実質的に一党独裁状態をつくらない限りは)あり得ないだろうと思われています。
また、今回のように、多くの市民が、ドイツのいたるところでAfDにプロテストを大規模に起こしているのは、民主主義が生きている証拠です。

このプロテストの原因となったのは、AfDの幹部が、ドイツのパスポートを所持している移民も含めた、大量移民排斥を謀議したことです。
移民には、近年やってきた移民(シリア難民等)も該当しますが、この「移民」バックグラウンドをもったドイツ人は、現ドイツ人口の約25パーセントを占めるそうです。ドイツの公式な統計(2022年時点)では、「移民バックグラウンドをもつ人」の定義を以下としています。
・ 自分自身が1950年以降に移民してきた人(First generation/ファースト・ ジェネレーション)
・ 親がファースト・ジェネレーション移民である人(移民二世代目)

コンスタンツァさん自身は、彼女から4世代くらい遡ると、隣国のオーストリアからプロテスタント教徒であることが理由でドイツへ逃げざるをえなかったオーストリア人の祖先(=移民)がいるそうです。上記の25パーセントには入らないでしょうが、ヨーロッパ大陸は陸続きで、多くの戦争で過去100年ぐらいで国境も何度も変わっているので、誰が「オリジナルなドイツ人」なのかは、どのぐらい意味を成すのか、という疑問も正当な疑問だと思います。これは、フランスや他の国にもいえることです。

移民たたきはどの国でもみられますが、イギリスのそう遠くない過去では、家を借りる際に「黒人はだめ、アイルランド人はだめ、犬はだめ」という標語が当たり前のように使われていた時代もあります。「移民」というと肌の色が違う、宗教が違う、言葉が違うといったイメージをもつかもしれませんが、これは政治的な選択でもあり、アイルランド人移民(白人、英語を母国語レベルで話せる)が、同じく白人社会で同じ英語を話すイギリス社会で移民として、差別のターゲットになっていたこともあります。

最近のドイツの世論調査では、5人に1人は、次の選挙ではAfDに投票しようと思っているという回答があったという結果もあるそうです。
旧東ドイツ地域では、西ドイツ地域に比べてAfDの支持率がずっと高いとのことですが、旧東ドイツ地域には、移民はとても少なく(移民がいても、隣国のオーストリア人が多い=白人で、話す言葉も同じドイツ語)、多くの移民は西ドイツ地域に住み、仕事や生活も含めて、ドイツになじんでいる人々が大半だそうです。
また、移民が増えたポイントはシリア難民を受け入れた2015年で、その後は大きく移民が増えたことはないそうです。

コンスタンツァさんは、これらを鑑みても、移民「問題」が本当に人々がAfDをサポートすることの原因なのかと疑います。

コンスタンツァさんは、人々の間には、想像上の(不当だと考えられることへの)不満もあれば、実際に不当なことへの不満もあり、正当な不満もあれば、正当ではない不満もあるけれど、通常、人々は、直観的にラフな区別をすると観ています。
彼女は、以下の三つを挙げていました。

文化的・アイデンティティー問題/経済的な問題/統治問題(政治上の問題)

コンスタンツァさんは、文化的・アイデンティティーはソーシャルメディアで煽情的に取り上げられることが多いけれど、実際にはそう大きく影響していないと観ています。
経済的な問題は、東ドイツは西ドイツに比べると貧しいので意味を成す部分もあるけれど、多くの裕福な人々がAfDをサポートしていることからも、経済的な問題はそう大きくないと見ています。

コンスタンツァさんが導き出した結論は、ドイツだけでなく、他の民主主義諸国もかかえている共通の問題「議会制民主主義の危機」です。

コンスタンツァさんは、普通のドイツ人は政治をいつも考えているわけではなく、AfDが実際にどういう考えやイデオロギーをもっ政党なのかもよく観察していないか、そんな極端な考えをもつ人々がいるはずがないという否定的で信じない人々で、現在のメインストリームの政治に大きく不満をもっており、それに対する反対投票として、AfDに投票しようとしている人もたくさんいる、としていました。
これは、ドイツだけでなく、フランスやイタリアでも同じで、極右派が、市民の間での不満をうまく利用して台頭してきています。
イギリスの場合は、アメリカと似ていて、現在の保守派政党(Tories/トーリーズ)は、党内の極右派にキャプチャーされ、中道派で市民のことをよく考えている思慮深い議員たちは、政党から追い出され、独立議員(どの党にも所属しない議員)となりました。

極右派のAfDを禁止するべき、という声もあるし、実際に法律的には可能なものの、コンスタンツァさんは、禁止するのではなく、議論を続けることが大事だとしています。
禁止すると、逆に、自分たちは「殉教者」だということで、人気を高める恐れが高くなります。
また、民主主義で、言論や思想の自由があるのに、これだけの支持をすでに得ている政党を禁止することも、賢い選択とはいえないでしょう。
コンスタンツァさんが言っているように、民主主義にのっとり、議論を重ねていき、市民の正当な不満や恐れを解決することで、こういった極右派は、自然と力を失うでしょう。

ドイツで政党を禁止した例は、1950年代にナチスの直接の後継の党を禁止したのを含めて、2つだけだそうです。2017年に、ネオ・ナチス党を禁止するかどうかという裁判もあったようですが、支持者もほぼいないし、政治的にほぼ影響がないということで禁止することは見送ったそうです。

コンスタンツァさんは、AfDの目的はなんだと考えているのでしょう。

彼女は、AfDは反立憲で、ハンガリーのような一党独裁政治を目指しており、白人国粋主義のマジョリティー(=マジョリティーでない人々の権利や意思は無視)で、立憲政治に必要な権力のチェックやバランスはとても小さいか、理想的にはない状態で、専制政治に向かおうとしていると考えていい、としていました。
彼らの定義する「移民」を大量追放するかもしれないし、民主主義をつかって民主主義をつぶし、専制政治をつくりだすかもしれません。

議会制民主主義の本質は、さまざまな意見もあるけれど、制限のある政府で、政治を実行する人々(大統領、首相、閣僚、議員)、裁判所、法律を決めることには、適切なチェックとバランスがはかられ、主権者たち(投票を行う市民や国民たち)の意思が反映されることです。
※抑制のきかないMajoritarian(多数決主義)は民主主義ではありません。多数決主義とは、たまたまその国のその時代に、宗教・言語・社会階級・人種・民族等を元に多数派の人々が「Right People(正しい人々)」で、一定の優越性をもち、すべてのひとに影響を及ぼす決定をする権利があるという考え方です。これは、過去にナチスが実行したことでもあり、AfDが試みていることでもあり、マジョリティー以外を「Others(アザーズ)或いは劣る人たち」として非人間化するという危険性をはらんでおり、たまたまマイノリティーに属する人々の権利や望みを無視するものとなり、マイノリティーの人々を危険に陥れる可能性があります。※

ギデオンさんが、東ドイツの警察組織の35パーセントはAfDのメンバーで、これはとても危険な状況ではないかと、コンスタンツァさんに質問していました。

彼女によると、AfDは、計画的に、警察や軍隊といったセキュリティーにくいこむ努力を長年続けている結果ではあるけれど、今回のように、東ドイツの小さな町を含む、至る場所でのプロテスト運動をみる限り、現段階では、セキュリティー機関はキャプチャーされたというには程遠いとしていました。ただ、これは注意深く観察される必要があります。

ドイツ市民たちは、今までは、4年に1回の選挙で、大きく間違った投票をしない限りは、自分たちが選択した代表(=議員)に任せていればいい、というある意味政治には無関心なSilent Majolity(サイレント・マジョリティー)が多かったそうですが、今回のAfDの「移民大量追放」という謀議によって、人々は目を覚まします
政治を放っておくことはできません。私たちに市民には、自分たちの意見を表明して、知らしめる義務があります。

もちろん、メルケル元首相時代から手つかずになっていた、人々の毎日の生活に関る社会的、経済的、政治的な不満にも正面から向き合い、解決していく必要もあります。

コンスタンツァさんは、ドイツ人だけでなく、世界中の多くの市民が繁栄や安定性、安全を当たり前と思い、それらの消費者となり、自分たちの政治代表者(議員や首相)に政治を任せていましたが、私たち市民には、議会制民主主義を保持する市民としての責任と義務があります

コンスタンツァさんは、今回のドイツ中で巻き起こっている反AfDプロテストは、市民たちが自分たちで立ち上がり、政治に積極的に関わり、民主主義を支える努力を続けるという表れであり、希望につながるものだとしていました。

民主主義は脆弱なものであり、私たち市民が政治にしっかりと関わり続けていく必要があります。そのためには、何が起こっているかを、よく観察し理解することが欠かせず、そこから行動を起こしていくことが大切です。

Yoko Marta