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ディープフェイクが違法にーイギリス

Yoko Marta
16.04.24 05:12 PM Comment(s)

ディープフェイクが違法にーイギリス

今日の朝、いつものように国営放送のBBC Radio4を聞きながら朝食をとっていたら、「Creating sexually explicit deepfakes becomes illegal (性的に露骨な表現をしているディープフェイクを作成することは、違法になります)」というニュースがありました。
ここでいうディープフェイクとは、AIソフトウェア等を使って合成された動画・画像を指します。
これは、とても画期的なことで、長い間待たれていたものでもあります。

これまでも、Consent(コンセント/合意)なしで、性的な画像やビデオ、或いは性的なことを想起させるような画像、ビデオをシェアしたり、アップロードするのは違法でしたが、今回、やっと作成したひとも、刑法で罰せられることとなりました。
これには、作成した画像や動画をシェアするかどうかは関係なく、たとえ一人で隠し持っていてシェアしていなくても、犯罪として処罰されます。
これらは、大人(18歳以上)に適用となりますが、子供(18歳以下)については、ずっと前からこれらは違法です。
子供については、一部や全身が裸である、性的行為等のあからさまなものだけでなく、子供にセクシャルに見えるポーズを取らせたり、セクシャルにみえるようポーズを取ったり行動するセルフィーを取らせることも含まれています。
ヨーロッパでは、日本の子供(18歳以下)に対する基本的人権が軽んじられていることや、子供は大人や社会が保護して守るもの、というノーム(風潮)がかけていることに驚かれることが多いのですが、子供は守られるべき存在で、大人の欲望や大きなビジネスのプロフィットの犠牲にされていいわけがありません
子供を性的なオブジェクトとみて(ここには漫画等の実際の人物でない場合も含む)、自分の欲望のはけ口にし、非人間化する行為が許容されている社会は、健康ではなく、誰にとっても危険です。
特に子供や女性、心身に障害や不自由があるひとびと、移民といった社会で弱い立場に追いやられている人々には、さらに危険となります。

また、大人(18歳以上)について、リベンジポルノやvoyeurism(ヴォワーヤリズム/のぞき見、盗撮、かくしどり)、Upskirting(アップスカーティング/本人の許可なしに、着ている服の中・下を撮る)は、既に違法です。
このvoyeurism(ヴォワーヤリズム/のぞき見、盗撮、かくしどり)は、合意がない授乳中の女性を撮ることも含みます。

The UK政府(The UKは、イギリス国、ウェールズ国、スコットランド国、北アイルランドの4か国からなる連合国)は、the violence against women and girls (女性と女子に対する暴力)を国家安全の脅威と再度位置づけしました。
これは、女性と女子に対する暴力が、ほかの犯罪より優先されて警察に扱われることとなります。
この暴力には、Domestic violence(ドメスティック・ヴァイオレンス/家庭内暴力)やパートナーや恋愛関係での暴力のような直接の身体的・心理的・経済的暴力も含みますが、今回のようなオンラインでの暴力(権利の侵害)も含みます。
Cyber flashing(サイバー・フラッシング/わいせつな画像や動画を送りつけてくる)も既に刑法で違法となっており、最近、メッセージアプリケーションで自分の局部の写真を女性や子供に送り付けていた男性が、監獄へ送られることとなりました。
66週間の禁固、監獄を出たあとの10年間は女性や女子に近づくことへの禁止命令、監獄を出た後の15年間は、知り合いでない女性に近づくことを公共の場やハイウェイで禁止する命令が出されました。
この男性は、昨年、16歳以下の子供に対しての露出と性的な行動で有罪判決が出て、sex offender register(セックス・オフェンダー・レジスター/登録性犯罪者)にあがっていたので、それも考慮しての罪状だったのでしょう。
ちなみに、被害者のanonymity(アノニミティー/匿名性)は保障されています。

このAIディープフェイクについては、全世界で似たような傾向があり、犯罪や政治家の偽ビデオ等にも使われていますが、ポルノに使われることが95パーセント以上で、その被害者のほとんどが女性・女子で、ディープフェイク・ポルノの作成やシェア、ダウンロード、購買といったことを行っている(=加害側)多くは男性だそうです。
ディープフェイク・ポルノを合成するアプリケーションを作ったり運用している人々の多くは、ただ単に金儲けが簡単にできるから、ということだそうです。
こういったサービスを使ったり購入する人々がいなければ、商売は成り立たず、彼らは別の商売を探すでしょう。
この被害者女子・女性は、必ずしもよく知られている有名人だけでなく、ごく普通の大学生や日常的な普通の人々の多く含まれています。

ヨーロッパでは、まず聞かない議論で、日本でよく聞かれるのは、「ディープフェイク・ポルノや漫画といった実写でないものは、誰も傷つかないし、表現の自由を守られべき」ですが、これは、事実ではありません。
スペインの小さな町で、10代の子供たちの間で数人の女の子の裸がメッセージアプリケーション内のグループで回覧されているのが見つかり、ショックが広がりました。
これは高校の友達グループの中の男子が、AIディープフェイク・ポルノのサイトに知っている女の子たちの写真をアップロードし、合成したものでした。
被害者の女の子のうちの一人の母親が相談されたとき、とてもリアルで驚きいたそうです。
彼女(産婦人科医)は自分の娘のことを知っているので、それは合成されていると分かったけれど、知らなければ本物だと思ったかもしれない、と言っていました。
同じように被害にあった女の子たちの中には、彼女の裸の画像を合成した加害者の男の子から、「お金を払えば、シェアしないでおいてあげる」と脅され、はっきりと断ったひともいたそうです。
被害者たちが町を歩いていると、知らない同年代の男の子たちから裸(実際には、ディープフェイクで本当の裸ではないけれど)のことをからわかれたり、悪く言われ、家から出ることができなくなったり、トラウマやストレスから摂食障害が出たり、さまざまな問題が生じています。
ただ、日本と大きく違うのは、被害者の女の子たちから相談された親は、子供たちが相談してくれたことを褒めて支え、警察にすぐ通報することでしょう。
当然ながら、「男の子たちの将来や未来を考えて警察へ通報するな」「加害者の両親や親戚から恨まれるかもしれないから黙っておけ」や、「傷ものになったと思われると結婚できなくなるから黙っていなさい」等の考えは、全く存在しません。
悪いことを選択して行った人たちが100パーセント悪いのであり、加害者は、法によって裁かれ、その選択と行動に対する責任を取るだけです。
また、20代、30代といった大人たちなら影響はないのでは、という見方もあるかもしれませんが、ディープフェイク・ポルノを知らない間に合成され、それが本名や住んでいるところも含めてディティング・サイト(デートする人を探すサイト)等にアップロードされ、突然ひわいなメッセージや誹謗・攻撃的なメッセージが数多く届いたり、自宅の写真を投稿され、危害を加えることを予告するようなメッセージが現れ、支えてくれる家族・友人・パートナーがいるという安定した環境下でも、多くの被害者の女性たちが物理的・精神的な危機を経験していました。
直接的な性的加害の多くが知っている人からであるように、オンライン上での性的加害も、知っている人たちからのことが多いそうです。
恨まれるようなことをしたのでは、と被害者が自分を責めてしまうこともあるようですが、実際には、加害者もなぜ自分がそういうことをやったのか明確でない場合もかなりあるようです。
(現在のところ、ディープフェイク・ポルノをつくるサイトやアプリケーションに簡単にアクセスでき、安い価格で、技術的に簡単に短時間でつくることが可能なことも一因なのかもー子供だと興味本位でそのことによって生じる影響や結果に考えが及ばない場合もありうる)
もちろん、勝手に恨んで、復讐としてディープフェイク・ポルノをつくったとしたら、それは完全に間違っています。
恨むような気持になるような出来事があれば、きちんと話し合えばいいだけで、それが普通の対応です。勝手な期待をして恨みを持つような人のコントロール(例/その人に恨みを持たれるような状況をつくらない等)は、誰にとっても不可能です。その人の言動をコントロールできるのは、その本人だけで、ほかの人々になんの責任もコントロールもありません。

誰も傷つかない、というのは事実ではありません
また、「表現の自由」とは何をしてもいいというわけでなく、基本的人権やほかの人々の自由や尊厳を侵害しない、ということが前提となります。

このスペインでの事件は、司法の頭も悩ませ、多くの子供をもつ親たちが、「自分の息子が加害者になっていないか、自分の娘が被害者になっていないか」と心を痛めることとなりました。
この事件を担当した司法担当者は、「まだ倫理やモラルといった精神が発達しきっていない子供たちが簡単に犯罪をおかすことができるアプリケーションを作ることも間違っているし、そういうことをオンライン上許しているのもおかしい」としていましたが、スペインには当時(多分今も)ディープフェイク・ポルノを取締る法律は存在しておらず、また加害者も子供たちだったので難しいところだったのですが、結局はこの加害者の男の子たちにも、彼らの行動に対しての処罰が出たそうです。

イギリスのようにわざわざthe Online Safety Actや刑法に組み込むことをしなくても、既存のDefamation(デファメーション/名誉棄損)で取締ればいい、というやり方を取っている国もありますが、そこには大きな問題があります。
このディープフェイク・ポルノの問題は、Consent(合意)がなく、被害者の権利(プライヴァシー、尊厳、アイデンティティー)が侵害されたというところにあります。
「(女性の)性的な画像や動画があることを恥ずべき」なので名誉棄損とするということになれば、ディープ・フェイクポルノは実写ではなく合成したものなので、本人とは違うので名誉棄損とはならない、といった詭弁がまかりとおる可能性もあるし、家父長制の考え方である「女性が明確にセクシャルであることは間違っている」という風潮を強化することにもなりかねません。
女性がセクシャルであることは間違ってもいないし、普通で自然なことで、それを社会的にスティグマにしたりして得をしているのは、権力をもった男性の一部だけです。
焦点は、合意がなく、その人の権利が侵害されたということであり、たとえポルノを職業として演じる人だったとしても、合意がないもの(合成されたフェイクもフェイクでないものも)を作ったり、シェアしたりするのは、許されることではありません。
もし、名誉棄損のみで、合意がない性的な画像や動画の作成・シェアを禁止する法律がない場合は、世間にまかり通っている偽の神話である「女性が明確に性的であることは間違っている(=性的なイメージは恥ずべきこと)」が疑問もなく受け入れられている社会では、ポルノを演じることを職業としている女性は、すでに「名誉/評判」を失っているので、彼女の合意なしで何をシェアしようと作成しようと、名誉棄損は成り立たない、といった詭弁も通りかねません。
あくまでも、「合意の侵害」が主眼です。
同時に、社会や周りの人から刷り込まれている神話や作り話を一歩下がって、正しいことなのかどうか、これ以降も信じるのかどうかを考えるのは重要です。
法律も大事ですが、法律が変わるには、人々の意識や考え方、社会のノームが変ることが重要です。
The UKでディープフェイク・ポルノやサイバー・フラッシュについて、きちんと刑法として組み込まれたのも、子供を守る法律が強いのも、一般の人々がそれを強く求め、必要だと思っているからです。
誰もが安全でない社会は、結局誰にとっても安全でない、ということは当たり前のようですが、日々意識しておく必要があります。

特に、弱い立場におかれた人々の権利を守ることはとても大切です。

Yoko Marta