現在の時代や場所・仕組という制限を越えて、夢見ることの大切さ

Yoko Marta
28.05.24 03:19 PM Comment(s)

現在の時代や場所・仕組という制限を越えて、夢見ることの大切さ

Gary Younge(ギャリー・ヤング)さんは、ブリティッシュ・ジャーナリストで、現在は、マンチェスター大学でSociology(ソシオロジー/社会学)の教授をつとめています。
母は、大英帝国の元植民地であるBarbados(イギリスではバルベィドスと発音/バルバドスーカリブ海、西インド諸島内の国)出身で、第二次世界大戦後に、イギリスの労働者不足を解消するために、積極的にイギリスの元植民地国から人々を招へいした時期に、イギリスへと移民してきました。
ギャリーさんは、イギリスで生まれ育ちます。
母は、44歳という若さで突然亡くなったものの、看護師としてのトレーニングを受けNHS(National Health Sercice/国民健康保健)で働きながら、教師の資格もとり、休みの日にコミュニティーの女性たちに英語を教えていたり、コミュニティ―へ大きく貢献しました。

ギャリーさんが生まれたのは1960年代で、まだまだ黒人や有色人種への差別や暴力がひどかった時期です。
ちなみに、この時代は、アイルランド人移民も、イギリス国内で大きな差別にあっていました。
貸し家の看板に堂々と「No Irish, No Blacks, No dogs(アイルランド人、黒人、犬はお断り)」が書かれていて、家を借りるのにも一苦労した時代でした。
アイルランド人は白人ですが、アイルランドは、もともと大英帝国の植民地です。
アイルランド独立を闘争を通して勝ち取ったのは1930年代でしたが、独立後も貧しい時代が長く続き、生きるために、イギリス、アメリカへ多くの人々が、移民を続けました。
この歴史的事実からも、人種差別を含むさまざまな差別は人工的につくられたものだということがよく分かります。
実際に、地球上に住む全ての人々の遺伝子は99パーセント以上は同じであると既に科学的に証明されています。
アメリカでもイギリスでも、黒人や有色人種が差別される歴史があるのは、ある時点で、帝国主義を推し進めた西ヨーロッパの人々が、資源のあるアフリカや南アメリカ(西ヨーロッパ人と目に見えて違うように見えるのは肌の色や髪のカール具合等)へ侵略し、砂糖プランテーションやコットンをつくるプランテーション等、自国への利益のために、ほかの地域に侵略し大量殺害や資源や土地を盗み、人々を奴隷として攫ってきて、ただ働きさせることを正当化するために、「白人は優秀で、有色人種は人間以下で白人よりずっと劣る」というプロパガンダ、嘘の神話を広げたことによります。
西ヨーロッパのほとんどの国々が、この植民地政策で現在の裕福さの基盤を築いていて、これが「資本主義」の大元の資本(ほかの地域の人々の土地や資源を暴力と殺害を通して盗み、原住民を奴隷にしてただ働きさせることで利益を得る)だと見られています。
今でも、これらの元植民地宗主国は、元植民地国の資源(石油や鉱物)を自国の大企業を通して支配することを続けていて、この仕組をネオ・コロニアリズムと呼ぶこともあります。
元植民地国が、自国の資源を国営化しようと試みると、さまざまな理由をつけて西側諸国が侵略して、資源をさらに奪うことは歴史的にみても、繰り返し起こっています。
それでも、徐々に「コロンバスがアメリカを発見したわけではない(=すでに数百年にわたってその土地に住んでいた原住民の人々がいた。「発見した」というのは、植民地主義・帝国主義の見方)」というのも浸透してきています。

ギャリーさんが生まれ育ったコミュニティ―は、白人労働者階級が大多数で、黒人は本当に少数だったそうです。
母には、子供たちにどういった未来があるかについて、具体的なことは見えていなかったけれど、誰もが平等なチャンスを得ることができる希望のある未来を夢見ていたそうです。
母は、ギャリーさんやほかの息子たちも連れて、さまざまな社会活動、マーチにも参加していたそうです。
さまざまな不正義(自分たちが直接の対象であるかどうかに関わらず)に対して、コミュニティーの人々とつながりながら、すべての人々への正義を求める活動を続けました
お休みの日には、幼いギャリーさんと、「Young Black and Beautiful (若く、黒人で、美しい)」の曲をかけ、一緒に踊っていたそうです。
この曲は、歌詞もとても美しいので、ぜひ一度聞いてみてください。

ギャリーさんは、Martin Luther King Jr.(マーティン・ルーサー・キング・ジュニア)さんの「I have a dream」というよく知られているスピーチについて書いている著作「The Speech」もありますが、キングさんは、実際にある世界ではなく、こういう世界になってほしい、というRadical(ラディカル/急進的)な希望を語っています。
これが、「私には、10ポイントプランがあり。。」と始まり、今ある社会の仕組みに縛られた世界観を語っていれば、多くの人々は関心をもたなかったでしょう。
キングさんには、具体的な世界や、その世界を実現するための具体的な手法を知っていたわけではありませんが、みんなで良い世界を夢見ることをシェアして、実現に移すことを可能にしました

Radical(ラディカル/急進的)ということばの語源は、ラテン語の「Radix/英語ではroot/根っこ」からきているそうです。
大きく物事が変るためには、物事の本質・根っこを扱う必要性があります。
そのためには、私たちが知らないうちに閉じ込められている箱(=今あるシステムに疑問すらもたず、自分が置かれた場所にうずくまっている状態)を出て、今までの思い込みを捨て、新たに考えることが重要です。
ギャリーさんの「Radicalism/ラディカリズム(急進主義)」の定義は、違った可能性を想像することのアートであり、現在私たちに見えることを超えた、私たちが望む世界をつくるために闘うこと、としています。

ギャリーさんは、自分の道のりは、一人のヒーローが貧困から何かしらのステータスを得たという物語ではなく、「多くの人々が(大きな困難にみまわれながらも)敷いてくれた道」だとしています。
イギリスでも、今でも有色人種や黒人に対する差別はシステム的にいたるところで起こっていますが、黒人や有色人種の人権を求めて闘い続けている人々が長期間にわたって、たくさんいることによって、黒人であるギャリーさんがジャーナリストになったり、大学教授になるという道を開き、広くしていった経緯があります。

ギャリーさんの以下のことばは、心にのこりました。
※直訳ではありません

市民運動や女性選挙権の成功は、「時代や潮時の産物」では全くありません。
これらは、集団的な希望・野望と進化で、「Struggle/闘争」を通して勝ち取ったものです。

同じことは、今の時代でもできます。

もし私たちが、自分たちが住んでいる時代や場所に閉じ込められた狭い考え方に制限していたら、私たちの水平線を、今の時代と場所に制限することになるでしょう。
もし、私たちが、今現在すでに可能なこと、実現可能でありそうなことだけに絞ると、私たちは、必要で、フェアで公正なことを求めて努力する・闘う能力を忘れてしまうでしょう
ものごとは、私たちが変えるように動くことによって変わります
この頂点の瞬間には、未来はどのようにあるべきかというアイディアの背後にいる人々を最も多く結集させ、最も多くの人々を「Struggle/闘争」へと動かせた人に賞が与えらえます。
私たちがどのような世界を作りたいかが(具体的に/詳細に)見えないという事実があるからといって、私たちがそれ(希望する世界)に対して闘うべきではない、ということではありません。(=希望する世界(の方向)にむけて、私たちは闘うべき)

現在は、地球上のさまざまな地域で紛争が起こり、テクノロジーの発達でよいことも多くあるものの、不確かなことも増え、地球上だけでなく、先進国の中でも貧富の差はどんどん大きくなり、希望がもちにくい状況かもしれません。
思い出してほしいのは、南アフリカのアパルトヘイトの廃止(=南アフリカに住むすべての人々が同じ権利をもつ)も、アメリカでの黒人の市民権の獲得も、実際に実現する瞬間までは、完全に不可能だとしか見えなかったことです。
でも、多くの人々が根気強く(その時代の考え方では)実現しそうにないけれど、希望する未来の方向へと動いているうちに、ある日突然、それまでの強固で絶対に変わらないと思っていた地盤が崩れ、新しい世界があらわれます
物理学では、一つの分子が変われば確実に全体が変るそうです。
私たち一人一人の力は小さくても、一人一人が身の回りや世界で起こっていることに目を向け理解し、点と点をつないて物事の本質を見抜き、よい世界に向けて歩き続けることは重要です。

参考ː
ギャリーさんの著作ː
https://www.garyyounge.com/books
※私は、数冊読みましたが、その中でも、「The Speech」には、キング牧師の行った長いスピーチの全体があり、現体制(アメリカやイギリスといった旧・新植民地宗主国の覇権のみが重要視され、ほかの大多数の地球上の人々の意向が無視される体制)に都合よく切り取って利用される「I have a dream」以外の部分についても記されていて、おすすめです。

Yoko Marta