AIを使った子供の性的虐待イメージ作成へのイギリスの対応・取組

Yoko Marta
18.11.24 05:02 PM - Comment(s)

AIを使った子供の性的虐待イメージ作成へのイギリスの対応・取組

最近、イギリスでは、AIを使用して子供(イギリスでは18歳以下が子供)の性的虐待イメージを作っていた27歳の男性、Hugh Nelson(ヒュー・ネルソン)さんが18年の懲役刑となりました。
出所した後も、一生、Sex Offender(性犯罪者)リストに記載され、長い間、子供や女性にあうことも制限されます。

イギリスのDurham University(ダラム大学)で、女子と女性への暴力について研究・政策へのアドヴァイスも多く行っている女性教授、Clare McGlynn(クレア・マグリン)さんが、イギリスの独立系新聞ガーディアン紙のポッドキャストで、興味深い見解と、どうやってこの犯罪を防ぐことができるかを語っていました。
ポッドキャストは無料で、ここから聴けます。
ちなみに、どんな状況であっても、「加害者が100パーセント悪く、被害者は100パーセント悪くない(加害者は加害をしないという選択肢があったのに、加害することを選択したが、被害者に加害のターゲットにならないという選択肢はない)」というのは、社会でも普通のノーム(風潮)なので、それを前提に話しています。
これは、日本では、なかなか想像がつかないのでは、と思いますが、イギリスも他のヨーロッパの国々も、多くの女性が闘い続けて勝ち取ってきたもので、どの地域でも文化でも、社会の風潮を変えることは可能です。
日本では、性的加害にあった子供や女性が恥を負わされることが多いと思いますが、ヨーロッパ全般では、恥を負うべきなのは加害者であって、被害者にはなんら恥ずかしいことはない、と言う捉え方が普通です。
イギリスだと、夫が子供に性的虐待を行ったとき、妻が子供の味方として証言することがごく普通で、犯罪を行った夫をかばって子供を黙らせようとする傾向は絶対にないとはいえませんが、非常に低い印象があります。
子供への性的虐待については、イギリスでは時効がないため、虐待が起こった35年後に、父親を訴え、裁判で勝利を勝ち取ったケース(※)もあります。
彼女は、勇気がある行動をしたということで讃えられることはあっても、「歳のとった父親を牢獄に入れるなんて」や「学校に行くお金を払ってくれたのは父親なのに」といった言葉は全く聞きません。
多分、そういった発想すらありません。
親には子供をもつ・もたないという選択がありますが(犯罪や夫婦間での身体的・精神的な暴力で妊娠・出産させられた場合等を除いては)、子供には生まれてこない選択や、親を選ぶ選択肢はありません。
そのため、子供が学校に行くお金を出したり、子供の心身の安全を守るのは親の最低限の役目である、というのは当たり前のこととして認識されていて、生まれた瞬間から親に借りがある、という日本的な発想は、理解できないと思うし、実際、そういう間違った思い込みは、誰もが捨てることを選択できます。
基本は、父親は、子供だった彼女に犯行を行うという選択をしたので、その責任を取る必要があるのは当然だということです。

また、何が子供の性的虐待イメージなのか、という部分でも、日本と大きく異なります。
クレアさんもポッドキャストの中で明言していますが、このイメージに使われた子供が実在しない場合でも(例/漫画やアニメ、AIで顔も身体もすべて人工的に生成されたイメージの場合等)、この法律は適用され、違法・犯罪行為となります。
その理由については、後述します。
また、性的虐待イメージには、着衣であっても性的なことを想起させるようなポーズを取らせるといったことも含まれています。特定の身体の部位が出ているかどうか、といったことはポイントではありません。
子供が性的なオブジェクトとしてみなされ、大人の性的な興奮をよびおこすために使われている、というところが焦点となります。

クレアさんは、このAIを使用した子供の性的虐待イメージは2017年以降、どんんどん増えており、今後も増え続けていくと予測しています。
大事なのは、加害者に焦点をおいて、加害者が加害をしないようにすること、子供の性的虐待イメージがあふれている社会を変える必要があることとしています。

18年の懲役刑が手渡されたヒューさんは、モンスターではなく、両親の住む家の子供部屋に住んでいる27歳の、ごく普通にみえる男性です。
ヒューさんが警察に対して答えているのも、年齢にしては少し子供っぽいように聞こえる気もしますが、大学のグラフィック・デザインを卒業したものの、仕事をしていなく、友達もいなくて孤独で、たまたま主流のポルノグラフィー(合法でオープンなもの)をみていたときに、児童虐待のイメージが出てきたのがきっかけで、合法でオープンなソフトウェアを使って、(性的な)子供のキャラクターを作り、それがオンラインでのコミュニティーの人たちから認められて、自分のいばしょとなったことが、この犯罪にのめりこんで、どんどん深みにはまっていったことの大きな原因だそうです。
実際、彼が課金していたのは非常に少ない額で、お金儲けではなく、承認欲求から行っていた、というのは事実なのかもしれません。
ただ、意図がどうであれ、子供や社会に害を与えたのは事実です。
依頼主は、自分の娘や姪の写真を送ってきて、依頼主のつくった物語にあうように身体を合成し、キャラクターをつくり、物語(性虐待)に沿ってそのキャラクターを動かす、といったものが含まれているそうです。
依頼主は全世界にわたっているため、実際に被害にあっている子供がいるか(すぐに助ける必要がある)を、それぞれの国の警察と協力しながら進めているそうです。

クレアさんは、多くの人々にとって、一生懸命に探して子供の性的虐待のイメージにたどりつくのではなく、合法でオープンなウェブサイト(主流の合法なポルノグラフィックのサイト等)をみているときに、子供の性的虐待のイメージに遭遇することが多いことを指摘していました。
ここから、徐々に、のめりこむ人々もいます。
AIソフトウェアは、結局、既存の情報から学習しています。
そのため、子供(女子・男子)、女性を性的なオブジェクトとして消費するような現代社会では、子供や女性の性的虐待イメージが非常に多く存在します。
AIの学習情報として、こういった性的虐待イメージを取り除こうとする努力をしている場合もありますが、社会という土壌が変わらない限り、完全に取り除くことは不可能です。
クレアさんによると、「Women(女性)」と検索をかけると、多くの性的イメージ(虐待も含む)が出てくるそうです。
プラットフォームも性的虐待イメージを厳しく取り締まることと同様に、私たち一人一人も社会を変えていく必要があります。

クレアさんは、よくある質問「これ(子供の性的虐待イメージ)は被害者のいない犯罪、イメージはリアルではなく、このイメージをつくっているときに誰も傷ついていない」を聞かれたときに、どう答えますか、と聞かれて以下のように答えていました。

子供の性的虐待イメージの中には、実際に過去に性的虐待をされたときのイメージや動画を二次的に使ったものも含まれています。また、普段の家族写真等から勝手に画像を使われたり盗まれたりして、性的なイメージに使われた場合もあります。
これらの子供たちは、その性的な画像をみたときに、圧倒的に深く傷つきます。なぜなら、これは信頼、特に大人たちに対して信頼を失うことであり、また、画像が一度でまわれば、それを完全に消去することはほぼ不可能です。
これらの子供の性的虐待画像をみたり使ったりしている人たちは、その行為をするたびに、子供たちに虐待を行っていることになります。
そして、この虐待には終わりがありません。
過去に性的虐待を受けた人々にとっては、過去の性的虐待の画像や動画の上に、さらに何かをつけ加えたり、変えたりして、さらに新しい虐待が上乗せされます。
これらはよく、Virtual Crime(ヴァーチャル・クライム)とよばれますが、これはヴァーチャルではありません。
これは、現実の子供たちにとって現実の世界での結果を伴う犯罪なのです。

クレアさんは、よくある質問「漫画やアニメ、AIで合成された子供の虐待イメージで、実際には誰も傷つかない、ときには実在している子供たちに性的虐待を行いたい人たちを(性的虐待イメージを見ることで発散し)、実際の犯罪を減らすことを助けている」には、以下のように答えていました。

漫画やアニメだろうと、AIで合成されたものだろうと、子供たちを性的なオブジェクトとしてみたり、大人の性的興奮をよびおこすために(子供たちを)使うことを(社会の基準と照らし合わせて)正当だとみなすことは、完全に受け入れられないことです。
より多くの子供の性的虐待イメージを作りだすことを奨励したり助けることによって、子供の性的虐待を減らせるわけではありません
実際に存在する子供だろうと、そうでなかろうと、子供の性的虐待イメージや動画があること自体を(社会として)許してはいけないのです

また、クレアさんは、子供をもっている親からのよくある質問「友人や親族と共有した写真の中には、家族写真で子供が映ったものもあった。この犯罪に使われたらどうしよう、子供に申し訳ない」には、以下のように答えていました。

私たちは、写真を悪用して、性的虐待イメージをつくる加害者に焦点を向けるべきです。
現在では、おおくの場所でプロファイルが必要で、それをもっていない人はほぼいません。
私は、犯罪が起きたときに、親や家族が自分たちが責められるべきで、自分たちが何らかのアクションをとらないといけない、と思ってほしくありません。
私たちは、加害者が(加害を起こさないよう)焦点をシフトさせる必要があります

今後について、クレアさんは、いくつかの指摘をしていました。

子供(18歳以下)については、法律は現実にかなり追いついている状態ですが、大人については、まだ法律が追いついていない部分があります。
例えば、実際は20歳(=大人と分類される)の実在する女性で13歳か14歳にしかみえない場合、性的なイメージや動画は、現時点では合法で、主流のポルノグラフィー・サイトから合法的に観ることができますが、私は、これも子供の性的虐待だとみています。法律は、この部分に追い付かないといけません。

また、加害を起こさせないようにするという取組の一つとして、加害をしてしまいそうだというひと(子供も大人も)や、友達が加害をしているかも、といった場合に無名で相談できるチャリティー団体の取組も紹介していました。
このポッドキャストで紹介されていたのは、「Lucy Faithfull Foundation(ルーシー・フェイスフル・ファンデーション)」です。
このチャリティー団体のウェブサイトには、子供向けのサイトもあり、何が虐待であるか、どこに相談できるか、実際に加害をしてしまった子供が、自分の行動の結果(=人を深く傷つけている)を本当の意味で学び、今後は絶対に加害しないと決意した体験談も記載されています。

個人的には、ニュースを聞いていると、倫理も心身も発達段階の子供たちが、現在のテクノロジーではとても簡単に性的イメージが作れてしまうため、興味本位で、誰かが傷つくことを考えずにイメージを作ってシェアしてしまうことも多いように感じます。
子供たちは、早い段階で、加害を行わないよう、加害が実際に人々を傷つけることを、家庭も社会も学校も協力する必要があるでしょう。
イギリス、恐らく他のヨーロッパ地域でも、「被害にあわないようにしましょう」ではなく、いかに加害を防ぐか加害にあったときにどういう対応をとれるか加害者にいかに加害の責任を取らせるか(次の加害を起こさせないため)、というところに焦点があるのはごく普通です。
警察のウェブサイトにも、まず最初に「悪いのは100パーセント加害者で、被害者は100パーセント悪くなく、恥じることは何もありません」と記載してあります。
なぜなら、前述したように、加害者は加害をするかしないか選択できますが、被害者には加害のターゲットにならないという選択肢はないからです。
また、子供の性的虐待イメージをみたい、という欲求を作り出しているサイトや社会のありかたについては、大人たちもよく考えて、もし子供を性的なオブジェクトとしてみるような発言をする人がいればチャレンジをする、等の行動は必要です。
結局、社会は、私たちひとりひとりからできています。
あなたとあなたの周りの人々の考えや行動が変わるだけでも、それは、いつか全体の変化へとつながります。

(※)英語の記事だけしかありませんが、父親から逃げ出し、義務教育の終わる16歳で、なんとか縫製工場の面接にいったものの、PTSDで身体全体のの震えが止まらず、雇えないといわれて、抑えきれず泣き出し、父親からの加害のこと等をすべて話したそうです。マネージャーは、彼女にチャンスを与えることを合意し、その後も、ずっと支えてくれたそうです。それと同時に、同僚の同い年ぐらいのジュリーさんが、Rape Crisis(レイプ・クライシス)の存在を教えてくれ、毎週金曜の夜、仕事が終わった後、このグループカウンセリングにジュリーさんもよくついてきてくれて、支えてくれたそうです。また、父親から、父親と彼女のイニシャルの入れ墨を背中に彫られていたのを消すのに6年ほどかかったそうですが、この治療にもジュリーさんは、いつもついてきてくれたそうです。彼女の困難な人生の中で、人を信用することを失わないですんだのは、ジュリーさんという親友に会えたという運もあるのかな、と思います。
彼女は、加害を受けた当時から35年以上たつ現在でもセラピーに通っているそうですが、父親の有罪判決のあと(懲役刑)、やっとGrieve(グリーブ/悲しむ)することができそうだと語っていました。

Yoko Marta