軍事主義と闘うことなしに、気候危機と闘うことはできない ③
軍事主義と闘うことなしに、気候危機と闘うことはできない ③
前々回①と前回②からの続きです。
シリアで起こった2011年の民主化デモの背景についての、西側諸国での主流のナラティヴは、とても単純化されていて、意図的に人々の恐怖を引き起こすものです。
「気候戦争の前触れ ー ほかの多くの地域でも同じことが起こり、(豊かで繁栄している自分たちの国に)多くの(自分たちが望まない)移民がおしかけてくる」です。
このアメリカや西側諸国がつかう「War(戦争)」ということばにはよく注意を払う必要があります。これは、存在しない脅威に対して、人々の恐怖をかりたて、軍事複合産業を拡大・儲けさせることが目的です。
アメリカは、ある特定の地域(中東やアフリカ、一部のアジア地域)は、弱体した政府、民族間の紛争や民主主義が欠けている政府等の既存のストレスがもともとあり、これらの地域は不安定で、食糧難等が起こるとひとびとはすぐに争いあい紛争になり、これらの地域から(アメリカに)移民がたくさんやってくる、という想像を事実として使います。
でも、これは事実ではありません。
シンクタンク「トランスナショナル・インスティテュート」のリサーチャーである
Nick Buxton(ニック・バクストン)さんは、既に干ばつが起こっているアフリカ地域では、人々は限られた少ない資源を分かち合い、協力してお互いに助け合うことがほとんどであることを調査から確認しています。
パレスチナ人両親をもち、シリア人としてのアイデンティティーももつ、アメリカの大学で国際学を教えている女性教授、Marwa Douady(マルワ・ドーディー)さんは、この単純化されたナラティヴが事実ではないことを明確にします。
また、このナラティヴは、軍事化されたレスポンス(監視システムーテック、物理的なもの、国境に壁や障害を設ける等)を正当化し、軍事に関する複合企業(武器をつくる企業、テック、偵察技術、軍事的な政策やプランの制定をサポートすコンサルティング企業等)がビジネスの領域をひろげ、プロフィットをさらに得るためのものでもあります。
軍事行動は、たとえ一部のグループの人々の想像上の脅威、或いは大幅に増幅された脅威の感覚を緩和したとしても、全体的には、地球上のとても多くの人々を危険に陥れます。
マルワさんは、2007年から2009年にシリアでひどい干ばつがあり、多くの人々が都市部に移動したことを、干ばつのせいだけにするのは、事実とは違うとしています。
中東地域やアジア地域に関する多くの西側諸国のリサーチは、中東地域やアジア地域に長期間暮らしたこともなければ、現地の言葉すら話さず文化も理解しない人々によって行われていることが多いのですが、マルワさんは言葉も文化も深く理解していて、現地の普通の人々に対して多くのインタヴューを行っています。
その上で、マルワさんの結論は、多くの農民が都市部に移動せざるをえなかった直接の原因は、IMF(International Monetary Fund/国際通貨基金)に強制されたネオリベラリズム経済で、干ばつにあった農民たちへの助成金・補助金がカットされたことだとしています。
これらの農民は、民主化デモに参加するような人々ではなく、政府からのサポートもほぼないままに、貧困区域に住み、なんとか生き延びている人々でした。
農地が干ばつになっても、政府からの補助金が続いていれば、自分の農地に残ることを望んでいたし、そうすることは可能でした。
でも、軍事複合産業や国際企業、国際企業に取り込まれている西側政府も、決してこの本当の理由についてはふれません。
マルワさんも移民の子供ですが、よく聞かれるプロパガンダ「(第三世界の)誰もが裕福なアメリカや西ヨーロッパにきたいと死ぬほど熱望している」が嘘であることはよく知っています。
自分の住んでいる地域が危険な状態になり、留まると命に関るような状況だから移動せざるをえなくなった人々が大半であり、ほとんどは自国か近隣の国々に留まります。
このプロパガンダで、実在しない脅威を元に、恐怖をつくりだし、軍事的な対応(=大挙してやってくる移民・難民から自分たちを守るために、国境の壁を高く、国境付近の偵察・警備を厳しくして、誰もがこられないようように軍事的な対応をはからなくてはならない)を正当化しようとするのは、世界的に規模を大きくし続けている軍事複合産業の戦略であることは覚えておく必要があります。
また、国際通貨基金や世界銀行によって強制されたネオリベラル化経済を行う自国政府は、普通の市民たちからの政府に対する信用・信頼を落とします。
国際通貨基金と世界銀行は、貧しい国々の人々の生活を良くするために存在しているわけではなく、西側諸国の企業が、その国の資源・労働力を搾取するためのエントリー・ポイントとなっていることは、既によく知られています。
この仕組で利益を得ているのは、その地域のとても少ない数の既存特益層(その地域の王族や領主等のいわゆるエリートー西側企業から賄賂や優遇を受け取り、もともと住んでいる人々を追い出し土地を西側企業の言いなりに売ったり等)で、政治・経済の不正・腐敗、貧富の差をさらに加速します。
経済的に厳しい状況の政府には選択肢がないので(或いは西側傀儡政権で西側諸国の言いなり、或いは政府の高官たちは西側企業や政府に賄賂等で取り込まれている)、自国民のための政策(病院や教育の充実、福祉、自国民の安全ー農業の補助金等も含めて、主要インフラストラクチャーの設立・整備ー国立或いは公立、自国資源の国有化等)は全く許されず、自国資源を西側諸国企業にただ同然で解放・売払い、誰もが生きるために必要なサービスも西側諸国企業の利益目的の企業を使うことを強要されることになります。
結局、私有化が進むと、生きるために必要なことにも支払が必要となり、貧しい人々はさらに貧しい状況へと追い込まれ、中流階級も貧しくなります。
これは、シリアだけでなく、多くのアフリカや南アメリカの国々にも、起こった/起こっていることです。
人々が強制的に移動させられるような状況をつくるのは、経済的な理由、政治的な理由が多く、そこに気候変動が社会的・政治的な問題と絡み合っている場合もあります。
本当の理由、根本にある問題を探す・見つけることは大切です。
そうでないと、本当の解決方法は見出せません。
前述のニックさんは、このシリアの干ばつと人々の移動を「Climate Change War(クライメイト・チェィンジ・ウォー/気候変動の戦争)」という(嘘の)ナラティヴをアメリカの企業やメディア・政治で使うのは、グローバルに影響する紛争すべてを「気候変動」と結び付ければ、脅威は実在しないにも関わらず、人々を恐怖に陥れ、「軍隊が必要/軍事的な解決が必要」という(嘘の)解決方法しかないと信じさせ、アメリカの軍事複合産業がビジネスをさらに拡大する機会となるからだと指摘しています。
また、ニックさんは、この「移民=脅威 →軍事的に退治」というナラティヴは、植民地主義的で人種差別的な態度を示しているとしています。
「大量の野蛮人が、あちこち(経済後進国=旧植民地国)にいる。もし、その地域に食糧難や欠乏や(内戦・紛争などの)インパクトがあれば、彼らは争い、それは私たち(経済先進国=旧植民地宗主国)に影響を与えるだろう」
この態度は、問題の真の原因(=不正義/紛争・内戦・戦争はアメリカや西側諸国が直接敵・間接的に起こして理うことがほとんど+国際通貨基金や世界銀行を通したネオリベラリズム経済政策での西側諸国企業からの現地の資源・労働力搾取等)について考え、それに対しての適切な解決方法を探るのではなく、何一つ解決しない軍事的な解決方法へと人々を向かわせます。
西側諸国は、「移民が大挙してやってくる」という嘘の脅しを始終使いますが、実際に西側諸国へとやってくるのは、強制的に移動せざるをえなかった人々の約2割で、大多数である残りの8割は、自国内か経済後進国か発展国である近隣の国に留まります。
また、前述しましたが、民主主義で選ばれた大統領や首相を直接・間接的な軍事行動で独裁政治を行う傀儡政権をすえる、独裁政治をサポートし続ける、あらゆる地域に軍事介入・侵略・戦争を間接的・直接的に行っているのは、アメリカをはじめとする西側諸国であることも覚えておく必要があります。
軍事解決の大きな部分として現在行われているのは、国境の壁をつくり、偵察・警備・取り締まりを強めることですが、それは実際の問題の根本原因を扱うのではなく、単に犠牲者たちを脅威とよみかえ、犠牲者たちを危険に陥れます。
マルワさんもニックさんも指摘していますが、紛争や人々が強制的に移動することになる大きな理由は、独裁政治(多くは西側諸国、特にアメリカが自国の国際企業の利益のためにサポート)や不正義です。
シリアでは、民主化デモの起こった2011年以降に、大多数の移民がでましたが、ここ数日のアサド政権崩壊直後で状況はとても不安定にも関わらず、多くの国外へと逃れた人々がシリアへ戻り始めています。
これは、マルワさんとニックさんが言っていたことは正しいことを示しています。
大事なのは、平和な・安全な状況を地球上の人々・すべての地域につくることです。
不安定な地域があれば、その地域のひとびとの状況が安定化するような政策や基金を設ければ、多くの人々は自分の住んでいる地域に留まることができます。
地球上のすべての人々の命が同等に尊い、地球上のひとびとはつながっている、という基本的な考えは大切です。