Bathtub Curve(バスタブ・カーヴ/浴槽のカーヴ)と原子力発電
Bathtub Curve(バスタブ・カーヴ/浴槽のカーヴ)と聞いてどんなラインを想像するでしょうか?
英語でこの言葉が使われる時は、バスタブのカーヴのように、工場の機械等が最初に問題が起こりがちで、その後は安定し、ある時(耐用年数)を境に一気に問題が起こることの比喩に使われることがあります。
ちなみに、英語圏でBathtub(バスタブ)と言われて一般的に誰もが思い浮かべるのは、日本式の正方形のバスタブではなく、この写真のような、細長く浅く、カーヴが緩やかなものです。
この比喩は、原子力発電所に使われる時もあります。
原子炉は、40年を耐用年数としてデザインされていますが、国や地域によっては40年を超えて稼働することを許可している場合もあります。
このバスタブ・カーヴの比喩の、突然事故が増える時期というのは、このデザイン上の耐用年数を指すことが多いです。
古くなれば故障や部品の交換等が頻繁に起こるのは当然ですが、技術は進化してきているので、若い技術者はどんなに良い技術者でも古い原子炉については熟知していないことも十分ありえることで、古い原子炉の技術者を確保・育てていることも必要だし、古くなることで、思いがけない故障が起きたり、故障を見過ごすことが生じる可能性も高くなります。
イギリスのガーディアン紙では、日本が原子力発電所を大きく稼働し始める見込みであることを報道していました。
この記事では、2040年に向けてのエネルギー政策で、以前の「原子力発電への依存を減らす」という一文を削除し、2040年には30箇所の原子力発電所を稼働し、約20パーセントの電力を原子力から得る予定であることが記載されていました。
2024年10月現在では、13基が稼働しているそうです。
全世界でみたときに、40年以上稼働している原子力発電所は、全体では40パーセント程度だそうです。
アメリカでは、94箇所の原子炉が稼働していて、そのうちの7割弱が40年以上稼働している古い原子炉だそうです。
日本では、アメリカに比べると古い原子炉の割合は低いようですが、日本の場合、多くの地震があり、近い未来にとても大きな地震が複数起こることが予測されているという、アメリカとは大きく違う背景があります。
フランスは原子力発電所を多くもっている国ですが、地震等の大きな自然災害はないものの、気候変動で川の水量が減ったために原子力発電所を一時的に停止させる必要があったりと、問題なく稼働できているわけではなく、今後も水不足問題は悪化するとみられています。
日本は海域も広く、洋上風力発電にもっと力を入れることもできるし、スコットランドやイギリスでも開発・調査が進んでいる潮流発電を取り入れる、太陽光発電をさらに拡張、地熱エネルギーを利用する等、再生エネルギーの可能性を最大限につかっていないのでは、との意見もあります。
また、原子力発電所が稼働していれば、当然ながら、核廃棄物が出続けます。
その最終的な安全な廃棄方法についても、いまだに決定されていない状況です。
数万年にわたってひとや環境を滅ぼすような影響をもつ物質について、安全な廃棄方法を決めることなしに、廃棄物がどんどん増えていくのが安全だとは思えません。
アメリカは、日本に対して1945年に原子爆弾を落としましたが、今でもその原子爆弾の研究・政策を行った研究所は存在し、使用しなかった核兵器の廃棄物の処理等も地下深くで行い続けているそうです。
核兵器は、使えば地球上の多くの人々の命が危うくなるため、使うことはできないけれど、ほかの核兵器を持っている国や地域に対してのけん制になるという、意味が通じない理由で、ある一定の時期に武力・権力・財力をもった国々(イギリスやアメリカ、フランス等ーどの国も資源のある第三諸国の資源と労働力を搾取することで力を手に入れた)が保持しています。
核兵器が古くなれば廃棄する必要があるし、廃棄する代わりに新規の核兵器も必要という、普通に考えればまともでないことが続いています。
イギリスでは軍事産業は大きく、軍事産業を大規模にし続けておくことは、雇用を保障するうえでもいいことだ、という政府の見解も聞かれますが、地球上の人々、特に弱い立場にいる人々を危険に陥れるような産業に頼らなくても、人々の役に立つ産に力をいれ、そこで雇用をつくりだすことだって十分可能です。
また、近年では、「軍事」産業とはよばずに、「防衛」産業とよびかえ、ホワイトウォッシングをしていることにも気づいておく必要があります。
ちなみに、第二次世界大戦で、アメリカやイギリスが、敵国であったドイツには原子爆弾を落とす予定はなく、日本にだけ行ったのは、人種差別(非白人は野蛮人で人間以下という間違った思い込み・白人至上主義のイデオロギー)が原因だとみられています。
人種差別について理解が進んだ今でも、多くの白人ヨーロピアンにとって、日本に原子爆弾を落としたこと(戦闘員ではない市民が密集して住む場所に爆弾を落とすのは戦争犯罪)を「戦争を終わらせるために正しいことをした」という見方は一般的なように感じます。
ブリティッシュでも、有色人種やどこかの時点で先祖や家族が移住してきた人々は、この人種差別・白人至上主義の要素を鋭く見抜いていて、アメリカが日本に原爆を落としたことは間違いだと明言できる人は多い気がします。
近年でも、アメリカ軍が、イラク攻撃時に、今までテストされていなかった新兵器を大量に市民が密集している場所に対して使ったのは、兵器の実地試験を兼ねていたとみる専門家もいますが、これも、有色人種であるイラクの人々の命を価値のないものとみていたからだという意見もあります。
植民地時代の数百年の間に、西ヨーロッパから地球上の多くの地域に侵略した白人・キリスト教徒は、有色人種・非キリスト教徒である原住民を人間以下として、虐殺や奴隷化、資源を力づくで奪うことを続けていながら、一度も責任を取ったことがないので(元植民地国は、西ヨーロッパの残虐な支配や虐殺・資源や土地を盗んだことについてなんの謝罪も賠償もなければ、現在も西ヨーロッパ・アメリカ企業が、元植民地国の多くの資源や経済をコントロールしている)、いつまでも白人至上主義からぬけだせないのかもしれません。
2014年のValentine's day(ヴァレンタインズ・ディ)に、アメリカで唯一の地下にある核廃棄物貯蔵庫(上記の原子爆弾の研究・製造を行った場所)で、事故が起こりました。(Silent Coup by Matt Kennard)
核廃棄物が保存されていたドラム缶が爆発し、働いていた人たちが被爆しました。
この原因は、人為ミスで、かなり古い廃棄物を別の場所に搬送することが必要になったとき、酸性が強くそのままでは搬送するのが危険なことは分かっていたものの、経営サイドからのプレッシャーもあり、本来の手順を無視したそうです。
本来の手順は、きちんとそのドラム缶の中で何が起きているかをテストして、最適な方法を探し出してから処理する、だったそうなのですが、その手順を省略して、過剰な液体を吸収する物質を混ぜたそうです。
これが、爆発の原因となりました。
この爆発で、死者は出なかったようですが、土地の汚染も起こっています。
また、事故の後始末にかかる多額の費用の一部は、国民の税金からも支払われています。
この廃棄所がある地域は、企業から学校への寄付金・補助金等も多少はあるそうですが、人体への危険性(がんを引き起こす化学物質がこの地域ではとても高い)や、事故が起きたこと、これからも事故が起こる可能性は十分あることから、それらの補助金や寄付金ではとても帳消しにできないと考えている人たちもいます。
この事故は思いがけず起こったというより、起こることが誰の目にも明らかなものだったそうです。
この問題となったドラム缶と同じ状態のドラム缶は、いまだにこの地下の貯蔵庫に転がっているそうで、同じような事故が起こることを防ぐような対策がされているとはいえない状況だそうです。
この研究所は、もともと、カリフォルニア大学によって運営されていて、約一万人が働いていたそうですが、ブッシュ元大統領の時代に、民営化されます。
民営化でこの運営を勝ち取った企業は、ボリビアの一地域で、水の民営企業となり水道料を激しく高騰させ、サービスの質や水施設の修理・向上等も怠ったことで知られている企業です。
民営化で起こったのは、その研究所の新所長には、以前の所長の10倍以上の給料が支払われ、多額のお金が株主に流れ、その代わりに、働く人々の大量解雇、下請け会社に多くの仕事を安く請け負わせる等が起こります。
また、既に働いている人々への給料や福利厚生を削ろうと試みます。
核を扱っている仕事の場合、健康保険は何よりも重要です。
ヨーロッパでは、医療は無料であることが普通ですが、アメリカでは日本よりもさらに民営化が進んでいて、健康保険も医療費も異常に高く、働いている企業がプライヴェート健康保険を福利厚生の一部としていることが多く、失業すると診療費や治療費を支払うことすら難しくなります。
ヨーロッパでは、公共事業である国民健康保健が国民全体のために製薬企業と値段の交渉等を行うので、インシュリンのような一般的な薬でも、日本よりもずっと安いし、手術や診療・レントゲン等もすべて無料です。
インシュリンは世界の中でも、アメリカが飛びぬけて高く、3番目ぐらいが日本です。
どの分野でも、民営化が進めば、普通の人々にとって、アクセスは簡単になり価格も下がる、というのは神話でしかありません。
なぜなら、カルテル状態で、数社が製薬業界を握り、政治家へのロビー活動や多額の献金を行い、人々を命や健康を守る法律や決まり(=プロフィットを最大限にするには邪魔)を廃止させたり、監査機関を弱体化させれば、どこにも競争も監査もなく、異常に高い価格を設定することが可能です。
普通のひとびとには、選択はありません。
本当に一握りの人々のみがリッチになり続け、残りの人々はどこまでも貧しくなり、生きるために必要なことにアクセスすることが難しくなり、貧困から抜け出すことを不可能とする仕組です。
アメリカでは、個人破産で一番大きな理由は、医療費の支払だそうです。
最近、保険会社の社長が射殺される事件がアメリカでありましたが、自分の儲けのために、保険金を払うべき人々に払わず、そのせいで多くの人々が亡くなったことでも知られていたそうですが、企業がルールをきちんと遵守しているかどうかを監視し、遵守していなければ遵守するよう罰を与え、遵守するまで監督を行う等の機能はうまく働いていないようです。
だからといって、個人が勝手に人を殺していいわけはないのですが、企業に対しての監視機関が機能していることは、ひとびとの命や安全を守る上で欠かせません。
現在、イーロン・マスクさんやトランプ大統領が行っているのは、こういった企業や権威が行うことを監査する機関をつぶせるだけつぶして、彼らのような既に力をもっている大企業経営者が、さらにルールなしで好き放題に、なんの責任を取ることもなく、人々を搾取できる世界をつくることです。
また、この研究所では、安全性について疑問を投げかける従業員たちは、さまざまな理由をでっちあげて解雇されました。
アメリカの場合は、不当なことについて闘う人々も多いので、危険な手順を指摘して解雇された科学者や、人種差別が原因だったり、業務の危険を指摘して解雇された工場で働く人々の一部は、この企業から賠償金を勝ち取ったそうです。
でも、こういった環境だと、働く人々のモラルが下がることは避けられません。
非常に危険な物質を扱っている場所で、プロフィットだけが優先で、人々の命や健康、環境の優先順位はボトムであるのは、とても危険なことです。
地下だとはいえ、地下水にも化学物質が流れ込み、被害をもたらします。
空気に混ざる化学物質、地下水に流れ出す化学物質は、その地域だけでなく、広域に影響を及ぼすことも気に留めておく必要があります。
自分が生活している場所から遠い、その影響が強く出始めるころには自分は生きていないから、といった理由で目をつぶりがちになるかもしれませんが、将来を生きる人々のために安全な環境をわたすことは、地球上に生きる私たちみんなの義務です。
日本は、原子爆弾を落とされ、原子力発電所のメルトダウンも起こり、多くの人々が亡くなったり被害を受け、かつ、今も被害を生き続ける国であり、原子力発電所の稼働を増やすこと、デザインされた耐用年数を超える原子炉が増えることの危険性、原子力発電の電力はほかの自然再生エネルギーと比べて消費者にとっても高いこと、ほかの自然再生エネルギーについてどういった未来があるのかを、若い人々を交えて、もっと討議するべきでは、と思います。
そのためには、正確な情報が、誰にも分かりやすく、アクセスしやすくされていることも大切です。
これは、原子力発電で利益をえることが目的のプロフィット至上主義の企業ではなく、中立の監査団体(政府は企業からのロビー活動も大きく受けるので、政府の役人が大きく関わらないことも大事かも。科学者グループなどが政府の補助金で運営する等)が入ることが必要かもしれません。