ソーシャルメディアが原因で、命を落としたり、健康を害された子供たちやその親たちとともに、ビッグ・テックと闘う弁護士たち
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英語版のポッドキャストは映像もあって、より伝わりやすく、Transcript(トランスクリプト/会話を書き起こしたもの)があることが多いので、聞き取りにくかった場合も、トランスクリプトから内容を確認することもできます。
話題の間に、いろいろな音楽がかかるのも楽しいです。
今回は、最近公開されたドキュメンタリー「Can't Look Away(無理やり訳せば、目をそらす、離すことができない)」の製作者、この映画に登場する弁護団の女性弁護士との対話から。
女性弁護士は、ソーシャルメディアは、子供たちの目がくぎづけになり、中毒に陥らせるよう意図的に設計されているもので、タバコのような健康を害する製品であり、現在のソーシャルメディアが危険な設計のまま野放しになっていて、子供たちがどんどん病気になったり、死に至ることもあるのは、Public Health Crisis(公共の健康の危機)だとしています。
「Can't Look Away」は、スナップチャットやインスタグラムが原因で自殺したり、毒性の強いドラッグであることを知らずに飲んで死んだ子供たちの親たちや、実際に死にかけた子供たちが立ち上がって、Big Tech(ビック・テック/テクノロジー系大企業ーMeta、Google,Snapなど)を訴え、子供たちの安全を求めて闘っているドキュメンタリーです。
ちなみに、多くのソーシャル・メディアの親会社はアメリカのビッグ・テックです。
Metaの傘下にあるソーシャルメディア:インスタグラム、フェイスブック
Snapの傘下にあるソーシャルメディア:スナップチャット
Googleの傘下にあるソーシャルメディア:YouTube
Xの傘下にあるソーシャルメディア:X (旧ツイッター)
ByteDance傘下にあるソーシャル・メディア:Tiktok
※ByteDanceを除いては、すべてアメリカ企業
この闘いを法律面からサポートしているのは、Social Media Victims Law Center(ソーシャル・メディア・ヴィクティム・ロゥ・センター/ソーシャルメディア被害者のための弁護団)で、この対談には、女性弁護士LAURA MARQUEZ-GARRETT(ローラ・マルケツ・ガレット)が登場しています。
現在、この弁護団では4000人の被害者である子供たち(子供たちは死んでいるケースも多く、その場合その子供たちの親たち)の訴えをサポートしています。
対談は、2回に分かれていて、下記から無料で観ることができます。
https://www.democracynow.org/2025/4/4/can_t_look_away_social_media
https://www.democracynow.org/2025/4/4/can_t_look_away_new_documentary
多くの子供たち(10台前半から20代前半ぐらいまで)が、強い毒性のあるドラッグと知らずに購入して飲んで死んでしまったり、デプレッション等の傾向がまったくなかったにもかかわらず、ソーシャルメディアのアルゴリズムでプッシュされて出てきた多くの自殺ヴィデオの真似をして自殺してしまった十代の少女たちもいます。
これを、子供たちがドラッグを買うことをや自殺することを考えて、意図的にこういった投稿を探していたので、その投稿に行きついた、と思っている大人たちは多いですが、事実は大きく違います。
ビック・テック企業は、ソーシャルメディアでの広告での儲けをさらに大きくするために、子供たちをソーシャルメディアに中毒状態にさせることを意図的に行っています。
ビッグ・テックの経営については、不透明な部分も多いものの、Metaでのrevenue(レヴェニュー/収益)の98パーセントは、広告収入であるとみられています。
なぜ、不透明かというと、理由はいくつかあるものの、税金を支払うことを避けるために、企業への税金が低い・ほぼゼロの国や地域に、オフィスや紙上だけの会社を登記したり、アメリカ議員にロビー活動(寄付金などを大きく出資するなど)を強く行い、自分たちビッグ・テックに都合の悪い法律や決まり(例/子どもに害を及ぼすような投稿を監視して削除するような責任をソーシャルメディアに課す等)はつぶし、自分たちに都合のよい法律を作り出させることを行っているからです。
多くの子供たちが小さいうちから、投稿をみて「Likes!」をクリックしたり、自分が投稿したものに反応があり、それを自分の人気度や自己肯定感の確認のために無意識に使い、ますます投稿を増やすことで、ビック・テックの広告収入はどんどんあがることになります。
小さいうちにはじめれば、その後も中毒状態で長い間、ビック・テックの儲けのために無料で働く奴隷のようになります。
小さいうちにはじめさせたいのには、深刻に悪い理由があります。
私たち人間の脳は、25歳くらいまではまだ脳が成熟しきっていなくて、中毒に陥りやすい状態となっていることが分かっています。
また、ソーシャルメディアでは、いつも誰かと自分を比べることの繰り返しで、これは精神的に子供たちを追い詰めます。
これらのビック・テック企業では、多くの精神分析医やneuro-scientists(ニューロ・サイエンティスツ/神経科学者たち)が、「製品開発」にかかわっています。
普通に考えれば、子どもたちの健康を守るために、「安全」に関する部門で働いているのではないかと思うのですが、これらのビック・テック企業では、会社への利益が何よりも先にきて、これらの科学者や医師の知識から、子どもたちを効果的に中毒状態にさせる方法を開発し続けています。
ソーシャルメディアが原因の、子どもたちの死や自殺が話題になると、多くの市民たちは、コンテンツが問題である、とミスリーディングされます。
ビッグ・テックはインスタグラムやフェイスブックというプラットフォームをもっているだけで、第三者がつくったコンテンツについては、コントロールが限られている、というのがビッグ・テックの言い分ですが、実際は違います。
ビッグ・テックは、アルゴリズム(どういった投稿や広告をユーザーに見せるか)のコントロールをもっていて、これを自社の利益を増やすために悪用しています。
このドキュメンタリーに出てくる子どもを失った両親は、10代の息子がガールフレンドと別れて少し落ちこんでいるのを知っていたので、息子の様子を注意深く観察していましたが、予想もしなかった自殺が起こってから知ったのは、息子のソーシャル・メディアにたくさん現れていたとてもネガティヴで自殺を促す多くの投稿でした。
この息子さんのソーシャル・メディアでの足跡を追うと、彼が探していたのは、気持ちが上向くようなQuote(クォート/引用)だったのに、表示されるのは、「彼女はきみのことなんて好きじゃなかった。誰も君のことなんて好きになるわけがない」といった傷つくようなものがたくさん現れていました。
これは、彼が検索や探して出てきたものではありません。
これは、子供たちをソーシャルメディアに釘付けにさせるよう、ビッグ・テックがアルゴリズムを設計しているからです。
アルゴリズム設計をよく知っている、フェイスブックの初代CEOだったSean Parker(ショーン・パーカー)さんは、2017年のインタヴューで、明確に、「フェイスブックは子どもたちを(ソーシャルメディア・フェイスブック)中毒にするよう設計している」としています。
ショーンさんは、ユーザーが長時間フェイスブックの投稿にくぎづけになるよう(=メタにとっての広告収入があがるから)、ドーパミンが出るようなショッキングな投稿を表示するようにしているとしています。
これらの多くはネガティヴなものです。
なぜなら、ネガティヴなもののほうが中毒状態に陥らせやすいからです。
自分の投稿に、「Likes」やコメントがあると、それに反応して、さらに投稿を多くしたりして、それがself-validation(セルフ・ヴァリディション/自分の価値を確かめる)となってしまうと、やめることはとても難しくなります。
ショーンさんは、これ(フェイスブックというプラットフォームの設計・アルゴリズム)は、子どもたちの脳がまだ未成熟で脆弱な部分があることを利用して、子どもたち、ひいては社会の安全や健康をまったく考えず、企業の利益のみに走っている状態だとしています。
弁護士のローラさんは、ビッグ・テック側の人々から、「自分たちの子どもには、自社の製品(フェイスブックやインスタグラム等)は使わせない」とはっきり言っているのも聞いたそうです。
彼らは、自分たちの製品が、子供たちに害を与えていることを、十分に知っています。
子どもたちが極端な行動に一瞬にして走ってしまうのには、ソーシャルメディアに中毒状態にさせられているので、いつも睡眠時間がたりず、立ち止まって考えることができず、反射的に死を選ぶこともある、とされています。
これらのビック・テックで働くテック技術者たちの中には、子どもたちに害を与える、ときには自殺や死に導く危険なアルゴリズムを変えるよう、ビッグ・テックに内部から何度も働きかけた人々もいますが、企業は無視です。
そのため、多くの技術者が、自分たちは解雇され、ビッグ・テックはモノポリー状態で国家より権力をもっている場合も多いため、テック企業で二度と雇われないだろうリスクをおかしてでも、Whistle Blower(ウィッスル・ブローワー/内部告発者)として、アメリカ国会などで証言を行っています。
一例は、フェイスブックの元プロダクト・マネージャーの女性、Frances Haugen(フランシス・ハウゲン)さんです。
彼女の告発で、フェイスブックがどういった手口で子供たちを危険に陥れているか、社内からの安全な設計に変えるように求める声にも経営者側が拒否している現状が、かなり明らかになりました。
ほかにも多くの技術者が内部告発を行っています。
フランシスさんの内部告発のなかには、特定のアルゴリズムでは、子供たちが望まない性的な内容が75パーセント多く表示されるようになった、との事実があるにもかかわらず、企業側はなんのアクションも行わないことにしたことが明らかになっています。
インスタグラムの技術者だった男性は、自分の娘が12歳でインスタグラムに登録したら、あっという間に、娘がまったく望まない性的な誘いや、娘に対しての性的なコメントを行う投稿が多くて驚いたそうですが、その上に、それらの人をレポートするような仕組もないことに怒りを感じ、内部から安全な仕組みに変えようとしたものの、無視し続けられ、内部告発を行いました。
十代の子供たちが誰かをレポートすることは心理的に難しく感じるかもしれないので、もともと子供たちにそういった性的なメッセージを送ることを不可能にする設計にすることも十分可能です。
安全な設計に変えることは十分、可能です。
前述した法律家のローラさんは、これらのビッグ・テックは、責任を問われ、きちんと責任を取ることがない限り、子供たちを商品としてしかみないやり方を変えないと断言しています。
ショッキングだったのは、13才から17才までの少女たちは、発達学的に、とても脆弱な精神状態だというデータがあることをもとにして、ダイエット商品や整形、ファッションといった商品を売り込むのにまたとない商品(=脆弱な状態にある少女たちがフェイスブックの商品)だとして、こういった企業に売り込みをかけているくだりです。
子供たちは、利益を出すために使う「モノ」でしかないことが、ビッグ・テックの人々のことばからもよく現れています。
社会として、こういったことを許していいわけはありません。
なぜ、この子供たちに多大な害を及ぼす設計を行っているプラットフォームが野放しになっているのでしょう?
ここには、アメリカの法律がかかわっています。
1996年に通過した2.30という法令では、ビッグ・テックがもっているフェイスブックやインスタグラムなどのプラットフォームは、passive(パッシヴ/受動的)に第三者がつくったコンテンツを載せているだけで、このコンテンツについて法的な責任を問われることはない、という決まりだそうです。
でも、事実は大きく違います。
これらのプラットフォームには、ビッグ・テックの開発した、とても不透明なアルゴリズムが使われていて、アグレッシヴにどの投稿/広告を見せるかを選択して表示させていて、まったく受動的ではありません。
ここには、ユーザー側のコントロールはありません。
ビッグ・テックの経営者の中には、「 法律の観点からみても、安全な製品をつくる義務はまったくない」と明言した人々もいるそうです。
実際は、ほんの少しのことでも、子どものたちの死を防ぐことは可能です。
インスタグラムでは、子どもたちを狙って、性的な画像を撮らせて送らせ、お金を数時間以内に払わないと、インスタグラムの Followers/Followngのリストにある人全員に送る、といった脅しのせいで、自殺した子どもたちもいます。
ちなみに、上記は、イギリスでは違法です。すぐに警察に連絡しましょう。被害者はまったく悪くありません。悪いのは加害者です。警察のウェブサイトでも、明確に被害者は100パーセント悪くない、と書かれています。
インスタグラムには、長い間、このリストを見せないように、というリクエストがあがっていて、これがもとで死んだ子供たちがいることも十分知りながら、自分たちの企業の利益を第一に、こんな小さなことですら、変えようとはしません。
弁護団のローラさんは、企業が安全な設計に変えることが大事だけれど、当面の間は、親や大人がどうソーシャルメディアとかかわるかも大事だとしています。
大人たちは、ソーシャルメディアが、子供たちの脳にどう影響を与えるかは、自分たち大人とはまったく違うことを理解している必要があります。
大人にしてみれば、スナップ・チャットなどで面白いマスクを重ねたりするのはただの遊びにしかすぎませんが、子供たちに対しては、アルゴリズムで多くのドラッグを安全で楽しいものであるかのように表示したり、友達になると何かご褒美があったりして釘付けにさせられる上に、設計上、ユーザーがどこにいるか分かるようになっているので、ドラッグを子供たちに(ドラッグであるとは明言せず)売りつける人々が、「今、きみがいる公園にいるよ。」と声をかけて簡単に会うことも可能にしています。
この機能もオフにすれば、被害者は一気に減らせます。
ドラッグと知らずにドラッグを買って死にかけた子どもは、最初は、親やスポーツのコーチが見せてくれて、面白いと思って、かつ親やコーチが使っているなら安全に違いない、と疑わなかったそうです。
ローラさんは、タバコは18歳になったら自分で選択して買うことができるのはわかっているけれど、わざわざ、18歳になったときに、タバコを買ってすすめることをしないように、子どもへの危険なものをすすめるようなことはしない、としています。
この映画は、現在は英語のみのようですが、オンライン・ストリーミングすることも可能です。
ウェブサイトには、子どもたちと何を話すか、という文書もあり、参考になります。
【参考】
Careless People by Sarah Wynn-Williams (2025年3月発行)は、フェイスブックでマーク・ザッカバーグさんとも働いていた女性、サラさんが、メタの内部で起きていたことを綴っている内部告発の本です。メタが裁判を起こし、著者のサラさんはこの本について話すことを当面禁止されているそうですが、本の出版については禁止されておらず、購入して読むことが可能です。弁護団のローラさんは、特にこの本のChapter 44(44章)だけは、必ず読むよう何度もすすめていました。
本の最初で、ニュージーランド生まれ・育ちのサラさんが、サメに襲われて、そのときの傷で死にかけたときに、親は病状の重さをまったく理解していなくて、なんとか病院にたどりついたときは、数人の医師もサラさんは絶対に助からない、と思っていたのに助かり、母から「お医者さんのおかげね。なんてラッキーなの」と言われ、呼吸器につながれていて話せなかったので、ジェスチャーでペンと紙をもってくるように頼み、そこですべてCapital Letters(大文字)で「I SAVED MYSELF (私は自分で自分を救いました)」と書いたくだりには、深刻な状況であっただろうにも関わらず、大笑いしてしまいました。英語だけのようですが、読みやすく書かれているので、日本の中学校レベルの英語を習っていれば、十分楽しみながら読めると思います。