誰のためのセキュリティーなのか?誰が除外されているのか?除外された人々に何が起こっているのか? ①/2
現在、アメリカもヨーロッパ、オーストラリアでも、中国の軍事力に対する脅威が取りざたされていて、イギリスでも、福祉を削ってでも軍事費を増大するような政策が取られ始めました。
ただ、落ち着いて考えれば、アメリカやイギリスは、世界中の国々を植民地化したり、これらの植民地が多くの命を失いながらも残虐な植民地政策に抵抗して独立を勝ち取った後も、これらの国がアメリカやイギリスの利益に反すること(自国の石油を国営化して自国の教育や福祉を向上させようとするなど)をすると、軍事クーデターを直接・間接的に起こしたり、反政府の武装集団に武器や資金を提供して政府が立ち行かなくなるようにし、政情をとても不安定にして、その隙に、資源を搾取するなどを繰り返し行い続けています。
それに、イギリスやフランスといった国に対して、中国が軍事行動を起こす理由は普通に考えれば、どこにも見当たりません。
これに対して、ギリシャ出身の経済学者で元ギリシャ財務大臣も務めたYanis Varoufakis(ヤニス・ヴァルファキス)さんや、アメリカの経済学者Jeffrey Sachs(ジェフリー・サックス)さんを含む経済や国際政治の専門家たちは、中国が軍事的に他地域を侵略・占領・搾取することは、歴史的にも考えにくいとしています。
西側諸国(プラス日本ー元植民地宗主国)では、中国が台湾を支配下におくかも、ということで緊張を高めていますが、ヤニスさんが指摘するように、中国は台湾は中国の一部であると数十年にわたって主張し続けているのに、アメリカやイギリスが、中国が台湾を中国に組み入れるかも、と騒ぎ出したのは最近です。
何が起こったのでしょう。
イギリスを含むヨーロッパやアメリカでは、大手のメディアや新聞も、まるで中国がすぐに台湾を攻撃したり、ヨーロッパやアメリカにも軍事行動を起こしかねないような、報道を続けています。
こういった根拠のないプロパガンダが広がるのは、危険です。
なぜなら、自分たちの安全を守るためにと軍事拡大を強めれば、相手も自分たちの安全を守るためにと軍事拡大を広げざるを得ず、どちらかが危険の度合いを見誤ったり、絶対に勝てると確信してアメリカが今までよく行ってきたように「pre-emptive strike (プリエンプティヴ・ストライキ/先制攻撃)」をしかけたり、演習で行ったミサイルが誤って予期しない場所に落ちて市民を殺してしまったところから、全面的な戦争にいたることも十分考えられます。
アメリカが今まで数多く行ってきた侵略や戦争の多くは国際法違反ですが、アメリカもイギリスもその責任を取ったことはありません。
第二次世界大戦後の国際的組織(国際連合安全保障委員会、国際司法裁判所など)は、アメリカやイギリスといった西側諸国(元植民地宗主国で白人・キリスト教徒)が主軸となって作った仕組で、法律や規則が適用されるのは、元植民地国の国や人(有色人種)ばかりで、西側諸国には適用されないことで、批判は続いています。
ガザの虐殺でも、この不当な適用は明らかになりました。
多くの法律家や運動家たちは、この仕組みも虐殺をやめさせ正義を求める一つのツールとしてつかい、ほかの法律の仕組みも最大限に使い、闘い続けています。
アメリカはすでに日本を含む800近くのアメリカ軍地基地をもっていて、軍事に使う国費もぼうだいだし、軍事複合産業も巨大です。
現大統領のトランプさんは、無駄な経費削減のため、という名目で、市民のためにとても役立つ仕事をしている多くの公務員を即日で解雇したり、多くの部門を廃止したりしていますが、一番国費が使われている軍事については、解雇や予算の削減、部門の廃止は全く行っていないそうです。
なぜなら、アメリカにとって、多くの国際企業にとって、戦争はプロフィットになるからです。
軍事複合産業と聞くと、武器の製造等が思い浮かぶと思いますが、すぐに思いつかないような多くの産業がかかわっています。
分かりやすいところでは、戦闘機を数時間飛ばすだけで、大量の石油を消費するため、石油が大量に必要になり、これらの企業は利益を得ます。
偵察技術のアプリケーションも必要となるし、戦士の死傷に伴う保険を扱う保険企業も利益を得ます。
戦地は、西側諸国から遠く離れた場所で、その地域の地勢やどう攻撃を行うかといった戦略には、国際コンサルタント企業がかかわります。
航空企業は、物資の運搬や囚人や戦闘に関わる人々の移送にも関わります。
AIやドローンも使うし、現地の人々の偵察のためにも、データ処理やデータの保存が必要となり、多くのテック企業がかかわります。
アイデンティティーの確認のための生体認証のソフトウェアやハードウェアも必要となります。
今回のガザ虐殺でも、グーグルやマイクロソフトがデータ処理やAI使用に大きく関わっていて、その共犯性を公に批判して解雇された勇気ある技術者もたくさんいます。
戦争を引き起こしたために、飢餓がひろがったり、現地の経済が立ち行かなくなると、西側諸国のエイドや国際企業が入り込み、現地のひとびとにもたらされるものはわずかで、多くの利益は西側大企業にもたらされることになります。
自分たち西側諸国が戦地とならないことを前提として、戦争がいつまでも続けられることを願う人々や、そうしかける人々が西側諸国の政治家にもかなりいることは理解しておく必要があります。
ちなみに、イギリスでは軍隊に入る人々の出身地は、多くがとても貧しい地域で、生活できるレベルで支払われる仕事を見つけるのが難しい地域で、経済格差・社会の不公平さがよく現れています。
よく聞く議論は、中国は(西側諸国に対して)スパイしている、だから危険だ、という説ですが、アメリカの諜報機関がほかの国々の政治家や市民たちをスパイしていることはよく知られています。
ドイツの元首相のアンゲラ・メルケルさんは、アメリカがスパイしていることが公になっても平気で、「じゃあ、もう少し大きな声で話したほうがいいかしら」と公言したぐらいで、アメリカがスパイしていることを誰もがよく知っていて、気にしていません。
なぜ、中国がスパイしているとなると、危険だということになるのでしょう。
ヤヌスさんによると、こういった違法でほかの国や政治家の主体性を重んじないような行動に対しては、さらによいスパイ技術を開発して、スパイする国や人々にスパイし返すしかない、そうすれば、彼らはスパイ行為をやめるかもしれない、と冗談をまじえて言っています。
ほかのよく聞く議論は、中国は多くの軍艦をもっている、ですが、アメリカが800近い軍事基地を持っていて、さまざまな地域で軍事演習や実際の戦争を行っていることに対して、中国は自国以外では軍事基地が一つあるぐらいで、軍艦をアメリカやイギリスの周りで始終走らせているわけではありません。
国がある程度大きくなったときに、自国の力の象徴として軍艦を増やすことはどの国でも起こる普通のことであり、アメリカのように軍艦を世界中で走らせ、世界中で侵略や戦争を起こし続けるようなことがない限り、脅威になるとは、現時点では考えられません。
アメリカやイギリスといった元植民地宗主国の典型的な考え方として、「自分たちが常に大きくて強いいじめっ子でないと、自分たちがいじめられる側にまわってしまう。誰かが強くなりかけたら徹底的につぶすことは、自分たちの安全と繁栄を守るために必須。誰かが自分たちより強くなったら、自分たちが彼らにしたのと同じように、残虐に支配・従属させられるに違いない。」で、そこには、すべての国々と対等に、尊敬をもって接し、協力関係を築こうという考えはまったくありません。
でも、この後者の考えは、気候危機が起こっている今、必要な考えで、Global South(グローバル・サウス)はGlobal Majolity(グローバル・マジョリティー/世界の大多数ー実際、人口でいえば88パーセント程度)ではよく理解されています。
また、植民地政策を可能としたイデオロギーの白人至上主義は、現在も多くの西側の人々の意識に潜在しています。
これは、植民地国でこのイデオロギーに苦しめられた人々も無意識に内在させていることが多いイデオロギーです。
そのため、中国や日本のような白人でない国が力をもつのは許せない、といった感情的なものにもなりがちです。
戦争はアメリカの大企業にとって儲けになる(→ これらの大企業から、大きな献金を受けているアメリカの政治家たちは、大企業の言いなりになりがち)とはいえ、アメリカも中国も核兵器保有国のため、アメリカですら、直接的な軍事戦争になることは望まないはずです。
台湾にFalse Flag(フォルス・フラッグ/戦闘を起こす口実として、敵がやったと見せかけて自国や味方の国の地域や施設を攻撃)行為をアメリカが行い、台湾と中国を闘わせ、背後から台湾に武器やスパイ情報、資金供給という、Proxy War(プロキシー・ウォー/代理戦争)の可能性も、これまでのアメリカの歴史的な行動をみれば否定できないものの、ここまで中国を敵視する理由はどこにあるのでしょう。
ヤヌスさんは、経済的なことが原因ではないかとみています。
アメリカのケースを除いては、国が赤字状態になったときには、その国の覇権的な力が崩壊してきたことを挙げて、アメリカが大きな赤字状態でありながら、覇権状態を保っているのは、アメリカドルが世界で唯一のreserve currency(リザーヴ・カレンシー/準備基金)という、アメリカドルのモノポリー状態であるからで、それを中国のクラウド・キャピタルが脅かしているからではないか、としています。
アメリカは1968年には赤字状態となりましたが、そのときに取った政策は、赤字を現在の3倍にし、それを世界中のcapitalists(キャピタリスツ/資本家たちードイツや日本、イギリスなど)に払わせよう、というものです。
どの国も必要な石油もアメリカドルで取引される仕組をアメリカ主導でつくったため、たとえアメリカから買うものが何もなくても、どの国もアメリカドルを多く保管しておくことにはハッピーです。
その余剰分のドルから、日本やヨーロッパの資本家たちは、アメリカのリアル・エステートやアメリカ企業の株に投資したりして、アメリカに利益も出ます。
ただ、この仕組みはお金持ちに対してはさらなる利益をもたらしますが、すべての地域の労働者階級をさらに貧しくさせます。
アメリカでは、製造業はもっと賃金の安い国に移転したりして失業につながる傾向があるし、ドイツや日本のようにアメリカへの輸出に大きく頼っている国々では、価格の競争性を保つため、自国の労働者階級のひとびとの賃金が低いままになるという現象も引き起こします。
自国がよくなるような経済政策ではなく、アメリカの赤字状態をたよりにするような経済政策だと、アメリカからの突然の関税の引き上げや、アメリカが消費しなくなると、突然、ひとびとが仕事を失ったり、経済が不安定になります。
他国がどうするかについては、どの国も完全にコントロールをもつことはできません。
クラウド・キャピタルの話に戻ると、アメリカでは中央銀行よりもファイナンス企業が力をもっていて、自企業のもうけのために、必ずウォールストリートのファイナンス機関を通して出ないとお金のやりとりができないようにしていますが、これは時間もかかるし、途中で手数料も大きく取られるし、ロシアのように経済制裁で、アメリカ・ドルが凍結されたり、SWIFT(国際銀行間金融通信協会の略称)からはじき出されるといったことも起こります。
これは、アメリカドルがモノポリー状態だから起こせることですが、中国では、digital currency (ディジタル・カレンシー/電子マネー)は中国の中央銀行によって管理されていて、アメリカのウォールストリートを介することなしに、安定してスムーズに瞬時にお金のやりとりがでる仕組みができあがっています。
これを多くの国々が使い始めれば、アメリカドルのモノポリー状態は崩壊し、アメリカの覇権状態は崩れます。
実際、サウジ・アラビアのような石油成金である国がBRICSに加わったのも、アメリカがロシアに行ったことと同じような経済制裁をいつか加えることも考えられないことでもないので、念のため、オプションを増やしておこう(=たとえSWIFTからはじき出されても、中国の電子マネーの仕組みでお金のやりとりは世界中の国々とできる)、という動きだと考えられています。
ただ、関税率をあげたところで、アメリカに新たに作り出される製造業の職は限られているだろうし、アメリカの覇権を誇張させるようなポーズは、短期間はサポーターの支持を得たとしても、長期的には効果的ではないとみられています。
ヤヌスさんのアドヴァイスは、労働階級の人々の給料を上げ、本当にひとびとに役立つものを生産し、彼ら/彼女らの購買能力を高めて国内消費を向上させ、かつ世界中の労働者階級のひとびとがつながることだとしています。
貧しい地域でも、ローカルの特権者(大地主や代々の豪族等)は現在の仕組みから利益を得て、自国の経済を悪化させ、貧しい人々をさらに貧しい状態へと追いやっています。
日本を含めた豊かだとされる国々でも、構造的な仕組みのせいで、どんどん格差が広がり、貧しい地域の労働者階級の状況と、豊かな国々での労働者階級の状態は、とてもよく似ているという説もあります。
現在の仕組みで利益を得ている人々はわずかで、世界中の多くの人々が搾取される仕組みを壊して、誰にとってもよい仕組みをつくりだすことは可能です。
戦争に費やす時間や資源は、実際に世界中で必要なものやサービスを生み出している労働者階級の人々のために使われるべきであり、戦争になれば無実の市民やこどもたちがいつも一番多く死傷させられることからも、戦争をあおるようなメディアや政治家たちの言うことには注意して、事実を確認し、自分で判断する力をもつことが大切です。
誰の安全なのか?誰が利益をえているのか?と問いかけることは重要です。
次は、このパシフィック地域の軍事化とも大きくかかわっている、沖縄とグアムのアメリカ軍基地の問題について。