事実を知る努力を続けることの大切さ
イスラエルによるパレスチナ人に対しての虐殺、エスニック・クレンジングが続く中、こんなひどいことが止められない法律になんの意味があるのか、と無力感を感じる意見も聞きますが、実際に何が起こっているのかに注意をはらい続けるのは大切です。
どんな難しい状況でも、長い目で、正義をコンパスにして闘い続けている人々はたくさんいます。
オランダのハーグにあるInternational Criminal Court(インターナショナル・クリミナル・コート(ICJと省略される)/国際刑事裁判所)では、2024年11月に、イスラエルのネタニヤフ首相とガラント前国防相、既に亡くなっているパレスチナ抵抗組織の軍事部門の数人への逮捕状が出たことは、既に遠い記憶かもしれません。
でも、今もこの逮捕状は有効です。
国際刑事裁判所は、ICJ(国際司法裁判所ー国の戦争犯罪や人道犯罪を扱う)やそれぞれの国の司法では扱いきれない、個人の戦争犯罪・人道犯罪について、国境を越えて、正義を求めて裁判を行う機関です。
日本もこの国際刑事裁判所ローマ規程の124か国のうちの1か国で、逮捕状がでている個人が、自国領域にいる場合、逮捕して国際刑事裁判所へと引き渡す義務があります。
ただ、現在、特に権力をもっている西欧の国々が、この義務を果たしていません。
例えば、フランスは法律の技術的な面から、在任中の首相を逮捕することはできない(だから逮捕しない)、等の法律を曲げて解釈するようなことを言っていました。
最近、トランプさんが中東訪問する際に、イスラエルをはずしたり、イエメンの抵抗組織であるフーシとイスラエル抜きでの交渉を行ったりと、アメリカがイスラエルと距離を置いているように見えること、ガザでの飢餓の状態がひどくなり自国市民たちからのデモンストレーションも止まらないことから、ヨーロッパ諸国の政府は、少しずつイスラエルに対する小さな批判を始めました。
スペインはヨーロッパのほかの国々とは違って、武器輸出禁止などを既に実行していますが、アメリカから経済的な罰を受けています。
それでも、スペイン市民は、イスラエルのパレスチナ人に対する虐殺やエスニック・クレンジングを止めるためなら、経済的な犠牲を払うことは覚悟して受け止めているようにみえます。
イギリスやほかのヨーロッパの国々も、実際に、経済制裁、武器の輸出禁止などが起こらないと、イスラエルに対して抗議しているふりをしているだけなのかは判断できませんが、市民の正当な怒りを政府がいつまでも無視できるわけではありません。
中東では、多くが王室などの権威主義で市民を抑えつけていて、市民が声をあげることは非常に難しいものの(実際に投獄されたり殺害される可能性が高い)、市民たちはガザで起こっている虐殺、エスニック・クレンジングに対して、深く怒っていることは明らかです。
いくら権威主義で国民を抑え込んでいても、大多数である国民が一致団結すれば、自分たちの地位(選挙で民意によって選ばれたわけでもなく、単に支配階級に生まれ落ちただけ)が簡単に危うくなるため、これらの国々もバランスをみています。
イスラエルは人口も国土も小さな地域で、武器の輸入や貿易がとまれば、あっという間にパレスチナ人への虐殺やエスニック・クレンジング、他地域への侵略・攻撃(レバノン、シリアも含む)は不可能になります。
最近では、ファシズム・統制主義・国粋主義・人種差別を強めているハンガリーがこの国際刑事裁判所ローマ規程から脱退しました。
これは残念なことですが、国際刑事裁判所が、うまく機能しているケースも現在、存在します。
2025年3月には、フィリピンで多くの殺人を指示し、人道に対する罪で逮捕状が出ていたロドリゴ・ドゥテルテさんが逮捕され、国際刑事裁判所に引き渡されました。
殺された人たちは帰ってこないけれど、正義が行われることは、家族にとっても世界全体にとっても大切なことです。
覚えておく必要があるのは、アメリカ政府は、ロドリゴさんの逮捕については、国際刑事裁判所を全く非難していません。
ロドリゴさんは、フィリピン出身で、有色人種であり、西欧(ヨーロッパ大陸の白人キリスト教徒、アメリカ・オーストラリア・ニュージーランド等の西ヨーロッパの白人キリスト教徒が侵略して原住民を虐殺して土地や資源を奪い、盗んだ土地の上に正当な持ち主として住んでいる国々)の枠にはまりません。
アメリカの国会議員のなかには、明確に、「国際刑事裁判所は黒人を裁くためのもの(=同じ法律は西ヨーロッパの白人、西ヨーロッパの白人を祖先とするアメリカやオーストラリアの白人には適用しないー白人至上主義)」と公言したひともいて、これは、アメリカだけでなく、イギリスでも多くの人が無意識にもっているものです。
普遍的な正義や、法律が守られない場合、その時点で権力や武力のあるひとやグループ、国が、大多数の力のない人々に対して、なんでもできる、無法状態に陥ります。
現アメリカ大統領のトランプさんは、権力者がなんでもできる世界を望んでいることを明言しているし、トランプさんを支持するアメリカの国際大企業の経営者たち、イーロン・マスクさん(Space-x、X、Tesra)、ピーター・ティールさん(パランティア)さんも、同じことを明言しています。
イーロンさんは、アパルトヘイト時代の南アメリカで育ち、ピーターさんもドイツ生まれではありますが少年時代を南アフリカのヒトラーを崇拝する白人地域で長く過ごしたことで知られています。
白人至上主義で、白人が人類の頂点にたち、それ以外の人々は劣っているので、奴隷として扱うような世界が正当だとする考えをもっている人たちが、はかりしれない力をもっている現時点は理想的な状態では全くありませんが、誰もの命が同等で、地球も大事にしながら一緒にこの地球を共有してここで生きていこうとする人たちは、大多数であり、あきらめず協力しながら闘い続けていく必要があります。
アメリカ政府は、自分たちの同族であるイスラエルに逮捕状を出したことについて、国際刑事裁判所に対して激しい批判を行っていました。
アメリカの現大統領のトランプさんは、彼自身にも犯罪歴があり、法律や普遍的な正義を嫌悪していることでも知られています。
トランプさんは、アメリカ議事堂襲撃を示唆したことでも知られていて、議事堂襲撃を行った罪で刑務所で服役している人々に恩赦を与えて解放し、自分の罪を裁こうとした裁判官たちや法律関係者にも脅しを行っています。
国際刑事裁判所での、ネタニヤフ首相への逮捕令は遅すぎたという声も大きい中で、トランプさんが言っているような「(ネタニヤフ首相への逮捕令は)正当な根拠なく権利を濫用した」という証拠はどこにもありません。
その後、2025年2月に、アメリカのトランプ大統領が、国際刑事裁判所の職員に制裁を加える大統領令に署名を行いました。
現在(2025年5月20日)現在、国際刑事裁判所は、普通の業務を行うことが非常に難しい状態に陥っています。
中東(中東という名前は植民地宗主国が自分たちのレンズからみた名前で、West Asiaー西アジアという名前でよぶこともひろがっている)での報道には定評がある、Al Jazeera(アル・ジャジーラ)のポッドキャストから。
このインタヴューにでてくる女性ジャーナリストは、Molly Quel(モリー・クゥェル)さんです。
モリーさんによると、アメリカ大統領令による制裁により、ブリティッシュであるカーン主任検察官のイギリスの銀行口座は凍結され、マイクロソフトが提供しているメールアドレスも削除されました。
職員たちは、アメリカ領域へ入ると、逮捕される可能性もあると宣告されているそうです。
職員がカーンさんと口頭で話しただけでも25年の刑務所での服役、一回話したりメールでのやりとりをするだけで一回ごとに10万アメリカドルの罰金(約1400万円)の可能性があるそうです。
そのため、アメリカを拠点とする多くの職員は、この仕事から去ったそうです。
また、この制裁の影響は、国際刑事裁判所だけでなく、国際刑事裁判所と協力して、無実の罪で逮捕されたひとなどを助けるNGO(非政府組織)にも広がっています。
ここには、パレスチナでの虐殺や違法な投獄等の調査を行っているNGOが制裁を恐れて調査を完全に止めたり、不法に移民センターなどに引き止められている人々を助ける法律家たちが移民センターを訪れることができなくなることも含まれています。
仕事でのメールや、働いているオフィスがある建物のカードキーなども、アメリカの企業が行っているので、これらもすべて使えなくなります。
法律は、弱い立場の人々を守るものなので、裁判所が制裁される現状では、弱い立場にいるひとは、さらに危険な状態におかれ、力のあるひとが何をしても責任を取らなくていい、という無法状態になる危険性が高まります。
これは、アメリカといった国内だけにとどまりません。
カーンさんは、セクシャルハラスメントの嫌疑があったこともあり、いったん主任職から退いています。
モリーさんは、この件については、被害者とされるひとに取材をしていないため、事実はわからないとしながらも、現在わかっている事実だけを説明していました。
セクシャルハラスメントの嫌疑は、被害者とされる女性の同僚がハラスメントを報告したものの、被害者とされる女性がこの調査に加わることを拒否したため、1年以上棚上げ状態となっていたそうです。
カーンさんは、この嫌疑を否定しています。
カーンさんが、ネタニヤフ首相に逮捕状を出したあと、この嫌疑に対する批判が高まったため、政治目的とみる人々もいますが、今のところ、事実は不明です。
国際刑事裁判所があるハーグでは、近年で最大のデモンストレーションがおき、ひとびとは、国際刑事裁判所の制裁に大きな反対をつきつけています。
国際刑事裁判所には、900人の職員がいて、前述したフィリピンの元大統領ロドリゴ・ドゥテルテへの裁判は始まっており、多くの職員は使命感をもって働き続けています。
国際法や国際刑事裁判所などについては、第二次世界大戦後のVictor's Justice(ヴィクターズ・ジャスティス/勝者の正義)との批判があり、事実も含まれています。
たとえば、日本への原爆投下は、市民が密集した地域に対して行われた攻撃であり戦争犯罪として裁かれるべきでしたが、それは起こっていません。
同時に、日本では多くの戦争の責任者、戦争犯罪者が国際政治上の理由で責任をとらずに釈放され、戦争の責任者の多くが、のちに首相になったり政界やビジネス界で権力をふるったりしたことも事実です。
国際政治上の理由とは、第二次世界大戦後、多くの植民地国が独立して、植民地を失い続けていたイギリスやアメリカは、自分たちの権益を守り続ける(=ほかの国々の資源を奪い取り続け、労働力をただ同然でつかい続ける)ためにとても不都合な共産主義や社会主義を打ち出したアジアの国々を抑え込む拠点として、地勢的にも便利だった日本を自分たちの目的のために使うことにしたことを指します。
ただ、不完全な法律や機関だったとしても、国際刑事裁判所は、国境をこえて正義を求めることのできる大切な手段の一つで、現在のところ、この機関と同じことができる仕組はありません。
無法地帯になれば、苦しむのは世界の大多数の普通のひとびとであり、市民のひとりひとりが、何が起こっているかをよく見て、自分にできることー自国の政治家に働きかける、デモンストレーションに参加するなどーを行動で示していくことは重要です。