パレスチナに関心を持ち続けることの大切さ
イギリスの独立系メディアで活躍するベテラン・ジャーナリストのOwen Jones(オゥエン・ジョーンズ)さんのポッドキャストには、ガザ出身のパレスチナ人アナリストのMuhammad Shehada(ムハマッド・シェハーダ)さんが何度か登場しています。
ムハマッドさんは、とても穏やかで、静かに話しながらも、鋭い分析を行います。
ムハマッドさんは、ガザ出身で、スウェーデンの大学で勉強して、現在もヨーロッパで働いているようですが、家族はまだガザに住んでいます。
パレスチナ人の教育レヴェルはとても高いことで知られていますが、ムハマッドさんの父もイスラエル国家設立時に暴力によって数百年にわたって住んでいた祖先の地から追放され難民となり、UNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)で教育を受け、医者となったそうです。
ムハマッドさんも、UNRWAで教育を受け、UNRWAがなければ、教育を受ける機会すらなく、希望のない難民キャンプでの暮らしを余儀なくされたでしょう、としていました。
UNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)は食物だけでなく、教育や医療、難民認定などにも携わり、イスラエル包囲が数十年にわたって続いている過酷な状況でも、ひとびとに希望をもつ機会をつくっています。
アメリカやヨーロッパの西側メディアでは、イスラエルによるパレスチナ人の虐殺は、パレスチナ抵抗組織のハマスのせいで起こっていて、イスラエルは被害者だというプロパガンダがいまだにまかり通っていますが、ムハマッドさんは、イスラエルのユダヤ人ジャーナリストの知人に、ある日、シンプルな質問を投げかけたそうです。
「もし、ハマスの軍事部門が武装解除し、完全にパレスチナ地域から外国へ去り、歴史的パレスチナ地域に住むパレスチナ人全員がユダヤ人をたたえる歌を一緒にユダヤ人と歌うような状態が起きれば、イスラエルはガザの包囲をやめ、パレスチナ人を支配・殺すことをやめると思う?」
この質問に、知人は、とても明確に答えます。
「いいえ。
そんなことは絶対に起こりません。
私たち(イスラエルのユダヤ人)がパレスチナ人に対して行い続けてきた(=70年以上にわたるエスニック・クレンジング、アパルトヘイト、虐殺)結果、パレスチナ人たちには「revenge incentive(リヴェンジ・インセンティヴ/復讐をする動機・誘因)」があり、私たちは、私たちが行ってきたことについて、パレスチナ人たちが私たちを許すとは思えません。
私たち(イスラエルのユダヤ人ーイスラエルの人口のうち8割がユダヤ人、2割がパレスチナ人)はこの20か月の間、多くのパレスチナ人を殺し続けました。
それをパレスチナ人が簡単に忘れる・許すとは思えません。
私たち(ユダヤ人)は、私たちが(この地から)完全に消し去ろうとしたパレスチナ人全体が、私たちが住んでいる場所から10分ぐらいの近さに住んでいることを知っているので、安心して眠ることができません。
(=パレスチナ人を完全に消し去るか、以前と同じ監獄に閉じ込めた状態にしておき、常に暴力で押さえつけておかないと安心できない。)
この「revenge incentive(リヴェンジ・インセンティヴ/復讐をする動機・誘因)」は、イスラエルに特有の考え方で、イスラエルに完全包囲されている状況が数十年続いているガザでは、普通のパレスチナ人たちの生活にも大きく影響しています。
ムハマッドさんは、10年以上前に、ガザから出る許可証の発行をイスラエル政府に申請しましたが、いつまでも通過しなかったため、イスラエルの人道団体でパレスチナ人のこういった日々の問題を助けている団体に連絡を取りました。
そのとき、最初に聞かれた質問は、以下だったそうです。
「家族の誰かがイスラエル兵に殺されたか」
「家がイスラエルによって壊されたことがあるか(=ガザでは数十年の間に何度も多くの爆撃やイスラエル兵の侵攻で普通の市民の家々が爆破されている)」
「家族の誰かが逮捕されたことがあるか(注/パレスチナ人には軍事法が適用され、罪状も理由もなしに、無期限に、裁判なしで、牢獄に閉じ込めることができる)」
もし、これらの質問にYesだった場合(多くの人々は、上記の質問にYes)、「revenge incentive(リヴェンジ・インセンティヴ/復讐をする動機・誘因)」があると判断され、ガザから外に出る許可証は出ない、と言われたそうです。
結局、ムハマッドさんは別の方法でなんとかガザから出てヨーロッパで勉強することができましたが、いまだにムハマッドさんの許可証の進み具合は、「プロセス中」のままだそうです。
多くのガザに住むパレスチナ人たちは、ガザという小さい場所に閉じ込められていて、ほかの地域に住んでいる親戚に会うことさえ、ままなりません。
「revenge incentive(リヴェンジ・インセンティヴ/復讐をする動機・誘因)」という考え方は、イスラエルのユダヤ人からすると当たり前のようですが、パレスチナ人たちが言っているのは、「自分たちを殺さないで、同じ権利をもつ市民として普通に生きることをしたい」というだけで、そこには大きな違いがあります。
ここには、自分たち(イスラエルのユダヤ人)がパレスチナ人に対して残虐なことを行い続けてきたので、完全に相手を消し去るか、相手を徹底的に暴力で抑え込んでいないと、自分たちに対して、自分たちがやってきた残虐な扱いをパレスチナ人たちから受けるのではないか、という自分たちがつくりだしている恐怖の気持ちから逃れられない、ということなのかもしれません。
これは、イスラエルと同じく移住者植民地主義を行っているアメリカでも見られることです。
アメリカは、西ヨーロッパからやってきた白人キリスト教侵略者が、数百年・数世紀にわたって住んでいた原住民たちを虐殺し、盗んだ土地の上に我が物顔をして住んでいて、その後もアフリカ大陸から人々を無理やりさらってきて、人間以下の奴隷としてひどく扱い、表向きに奴隷解放を行った後も、実質、黒人や有色人種を、西ヨーロッパ白人キリスト教徒を祖先とする人々よりも劣っているとして、ひどい扱いを続けてきました。
だからこそ、黒人や有色人種たちの切実な願い、「わたしたちを殺さないで。同じ権利をもったひととして人間らしく生きる機会がほしいだけ」ということが、脅威・自分たちの今までもっていた特権が奪われることに感じられ、かつ、彼らが同じ権利をもてば、自分たち白人が彼らにやってきた残虐なことを自分たちに対して行うのではないか、という自分たちでつくりだした恐怖からパラノイアに陥り、黒人や有色人種への攻撃を高めています。
黒人や有色人種は復讐を求めているわけではなく、同じ権利をもった対等なひととして、同じ場所で人間らしく生きていきたい、というだけなのですが、今までの「支配ー被支配」の関係性以外を想像することができなければ、「支配階級でなくなる=被支配階級になる→誰もが自分たちのように、支配階級として被支配階級を殺したり残虐に扱いたいと思っている」という二択だけの貧しい考えしかないのかもしれません。
ちなみに、イスラエルはヨーロッパ大陸で数世紀にわたって迫害され続けてきたヨーロピアンの(白人)ユダヤ人が、当時の大植民地国だったイギリスのバックアップを受け、歴史的パレスチナ地域をユダヤ人の植民地とすることを目的に侵入し、テロ行為でパレスチナ人たちを大量殺害、エスニック・クレンジングを行って設立した国です。
パレスチナ人の詩人で、イスラエルに暗殺されたガッサン・カナファーニーさんの詩は、簡潔に何が起こったかをあらわしています。
“They steal your bread, then give you a crumb of it…
Then they demand you to thank them for their generosity…
O their audacity!”
(私の直訳なので、もっと詩的な翻訳も探せばあると思います)
彼らはあなたのパンを盗み、そのあと、そのパンのパンくずをあなたに与えます。
そして、彼らは、あなたに彼らの慈悲深さに感謝するよう、要求します。
なんて、厚かましいんだろう!
― Ghassan Kanafani (ガッサン・カナファーニー)
ムハマッドさんは、パレスチナ抵抗組織の武装解除が過去に起こったときに、パレスチナ市民の虐殺が起こったことも指摘していました。
1948年のNakba(ナクバ/アラビア語で惨事・厄災)では、ユダヤ人テロリズムによる虐殺や残虐な暴力により、75万人以上のパレスチナ人が数百年にわたって住んでいた祖先の地を追われ、難民となりました。
その一部は隣国のレバノンへと追い出され、難民のなかから、故郷の地へと戻ることを目標として、イスラエルに対する抵抗組織がうまれます。
ちなみに、国際法では、これらのパレスチナ人には祖先の地へと戻る権利が認められていますが、イスラエルが許可しないため、実現していません。
本来なら、国際法で決められていることを破っている国があれば、経済制裁などで、世界中の国々が国際法を守るようプレッシャーをかけることが必要であり、義務でもあります。
でも、イスラエルは、建国時も、それ以降も、信じられないレヴェルで国際法を破り続けています。
これには、西側諸国、特にアメリカとイギリスが大きくサポートしている背景もあります。
このパレスチナ抵抗組織がレバノン国内からイスラエルに対して攻撃を行い、それをつぶそうとしたイスラエルがレバノンを攻撃したため、レバノン国内でのプレッシャーも高まり、パレスチナ抵抗組織はレバノンを去ることに合意し、その際に、難民キャンプにいるパレスチナ人たちの安全が守られることを、アメリカを中心としたほかの国々とも確約しました。
でも、パレスチナ抵抗組織が去った数か月後、武器も何ももたないパレスチナ難民たちに対して、イスラエルとイスラエルと協力するレバノン右派過激派の民兵は虐殺を行い、43時間の間に3500人が殺されました。
武装解除については、ムハマッドさんも指摘していましたが、北アイルランドで続いた市民戦争(北アイルランド紛争)での武装解除は、Truce(トゥルース/停戦協定)が署名され、どう停戦が保たれるか・保障されるかが明確に合意された上で、その後に、段階的に数年にわたって行われました。
地球上のどの地域でも、武装解除は、上記のように、詳細な内容の停戦協定がきちんと正式に結ばれ、停戦が続くことをほかの国々や国際機関が保障したうえで、数年、あるいは10年以上かけて続くのが普通です。
イスラエルは、停戦が実現したとしても、イスラエル側の人質を回収したあとは、パレスチナ人に対する虐殺やエスニック・クレンジング、アパルトヘイト、ガザの違法占拠を続けることを明確に発言しています。
ウエストバンクでも、違法占拠する地域を大きく広げ、パレスチナ人たちを殺したり暴力で自分たちの家から追い出すことや、村や地域の破壊などの行為を加速しています。
パレスチナ抵抗組織が武装解除してガザを去らない限り、自分たちの安全を守るためにガザを攻撃し続けなければならない、としていますが、これは上記と矛盾していて、武装解除を行えば、さらに虐殺もエスニック・クレンジングも加速することは明らかです。
また、イスラエル政府の国内での発言は、歴史的パレスチナ地域からパレスチナ人を消し去る、という目的を明確にしています。
ムハマッドさんは、イスラエルが一方的に破った以前の停戦合意について、その際には、パレスチナ抵抗組織ハマスが、停戦合意の一環として、ハマスは政治についてはパレスチナ人が合意したTechnocratic Goverment(テクノクラティック・ガヴァメント/実務家内閣ー既に中国で行われたパレスチナ人たちの会議で合意はできている)に引き渡し、15年ぐらいにわたって武装解除をすることを提案・合意していたことを挙げています。
ムハマッドさんは、イスラエル政府が速攻でこの合意を「絶対に受け入れられない」と公式に発表し、アメリカ側の交渉者にも強くプレッシャーをかけて、ハマスとアメリカ側の交渉内容が表にでないようにしたのも、「ハマスを壊滅するために戦っている」という表向きの理由が成り立たなくなるからだとみています。
また、最近、アメリカ人捕虜をハマスが解放したのは、アメリカ側交渉者との間で、アメリカ人捕虜を解放することでイスラエル側に停戦を受け入れさせる、という言葉での合意があったからだそうですが、これは完全に破られました。
また、以前の停戦でも、アメリカは停戦協定の保障国であったにも関わらず、イスラエルの度重なる停戦協定への違反(停戦中に150人以上のパレスチナ市民を殺害、爆撃や狙撃などを行い続けた)、一方的に停戦合意を放棄したのちも、イスラエルが停戦協定を順守するよう、プレッシャーをかけることはしませんでした。
パレスチナ抵抗組織のハマスは、停戦合意に遵守しています。
ちなみに、西側主要メディアや政府は、イエメンのフーシ派が、「イスラエルがパレスチナ人を殺すことをやめれば(=停戦がおこれば)紅海をわたる船を攻撃しない」と宣言していたのを、嘘に違いないとし、イエメンへの攻撃(市民がつかう港や空港、水などのインフラストラクチャーへの爆破も含めて)を続けましたが、停戦が保たれている間、フーシ派は攻撃を完全にストップし、彼らの宣言を順守しました。
でも、西側主要メディアは、このことについて報道しません。
数十年にわたる過去の例をみても、パレスチナ抵抗組織(組織はなくなったり新しくうまれたりと変わり続けているー残虐なイスラエル支配がある限り抵抗組織は生まれ続ける)イスラエルが停戦などの協定を一方的に破るパターンが圧倒的に多いそうです。
イスラエルは小さな国で、アメリカのサポート(武器の供給、資金、政治的・外交的なカヴァー)がなくなれば、虐殺もエスニック・クレンジングも続けることはできません。
そのアメリカが、イスラエルが協定を破ることを自由にさせていれば、パレスチナ人たちに生死の危険を及ぼすだけでなく、ほかの地域でもアメリカが保障する協定について、どの国も信用することができず、これは、世界全体を不安定にします。
ムハマッドさんは、いろんな報道機関から、インタヴューの依頼やガザにいる知り合いを紹介してほしい等の連絡を受けますが、その過程で、Noam Chomsky(ノアム・チョムスキー)の「Manufacturing Consent(マニュファクチャリング・コンセント/製造された合意)」が、実際に目の前で起こっていることを実感したそうです。
イギリスの国営放送BBCでは、イスラエル側に完全に偏った報道を行っていることを原因として、辞職したジャーナリストたちもいますが、いまでも、特に年齢の高い人々の間では、公平な報道機関として認識されています。
ムハマッドさんは、BBCから、ガザにいるパレスチナ人の知合いで、「イスラエルに対して好意的で、抵抗組織のハマスとパレスチナ自治政府を嫌っているひと」につないでほしい、という依頼を受けたそうですが、その理由について、このBBCの編集者はシンプルに説明したそうです。
「もし、イスラエルの行為に反対するパレスチナ人をインタヴューに招くと、それをカウンターする形で、イスラエル人でイスラエルの行為を正当化するひとをよばないといけなくなるけど(企業のルール)、そんな時間はない」
つまり、最初から、イスラエルのパレスチナ人虐殺(BBCを含む多くのメディアでは、つい最近まで「虐殺」ということばを使うことすら禁じられていた)について好意的なひとしか出演させない、というセットアップだったということは明らかです。
また、ガザのパレスチナ市民が、虐殺に反対するデモンストレーションを行った際の報道も、大多数のひとが虐殺反対を唱えているのに、とても少数のハマスへの反対を唱える人々をBBCは大々的に報道し、虐殺反対を唱えている大多数の人々については報道しませんでした。
ここでも上記と同じで、既に何を報道するかが決まっていて、それに合う部分だけを切り取って報道し、合わない部分は大多数であるにもかかわらず削除して報道しません。
これは、公平性を欠いた報道であることは明らかです。
また、ムハマッドさんは、ヘブライ語もわかるので、イスラエルの主要新聞の記事を翻訳して報道機関にわたしますが、これらの報道機関のジャーナリストたちは、編集者が、それよりも優先順位が高いことがあるからという理由で記事にすることには賛成しないから、と全く記事にしません。
もちろん、BBCやほかの西側主要メディアには、ヘブライ語がわかるジャーナリストやコネクションもあり、これらの情報を知っています。
ムハマッドさんは、ジャーナリストのSelf censoring(セルフ・センサリング/自己検閲)も高まっているとみています。
イスラエルの主要新聞や主要ニュースは、ルワンダで虐殺が行われたとき虐殺を招くような誤情報を意図的に流していたラジオ・ルワンダと似たような状態で、パレスチナ人の虐殺をたたえ、パレスチナ人レイプを行った兵士を賞さんしたりしています。
このラジオ・ルワンダの当時の局員は、人道的犯罪で起訴されました。
報道機関も虐殺を示唆するような報道やプロパガンダを行うと、人道的犯罪で裁かれるので、ガザの虐殺がとまれば、多くの西側の報道機関がこの罪を問われると見られています。
西側メディアでは、イスラエルのユダヤ人たちは、ガザやウエストバンクで何が起こっているか知らないひとが大多数(=事実を知れば、多くのユダヤ人たちは虐殺やエスニック・クレンジングに反対する、ということを暗示)という嘘の情報をまことしやかに流しますが、イスラエルは国民のほぼ全員が兵役義務を行う国です。
ムハマッドさんは、今回のガザ虐殺では、40万人の予備兵たちが招集されたので、イスラエルのユダヤ人の誰もが、家族や親戚、親しい友達、同じ職場で働く人などの身近な人たちが兵士としてガザに行っていることは明らかで、何が起こっているか知らない、というのはありえない、としています。
また、ソーシャルメディアに、イスラエル兵たちが虐殺や拷問、殺人、学校や大学などの爆破といった戦争犯罪を堂々とアップロードしていることからも明らかです。
これに対するイスラエル政府の対応は、戦争犯罪を行うな、ではなく、ソーシャルメディアには何もアップロードしにないように、ということだったそうです。
これも、イスラエルのユダヤ人は、アメリカやイギリスといった西側諸国と同じ価値観(自由、民主主義、人権の尊重、文明化されている)をもつ国で、大多数はイノセントで、イスラエル政府のごく一部の狂信的な閣僚にひきずられているだけ、という見せかけをつくりだすことを助けています。
でも、既に、イスラエル国民のマジョリティーは、エスニック・クレンジングには賛成し、虐殺についても半数近くは賛成しているという世論調査も発表されています。
ムハマッドさんは、この虐殺が続くにつれ、特に若い人々からのイスラエルに対する反発が強まり、以前のような積極的なプロパガンダが通じなくなってきたことで、もっとわかりにくい形のプロパガンダを使用しているのを確認しています。
誤った情報を流すのではなく、大事な事実を省略したり、報道しないことが特徴です。
一番効果的なのは、重要な事実を省略して、コンテクストを分からなくすることだそうです。
例えば、BBCでもほかの主要番組でも、イスラエル政府高官やイスラエル人が明らかな嘘(さまざまな角度から確認されている事実とは全く違うこと)をついても、どのジャーナリストもチャレンジしません。
多くの視聴者は、BBCや主要メディアは、「インタヴュイーが嘘や事実でないことを言っているであれば、インタヴュワーがチャレンジするに違いない」と暗黙に思っているので、チャレンジがなければ、それはインタヴュワーであるジャーナリストも事実・真実であると認めていることだと、暗黙に認識します。
これは、ほかの場合だと考えられないことであり、ジャーナリストの仕事を行っていないことになります。
最近、「独立紙」と謡っているイギリスのGuardian Newspaperが、ガザで人々が殺されていることについて西側諸国が沈黙を続けていることを批判しはじめたものの、その記事では加害者である「イスラエル」という言葉を全くつかわず、まるで、自然災害で爆弾や飢餓が起こっているかのような記事で、一部から批判が高まりました。
ちなみに、Guardian Newspaperは10年ぐらい前までは、Edward Snowdenの告発を取り上げたりしていましたが、現在では、多くの紙面はマイクロソフトなどの多国籍企業のスポンサーがあり、既に、ほかの主要新聞と同様、多国籍企業の利益を第一に考えたものになっているとの声も高まっています。
西側主要メディアは、イスラエルの国会で、議員たちがエスニック・クレンジングを大っぴらに発言していることや、イスラエルの主要メディアも同様であることには全く触れず、イスラエルが西側メディア向けに用意した広報(=プロパガンダ)を使います。
もちろん、これらの報道機関は、イスラエル国会での議員たちの発言については知っていて、公平な報道を行っているのであれば、これらの発言も報道すべきですが、全く触れません。
イスラエルの政治家たちが、BBCなどの主要メディアに登場し、英語で、パレスチナ人のことを「人間の姿をした動物」のように表現していた際も、チャレンジすることは全くありませんでした。
虐殺を行われている側のパレスチナ人をサポートし、虐殺を止めるよう発言する人々がイスラエルのことを少しでも悪く言えば、大きく批判されるか、ジャーナリストたちがことばを被せてイスラエルのことをかばい、発言を続けることができなくなります。
「ホロコーストのショックからくるトラウマで、本当にそう思っているわけではない」という言い訳がよく使われますが、ムハマッドさんは、これはトラウマではなく、70年以上にわたるimpunity(インピュニティー/(何をしても)懲罰がないこと)が原因だとみています。
ホロコーストが起こったのは80年前で、直接経験したひとは減り続けていますが、パレスチナ人たちは実際に、イスラエルによる大量殺害(平和なデモンストレーションで、多くのなんの武器ももたないパレスチナ人がイスラエル兵によって狙撃され殺されたり手足の切断を余儀なくされた)や、地域への大きな爆撃をここ20年ぐらいの間でも何度も経験しています。
上記の理論で言えば、ほぼすべてのパレスチナ人がトラウマに悩まされているはずですが、現在のイスラエルのように、虐殺やエスニック・クレンジングを声高に叫ぶような状態には全くなっていません。
西側政府は、20か月の虐殺が続く中で、やっとイスラエルの言動を非難するような発言を始めましたが、武器を供給することはやめていません。
EU(欧州連合)では、イスラエルの行いを調査する(もしEUの決まりに反していればEU加盟国は武器の供給禁止などの措置をとる必要がある)と発表しましたが、ムハマッドさんによれば、すでに情報の漏洩があり、欧州連合ではイスラエルが戦争違反・国際法違反をしていることが調査結果としてまとめられているそうですが、この調査結果については秘密にしているそうです。
調査には当然時間がかかるので、「欧州連合は、イスラエルの行いを調査をする」と公式に発言したのは、イスラエルに対する「私たちにはこれ以上イスラエルを守ることは難しい。数か月の猶予(=見せかけの調査期間)はあげるので、その間にどうにかして」というメッセージだと見られ、イスラエルのための時間かせぎだと見られています。
ムハマッドさんは、ヨーロッパの外交官たちと話したとき、彼らは「ガザで人々が飢餓にさらされている、殺されている」と言っても、絶対に加害者のイスラエルの国名は出さず英語の受身形で話し、アクティヴな形式となる「イスラエルがガザ市民を爆撃している」とは絶対に言わないようにしているそうです。
なぜなら、後者だと、法律的に責任が生じ、イスラエルへの武器の供給や外交上でのカヴァーができなくなり、また経済制裁などを行う義務が生じるからだそうです。
表向きには、市民の虐殺も大量殺人も起こっていない、としている西側政府が大多数ですが、誰もが本当は事実を知っていながら、国民や世界に対して嘘をつき続けていることを示しています。
これも虐殺を続けることに貢献していることは、明らかです。
人道犯罪、戦争犯罪については、時効がないため、西側の現政府の責任者たちは、どこかの時点で犯罪についての責任を、裁判所で問われる可能性が高いとみられています。
ムハマッドさんに限らず、多くの人々が言っていますが、今回の虐殺が起こっているのは、パレスチナ人の命の価値はゼロか、とても低いとみなされているからです。
これは、植民地化の過程で、西ヨーロッパの白人・キリスト教徒は人間のハイラルキーの中で一番高く、それ以外のひとびとは野蛮で人間以下というイデオロギーをつくり、地球上の多くの地域で原住民を虐殺・大量殺害・大量追放を行い、土地や資源を盗み、原住民を奴隷化することを正当化したことから続いています。
アメリカの近年の「War on Terror(ウォー・オン・テラー/テロに対する戦争ー実際は資源のある国々への違法侵略)」といったプロパガンダで、イスラム教徒や中東の人々を人間以下のように扱ったことも、影響しているのは明らかです。
地球上の誰ものが命が対等で、同等に貴重なものであることが尊重されなければ、どこかの時点で虐殺や大量殺人がどこかで起こることは避けられないでしょう。
私たちには、地球上の誰ものが命が対等で、同等に貴重なものである(=人間の間にハイラルキーはない)ことを認め、行動にうつすことを選択できます。
多くの子どもたちや人々が殺される映像やイメージをみると、目を背けたくなるのは分かりますが、誰もが無視しはじめれば、これはNormalise(ノーマライズ/常態化、当たり前の日常のこととなる)され、さらに虐殺は加速します。
先述したように、プロパガンダの大きな目的は、ひとびとを無力化して、虐殺に全く関心をもたないようにさせることです。
イスラエルでは、政治家が「今は(パレスチナ人が)100人以上殺されても、誰も(=西側諸国の政府や西側主要メディア)何も言わない。」と発言しているのがみられていますが、これは、西側諸国では既にパレスチナ人が大量に殺されることは普通だとみられて何も批判などはないのだから、今後も殺すことをどんどん続けることになんの問題もない、という意味合いです。
現在起こっている虐殺は、イスラエル建国のイデオロギーであるシオニズムの移住者植民地主義というレンズからみれば、とても明確で、全く複雑ではありません。
原住民はどんな手段をつかっても取り除いて、彼らの土地や資源を盗み、自分たちユダヤ人だけの地域をできる限りひろげる、というもので、イスラエル建国時のリーダーたちも明確に、パレスチナ地域を植民地化する、と述べています。
イスラエルは、アメリカの大学にも入り込み、イスラエルのプロパガンダを助けることを目的に学生をミーテイングに招いたりしているそうですが、プロパガンダはイスラエルを積極的にかばうことではなく、neutralise(ニュートラライズ/中和・無力化させる)することだそうです。
まず最初に使うのは、「この問題はcomplicated(コンプリケィティッド/複雑)だから」といい、相手にこの問題を理解することは誰にも不可能だ、と思い込ませて無力化させ、人々がパレスチナについて話さないようにすることだそうです。
それでも、話を続けようとするひとには、「地球上では多くの地域で紛争や戦争が起こっているのに、イスラエルだけにこだわるということは、きみはanti-semite(アンティ・シーマイト/反ユダヤ主義者)だ」と反ユダヤ主義者というレッテルを貼ることによって、それ以上話せなくなることを戦略的に行うよう、指導されるそうです。
少なくとも、私たちは、ヒューマニティーを保ち続けることを選択し、パレスチナで起こっていることをなるべく深く知ろうとし、イスラエル製品に対してのBDS(Boycott, Divestment and Sanctions/ ボイコット、資本のひきあげ、制裁)などを実行、友人との会話のなかでパレスチナのことを話す(パレスチナの詩人のことなど、パレスチナ人を非人間化する流れを変えることも含めて)など、直接、虐殺を止めることはできなくても、ひとりひとりが虐殺を止めるために間接的にできることはあります。
たとえ、ガザに残されたパレスチナ人が一人になったとしても、その人の命を助けるための努力は続ける価値があります。
(参考)
ムハマッドさんの記事(2025年5月13日発行)
https://www.972mag.com/writer/muhammad-shehada/
Sabra and Shatila massacre ー レバノンでのパレスチナ難民虐殺についての記事
https://www.aljazeera.com/news/2022/9/16/sabra-and-shatila-massacre-40-years-on-explainer