自分の特権を、どう人々のためにつかうか ー グレタ・トゥーンベリさん
Greta Thunberg (グレタ・トゥーンベリ)さんの、Democracy Now!(デモクラシー・ナウ!)のインタヴューから。
グレタさんと仲間の計12人は、イスラエルの虐殺が続き、イスラエルが人工的につくりだした飢饉を打ち破るために、イタリアのシチリア島から、「Madleen(マドリーン)号」と名づけられた船に乗り込み、帆走していました。
現在は、イスラエル軍に拉致されたようですが、バック・グランドを知っておくことは大切です。
まず、この船は人道救済のための船であり、かつInternational waters(インターナショナル・ウォーターズ/国際海域)を通過し、Palestinian territorial water(パレスティニアン・テリトリアル・ウォーター/パレスチナ領海域)を走行するのは、イスラエルの管轄ではなく、イスラエルがこの船の進行を妨害したり、船を拿捕したり、船の乗組員を誘拐することは、国際法違反です。
また、この船はThe UK(イギリス・スコットランド・ウェールズ・北アイルランドの連合4か国)で登録された船であり、国際海域にいる間は、The UKの管轄となります。
そのため、国際海域で船が拿捕された場合は、The UKはイスラエルに対して強く抗議を行う義務があるのですが、私が知りうる限り、それは起こっていません。
The UKは、今現在も、毎日のようにガザ地域の上空にスパイ偵察機を飛ばし、情報をイスラエル軍に提供していることでも知られており、イスラエルへの武器の供給、外交上でのカヴァーも続けています。
また、The UKのうちのイギリスは、歴史的パレスチナ地域を植民地宗主国として管轄していた間に、その土地の9割以上の人口だったパレスチナ人にはなんの合意もなく、ユダヤ人だけの国をその地につくることを約束し、ユダヤ人の急速な入植を助け、パレスチナ人の苦難の原因をつくった張本人でもあります。
イギリスの元首相チャーチルさんは、現在でいう人種差別者で、パレスチナ人に対して「犬が長年飼い葉おけのうえに座っていたからと言って、その土地に権利があるわけじゃない」という内容の発言を行っていて、自分のような優勢な白人人種は土地や資源にアクセスする権利はあるけれど、原住民の有色人種は野蛮で劣った種族なので、どんなに長くその土地に住んでいようと、その土地や資源に対する権利は全くない、という当時では普通の考え方をもって、それを政治にも反映させていました。
大英帝国(現イギリス)が歴史的パレスチナ地域を管轄していた間には、暴力的な圧政を行い、抵抗するパレスチナ人たちに対して、現在のイスラエルが行ってきたようなこと、集団的懲罰で村全体を破壊したり、ある村の男性全員を牢獄にいれて水を与えず殺したり、を行っていたことは記録にも残っています。
ヨーロッパから入植してきたユダヤ人の一部は、イギリスの警察組織のもとに組み入れられ、そこで拷問のやり方などを学び実践し、最終的には、ユダヤ人移民の数を制御しようとしたイギリスに対して反発し、テロ行為を繰り返したことで、イギリスは歴史的パレスチナ地域を去りました。
イスラエルが人工的に作り出したガザの飢饉は、戦争犯罪であり、国際社会(地球上の国々の政府や機関)は、この飢饉と虐殺をとめるよう、最大限の努力(イスラエルへの経済制裁、武器供給の禁止、外交関係の切断ー各国のイスラエル大使館を閉鎖しイスラエルにある各国の大使館も閉鎖、など)を行う義務があります。
虐殺については、間違った情報もたくさん流されていますが、既に多くの虐殺についての専門家が、ガザで起きていることは虐殺である、と断言しています。
かつ、国際法では、虐殺と認定されるまでには虐殺が終わってから数年後、十数年後となる可能性が高いので、虐殺が起こる可能性がある場合、どの国も機関も、虐殺が起こらないよう、最大限の努力を行うことが義務づけられています。
国際裁判所が「虐殺」と認定するまで何もしない、という選択はありません。
何もしない、ということは、この虐殺にComplicit(コンプリシット/共犯)ということになります。
グレタさんのインタヴューの前に、この船の「Madleen(マドリーン)」という名前の由来から。
この船の名前は、実在のガザ出身で、ガザで初めての女性漁師、マドリーンさんからきています。
マドリーンさんは、父がイスラエルの攻撃によって負傷し、漁にでかけることが難しくなったため、家族を支えるために、13歳くらいから漁にではじめたそうです。
イスラエルからの度重なる攻撃に負けず、果敢に漁に出続けたことでも知られています。
ちなみに、イスラエルが、国際的に認められているパレスチナ領の海域でパレスチナ人を攻撃したり、この海域を包囲するのは、国際法違反です。
記事は、Al Jazeera(アル・ジャジーラ)のここから。
マドリーンさんは、ガザでの虐殺がはじまっていらい、何度も移動を余儀なくされ、彼女も、漁師である彼女の夫も、家も船もすべて爆撃で壊され、漁へは出られません。
多くの漁師が、たとえ生き残っていたとしても、同じような状況だそうです。
たまたま船や、漁に必要な道具が爆撃されずに残っている少数の漁師たちも、漁に出かければイスラエル軍から狙撃され、既に殺された人々もかなりいます。
マドリーンさんの父は、2023年11月の自宅へのイスラエルからの爆撃で殺されたそうです。
マドリーンさんは、現在4人の子どもがいて、そのうち一人は、虐殺がはじまってから、麻酔もない病院で出産し、病院のベッドは負傷者でいっぱいで、その当時住んでいた多くの親戚が狭い場所に住んでいるところで、床の上に直接寝ていて、まともに休めず、赤ちゃんのための粉末ミルクなどもまったくない状態だったそうです。
現在は、爆破され崩れかけた家に住んでいますが、食料もまともにない状態が続いているそうです。
マドリーンさんは、自分の名前がこの救援船につけられたことを、誇りと感じるとともに責任も感じ、この船がイスラエル軍に拿捕されるだけでなく、乗組員の命が狙われることを心配していました。
(2025年6月10日UK時間では、グレタさんは国外追放され、数人はイスラエルにとらえられたままのようです)
なぜなら、2010年に、同じように、国際法違反であるイスラエルのガザ包囲を破るために出航したトルコの船「Mavi Marmara(マヴィ・マルマラ)」は、イスラエル軍に攻撃され、乗組員の9人はその場で殺され、残りの1人は昏睡状態が数年続いたあと、亡くなりました。
Al Jazeera(アル・ジャジーラ)の記事はここより。
トルコ政府は、イスラエル政府に対して抗議していましたが、アメリカ政府が仲介にはいり、トルコ政府はイスラエル政府の謝罪(兵士たちは攻撃されたから自衛として防衛しただけだが、それが少し行き過ぎた)を受け入れ、イスラエル側で殺人を犯した兵士たちはなんの責任も取らずに終わったようです。
この船は救援船であり、ボランティアだった乗組員がイスラエル兵を攻撃しあとは非常に考えにくいのですが、乗組員全員が殺されているため、真実は闇の中です。
これは、Impunity(インピュニティー/何をしても懲罰がないこと)とよばれますが、インピュニティーは、イスラエル建国時のテロリスト行為(ユダヤ人民兵によるパレスチナ人虐殺、エスニック・クレンジング)も含めて、70年以上続いています。
そこには、アメリカやイギリス、ドイツといった西側諸国が外交的・経済的・軍事的にもイスラエルを全面サポートし続けている事情が存在します。
グレタさんは、いつもの飾り気のないダイレクトな答えをインタヴュワーに返します。
グレタさんは、今回のガザ包囲を破ることを試みる航海の目的は、イスラエルによるガザでの虐殺・包囲・封鎖を止めること最大の目的で、このとてつもない不正義がイスラエルによって行われている現状に、何もしない、という選択はない、と明言しています。
グレタさんは、自分がなぜかとても大きなプラットフォームをもっていることをあげ、この非常事態(ガザの虐殺・イスラエルが人工的につくった飢饉)には、これを利用するのは、自分のモラル上の義務だとしていました。
日本だと文化的にわかりにくいかもしれませんが、西欧社会では、たまたまこういった特権をもっている場合は、人類すべてにとってよいことを起こすために、その特権を使う義務がある、という考えが根底に存在します。
先述したように2010年には10人の乗組員が殺され、1か月前には、同じFreedom Flotilla Coalition(フリーダム・フロティラ連合)の別の船がドローン攻撃を受けて航行することが不可能になっていたことからも、グレタさんのように名前をよく知られたひとが乗組員でなければ、イスラエルが殺人を行うことは十分考えられます。
外国人で白人であれば、殺される可能性は低くはなるものの、ガザで食料提供を行っていたワールド・セントラル・キッチンの3台の救援車両に乗っていた外国人ボランティア全員が,イスラエル軍によって狙い撃ちにされ、殺された事件(2024年4月)もあり、イスラエル軍・イスラエル政府が戦争犯罪や国際法違反を行わない保障は全くありません。
グレタさんは、環境活動家としてスタートしたこともあり、インタヴュワーから、パレスチナ人やパレスチナ地域の自由と、気候変動がどう関係していると思いますか、という質問に対しては、以下のように答えていました。
「この2つは違いのないもので、social justics(ソーシャル・ジャスティス/社会正義)なしに、climate justice (クライメイト・ジャスティス/気候の正義)は成り立ちません。」
また、以下のように続けて説明していました。
「私が気候変動活動家であるのは、木を守りたいからではありません。
私は(すべての)ひとびとと、地球のWell-being(ウェルビーイング/健康であること)を気にかけるから、気候変動活動家であり、これらはつながっています。
もちろん、ここには、とても明らかなリンクもあります。
ecocide(エコサイド/深刻で広範囲な、長期間の環境被害がかなりの可能性で発生すると知っていながら行われた違法または不正行為。環境破壊を国際犯罪として位置づけしようとするもの)や、環境破壊は、戦争や人々を抑圧するためによく使われる手段です。
でも、これは、それらより、もっとシンプルなことでもあります。
たとでどんなことがSuffering(サファリング/苦しみ、苦痛、苦難)を起こしているとしても、それが二酸化炭素でも爆弾でも、国家のrepression(リプレッション/弾圧・抑圧)」でも、ほかの形態の抑圧であっても、私たちは、このSuffering(サファリング/苦しみ、苦痛、苦難)の根本の原因に立ち向かわなければなりません。
もし私たちが、社会の隅に追いやられたすべての人々の苦難を認識し、一緒に闘うことなしに、環境・気候や私たちの子どもたちの未来を気にかけるふりをするのであれば、それは、justice (ジャスティス/正義ー日本語の正義とは違い、普遍的な意味での正義)への極端な人種差別的なアプローチであり、それは世界の圧倒的なマジョリティーの人々を除外することになります。
(地球上で、ヨーロピアン系白人を祖先とする白人ー多くは西側諸国、かつての植民地国宗主国か、イスラエルやアメリカ・オーストラリア・カナダといった移住者植民地国ーの人口は約20パーセント強で、約8割近くの人口は非白人だとみられています。)
ちなみに、移住者植民地国は、イスラエルのケースを除いては、西ヨーロッパからやってきた白人・キリスト教徒が、現地に数百年・数世紀にわたって住んでいた非白人・非キリスト教徒であった原住民を虐殺・暴力で追い出したあとに、盗んだ土地や資源の上に我が物顔で座っている白人がマジョリティーとなった国々です。
イスラエルは、アシュケナジとよばれるヨーロピアン白人ユダヤ人が、シオニズムというイデオロギーを作り、それをもとにイスラエル建国を行い、現在も政治・経済の中枢を握っています。
イスラエルは建国時に、パレスチナ人の虐殺、エスニック・クレンジングを行い、それは現在までもアパルトヘイトも加えて続いています。
グレタさんのいうことばは、いつもモラルのClarity(クラリティー/明瞭さ)を感じさせるのですが、インタヴューの最後では、以下のように言っていました。
「このミッションは、私たち(乗組員)のことでもなければ、この旅路のことでもありません。
このミッションは、パレスチナについてです。
これは、虐殺、占領、エスニック・クレンジング、イスラエルによるさまざまな手段での戦争やパレスチナ人に対する抑圧についてです。
ガザに必要なのは、人道的なこと(救援支援)だけではありません。
停戦だけではありません。
(イスラエルによる)占領は終わらなくてはなりません。」
ガザでは、多くの市民がグレタさんの乗る船の到着を待っていて、パレスチナ人アーティストが砂浜で美しいマドリーン号を砂で作ったりしています。たとえ、マドリーン号がガザにたどりつけなくても、多くの希望をあたえ、可能性(ほかの普通の船が一気に集まってガザに共同でむかう等の市民がこの違法なイスラエルの包囲をやぶる可能性)を開きました。
世界は、ひとびとは、パレスチナ人のことを忘れていない、ということを行動であらわすのは、とても大切なことです。
既に、多くの普通の船を集めて一緒にガザへ航海する計画もあり、2,3艘だとイスラエルに攻撃されても、1000艘やそれ以上の船が集まってガザへ航海すると、イスラエルに止めることは不可能になります。
各国の政府が、パレスチナ人への虐殺をほう助したり、虐殺を止めるための行動を行わないことが続いている現在、普通のひとびとができる限りのことをするのは大切です。
これは、グローバルな普通の市民たちの動きです。
また、チュニジアからラファに向けて長距離バスなどで、人々が団体で向かうマーチはまだ続いています。
これらの道程の道端には、多くの一般市民が出迎え、パレスチナの旗をふっているそうです。
ヨーロッパやアメリカでは、アラブの国々では大きなマーチなどがないことが話題になることもありますが、これらの国々は王政や専制国で、マーチやデモンストレーションは大きく禁止されていて、王族などを少しでも批判すれば拷問や長い間牢獄に入ることが現実である地域では、ひとびとが集まることでさえ危険であるという、ヨーロッパとは全く違う現実があることは知っておく必要があります。
日本では、ヨーロッパと比べると、誰かを偶像化して、期待を勝手に押しつけて聖人のようにふるまうことを要求して、少しでも違うとバッシングにあわせるような印象があるのですが、グレタさんはアスペルガー症候群があることを公表していて、多くの苦難を、彼女自身、経験してきています。
グレタさんの母(世界的に活躍するオペラ歌手)が出版した家族の話の中では、グレタさんは、学校でひどいいじめにあい、先生も「グレタが周りと違っているのが悪い」と相手にしてくれず、拒食症がひどくなり生死の危険があり強制入院となる一歩手前だった時期もあったそうです。
父は俳優ですが、グレタさんとグレタさんの妹の面倒をみるため、仕事は長い間やめざるをえなかったそうです。
拒食症がひどいときは、ニョッキ(イタリア料理でジャガイモと小麦粉でつくったもの)しか食べられず、それも、同じサイズ、同じ個数でしか食べられず、1時間以上かけてやっと食べられるような状況で、父もなんとかグレタさんが死なないよう、一生懸命この食事を用意して、食べるのを見守ったそうです。
グレタさんの両親はグレタさんを懸命に支えましたが、これだけの心身的・経済的サポートができる親・保護者は稀だと思います。
でも、こういったサポートを世界中の子どもたちが受けられるようになれば、グレタさんが自分の才能を最大限にいかして、世界のためにもとてもよいことをしているように、誰にとってもよい社会・地球になるのでは、と思います。
グレタさんは、気候変動に対する活動を始めたなかで、年齢も大きく違う仲間たちができ、だんだんと元気を取り戻し、拒食症からも脱したそうです。
それでも、長い間、グレタさんは、子どもたちをみると、強い恐怖におそわれて身体が震えているのが、両親からは目に見えて分かったそうです。
でも、これも、気候変動に対する活動を続ける中で、子どもたちに話すこともふえ、普通に会話できる経験が重なり、次第に大丈夫になったそうです。
これは、お母さんからの目線なので、グレタさん本人からみると、また違った景色が見えるとは思うのですが、同年代の子どもをみて身体が震えてしまうなんて、どんなにつらい経験をしたのだろう、と胸が痛くなります。
彼女は、自分自身の弱い立場に追いやられていた経験を通して、すべての人々のためのソーシャル・ジャスティスを求めることが大切だと、直感・実感としてわかっていて、実行しているように思います。
前述のチャーチルさんのように、人間にハイラルキーをつけることとは正反対です。
グレタさんは知性もウィットもあふれている女性で、この知性とモラル、彼女の人生での経験や深い感情、生きるものすべてへの愛と尊敬が結びついているのがとても伝わってきます。
今回のミッションでは、(イスラエル)国外追放となりましたが、フリーダム・フロティラ連合は、すでにもっと多くの船を送り出すことを計画していて、このミッションは、ガザでのイスラエルの占領が終わるまで続きます。
次回は、このフリーダム・フロティラ連合の数人のリーダーのうちの一人のインタヴューを紹介します。