変化は必ずやってくる ー 思いがけない時に
フランスが、「パレスチナ国家を(2025年)9月に承認する予定(ただし、多くの条件つき)」と発表して以来、カナダ、イギリスと、今までパレスチナ国家承認を否定していたG7の国々が、同じように、多くの条件つきながら、承認する予定であることを発表しました。
どの国も、「two states solution(トゥー・ステイツ・ソリューション/2国家解決)」という、イスラエルが国際法違反で多くの領地を違法占領し、パレスチナ領地を盗むことをさらに急速に進めている現在では、実現不可能な案を主張していて、将来的にイスラエルによるパレスチナ人虐殺をほう助したとの国際犯罪を回避するアリバイづくり、国際社会からの批判を受け止めているふりをしてイスラエルが虐殺を続けることを助ける、などのさまざまな憶測がありますが、実際に、虐殺を止めること、イスラエルのパレスチナに対する違法占領をやめさせることにどういう効果をもたらしているのでしょうか。
まず、パレスチナの国家承認については、既に、世界の国々の約8割近くが認めています。
各国に在外公館や外交使節もあり、国際スポーツ大会にも、代表を覇権しています。
でも、日本を含む経済的に豊かな西側諸国(アメリカ、イギリス、カナダなど)とイスラエルは、パレスチナ国家を承認していません。
これらの国々は、元植民地国・移住者植民地主義国で、地球上のマジョリティーである多くの地域を搾取して富を築いた国々です。
パレスチナ人は数世紀にわたって存在し豊かな文化を築いていて、本来なら、パレスチナ国家承認は、イスラエル国家樹立(1948年)よりも、ずっと前に行われているべきものでした。
ガザ出身のパレスチナ人アナリスト・ジャーナリストのMuhammad Shehada(ムハマッド・シェハーダ)さんは、独立系メディアの「Democracy Now!」のインタヴューで、とても興味深い見解を示していました。
「パレスチナ国家承認」は象徴的なもので、実際にはあまり意味は成さない(=イスラエルによるパレスチナ人虐殺を止める・イスラエルによるパレスチナ地域の違法占拠を終わらせることには即時の効果はない)と多くの専門家がみているものの、イスラエルは極端な拒否反応をあらわにしました。
それについて、ムハマッドさんは、3つの理由を述べています。
1. 「2国家解決」が議題にのぼると、イスラエルが「平和的な解決」を拒否している側だということが明らかになる
イスラエルには、シオニズムという、移住者植民地主義のイデオロギーでヨーロッパからやってきた侵略者である白人ヨーロピアン・ユダヤ人によってつくられた国で、原住民と共存する考えは存在しません。
実際、イスラエル政治家たちの間では、「平和(=パレスチナとイスラエルが共存)」は「脅威・攻撃」と解釈されているそうです。
オーストラリア・カナダ・アメリカのように、原住民は限りなく消去し、土地や資源を盗み、自分たちヨーロピアン白人侵略者が先住者として置き換わり、消しきれなかった原住民には耐えられないような選択しか与えません。以下が、よく使われた手段です。
「奴隷のような生活に黙って耐える/ひととして生きられない状況をつくりだし別の国で難民となる/子どもたちを親やコミュニティーから引き離して白人社会へ強制的に同一化させ、文化や言語・つながりを断って数世代後には、その民族としてのアイデンティティーを保つことが不可能となる/黙って殺されることを受け入れる」
イスラエルは、平和的な共存は全く望んでおらず、中東の全地域(シリアの一部やレバノンは聖典の解釈に従いイスラエル国家とする)をユダヤ人支配下・独占化におくこと以外は考えられないものの、それが国際社会の目に明らかになると、ほかの国々からの武器の供給や貿易などで問題が出てくるため、それが明らかになるような状況を避け続けています。
2.イスラエルは、アメリカ側に、エスニック・クレンジングだけが最終的な解決方法で、一番人間的な手段だと売り込むことに成功しているのに、ほかの影響力のある国々が、別の解決方法もある、と言い始めると、アメリカ側が気を変える可能性がある
イスラエルは、パレスチナ人を歴史的パレスチナ地域から消し去り、ガザ(海に面している)を、世界中の人々が訪れる観光地にすることが、一番、人間的で、アメリカにとっても利益のでるやりかただと説得することに成功してきました。
でも、フランスやカナダなどが、「イスラエルの占領・イスラエルによるアパルトヘイトを終わらせ、(歴史的パレスチナ地域に住む)全てのひとびとが平和に共存して生きていける、政治的に確固とした解決方法がある」と言いだし、それが、パレスチナのすべての機関や団体によっても、承認・支持されれば、それを望まないイスラエルにとっては、大きな脅威となります。
実際、ハマスは、ずっと前から、イスラエルが(国際法違反の)占拠をやめれば、段階的に武装解除することも提案しています。
ハマスのスポークス・パーソンの一人は医師で、イスラエルの違法占拠が終われば、武装組織として存在する必要はないので、ハマスは武装解除し、パレスチナ国家の正式な軍隊に組み入れられる可能性を示唆し、自分自身は、医師の仕事に戻るとしていました。
パレスチナ側のほかの機関や団体・組織も、イスラエルの国際法違反の占拠が終われば、武装抵抗組織は必要なく、暫定的な自治政府の仕組みも既に話し合い済みです。
ハマスなどの抵抗組織が存在するのは、イスラエルが国際法違反の占拠を行っているからであり、ハマスの前にもさまざまな抵抗組織が存在し、ハマスが消えても、イスラエルの国際法違反の占拠がある限り、抵抗組織が生まれることは避けられません。
ハマスはアイディアであり、アイディアを消すことはできない、と言われるのはそのためです。
フランスは、パレスチナ国家承認の条件として、ハマスの武装解除をあげているものの、ハマスが武装解除してPLO(パレスチナ解放機構)などに加わる可能性について否定していません。
武力闘争での、政治的な解決の一例としてあがるのは、北アイルランドです。
アイルランドは、イギリスの植民地であった時代があり、長年の抵抗運動、武力闘争で1921年に独立を勝ち取ったものの、アイルランド島北部にある北アイルランドは、イギリス支配下として残ることになりました。
北アイルランドでは、入植者であるイギリス人たちが特権をもち、優遇され、原住民であるアイルランド人は職業や住む場所・言語を制限されたりと、抑圧され、下級市民として扱われていました。
この抑圧に反対するアイルランド人の平和なマーチに対して、イギリス軍が発砲し、マーチ参加者を殺し、多くを負傷させたことで紛争が始まり、原住民(アイルランド人)側と、入植者側(イギリス人入植者)側両方の武装組織が殺害を繰り広げ、多くの市民が犠牲になりました。
30年近くの紛争が終結を迎えたのは、政治的な確固とした解決策とそれを支持・行使する仕組・機関・ひとびとがいたからで、段階的に武装解除されました。
現在のイスラエル政府が主張するような、イスラエルによる違法占拠や虐殺にさらされているパレスチナ人側が一方的に武力をあきらめ、イスラエル側は行動を変える義務も仕組みも全くない(=パレスチナ人の安全を守り、自治権を行使できるようにする仕組みがない)、というのは、不正義であると同時に、考慮するにも値しない主張です。
なお、支配されている側が、武力をもって抵抗することは国際法で認められています。
3.イスラエルは、Snowball effect(スノーボール・エフェクト/雪だるま現象)を恐れている
ヨーロッパの数か国(70年以上、イスラエルの国際法違反をかばい続け、現在も虐殺に加担し続けている)が、パレスチナ国家承認をしはじめれば、雪だるま現象で、ほかの国々からも、イスラエルに対して、パレスチナへの違法占拠をやめ、パレスチナの自治権を実現させるために、イスラエルに対して経済制裁などのプレッシャーを与えるべきだ、という意見がどんどん増え、実際に制裁が行われる可能性が高まります。
イスラエルは小さな国で、アメリカやイギリスなどのサポートがなくなれば、現在のようなアパルトヘイト国家・(ユダヤ)民族至上主義の国として存在することは不可能となります。
ムハマッドさんが、挙げていたなかで興味深かったのは、ヨーロッパは、既にイスラエル政府の「ハマスを(軍事的に)100パーセント破壊する」というスローガンが夢物語であることを理解しています。
イスラエルは世界有数の軍事大国で、かつ軍事大国であるアメリカやイギリスなどの西側諸国の多大なバックアップを受けているにも関わらず、長年の包囲により食料や軍備などもとても限られているハマスや、ほかのガザ地区の武装抵抗組織に対して、全く勝利していません。
実際、Land Corporationで行った調査(1968年~2008年のデータ)からも、武力紛争が軍事的につぶすことで終わったのは約7パーセントで、大多数の43パーセントは、政治的な解決で終結となりました。
ヨーロッパは、ハマスを軍事的に壊滅させることは不可能で、北アイルランドでの紛争解決のように、政治的な解決を行うことで武装組織や武力を使う必要をなくし、段階的に武装解除をすることを考え始めています。
ここには、政治解決として、パレスチナ国家成立も大事な柱となっています。
イスラエル政府のネタニヤフ首相にとっては、これは脅威です。
なぜなら、絶対に実現しようのない「ハマスを完全に壊滅するまで戦争をやめない」としておけば、永遠に戦争を続けられ、それを隠れ蓑に、ネタニヤフさんの長年の夢であるパレスチナ人完全消去(=虐殺)も続けられるし、国内での汚職裁判、国際刑事裁判所への引き渡しなども、避け続けられる可能性が高まります。
アメリカは、いまだに、ハマスの完全な壊滅が可能だと、信じ込まされています。
多くのひとびとは、アメリカ大統領のトランプさんは、ネタニヤフさんの言いなりで、ネタニヤフさんに操作されている、と思っていますが、ムハマッドさんは、実際は、ネタニヤフさんはトランプさんを恐れているとしています。
イランへの国際法違反攻撃(核施設攻撃と市民や科学者を標的にし、1000人以上の人が殺された)でも、トランプさんがソーシャル・メディアでの投稿で、爆弾をのせてイランに飛行していたイスラエルの戦闘機を、爆弾投下を行わずイスラエルへと戻すよう警告したところ、すぐに従いました。
この行動パターンは、ほかの機会でも繰り返しみられていることで、ネタニヤフさんが行っているのは、「トランプさんを怒らせないようにとりあえず受け入れる → 心理操作などを行い、イスラエル政府が望む方向に少し方向を変えさせようとする」です。
そのため、ムハマッドさんは、アメリカ大統領が、ネタニヤフさんに、電話一本で、「これで終わりだ!」と言えば、虐殺は即時に終わるとみています。
アメリカ側は、イスラエルにプレッシャーはかけておらず、せいぜい、「戦争・紛争はきみにとって悪いことだ。なんでもきみがしたいようにすればいいし、武器は送り続けるし、政治的なカヴァーや法律的な免責は続けるけど、きみの健康にはよくないよ。正しい選択をするようにね」ぐらいの軽いものです。
でも、アメリカ国民の多くが、既にイスラエルによるパレスチナ人虐殺やパレスチナ地域の占拠・アパルトヘイトに反対し、かつ多くのヨーロッパの国々の政府が政治的な態度・対応を変え始めれば、アメリカ政府が変わる日も近づきます。
ムハマッドさんも、言っていますが、イスラエルはこの状況にパニックに陥っていて、「パレスチナ人の飢餓は嘘だ/飢餓は起きていない」というプロパガンダを世界中・西側主流メディアで最大の勢いで、繰り広げています。
最大の勢いで広げているのは、イスラエルも世界中のひとびとが真実に目を開き始めているのに気づき、それをリヴァースさせようと必死だからです。
彼らの狙いは、ひとびとを混乱に陥れ、「複雑すぎて、もう考えられない」と、大多数があきらめて、ガザ・パレスチナへの関心を失わせることです。
多くの人々が関心を失えば、西側政府も、もとの何もしない(=イスラエルの虐殺に加担し続ける → 十分な人数が殺人・負傷させられパレスチナ人としての民族のアイデンティティーをもつことが不可能になった段階で、こんなことは起こるべきじゃなかった(でも、既に起こってしまったことはどうしようもない)という見せかけの反省をみせる)、という楽な選択へと流れることは、想像上難しくありません。
現在、虐殺にあっていない私たちができる最小限のことは、ガザとパレスチナの人々に関心を持ち続けることです。
変化は、必ずやってきます。
【参考】
北アイルランド出身(原住民のアイルランド人・カソリック教徒側)のスタンダップ・コメディアンのPatrick Kielty(パトリック・キールティー)さんの北アイルランドのドキュメンタリーについて
https://www.thegreencatalyst.com/blogs/post/20210924