資本主義は、普遍的な/万人への繁栄をもたらさない ー 資本主義を壊し、地球上の大多数のひとびとにとって良い別の道をつくることは十分可能 ①
「資本主義」ということばの定義自体、専門家によっても、さまざまです。
資本主義は、多くの人々を貧困から抜け出すことに成功し、圧倒的に多くのひとびとの生活を豊かにさせた、とする経済家たちもいますが、経済人類専門家のJason Hickel(ジェイソン・ヒッケル)さんなど、それに対して、きちんとしたデータと分析をもって、異論を唱えている専門家たちも増えています。
私が四半世紀暮らしているイギリス(The UKーイギリス・スコットランド・ウェールズ・北アイルランドの連合4か国のうちの一つ)は、ヨーロッパの中でも歴史的に貧富の差が大きい地域ではあるものの、子どもの貧困は加速して悪化し、両親がフルタイムで働いても、家賃や食費がまかなえず、貧困に陥る家庭も少なくありません。
若いひとびとにとっては、いわゆるいい大学を良い成績で卒業しても、新卒を積極的に雇う企業は少なくなっています。
以前は、ファイナンス業界であれば、基本的なデータ処理などを新卒のひとびとが行っていましたが、現在、それらの仕事は機械化され、ひとを雇う必要がありません。
たとえ、彼ら・彼女らの能力に見合う仕事を得たとしても、家賃が給料の半分かそれ以上を占め、食料品などの物価高だけでなく、水や電気・ガスも大きく値上がりしていて、その上に大学の学費ローンがあれば、どんなに質素な生活をしていたとしても、生活は楽ではありません。
イギリスは、日本よりはましとはいえ、ほかのヨーロッパの国々に比べて、労働者の権利がとても弱められた国で、経費削減などで人員削減となると、標的になるのは、これらの若いひとびとです。
ある程度大きな企業で、従業員の数がある程度多い場合は、こういった人員削減での解雇も、従業員の代表と企業が話し合うことが法律で義務付けられていて、本当に人員削減以外の方法がないのかを企業はきちんと説明する義務があり、それが理論的でない場合は、その決定にチャレンジできるし、ほかの方法で人員削減を防ぐことができるか(多くのひとが働く時間を一定期間削減するなど)などの話し合いも行われます。
どうしても人員削減が必要な場合も、できる限りフェアな退職条件が交渉されます。
ただ、大きな企業に入るには、よい大学や成績よりも、家族や親戚などのコネクションなどが大きく影響するので、たまたま、既に経済力や権力があるグループや、そのグループの近いところに生まれたひとびとが圧倒的に有利となるのは、イギリスもほかの国々と同様です。
どの学校に行くかも、家族や親戚などの影響が大きく働くので、生まれた時点で、既にこの不正に操作された仕組みのなかに、私たちは取り込まれています。
この傾向は、ここ数十年で加速しています。
また、現在は、多くの仕事は、ギグワークと呼ばれる、労働者が守られていない仕組で、日雇いどころか時間雇いで、少ない給料・悪い労働条件でも、フルタイムで安定した仕事をえることが、特に若いひとびとにとって、難しい現在、資本家(ウーバーやアマゾンなどのプラットフォームをもっている世界でも一握りの人々)が搾取し放題の状態となっています。
ロンドンの街には、多くの路上生活者があふれ、その中には、仕事をしているけれど、給料が低すぎてフラットを借りることができず、仕方なく路上で暮らし、朝はジムなどでシャワーを浴びて出勤する、というひとびともいます。
それと同時に、世界の1パーセント程度の大富豪は、さらに資産や利益を蓄積することを加速させています。
これは、誰にとってもよい社会なのでしょうか?
世界の1パーセントの人々が、99パーセントの人々を搾取することで富を蓄積し続ける仕組が正しいとは思えません。
これは、資本主義が数百年にわたって変遷していくなかで、現在、悪い方向へ向かっただけで、本来の資本主義は、誰もが豊かになるいい仕組だ、という神話を私たちは信じさせられています。
よくでてくるのは、資本主義は、ネオリベラル主義(イギリスではサッチャー元首相、アメリカではレーガン大統領のときに強く推し進められた、公共事業などを一般企業に売り、ひとりひとりが小さな資本家として、自分の家族以外のことは気にかけず、お金儲けに突き進むことで、世界全体の誰もが裕福になるというイデオロギー)が問題で、資本主義自体に問題はない、という意見もありますが、そうではありません。
この地球上の1パーセントのグループに、資本や利益が蓄積されることを続けるために、残りのひとびとや資源がどこまでも搾取するのは、資本主義の本来の仕組です。
サッチャー元首相などは、この仕組以外の選択はない(ネオリベラル主義の資本主義が最高のもので、それ以外の選択肢はないーすべて悪い)としましたが、実際は、社会主義に近い経済政策や社会政策をとった場合、貧困層が一気に減ることが、データ上でも分かっています。
たとえば、南アメリカのヴェネズエラだと、社会主義的な政策がはじまって以来、10年ぐらいの間で貧困は70パーセント削減され、ほかの南アメリカの国々でも似たような結果が出ています。
南アメリカのアルゼンチンは、社会主義的な政策から、ネオリベラル色の強い資本主義へと転換した結果、数年の間でGDP(国民総生産)は上昇したものの、多くの中間層が貧困層へと陥り、貧困層が圧倒的に増え、数パーセントの富裕層がすごい勢いで富の蓄積を行いました。
貧困は、個人のせいでもなければ、自然なことでもなく、資本主義によって意図的につくりだされていることは、よく理解しておく必要があります。
だれもが、「貧困なのは自分のせいだ」と思わせておくのは、この仕組で信じられない大きな利益を作り出しているひとたちにとっては、願ってもないことであり、これらの(偽りの)神話は、権力者たちが、主流メディアやソフト・カルチャー(ドラマや文学や映画など)をつかって、私たち普通のひとびとに植え付け、この仕組に抵抗しないことを狙っています。
彼らは、どんなに権力や財力があっても、私たち普通のひとびとが団結すれば、自分たちが利益をえている仕組が崩壊することをよく知っています。
だからこそ、彼らは、普通のひとびとの間で争わせ、一人一人を孤立させ、団結することが難しい状態をつくりだします。
「貧困は個人の責任」や「世の中はいつも競争で、勝つためには(生き残るためには)周りのひとびとは敵で、ひじで押しのけて自分が上に立たないとけいない」といった偽りの神話は、私たち普通のひとびとを、「Divide and rule (分けて、支配するー帝国主義・植民地主義のお決まりのルールで、現地のひとびとの間で優遇するグループや差別するグループなどを作り出し、搾取している人々の中を細かく分けて争わせ、実際に暴虐な搾取を行っている植民地宗主国に不満が向かわないようにする) の仕組の中にいれ、一人一人を孤立させ、誰もが恐怖に満ちた状態にいるので、企業がひとびとを搾取することをたやすくします。
また、彼らの財力や権力は、私たち普通のひとびとの労働やその結果から搾取したものである(本来は私たちに属するものである)ことにも、気づいておく必要があります。
私たちは、社会主義・共産主義は、専制政治・独裁政治で、自由がなく、誰もが貧困に陥る仕組で、資本主義以外の仕組はすべて悪いと信じ込まされていますが、それは、本当なのでしょうか?
資本主義が、本質は変わらなくても、さまざまな形態をみせるように、社会主義や共産主義も一つのピュアな形態があるわけではなく、その地域や、その時代の社会状況・世界の状況によっても、変わります。
現在、社会主義国と一般によばれている中国やヴェトナムも、資本主義の一部を組み入れているし、南アメリカで社会主義的な政策を取り入れている国々も、資本主義の仕組から完全に離れているわけではありません。
アフリカ大陸やアジア・南アメリカなどの、元植民地宗主国は、数百年にわたる暴虐な植民地宗主国を、武力で追い出し、多くの犠牲をはらって、1950年代から80年代にわたって独立を果たしました。
これらの地域は、資源(石油や鉱物、食物など)が豊富な地域で、独立した際には、ほとんどの地域が社会主義的な政策(資源の国有化で、自国の教育・福祉を無料化・向上し、公共インフラストラクチャー事業をすすめる)をとり、信じられないペースで貧困をなくし、ひとびとの発展(識字率や生存率などをあげる)がすすみました。
でも、今まで数百年にわたり、盗み放題だった資源とほぼ無料の労働力へのアクセスがとざされた西側諸国は、これらなしでは、自分たちの国の資本主義経済が成り立たなくなるため(資本主義では、誰かや何かを搾取することとで利益や資本を蓄積)、これらの国々に対して直接的・間接的な軍事介入(軍事クーデーター)などを行い、これらの社会主義的な政策をすすめるリーダーたちを徹底的に取り除きました。
取り除いた後にすえつけたのは、西側政府や西側企業の言いなりになる傀儡政権です。
彼らは、西側政府や西側企業から多額のわいろなどを受け取り、その国での権力を約束される代償に、国民のものである資源をかすめとり西側企業に安く売り渡しました。
この軍事介入が国際的に受け入れられにくくなると、今度は、西側政府からの一方的な(多くは国際法違反の)経済制裁、世界銀行と世界経済機構を通したネオリベラル経済政策の強要で、第三諸国の豊かな資源と優れた労働力が、その国の発展に使われるのではなく、西側企業へ安く搾取される仕組を保持しました。
これは、帝国主義的な資本主義経済の仕組がいまだに健在していることを示しています。
「社会主義に近い政策はすべて失敗した」とする専門家たちもいますが、彼らは、西側政府が徹底的に、社会主義的な政策を取った国々が発展できないように暴力的な行動を行い続けていることを無視しています。
西側では、「支配・被支配(基本的には、白人支配で、非白人が被支配側ー白人が非白人を搾取。非白人の人口は地球上の約8割でマジョリティー)」の関係性以外が考えられないひとたちがたくさんいますが、誰もが、同等の立場で、協力しながら発展していくことは、社会主義的な仕組では十分可能です。
これは、現在、BRICS(主要新興国の政府間組織)やBelt and Road Initiative(ベルト・アンド・ロード・イニシアティヴ/一路一帯)などの、西側主体の支配・被支配(搾取・非搾取)の二極化した経済ではなく、どの国も対等に協力して発展していこうという試みに現れています。
また、日本や台湾・韓国が経済的に発展できたのは、アフリカ大陸のように大きな資源をもっていなかったことと、人口も国土も大きい中国を抑えつけておくためには、中国を囲むこの三国をアメリカの支配下においておく(=大きなアメリカ軍事基地を設置)ことが都合がよかったので、この三国が、経済的に大きくなるまで、社会主義的な計画経済(自国産業を他国との競争から守る仕組なども含む)を許されたからです。
アジア人が勤勉だったからではありません。
ノルウェーやフィンランドなどの北欧の国々も、公共事業(病院、学校、住宅など、誰もが尊厳をもって生きるために最低限必要なもの)は、国民が無料、或いは格安でアクセスできるような社会主義的な仕組みを取り入れています。
ひとが生きるために最低限必要なものの多くが営利企業に売られたイギリスでさえ、多くのイギリス人が誇りにしているNHS(エヌ・エイチ・エスと略して呼ばれる/イギリス国民健康保健)では、診察・手術・入院など、すべて無料です。
人類経済学専門家のJason Hickel(ジェイソン・ヒッケル)さんは、私たちは既に、誰もが尊厳をもって生きるために必要なものを、地球上の誰もがアクセスできる世界は既に可能だとしています。
でも、資本主義は、自然や誰かを搾取し続けて、コア(中核ー元植民地宗主国の西側の国々や、これらの国々や大企業に自国の資源を盗んで売ることを手伝っている第三諸国のごく一部の富豪や政府官僚など)へと資源と利益を蓄積し続ける仕組であり、資本主義の仕組を続けている限り、誰もが尊厳をもって生きられる社会は実現しようがありません。
ちなみに、よくある誤解で、ジェイソンさんが言っている世界は、誰もが貧乏になり、食料も配給制になり、洋服も自分で縫わないといけないような世界を想像しているひとたちもいますが、生活が現在の仕組みより貧しくなるのは、世界の約数パーセントの大富豪や権力者たちで、貧困はゼロになり、自然も守られ、大多数のひとびとの生活が向上するものです。
例えば、誰もが生きるために最低限必要なものは無料だというときに、住む場所や学校・病院だけでなく、現代で欠かせないインターネットへのアクセスや携帯電話、電気・ガス・水なども普通に必要な量までは無料で、そこをこえると課金するという仕組みにすることも可能です。
資本主義だと、利益を出し続けることが必須で、地球やひとが生きられる環境を壊すことが分かっている石油・ガスなどの採掘・使用を続けますが、資本主義の仕組みを離れれば、ひとびとにとって必要なことへと、資本や労働力を向けることができます。
現在の資本主義では、個人用ジェット機、富裕層への大きな個人ヨット、ファストファッションなど、もうかるところに資本は集中し、労働力もそこに配置されますが、これらは、自然資源を破壊し、ひとびとが尊厳を持って生きていくために必要なものとはいえません。
また、テック技術者は、利益が大きい場所、マーケティングや軍事企業へと取り込まれますが、自然再生エネルギー分野の技術者は足りない状態です。
地球上の大多数のひとびとのことを考えた場合、マーケティングで不要なものを必要だと洗脳させて利益を増大するようなアルゴリズムをつくることに彼ら・彼女らの労力や知性を使うよりも、自然再生エネルギーなどの分野に労力と知性が向かったほうがいいはずです。
アメリカが建国以来、軍事介入や他国や他地域への軍事侵略や侵入をやめないのも、戦争は大きな利益を生み出すからです。
資本主義と帝国主義(植民地主義は、帝国主義から派生したもの)は切っても切れない関係で、誰かや何かを搾取し続けることでしか成り立ちません。
ガザでの虐殺に、多くの西側の政府や、西側の大企業が加担し続けているのも、これが大きな利益を生み出すからです。
マイクロソフトやグーグルで、虐殺への加担反対を求めて闘っている技術者たちのインタヴューでは、株主や経営者が特別に強欲というよりも、資本主義の仕組として、常に利益を増やし続けないと大きな企業でさえ成り立たなくなるので、利益以外に目が向かなくなったひとたちが機械的にこの仕組みの中で動いているのでは、としていたのは印象的でした。
こんな非人間的な仕組が、続いて言いわけはないし、これは、数百年前につくられた仕組で、私たちには変えることができるし、変えなくてはなりません。
資本主義では、地球上のわずかな人々が、資本のコントロール(資本や労働力をどこに使うか)を握っている仕組なので、ここを変える必要があります。
そのため、ジェイソンさんが提唱しているのは、資本を私たち大多数の普通のひとびとが、民主的にコントロールできる状態をつくりだすことです。
実際、世の中に必要なもの、老人や子どものケア・病人のケア・食料をつくる・食料を配送するなどの仕事は、世の中の90パーセント以上にあたる、私たち普通のひとたち(労働者階級)によって、つくられたものです。
民主的に決めた計画的な経済政策をとり、ひとが尊厳をもって生きていくために必要な分野に資本や労働力を向けることは、多くのひとにとって、いいことですが、石油産業で働いているひとたちには、自分の業界が小さくなれば、自分が職を失う、という恐怖も当然ながら起こします。
これには、(政府や自治体が行う)ジョブ・ギャランティーで、その地域に必要な職をつくりだし、そこできちんとした給料とトレーニングを保障することで、民間企業(電気・ガス・病院・学校といった生きるために絶対に必要なもの以外は、民間企業が行うことに異論はない)での職がない、失ったときにも、対応できます。
また、民間企業も、これらのジョブ・ギャランティーの仕組と競争する必要が生じ、給料や働く環境や条件も向上させる必要が出てきます。
現在の資本主義の仕組では、モノポリーが進んでいて、大企業では競争がなく、どんな値段でもサーヴィスや製品の質が悪くても、ひとびとはそれを買う以外に選択はなく、働く人たちを一気に解雇して、安い給料と悪い労働条件で雇いなおす、といったことも可能で、そうなると労働者の力は弱くて、どこまでも搾取されます。
でも、民主的な経済政策・社会政策をとれば、モノポリー状態の企業は存在しえなくなり、民間企業も公共事業のよい給料・よい労働条件と競争せざるをえなくなります。
これだけを聞くと、それは夢物語では、と思うかもしれませんが、ジェイソンさんや、次に述べるGrace Blakeley(グレース・ブレークリー)さんの著作や対話を聞いていると、既に、十分可能であることに気づきます。
ただ、資本主義で利益をえて権力や財力を蓄積したグループや、このグループからのおこぼれをもらっているひとびとは、たやすくこれを手放しません。
だから、私たち普通のひとたちが団結して、地球上の大多数である普通のひとたち、わたしたち、が望む方向に進めるよう、闘い続ける必要があります。
イギリスの経済学者・活動家でもある、Grace Blakeley(グレース・ブレークリー)さんは、以下の対談で、とても分かりやすく説明しているので、資本主義の神話を打ち破ることも含めて、数回に分けて紹介したいと思います。
ここから、無料でみることができます。
グレースさんは、よくある資本主義の神話、「リッチなひとびとは、リスクを取り努力をしたからリッチになれた」「リッチな人々は、職をつくりだしているのだから感謝すべき」「誰もが頑張ればミリオネア(大富豪)になれる(イーロン・マスクさんは、ビリオネアどころか世界最初のトリリオネアになったとの報道が今日BBCでありました)」などの嘘を、分かりやすく、明快に切り倒しています。
これらは、次回の記事で。
【参考】
グレースさんの最近の著書「Vulture Capitalism (ヴァルチャー・キャピタリズム)」は、日本語訳は存在しないようですが、平易な英語で、分かりやすく、かつ読み物としても興味深く引き込まれるように書かれているので、英語で読むことをお勧めします。
私は、近所の図書館で借りて読みましたが、イギリスに住んでいれば、図書館公共サーヴィスが続くためにも、図書館を活用することをお勧めします。