資本主義は、普遍的な/万人への繁栄をもたらさない ー 資本主義を壊して別の道をつくることは十分可能 ③

Yoko Marta
24.11.25 05:09 PM - Comment(s)

資本主義は、普遍的な/万人への繁栄をもたらさない ー 資本主義を壊して別の道をつくることは十分可能 ③

富裕層やいわゆるエリートたちについて、よく聞かれる(偽りの)神話はたくさんありますが、よくあるものについて、Grace Blakeley(グレース・ブレークリー)さんは、分かりやすく説明しています。
もとになる対談は、ここから。
グレースさんの対談と、それを元にした考察を記載しています。

(偽りの神話 ②/5)
富裕層は、仕事・職をつくりだしているのだから、私たち労働者(=自分の労働力を資本家に差し出すかわりに、時給や給料をえているひとびと)は感謝するべき

(答え)
いいえ、富裕層は、仕事や職をつくりだしません。

ここでいう、「富裕層」とは、地球上のマジョリティーである富裕層でない私たちが生きるために必要なものをすべて(独占)所有しているひとびとです。

現代でいえば、政治的・経済的に圧倒的な権力をもっている少数のひとびと:政治的ないわゆるエリートたち、技術官僚、官僚、ビリオネア、大企業の取締役、大企業の株式を大きく所有している株主たちを指します。

たとえば、現在、AIバブルが起きていますが、このAI企業(多くはアメリカ企業)の株の9割を所有しているのは、地球上の約1割の富裕層で、これらの富裕層の1割は、とても大きな利益を現在手にしていますが、このAIバブルがはじけたとき、これらのAI企業や株主は、政府の政策により、市民の税金を使って救済され、経済が落ち込み多くの職が失われ、その影響を受けるのは、普通の市民たち(政府からの救済はゼロ)だとみられています。
これは、2008年での経済危機でも、同じこと(問題を起こした企業やその責任者たちは税金によって救済され、何も悪いことをしていない普通のひとびとが職を失ったり家を失ったりした)が起きているし、その前のドットブームのバブルがはじけたときにも、同じです。
これは、自然に起きたことではなく、政府とこれらの大企業や富豪層が、不当に結託していて、自分たちの利益を守るために、大多数の一般のひとびとにツケをを支払わせるシステムをつくり、保持しているからです。
上記のどれも、ひとびとの生活や質の向上に役立つものや、新たな価値を生み出したことでは全くなく、speculation(スペキュレィション/投機)で、架空につくりだされたものであることにも留意しておく必要があります。
この「投機」で利益を得る、参加するには、既に富裕層であることがほぼ必須です。

資本主義を支持するひとびとは、「国家が経済に介入すれば、独裁的な政治を行い、政治腐敗がおき、それが(本来なら)自然と需要と供給のバランスをうまくとり、誰にとっても富をもたらす資本主義の市場の仕組を壊す」という偽りの神話を語りますが、現在の資本主義は、国家が既に経済に介入し、多くの企業を(国民の税金をつかって)救済する仕組です。
上記でいう資本主義が機能しているなら、経済危機を起こすような深刻な間違いをおかした企業は、ずっと昔に倒産しているはずですが、どんなにひどい間違いを起こしても、政府が救済・援助するために、これらの企業はゾンビのように生き残っています。
「自由市場」を唱えるひとたちもいますが、国家が介在しない市場は存在しないので、「自由」という名称自体がミスリーディングです。

資本主義のはじまりは、数百年前に、当時の富裕層が、誰もが生きるために必要な、それまでは地域のひとびとみんなの共通のものであった資源(農地や水源、川など)を囲い込み独占したところから始まります。
(※多くは、圧倒的な武力や暴力をつかって。あるいは、一方的な法律や決まりをつくって、それを悪用ー富裕層が不正に、みんなのものである資源を奪って無理やり独占。例/それまで誰もが、野菜などを届けるのに船で無料で通っていたところに、関所を設けて、これらの富裕層が通過料を課金。通過料は、富裕層の利益の蓄積のためだけに使われ、川の交通やインフラストラクチャーは全くよくなることはなく、通過料金を払う・関所で止められ料金を払うことで、より時間がかかる、などで、普通のひとびとの生活の質は落ちる)

資本主義は、、「資本」が主眼で、誰が生産手段のコントロールをもっているかが、焦点となります。

土地(農地で農作物をうみだす)が、生産手段であったときは、富裕層(王族、貴族、豪族など、ひとびとの共有だった土地を、どこかの時点で奪い取って囲い込んで独占したひとびと)は土地をコントロールして、農作物を税収としてとりあげて、自分たちに利益を蓄積していましたが、産業革命がはじまると、この富裕層の多くは、工場などを所有するindustrialist (インダストリアリスト/実業家)にもなります。

産業革命では、多くの工場がつくられ、安い労働力が必要となったため、さらに、小作農たちが土地から無一文で追い出され、工場などの危険な場所で、低賃金で働かざるを得ない状況をつくりだしました。

ここで人為的につくられたのは、「土地をもたない農民」です。

それまでは、自給自足で暮らしていた人たちは、「富裕層(資本家)のために労働力をさしだすか、死ぬか」という二択だけになります。

「資本家に労働力を売って、賃金を得る」か「死ぬ」かという二択しかない構造がつくられたのは、ここ数百年のことで、この仕組みは、富裕層に利益を蓄積し続けるためにつくられ保持されている、人為的な仕組みで、自然でも、一番いい方法でもありません。
世界のほとんどの人々にとって、搾取される悪い仕組みであるにも関わらず、続いているのは、多くの政府が富裕層と結託しているからです。
これについては、後述します。

富裕層は、労働者を搾取して、労働者が生み出している富よりもずっと少ない給金を対価として払うことで、差額を自分の利益を蓄積することにつかい、ますます経済的にも政治的にも力をもちました。

イギリスでは、この富裕層は、イギリス王室やイギリス貴族たちを祖先とするひとびとであり、現在でも、イギリスの大部分の土地は、彼らの子孫によって所有され、彼らは、私たち普通のひとびとの犠牲の上に、大きな利益をあげています。
彼らは、長い歴史のどこかの時点で、土地や資源をほかの人々から取り上げて、ほかのひとびとの犠牲・搾取の上に富を築き、その富をさらに蓄積し、武力や政治力を強め、権力を握り続けているひとびとで、別に偉くもなんともありません。
イギリスの王室のはじまりも、フランスから武力でイギリスに攻めてきた人々が、勝手に自分たちでイギリスの土地を分割し、自分たちの所有物・私物化したのがはじまりです。

アルバニア出身で、イギリスの大学で政治理論を教えているLea Ypi(レア・イピ)さんも言っていましたが、ある時点で、マフィアが村人たちの共有の土地を取り上げて、自分の土地として囲い込み、その子孫たちが、それはずっと私たちが所有しているので、私たちが正当な持ち主だというときに、村人たちもそれに慣れさせられてしまうかもしれないけれど、それに正当性がないことは明らかです。
ある意味、イギリス王室も、マフィアのように、ひとびとの共通の資源(誰もが生き残るために必要なもの)を、どこかで武力などで無理やり奪い取り、それを正当化したひとびとです。

この仕組(「働く(資本家に労働力を売り、賃金を引き換えにもらう)」か「死ぬ」かの二択だけ)は、現在も、続いています。

たとえば、健康保険が勤務先と結びついているとき、仕事を失えば、健康保険も失います。
健康保険を失うことは、自分の生死だけでなく、家族の生死にも関わるので、どんなに労働条件が悪くても、その仕事を去ることを難しくし、富裕層が労働者を搾取しやすくなります。

ちなみに、アメリカや日本は、健康保険と勤務先が結びついていますが、イギリスやヨーロッパ諸国では、健康保険は個人と結びついていて、勤務先は全く関係ありません。
イギリスでは、職の有無に関わらず、病院での診察・手術・入院などは、すべて無料です。
イギリスでは、無職だと、通常であれば一定の金額を払う歯科治療や薬の処方箋も無料となります。
なぜなら、職があり収入があるときは治療費を支払うことはできるだろうけれど、無職のときには助けが必要なのは明らかだからです。
これは、日本やアメリカのように、職を失うと、病院で払う金額が、働いているときと比べて大きくあがることとは正反対の発想です。
日本やアメリカの仕組みで得をしているのは、富裕層やいわゆるエリートたちです。
アメリカでは、個人破産の理由で一番多いのは、病院費用だそうです。
これは、自然なことではなく、富裕層が、自分たちのために、政治的・経済的・社会的な仕組みがつくって保持しているからです。

ドイツは、日本と健康保険の仕組みが似ているとはいうものの、日本では勤務先の企業と健康保険機関が結びついていて、勤務先にどの病院にかかったかなどが分かる仕組みになっていますが、ドイツでは、個人と健康保険機関が結びついているので、どの病院にかかろうと、その情報が企業に知られることはありません。
普通のヨーロピアンにとって、どの病院に行ったかなどが、企業に知られるというのは、プライヴァシーという観点からしても、完全に考えられないことです。
健康診断を受けたとしても、その結果が日本のように企業に送られる、というのも、完全に考えられません。

資本主義は、利益をどこまでも蓄積し続けないと機能しなくなるので、大量に効率よくものを生産すると、今度は、原料がたりなくなり、原料を求めて、西ヨーロッパ諸国は、地球上のほとんどの地域に侵略し、原住民の多くを虐殺、エスニック・クレンジングし、彼らを奴隷化し、安い労働力として使いました。
ほぼ無料の資源と労働力をつかって、さらに生産量を増やすと、ヨーロッパ内だけでは消費があまるため、市場を拡大する必要がでてきます。
そこで、日本や韓国、中国といった、国を閉鎖して自国内の発展に力をつかっていた国々や地域に対して、武力をつかって、貿易のための国交を強制的に開かせます。
もちろん、この際には、ヨーロッパやアメリカ(アメリカは、西ヨーロッパの白人・キリスト教徒が侵略して、原住民たちを虐殺・エスニッククレンジングし、資源を奪い、自分たちが原住民としておきかわった地域)にとって完全に有利な貿易条約を結ばされることになります。
中国は、当時、世界の中でもとても進んだ技術をもっていたため、アメリカやヨーロッパが売りつけようとするものには全く興味がなく、中国のシルクなどとの交換には、銀貨だけを中国は受け入れました。
当時、西ヨーロッパでは南アメリカの植民地国の銀を大量に盗み続けたために、銀の量はとても少なくなっていました。
そのため、ヨーロッパ(特にイギリス)は、違法にアヘンを中国に密輸し、その支払いを銀貨とすることで、多くの銀貨をえることにしました。
イギリスやヨーロッパにアヘンはなく、植民地であった広大なインド地域で、原住民のひとびとのほぼ無料の労働力をつかってアヘンを作らせ、それを中国に違法密輸し、多くの利益をえるとともに、中国でのアヘン中毒者を急増させ、社会・経済を一気に弱体化させました。
中国政府が、このヨーロッパ政府のアヘン密輸に正当な抗議を行っても、ヨーロッパ政府は密輸をやめず、中国側がアヘンを大量に積んだ船を処分したところ、ヨーロッパ側から武力戦争を開始され、結果的には、中国はこの違法戦争に負けて、領土も取られ、不当な貿易協定に署名させられることとなります。

アメリカ政府やイギリス政府は、中国がフェンタニルなどのドラッグをアメリカやイギリスに密輸する源となっている邪悪な国家としますが、過去に、自分たちの政府がドラッグの密輸を行い、中国を破滅させた過去については、無言です。

西ヨーロッパの政府やアメリカが、帝国主義から派生した植民地主義を世界中で行ったのは、資本主義では、コア(核となる国ー西ヨーロッパやアメリカなど)に、周縁(資源が豊富にあるアフリカ大陸・南アメリカ・中東地域・インドネシアなどのアジアなど)から資源や労働力を搾取し続ける必要があるからです。
もちろん、侵略者に対して、黙って土地や資源、住んでいる家などを渡し、奴隷扱いを受け入れるひとたちがいるわけはないので、武力で奪い取るために、西ヨーロッパ諸国は、軍事力も強めることとなります。
また、侵略した土地で搾取し続けるためには、虐殺しきれなかった原住民たちをおさえこんで安い労働力として使い続ける必要があるため、植民地支配では、何度も虐殺がおこり、多くの原住民のひとびとが残虐に奴隷として扱われただけでなく、殺されたり、人為的な飢饉で大規模な人数(ときには当時の人口の2割以上)が殺されました。

現在、イスラエル(=帝国主義・移住者植民地主義であるシオニズムというイデオロギーをもって、ヨーロッパの白人ユダヤ人が歴史的パレスチナ地域に侵略し、パレスチナ人の虐殺・エスニッククレンジングで土地や資源を奪い取り、自分たちが原住民としておきかわった)が、ガザのパレスチナ人に対して行っている虐殺・エスニッククレンジング・人為的な飢饉は、多くの西ヨーロッパの国々とアメリカが、資源の豊富なアフリカ大陸・南アメリカ・中東地域・アジア地域に対して、数百年にわたって行ってきたことと同じです。

イギリスは、西ヨーロッパの中でも、一番大きな帝国を築きましたが、Corporation(コーポレーション/企業)という概念・形態の始まりも、この帝国主義・資本主義が根っこにあります
East India Company(イースト・インディア・カンパニー/東インド会社)は、当時のイギリス政府(日本語では、The UKもイギリスとされるけれど、The UKはイギリス・ウェールズ・スコットランド・北アイルランドの4か国の連合国ー大英帝国は、現在のイギリス国)と、大商人たちとのジョイント・ヴェンチャーで、これが企業の始まりとなりました。
東インド会社は、武力をもって地球上のさまざまな地域へと攻め入り、資源を奪い取り独占、現地のひとびとを奴隷化することを、イギリス政府のお墨付きで行っていました。
これを正当化するためには、宗教(キリスト教)が使われ、「神が、後進的な動物に近い人々(=西ヨーロッパ以外の地域の非白人・非キリスト教徒)に、光(西ヨーロッパが文明とよぶものーキリスト教を含める)を与えるために、私たちをつかわした(=神からの使命を実行している)」と正当化しました。
多くのキリスト教組織は、過去の帝国主義から大きな富を築いています。
これは、現在の第三諸国とよばれる、地球上の資源の豊かな地域で、人口でいえば地球上の約8割のひとびとの犠牲の上に築かれたものです。

現在も、これらの第三諸国は、資源が豊富であり、優れた労働力があるにも関わらず、経済的な帝国主義・資本主義のせいで、西側諸国により、自国の発展を阻まれています。

一つの例は、圧倒的に西側企業に有利につくられている、世界銀行の貿易紛争解決の仕組、Investor-State Dispute Settlement (ISDS) ( 投資家対国家の紛争解決)です。

南アメリカのエクアドールは、石油大企業の一つであるシェブロンが、1964年から1992年の間に、大きな公害を引き起こしたとして、ひとびとが裁判を起こし、エクアドール裁判所は、これを認め、シェブロンに賠償金を支払うことを求めました。
シェブロンは、これに対し、世界銀行の貿易紛争解決の仕組、Investor-State Dispute Settlement (ISDS) ( 投資家対国家の紛争解決)を使って、エクアドール政府を訴えました。
投資家対国家の紛争解決」では、企業の投資(石油企業が石油の採掘・精製システムを設置するなど)を受け入れた国に対して、利益が損なわれたなどの理由で、外国企業がその国の政府に対して賠償金を求めることを可能にするシステムです。
エクアドールなどの第三諸国は、政府の力も限られているのを利用して、西側大企業が、自国である西側諸国では違法である環境やひとびとの安全を無視した企業活動を行い、公害を起こしたり、自国では完全に違法なレヴェルの劣悪な労働環境で現地のひとびとを働かせていることが圧倒的に多いのですが、このエクアドールの場合も、シェブロンは安全措置などを怠り(怠っても、自分たちの国から離れていて自国の国民は関心すらないし、相手政府も西側政府の言いなりになるしかない場合が多く、責任を取ることは絶対ないと確信している)、環境汚染・環境破壊を行ったことは、誰の目にも明らかです。
シェブロン側は、2000人以上の法律家を雇い、エクアドール政府との間に投資協定として、「何が起こっても、シェブロンはどんな責任も負わない(賠償などの金銭的なことも含めて)」という文書があったとして、「投資家対国家の紛争解決」に訴え、勝利を勝ち取り、エクアドール政府は、多額の賠償金をシェブロンに支払うよう判決がおりました。
どうみても不正義なのですが、これは多くの第三諸国に起こっていることです。

エジプトでは、国の労働法として、最低賃金をあげたとき、フランスの水道事業が、自分たちの儲けが減るということで、「投資家対国家の紛争解決」に訴えを起こしました。
結局は、この訴えは棄却されたようですが、それまでに多くの裁判費用がかかっています。

この裁判費用や、西側企業へ完全に偏った判決が多いことを考えて、西側企業が公害や深刻な環境破壊を起こしても、訴えないことを選択する第三諸国の政府も多く存在するのは、事実です。
大きな被害を被っているのは、普通の市民たち、特に第三諸国に住む普通のひとたちです。

南アフリカ共和国では、アパルトヘイト政策時代に、人口の10パーセント程度だった白人が、国土のほぼすべてや、企業などを所有していた不公平を是正するための政策の一環として、原住民である黒人が、西側の採掘企業の約26パーセントの投資を売るように求めましたが、採掘企業の利益を損なうということで訴えを起こされ、その結果、この国家政策を変えざるをえませんでした。
第三諸国の国家の主権や、国民たちの健康や命は、西側大企業が暴利を出すことよりも、ずっと下としてつくられた仕組であることは明らかです。

この一方的に不正な「投資家対国家の紛争解決」で訴えらえるのは、常に第三諸国で、訴える側は西側企業です。
西側企業に圧倒的に有利な仕組となっていて、第三諸国は、場合によっては、国の一年間の予算の半分以上が賠償金として請求される場合もあります。
また、裁判にかかる費用も、第三諸国にとっては、とても大きな負担となります。

エクアドールの場合、国民投票で、この「投資家対国家の紛争解決」の不正な仕組みを受け入れることを拒否しましたが、どの国もこのような強い姿勢を押し通せるわけではありません。

これは、大企業がなんの責任もリスクもなく、暴利をむさぼる仕組が、世界銀行のような国際的な仕組みの中に組み込まれていることを示しています。

Yoko Marta